『地獄の花園』の永野芽郁が“最強”な理由——親しみやすさ+ハイカロリー演技!?

 映画ライターSYOさんによる連載「 #やさしい映画論 」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。俳優ファンからコアな映画ファンまでをうなずかせる映画論をお届けしていきます。今回は、永野芽郁が“ヤンキーOL”たちの覇権争いに巻き込まれる“普通”の女性を演じた『地獄の花園』を中心に彼女の魅力を紐解きます。

文=SYO @SyoCinema

 カッコいい、美しい、面白い、演技がうまい……。人気俳優には、それぞれ視聴者や観客が魅了される特性が備わっている。ここ5~6年ほどでスター俳優へと上り詰めた永野芽郁においては、俳優としての“華”はもとより「応援したくなる度」が圧倒的な印象だ。観る者が思わず好きになってしまう親しみやすさと、純度の高い真っすぐな演技。今回は、そうした永野の魅力と、それを逆手に取った『地獄の花園』('21)を紹介する。

 自分が永野芽郁という俳優を明確に認識したのは、彼女がヒロインを演じた映画『俺物語!!』('15)だ。河原和音×アルコによる人気漫画を主演・鈴木亮平と共演・坂口健太郎という原作ファン納得のキャスティングで実写映画化すると聞き、原作&アニメを追い掛けていた身として期待が高まっていたが、その時点ではまだヒロイン役の永野芽郁に対する情報を持ち合わせていなかった(永野は、オーディションを勝ち抜きヒロイン役を射止めたそう)。彼女が演じた大和凛子は、おおらかでちょっと天然だが、決して揺るがぬ芯の強さを持つ人物。ゆるふわな外見と内面にギャップがあるキャラクターなのだが、永野はポイントを的確に押さえつつ、等身大の女子高校生に近づけていた。映画館のスクリーンで、きらきらと輝く彼女に魅せられたことを覚えている。

 その後、連続ドラマやCM等々、順調に活躍の幅を広げていった永野だが、大きく羽ばたいたのは2017年。初主演映画『ひるなかの流星』『帝一の國』『ミックス。』ほか、同年に5本もの新作映画が公開。老若男女に知られる存在となっていった。

 2018年には、佐藤健中村倫也が共演したNHK連続テレビ小説「半分、青い。」に主演し、お茶の間にも一気に浸透。翌2019年には『君の膵臓をたべたい』(’17)の月川翔監督×北村匠海の再タッグ作『君は月夜に光り輝く』でヒロインを演じ、菅田将暉と共演したTVドラマ「3年A組 -今から皆さんは、人質です―」は、大きな話題を集めた。

 「名字が4回も変わる」という数奇な人生を送る主人公を演じた『そして、バトンは渡された』('21)は、興行収入16億円を超すヒットを記録。本作も永野のパブリック・イメージとキャラクターが完全に合致しており、一生懸命に生きる主人公に共感する人が続出した結果、この数字に到達したのだろう。主演ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」('21)もまた、新人警察官の奮闘記であり、永野演じる主人公が努力する姿が作品自体のエンジンとなっていた。

 非常にざっくりとしたフィルモグラフィーのおさらいではあるが、このように永野芽郁は「真っすぐに頑張る」キャラクターで多くの支持を集めてきた。そのイメージを踏襲しつつ、それ“だけ”ではない魅力へと分岐していくのが、バカリズムが脚本を担当した『地獄の花園』である。

 本作は、全国の“OL”が覇権を争い日夜戦いを繰り広げるという設定のバトルもの。不良映画の女性事務員版といえば分かりやすいだろうか。広瀬アリス菜々緒小池栄子、そして遠藤憲一ら扮する“OLの猛者”たちが、頂点を目指して抗争に身を投じていくさまが、ハイテンションなギャグとアクション満載で描かれる。

 そんな中、永野扮する主人公の田中直子は、派閥争いを遠巻きに見ている“普通”の事務員。コテコテのヤンキールックの事務員たちと、ほんわかした直子のギャップが面白さを引き立てている……のだが、本作は勢いだけで押し切る映画とはやや異なる。中盤以降に大きく変化する、ある“仕掛け”が施されているのだ。

 ストーリーの展開に合わせて、永野の演技もこれまで見たことがないようなハイカロリーなものへと変貌していく。足蹴りを中心としたアクションだけでなく、“オラつく・すごむ”などの“顔芸”も披露。そのギャップは、観客に新鮮な驚きを与えるに違いない。

 絶妙なのは、そのさじ加減だ。パブリック・イメージと真逆のとことんダーティーな役を荒々しく演じているというよりも、たけだけしくほえる姿にも、ほほ笑ましさと親しみやすさをちゃんとまとわせている。本作はあくまでコメディであり、笑えなければ意味がない。そういった意志を感じさせる演じ方は、これまでのキャリアと分断するのではなく、分岐に近いニュアンスといえるだろう。実際に劇中で、親しみやすい女性から最強の存在へと変わっていくわけで、その過程、グラデーションを見られるという意味でも、永野芽郁のファンにとってはとても親切な作りになっている。

 『地獄の花園』で大いなる可能性を披露した永野だが、次なる映画ではさらなる飛躍を見せてくれそうだ。亡くなった親友の遺骨とともに旅に出る女性を描いたロード・ムービー『マイ・ブロークン・マリコ』('22)が、今秋公開予定。平庫ワカによる原作漫画は、疾走感あふれる筆致で綴られているものの、描かれるのはDVなどの搾取や共依存といったシリアスなテーマ。テイストからいっても、これまでとはやや趣が異なっている。さらに監督は、人間の不格好さを描き続けてきたタナダユキ。監督とのコラボで、永野はどんな覚醒を遂げるのだろうか。『地獄の花園』を経由した“ネクスト・ステージ”にも期待したい。

SYOさんプロフ20220116~

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クレジット:©2021「地獄の花園」製作委員会

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