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作品賞&俳優賞だけがオスカーじゃない! 映画ライターが勧めるアカデミー賞の「通」な楽しみ方

 いよいよ4月26日(日本時間)に開催される「第93回アカデミー賞授賞式」。今回は、作品賞や監督&俳優賞に比べて脚光を浴びることの少ない3つの部門賞にフォーカス。アパレル業界から映画ライターに転身し、『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』などの著作を持つ清藤秀人さんに、衣装デザイン賞、音響賞、そして国際長編映画賞から読み解く「通」な楽しみ方をお勧めしてもらいました。

文=清藤秀人 @hidetokiyotoh

「時代劇」に偏らない衣装デザインが近年のトレンド

 アカデミー賞授賞式で注目されるカテゴリーの一つが衣装デザイン賞だ。候補作の衣装がデザイン画から服になっていく工程を短い映像で紹介した後、受賞者が発表される。その瞬間は、別にファッション通でなくても、映画製作の舞台裏をコスチュームで探訪する絶好のチャンスだ。

 さて、多様性が求められる演技部門と同じく、衣装デザイン賞も少しずつ変化を遂げている。これまでは、衣装デザイン賞といえば現代劇より時代劇、つまり歴史物か時代を回顧するような服が好まれることが多かった。その方がデザイナーのクリエイティビティーを刺激するし、何しろ見た目がゴージャスだからだ。

 衣装デザイナーのサンディ・パウエルは、『恋におちたシェイクスピア』(’98)、『アビエイター』('04)、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(’09)、以上3本の時代劇で衣装デザイン賞を獲得している。彼女はこの分野の常連だが、かといって、過ぎ去った時代にいつまでも執着しているわけでは決してない。惜しくも受賞は逃したが、『女王陛下のお気に入り』(’18)では背景になる18世紀初頭の英国宮廷にはあり得ない、白黒ベースの衣装にレザーカットされたレースやキルティングを採用して、マンネリに陥りがちな時代劇のコスチュームを現代的にアップデートしてみせた。

 さて、今年の候補者たちをチェックしてみよう。最有力と目されるのは『マ・レイニーのブラックボトム』(’20)で主演のヴィオラ・デイヴィスのために、アレサ・フランクリンからインスパイアされた派手なブルーベルベットのドレスをデザインした現在89歳の大ベテラン、アン・ロスだ。ロスの対抗は、ジェーン・オースティンが1814年に発表した小説の映画化『EMMA エマ』(’20)で、19世紀の英国摂政時代に急激に変化した女性服を色で表現したアレクサンドラ・バーン。特に、アニャ・テイラー=ジョイ扮するヒロイン、エマが着るショッキング・イエローのロングジャケットは、これまで映画化されたオースティンの世界では見たことがないおきて破りの鮮やかさだ。

 以下、『Mank/マンク』(’20)に登場する衣装の色彩効果をiPhoneのモノクロ設定を使って確かめたというトリッシュ・サマーヴィル、『ムーラン』(’20)でライラック色のラップドレスや赤いチュニックのよろいを用いて主人公の強さを表現したビナ・ダイヘレル、そして、ダークホースは、『ピノキオ(原題)』(’19)でピノキオのためにジャガード織りの赤いスーツを作ってグロテスクな世界に独特のエレガンスを持ち込んだマッシモ・カンティーニ・パリーニだ。

 候補の5作品をジャンル別に色分けすると、時代劇が3本でファンタジーが2本。第88回は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(’15)で汚れた戦闘服を大量にデザインしたジェニー・ビーヴァンが、『キャロル』(’15)と『シンデレラ』(’15)の2作品で候補だったサンディ・パウエルを破ってオスカーを手中に。授賞式では背中にラインストーンをはめ込んだレザー・ジャケットとジーンズで登壇したビーヴァンのワイルドな装いが話題になった。第91回では『ブラックパンサー』(’18)でマーベルの世界にアフリカのエスニック・ファッションを持ち込んだルース・E・カーターが栄冠に輝いている。偏りがちだった衣装デザインの世界も確実に進歩しているというわけだ。

2部門が統合された音響賞

 サウンド部門も進化を遂げている。まず、1930年に録音とミキシングを担当するエンジニアを対象にした録音賞が創設される。さらに1963年、現場から持ち込まれた音源を加工するサウンドエディターとサウンドデザイナーを対象にした音響効果編集賞が併設されるが、その後、2001年には音響編集賞と名称を簡素化。しかし、同じ分野に2つの部門が存在することで受賞者が重複するケースが続発する。

 第91回には『ボヘミアン・ラプソディ』(’18)が録音賞と音響編集賞をW受賞し、翌92回では重複こそ免れたものの、『1917 命をかけた伝令』(’19)と『フォードvsフェラーリ』(’19)がおのおの2部門で候補となり、『1917~』が録音賞を、『フォード~』が音響編集賞を分け合う形になった。そこで、そのような重複を回避するために、今回の第93回から、ついに2つの部門が音響賞として統一されることとなった。

 今年の候補作の内容が実に興味深い。どれもが画期的な音作りに挑戦しているのだ。筆頭は、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(’19)で聴覚障害者が捉える微妙な音を録音する際、水中や俳優の頭蓋骨にマイクを設置し、まぶたが閉じる音まで表現することに成功しているサウンドエディターのニコラス・ベッカー(『ゼロ・グラビティ』(’13)、『メッセージ』(’16)ほか)だ。

 以下、『市民ケーン』(’41)が上映された当時の映画館の音を再現するために、スカイウォーカー・サウンドで激しいエコーや不快な異常音を作り出した『Mank/マンク』のサウンドエディター、レン・クライス(彼は、『ソウルフル・ワールド』(’20)のサウンドエディターとしてもノミネート。現実の都会の喧騒と、生まれる前の世界の静寂とを見事に音で区分けした)、『この茫漠たる荒野で』(’20)でテキサスのロードトリップで待ち受ける予測不能な音をサウンドスケープで表現したサウンドエディターのオリヴァー・ターニー(『1917~』ほか)、第二次大戦下の海戦の臨場感を激しく打ち寄せる波と砲弾音の組み合わせで表した『グレイハウンド』(’20)のサウンドエディター&ミキサーのマイケル・ミンクラーがノミネート。

 音響賞に統一された改革元年に、『サウンド・オブ・メタル~』が本命視されている意味は大きい。なぜなら、これまではどうしてもアクション映画やミュージカル映画に受賞者が集中する傾向があったからだ。映画の音作りも多様化しているのだ(※)。

(※)音響賞は1作品で複数のスタッフが対象となり、本文に挙げた4人以外もそれぞれの作品でノミネートされている。

国際長編映画賞に見るオスカーの変化

 最後にもう一つ。前回の第92回、グローバリズムの見地から外国語映画賞から名称が変更された国際長編映画賞について。この部門の選考プロセスも紆余曲折を経て今に至る。

 かつては各国がおのおの1本提出してきた作品をアカデミー会員の有志から成る一般選考委員会が吟味し、候補作を決定していたが、候補になるべき秀作がたびたび見落とされるという失態が相次ぎ、2007年にルールを刷新。以降は、一般選考委員会が選んだ6本に、えりすぐりのメンバーで構成された執行委員会が厳選した3本を加えた計9本を、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンの3都市の劇場で上映し、それを計40人の執行委員会メンバーが鑑賞して5本の最終候補作が選ばれる仕組みに。

 しかし、当然のごとく、最終決定を一部の執行委員に委ねるのは民主的ではないという意見が巻き起こり、前回より、全てのアカデミー会員が国際長編映画賞の選考に参加できることになった。

 その結果、『パラサイト 半地下の家族』(’19)の国際長編映画賞と、外国語映画として史上初の作品賞制覇につながったのではないかと思う。もはや、アカデミー賞の外国語映画は一部の目利きが選ぶ特別なカテゴリーではなくなったのである。

 今年の本命はデンマークの『アナザーラウンド』(’20)だと思われるが、これを作品賞に推した会員はけっこう多かったのではないだろうか。アカデミー賞はさまざまな分野で垣根が取り払われつつある。

清藤秀人さんプロフ

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クレジット 提供:MATT PETIT/A.M.P.A.S/AFP/アフロ

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