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「TOKYO VICE」のプロデューサーが語る制作秘話。日米スター共演の超大作ドラマが完成するまでの舞台裏とは

 巨匠マイケル・マンが全編オール日本ロケで描く、日米スター共演の超大作ドラマシリーズ「TOKYO VICE」が4月24日(日)から放送開始となる。主演にアンセル・エルゴート、日本からは渡辺謙菊地凛子伊藤英明笠松将山下智久ら豪華キャストが参加した本作。総製作費は100億円規模、WOWOWが初めてハリウッドとタッグを組んだ共同制作の裏側とは? WOWOW事業部チーフプロデューサーの鷲尾賀代が、監督やキャストに関する裏話も交えた制作秘話を明かします。

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★★鷲尾賀代★★
新卒社員としてWOWOWに入社、営業部に配属された後映画部に異動。
プロモーション部への移動なども経た後、2011年に米・ロサンゼルス事務所を開所、代表駐在員として赴任。メジャースタジオを含む契約に従事し、3年目から制作にも携わる。
2021年10月に日本に帰任、現在は事業部のチーフプロデューサーとして番組制作を担当している。2021年3月にはバラエティ誌の「世界のエンターテイメント業界でインパクトを与えた女性」に選ばれ、10月には、ハリウッド・リポーター誌の「全世界のエンターテインメント業界で最もパワフルな⼥性20⼈」にも選出された。
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情熱や苦労。気が付けば映像作品のとりこに

 WOWOWに入社した当初はリポーター志望でした。なので、最初から映像作品を作りたいと思っていたわけではないんです。とにかく“人”が大好きなので、歴史的な事実の裏にある真実を“人”という視点で世に知らしめるような仕事がしたい、そう思っていました。でも、入社直後は営業部の配属となり、電気店巡りに奔走する日々からのスタートとなりましたが(笑)。

 その後、映画部に異動になり、アニメの制作番組や海外アニメの吹替版制作などに従事した後、映画情報番組を立ち上げ、ハリウッドの著名人のインタビューを自ら行なうようになりました。もともとリポーター志望ですからインタビューの仕事にはやりがいを感じる一方、著名人たちの貴重な時間をいただくからには徹底的に準備して臨もうと、関連資料や書籍に目を通すのはもちろん、関係作品もすべて観るよう努めていました。そのうちに、映画やドラマといった数時間の映像の中にどれだけの情熱や苦労が込められているのか、またその映像が世界中のどれだけの人たちの人生に影響を与えているのかを痛感。気が付けば、映像作品のとりこになっていました。

“点”と“点”がつながり、「TOKYO VICE」へ

 2011年にWOWOWの米国オフィスを立ち上げるためにアメリカのロサンゼルスに派遣され、ハリウッドの製作スタジオとWOWOWの契約の窓口としてビジネス拡大の任務を担うことになりました。LAでの最初の2年間はプライベートでUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のエクステンションコースに通い、ビジネス・マネジメントとプロデューサー業を学びました。

 制作にも携わっていいと言われた3年目からは、まず共同制作で実績をつくろうと企画探しをスタート。欧州とは異なりアメリカでは共同制作は一般的ではありませんが、限られた予算の中で番組を制作するには共同制作、しかも、映画やドラマではなくドキュメンタリーから始めるのがベストだと考えました。とはいえ、アメリカでのWOWOWの認知度は低かったので、最初はさまざまなプロデューサーの集まりに手当たり次第参加しましたね。他にも、契約の窓口として築いてきたスタジオの方とのコネクションを生かして制作部門の担当者をご紹介いただくなど、人脈づくりに励みました。こうした活動が実を結び、「もしも建物が話せたら」「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦」といった共同制作のドキュメンタリー番組の完成にこぎ着けました。

 この間に培ってきた人脈が「TOKYO VICE」につながっています。「TOKYO VICE」の制作会社であるエンデバー・コンテントの社長も、「TOKYO VICE」のエグゼクティブ・プロデューサーも、数年前にそれぞれ違う企画ですが、一緒に仕事をしようと企画を立てた仲間でした。地道に残してきた点と点がつながり、好循環が回り始めた先に、「TOKYO VICE」があったんです。

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“世界で最も撮影が難しい都市”といわれる東京でロケを敢行

 最初に撮影が始まったのは2020年の3月。そのすぐ後、新型コロナウイルスの影響で撮影の中断を余儀なくされ、およそ半年後の11月から撮影を再開、最終話を撮り終えたのは2021年の6月でした。
 そもそも、東京は“世界で最も撮影が難しい都市”だといわれています。なぜなら、撮影誘致に関するルールがまったく整備されていないから。たとえばアメリカなら、そのルールはある程度明快です。このビルで撮影するには許可を得るまで何日かかって、撮影可能日は何日から何日までで、それにかかる費用はいくらで、仮にキャンセルしたらいくらで……と、すべてシステマチックに決められているケースが多くあります。その点、日本には分かりやすいルールがありません。

 そんな状況の中、マイケル・マン監督の右腕であるロケーション・スーパーバイザーのジャニス・ポーリーが中心となって日本での撮影交渉が進められました。ジャニスは、『TENET テネット』(’20)でクリストファー・ノーラン監督に世界各国の撮影場所を準備したすご腕の人。マイケルのため、とにかく撮影にベストな環境を整えたいというその類いまれなる熱意に共感し、私も彼女と一緒に小池東京都知事や渋谷区長に会いに行くなどサポートしました。その結果、絶対に通行止めはできない渋谷の百軒店をはじめ、新宿、六本木などの都心から赤羽、立川、東京近郊の横浜、埼玉、千葉のほか、静岡でのオール日本ロケが実現したんです。ロケハンチームは2班体制で、動員された人数は日本の通常のドラマスタッフの倍以上はいたと思います。そのおかげで、マイケルが納得できる撮影場所を用意できた。裏方の粘り強い努力には大いに感銘を受けました。

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ハリウッド方式の制作現場ならではの文化も

 ハリウッド方式の制作現場の空気感は、やはり日本のそれとはかなり違います。アメリカには俳優組合(SAG-AFTRA)があり、俳優の労働環境が徹底して守られているため、時間にはものすごくうるさいんです。撮影がどんどん長引くようなことはなく、基本的に1日12時間以上の撮影は基本的には避けます(12時間を超えるとかなりの額の超過勤務手当が発生します)。「あと1時間撮影を延長して、このシーンだけは撮っておきたい」というときでも、徹底してルールを厳守。それが俳優たちの権利の保護につながっています。

 細かい話になりますが、現場には毎日キッチンカーが来ていました(笑)。「今日の差し入れは何? おやつはある!?」とみんな楽しみにしていて。お弁当もかなり豪華でした! そういったさまざまな人たちによる小さな心配りの積み重ねが楽しい現場の雰囲気をつくっています。それが役者やスタッフの心の余裕を生み、良い作品作りにつながる――、プラスの連鎖が働いているんですよね。

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こだわりの強いマイケル・マン監督のもと、俳優陣も本領発揮

 マイケル・マン監督は、すべてにおいてこだわりが強い方でしたね。ベストな環境で最高の作品を撮りたいという気持ちが人一倍で、画作りも非常に緻密でした。2カメ(2台のカメラで別のアングルから同時に撮影すること)で撮影する場合、どちらかがメインでどちらかがサブといった撮り方になるのが普通なのですが、マイケルの場合はどちらがメインなのか分からないくらい両方とも完璧で。「いったい、編集ではどちらの映像を使うんだろう?」と思いながら見ていました。事前準備を含めると相当な時間をつぎ込みましたが、その一連の過程を見ているだけで感動するほど見事な撮影でした。

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 主演のアンセル・エルゴートは、とにかく日本語を頑張っていましたね。撮影最終日には、簡単な日常会話ができるくらい日本語をマスターしていました。アンセルは歌もうまいだけあって耳が良いのか、日本語の発音もとてもきれいで。その上に努力家なので、日本語のせりふを耳で覚えるだけでなく、その意味をひとつひとつ理解しながら頭に入れていました。演技面でもよくマイケルと打ち合わせをしていて、随所にストイックさを感じましたね。撮影最終日のあいさつも日本語でした。マイケルに負けないくらい、アンセルもこだわりが強い人だと思います。

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 渡辺謙さんとは『ラスト サムライ』(’03)の頃からお仕事を何度かさせていただいており、前述の「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス~」のナレーションをお願いしたり、親交がありました。とはいえ、“俳優・渡辺謙”として一緒にお仕事させていただくのは今回が初めて。印象を一言で表すならやはり、「すごい俳優」でした。謙さんはハリウッドで最も有名な日本人俳優ですが、それでいてまったく壁がないんです。もう一度一緒に仕事をしたいと思わせる、人柄の魅力を備えています。

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 菊地凛子さんも謙さん同様、ハリウッドでは日本人女優の代表として認知されています。海外作品の経験をたくさんお持ちなので、今後も世界を目指す役者さんたちを引っ張っていく存在としてさらに活躍されるだろうと確信しました。

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 海外志向の強い山下智久さんは、実はLA駐在時から存じ上げていて、今回もいつもと変わらず謙虚な印象でしたが、非常に熱量は感じました。本作での役どころは、山下さんが今まで演じてこられたような好青年やヒーロー的な役ではないですが、オーディションでこの役を勝ち取り、せりふはほとんどが英語なので、普段よりはチャレンジングな役どころだったのではないかと思います。ハリウッドでのさらなる活躍が期待される山下さんですが、日本でのロケでは山下さんを見つけたファンであっという間に人だかりができる場面もしばしば。ハリウッドのスタッフも、山下さんの影響力に一目置いていましたね。

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 伊藤英明さんは英語も堪能な上、とにかくフォトジェニックで。現場では“日本のジェームズ・ボンド”と呼ばれていました(笑)。モニターに映る伊藤さんはとても自然体ですばらしかったです。伊藤さん自身も「楽しい!」と毎日のようにおっしゃられていて、心から撮影を楽しんでくださっているのが伝わってきて、こちらもとてもうれしくなりました。また、アンセルともとても仲良くされていたので、ムードメイキングな役割も担っていただきました。

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 笠松将さんの演技も印象的でした。笠松さん、撮影当時はまったく英語が話せなかったんですが、アンセル同様、耳が良いのか英語の発音が驚くほど美しく、存在感も抜群でした。かなり知名度がある役者さんもオーディションに参加する中、笠松さんのポテンシャルを見抜いたマイケルの目はさすがだと思います。

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日本と世界をつなぐブリッジに。そして、語り継ぐべき真実を映画やドラマとして届けたい

 先にも触れたように、日本では撮影誘致の仕組みがまったくルール化されていません。もっと、日本も撮影誘致のメリットに目を向けるべきだと思います。何よりも日本の魅力を世界に発信できますし、観光プロモーションや経済効果だけでなく、日本の映画産業の海外展開や世界のコンテンツ市場で戦える人材の育成にもつながるからです。「TOKYO VICE」で初めてハリウッド方式の制作現場を知った日本のスタッフたちは、普段は使わないような高価な機材を使い、徹底的にこだわった画作りの様子を間近で見て、大いに刺激を受けていました。「TOKYO VICE」の現場で得た経験は、必ず次の現場で生きてくるはずです。それが、日本のコンテンツ産業全体の成長にもつながると思うので、これまで私が積んできたLAでの実地経験や知識を生かし、ハリウッドと日本を結ぶ架け橋となって、WOWOWを見てくださっている方により上質で面白い作品をお届けしていきたいと考えています。

 そして私自身、語り継ぐべき真実を描くドラマや映画をもっと作っていきたいですね。歴史的な事実そのものよりも、それを成し遂げた“人”について多くを知りたいし、知ってもらいたいという気持ちが強いんです。事実の裏にある真実を映画やドラマを通して多くの人々に届けたい、そう思っています。

 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(’19)が第92回アカデミー賞で最多4部門を受賞したのに続き、今年の第94回アカデミー賞では日本の『ドライブ・マイ・カー』(’21)が国際長編映画賞に輝くなど、映画やドラマの世界でアジア旋風が巻き起こっています。新型コロナウイルス感染症の流行が収まり、またLA駐在事務所を開所できる運びになった際には、真っ先にLAに戻りたい! そして、誰かの人生に影響を与えられるような映像作品をもっともっと世に送り出せたらと願っています。

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柳田留美さんプロフ

▼鷲尾賀代プロデューサーのロングインタビューは「features」へ

▼「TOKYO VICE」の特設サイトはこちら

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クレジット:HBO Max / Eros Hoagland、HBO Max / James Lisle