「連続ドラマW 鵜頭川村事件」入江悠監督が明かす、松田龍平の魅力と人生経験を重ねた人となり。3度目のタッグは2032年に○○○ドラマで!?
取材・文=石井隼人
松田龍平の魅力はミステリアスな一面
――松田龍平さんとはWOWOWのドラマW「同期」以来11年ぶりのタッグですね。
松田さんと初めてご一緒した11年前の「同期」は、自分にとって初の商業作品でした。当時はいろいろなことに視野が狭く、希少な俳優・松田龍平を演出中に深く観察することができませんでした。今回の「鵜頭川村事件」では前回と比較にならないくらいコミュニケーションが取れて、松田さんのことをじっくりと観ることができました。
――11年前と比べて松田龍平さんの印象に変化はありましたか?
僕の最初の松田龍平ショックは『御法度』('99)『青い春』('02)。まるで尖ったナイフのようなイメージ。しかし現在の松田さんはいい意味でフラットになったというか、尖った感じが一度抜けて、開かれたような印象です。今回、とあるシーンで車がガス欠する展開があって、松田さんに「ガス欠になったらどうしますか?」と聞いたら「1度だけ運転中にガス欠になったことがある」と教えてくれて、それをそのまま演技に反映してくれました。父親役も自然で、それは松田さん自身が人生経験を重ねてきたからこその結果なのではないかと思いました。
――俳優・松田龍平の魅力とはどこにあると思いますか?
松田さんとはよく現場で話した記憶があるのですが、話した内容を後で思い返そうとするとボンヤリしてはっきり思い出せないんです(笑)。俳優として今後どのようなキャリアを積んでいきたいのかなどの話も一切しません。すべてを見せてはくれないミステリアスさに僕らは魅力を感じるのだと思います。謎が多い人って気になりますよね?その面白さが松田さんにはあります。
背景を緻密に考えてあるホラーが好き
――入江監督が土俗的なパニック・スリラーを手掛けると知った時は驚きました。でもよくよく考えると『SR サイタマノラッパー』から入江監督は地方都市や土地の隔絶を好んでテーマにされていましたね。
確かにその通りかもしれません。どうして僕が土俗的なものにこだわるのかというと、地元から抜け出したいという気持ちを青春時代から強く持っていたからです。地元が好きだという人も多いですが、自分にはその感覚はなくて、なぜ俺はここにいるのだろうか? という気持ちでずっと育ってきました。地元から出ていくのが正解なのか、とどまるのが正解なのかは結局分かりませんが、「果たしてここにいていいのだろうか?」という感覚は今も自分の中からずっと抜けません。そんな背景もあって、土地や場所に対する執着をテーマにするのが好きです。鵜頭川村から飛び出した仁美(蓮佛美沙子)には僕自身の投影があるのかもしれません。
――『ギャングース』以来のタッグとなる脚本家・和田清人さんとはどのようなやりとりを重ねて脚本を作られたのでしょうか?
柳田國男さんの「遠野物語」「妖怪談義」や、各地にある奇祭などの土俗的なネタやアイデアを僕が投げて、それを和田さんが取捨選択してストーリーに組み込んでいくような形でした。難航したのは鵜頭川村の神であるエイキチのビジュアルです。エイキチには村人の欲望をのみ込み浄化するただならぬ存在として位置してほしかったので、企画段階から南米などのお面や世界の仮面文化を調べたりして作り上げました。
ドラマの中ではエイキチ人形は村のシンボルとして飾られているのですが、江戸時代に鵜頭川村にやって来ていろいろと事件を起こして村人に忌み嫌われながらもいつの間にか神格化された…というエイキチの裏設定まで考えました。脚本に鵜頭川村の年表を乗せたりして、まるで『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』('99)や「ツイン・ピークス」。僕は本筋には絡まないような背景を緻密に考えてあるホラー作品が好きなので、それを今回やってみました。想像した以上に楽しかったです。
エイキチの呪い?いまだに右膝が痛い
――第1話にある祭り会場のシーンでは、降谷美咲(山田杏奈)を暴れながら追いかける、村一番の厄介者・矢萩大助(板橋駿谷)の姿を長回しで捉えています。あの場面を入江印ともいえるワンカットで撮影した理由を教えてください。
第1話なので村全体の様子を見せたいという狙いと同時に、スタッフ・キャストに対して、このくらい本気でやって始まるドラマであるということを感じてほしいという思いもありました。長回しのワンカットは全員が役割を担って息を合わせないと成立しないものなので、リハーサルも半日くらいかけてやりました。僕自身早めに村の空気感をつくりたかったし、あの場面で村人役全員に鵜頭川村の住人になってほしかったんです。
――2021年冬に長野で行なわれた撮影は寒さも厳しかったようですね。
寒さもそうですが、山の中での撮影だったのでフラットな地面に立っていた記憶がありません。常に斜面に立って体が傾いていたからか、いまだに右の膝が痛いです。山の斜面や坂で撮影していることが多かったので、モニターも傾いていました(笑)。地方ロケの良い点は、みんなが一丸となれることです。同じ空間に一定期間合宿のように一緒にいるわけですから、一つの作品をみんなで作るという共通認識を持てる。撮影が進むにつれてどんどん呼吸が合っていく様子は、泊まり込みでの地方ロケならではの効果だと思います。
気になるドラマは池田エライザ主演のタツノコプロ創立60周年記念 WOWOWオリジナルドラマ「DORONJO/ドロンジョ」
――本作制作の上でインスパイアされた既存の作品などはありますか?
脚本開発時にイメージしていたのは、「ツイン・ピークス」『ミッドサマー』('19)『死国』(’99)。角川映画の横溝正史シリーズや『八つ墓村』('77)の名前も挙がっていました。『死国』は土俗的な話だし、死者がよみがえる“逆打ち”という謎の儀式もあったりして好きなホラー映画です。『ミッドサマー』にも変な踊りや変な風習や謎のゲームがあったりして、今回のドラマに雰囲気的にも近いと思いました。
――「連続ドラマW 鵜頭川村事件」と併せて観たら楽しめる作品、もしくはWOWOWの今後のラインナップで個人的に気になる作品があれば教えてください。
角川映画は参考にさせてもらいましたので、『犬神家の一族』('76)や、『復活の日』('80)は超パニックものとして共通項があります。五社英雄監督作もシャープな黒の締まった画作りが魅力的です。あとはタツノコプロが大好きなので、ドラマでは「DORONJO/ドロンジョ」(10月7日(金)放送・配信スタート)が気になります。しかも監督の一人が内藤瑛亮さん。どのように撮るのか、意外性があって面白そうです。
3度目の松田龍平とのタッグは、まさかのゾンビドラマ…?
――次回WOWOWで作品を撮るとしたら、どのようなジャンルに挑戦したいですか?
やはり地上波では観られない作品を作りたいですね。WOWOWでゾンビものとかはどうでしょう。ちょっと観てみたいですよね? ゾンビ作品を日本でやるとしたら、広げ過ぎずに『新感染 ファイナル・エクスプレス』('16)のように空間を限定するのもいいかもしれません。周囲から孤立した鵜頭川村でゾンビが発生するのも面白そう。あのトンネルからわらわらとゾンビが出てくるとか…。
――松田龍平さんとの3度目のタッグも期待したいですが…。
松田さんは実はゾンビの動きがうまくて、撮影現場で「ゾンビものを撮りたい」と雑談をしていたら、松田さんが「俺、できるんですよ」と目の前で足をガクガクさせながらゾンビの動きを実演してくれました。ゾンビになる時点で主役ではないという問題もありますが(笑)。10年後くらいに松田さん主演のゾンビドラマを実現させたいですね。
――最後に「連続ドラマW 鵜頭川村事件」の見どころをお願いします。
昭和のような世界観で時代に逆行しているところがありながらも、現代が抱える問題も内包している作品です。視聴者からどのように受け取られるのか反応が楽しみです。あらゆる世代の登場人物が出てくる群像劇なので、老若男女に幅広く観てもらえると思います。メインキャストのほか、板橋駿谷さん、吉岡睦雄さん、和田光沙さんらインディーズ出身の実力派が変な村人として大活躍するのも連続ドラマならではの醍醐味。「うわ! この人また出てきた! しかもさらにヤバくなって!」と面白がってほしいです。ちなみに大助(板橋)が常に口にくわえているのはキノコです(笑)。
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