若者のリアルな心情をファンタスティックに描く、超平和バスターズの世界
文=横森文
「あの花」で正式結成された超平和バスターズ
“超平和バスターズ”とは、もともとは「あの花」という略称で呼ばれるTVアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(’11)に出てくる6人の男女が子どもの頃に名付けたチーム名。
そのチーム名が「あの花」以降、同作を作り上げた監督の長井龍雪、脚本の岡田麿里、アニメーターでキャラクターデザインを手掛ける田中将賀が集う作品で原作としてクレジットされるようになった。
そもそもこの3人がメイン・スタッフとして組んだ初作品は、’08~’09年に放送されたTVアニメ「とらドラ!」。恋愛や家族との関係など、それぞれ悩みを抱える高校生たちの学生生活を追ったラブコメで、これで手応えを感じた脚本の岡田が、「あの花」の企画書を出す際にもう1回仕事をしたいと思ったのが長井と田中だったという。かくして3人のユニット、超平和バスターズの快進撃がスタートする。
埼玉・秩父を舞台にした劇場版3作品
まず連続TVアニメとして放映された後、’13年に劇場版アニメとなった『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を皮切りに、’15年に略称「ここさけ」こと『心が叫びたがってるんだ。』を発表。そして’19年には略称「空青」こと『空の青さを知る人よ』が公開された。この劇場版3作品は、全て岡田の育った埼玉県秩父市が舞台となっている。
超平和バスターズの作品の面白さは、そんな自然豊かな秩父の土地柄を背景に、どこかファンタスティックな要素を取り込みながらも、登場人物たちの現実的な痛みを伴うリアルなドラマが構築されていくところにある。
たとえば「あの花」は、小学生の頃に仲が良かった男女6人が、その中のひとり、ロシア人の血を引く母親を持つめんま(声:茅野愛衣)が事故死したことをきっかけに徐々に疎遠に。しかし、めんまのことを好きだったじんたん(声:入野自由)のもとに、めんまが幽霊として現われるようになってから、再び全員が友人としての絆を取り戻すという再生の物語だ。
「ここさけ」は何げなく発した自分の言葉がキッカケで家族崩壊を招いてしまった経験を持つ少女、成瀬順(声:水瀬いのり)が主人公。以来、目の前に現われた“玉子の妖精”に二度と人を傷つけないようにしゃべることを禁じられ、万が一しゃべると腹痛を起こしてしまうようになった順が、声を取り戻すまでを描いた、これまた再生の物語となっている。
そして9月にWOWOW初放送となる「空青」は、ベーシストを目指す女子高校生の相生あおい(声:若山詩音)が主人公。子どもの頃に両親を亡くして以来、あおいは親代わりとなった姉あかね(声:吉岡里帆)に育てられる。妹の面倒を見るため、プロのミュージシャンを目指す恋人の慎之介(声:吉沢亮)の上京の誘いを諦めたあかねに、あおいは負い目を感じながら育った。そんな中、プロとなった慎之介が13年ぶりに故郷に帰ってくるとともに、あかねと別れた日の18歳の慎之介が次元を超えて現われる。その結果、各キャラクターの抱えるわだかまりが痛みを伴いながらも良い方向へと導かれていく。
超平和バスターズの変化を追うのも楽しい
以上の3作品を並べれば分かるように、どの物語もファンタジー的な要素があり、登場人物には何かしらの負い目があり、自分を本気で解放することができないジレンマがある。人間は生きていく以上、何かしらのジレンマを抱えているからそれが解消されていくストーリーは自然と感銘を受けるし、ましてや脚本家の岡田自身が登校拒否や引きこもりなどを体験しただけあって、登場人物の持つ心の傷は真実味を持ってこちらに訴えかけてくる。
しかも岡田の脚本はキャラクターの心の隅々にはびこる複雑な感情を全てしゃぶり尽くすようにしゃべり尽くす。「あの花」などはその最たるもので、時系列の飛ばし方などはややこしいのに、じんたんらの感情はストレート過ぎるくらい言葉にほとばしっていて、だからこそ老若男女誰もが分かりやすく共感できる。「ここさけ」はしゃべれない少女が主人公なので、セリフではさく裂しないものの、監督の長井や総作画監督を手掛ける田中らがその分、心情を景色やちょっとした表情など、画ににじませているのだ。この物語と画のバランスがとても気持ち良く、ある種の爽快感を胸に響かせてくれた。
それをさらに発展させたのが「空青」。昔の自分が今の自分の生き方を促すという、面白い構造の物語に、切ない恋愛模様を絡ませて魅せていくのだが、本作はよりアニメらしい表現が加味されている。それは空を闊歩(かっぽ)するような空中浮遊シーン。心の解放を示すようなこの表現は、実写ではまず難しいシーンで、今まで画としてはリアルさが中心だった超平和バスターの世界観に一石を投じてみせた。
主人公たちが成長するように、超平和バスターズも1作ごとに著しい成長を見せており、その変化も彼らの作品を追う楽しみなのだ。ぜひこの機会に3作を観て、その変化をじっくりと楽しんでいただきたい。きっとアニメの魅力を堪能させてくれるはずだ。