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みなさんはどの本を読んでみたいですか?ポン・ジュノ監督作品とセットで読みたい本5選!

WOWOWブッククラブでは、毎月のテーマに沿ったおすすめ番組と関連する本を記事としてまとめ、noteをご覧になるみなさんにお届けしてゆきます。

11月の番組テーマは「ポン・ジュノ監督」

アカデミー賞作品賞とカンヌ国際映画祭パルムドールをW受賞した「パラサイト 半地下の家族」。同作の独占初放送ほか計8本のポン・ジュノ監督作品をお届けします。

この特集をより楽しんでいただくため、WOWOWブッククラブのテーマを「ポン・ジュノ監督」として、5冊の本をセレクトしました。

選書・コメント=幅允孝(WOWOWブッククラブ部長)

今月の選書のポイント

ポン・ジュノ監督作品に通ずるような家族の繋がりであったり、韓国という文化圏の習慣であったり、人との関わり方を描いた作品など、小説から雑誌まで幅広くラインナップしています。

それでは番組とセットで読んでほしい5冊をご紹介します。

1冊目:アーモンド

ソン・ウォンピョン(著)
矢島暁子(訳)
祥伝社

ソン・ウォンピョンさんは、1979年にソウルで生まれ韓国の映画アカデミーで勉強した方。卒業後、短編映画の脚本を多く手掛け、数々の脚本賞を取っているのですが、そんな彼女が初めて書いた長編小説が世界中で大ヒットしています。(日本でも2020年本屋大賞翻訳小説部門を受賞しました。)

タイトルの「アーモンド」とは、人間の耳の裏側から頭の奥深くにかけて2つある「アミグダラ」とか「扁桃体」と呼ばれる器官のこと。そこは、人の感情を司る部分なのですが、主人公の少年ユンジェのアーモンドは限りなく小さく、怒りや恐怖を含めた喜怒哀楽を人より上手に感じられません。目の前で家族が暴漢に襲われていても、感情を抱かなきゃ、という回路が自分の頭の中で接続する前に、出来事が起こってしまいます。

そんな孫の障害を肯定する祖母。そして、「こういう状況になったら、こういうふうに反応しなさい」と世の中のルールを一つ一つ理論的に教え、社会生活を滞りなく送れるように導く母。そんな彼女らの愛を受けながら育った彼の目の前から、二人の女性が消えてしまってからがこの小説の見所です。

自分とは全く異なる他者と近づき、傷つき、それでも何かを伝えたいと思う強い気持ち。ユンジェは感情を受け取れるアンテナが小さいけれど、サイズではなくそこに受けている愛の濃度を彼が理解した時、彼なりの人との繋がる方法が生まれます。

他のポン・ジュノ作品と同じく、韓国社会における家族や教育の在り方についても細やかに言及しながら、すごく普遍的なところにまで辿り着いた新しい世界文学と言える作品です。


2冊目:卵の緒

瀬尾まいこ(著)
新潮文庫

『そしてバトンは渡された』で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんのデビュー作『卵の緒』。この作品で彼女は「坊ちゃん文学賞」を受賞し、小説家としての一歩を歩み始めました。

『卵の緒』はいきなり冒頭で読者を驚かせます。「僕は捨て子だ」という一節で始まるこの物語は、母子家庭で育つ小学生の育生君が過ごす日常を描きます。が、いい意味でドラマチックなことは起きません。

白熱するスポーツ大会の決勝があるわけでもなく、急に恋愛に目覚めるわけでもなく、大事故が起こるわけでもない。だからこそ、母との関係が濃密に、丹念に、そして優しく描かれるのです。

自分の出自に対する不安は誰もが幼少期に抱くものかもしれませんが、「家族はこうあるべき」というステレオタイプから解き放たれた自由な柔らかさは、ポン・ジュノ作品との共通項といえるでしょう。理想の家族像に対する世の中の社会的強制から、どんどん自由になっていく登場人物たちが投げ合う時速160キロのストレートな愛情に、読者も気持ちよく浸れるはずです。

また、小説家の処女作は、その人が内側に抱えている初期衝動がすごくよく表れると言われるのですが、その後に続く瀬尾ワールドのファンもぜひ最初の一歩を知ってもらいたいものです。


3冊目:ユリイカ 2020年5月号 特集=韓国映画の最前線 ―

青土社

珍しく雑誌の紹介をしましょう。こちら、「ユリイカ」誌の2020年5月号は「韓国映画の最前線」という特集。ポン・ジュノ監督の再録インタビューをはじめ、様々な韓国映画の今がわかる1冊になっています。

「ユリイカ」とは、元々1956年に伊達得夫さんがはじめた詩と批評の雑誌。文学や思想、芸術、アニメや映画等様々な文化をワンテーマをぐっと深く掘り下げ潜っていくためのよい潜水服とボンベのような冊子で、読み捨てるというより、保有しながらいつでも読み返すことができるメディアだと思います。

今号は、キム・ボラ監督の「はちどり」に関するインタビューからはじまり、現在進行形で世界を席巻する韓国映画の様々な側面を読むことができます。ポン・ジュノ監督のインタビューは10年前、「母なる証明」のDVDが出た頃に受けたものの再録ですが、昔の話だと侮るなかれ。

当時は、色々な質問に対し素直に答え、日本のサブカルへの愛や自身の変態性に関する告白、特徴的な雨や水に関する描写についてなど、アカデミー賞監督となった今では赤裸々すぎるとも思える内容で、読み応えも抜群。もちろん、「わたしは一貫して、力のない人々、「弱者」を描いてきた」と、作品創作の原点も力強く語ってもいます。

アカデミー賞をとったことで、ポン・ジュノ監督がグローバルシネマにおけるルールブレイカーとして、(ハリウッドが中核を成す)英語圏の映画と英語以外の言語で作られたワールドシネマの垣根を壊してしまったというイ・ヒャンジンの批評も切れています。

特集全体を通して見えてくるのは、韓国が持つ独特の文化のアウトプット法でしょうか。伝統的な慣習や、対人関係、教育や受験の苛烈さ等も含めて、表現者はそれを受け入れながら、自分たちの内側だけでなく、外に向かってどう発信していくのかを考えているようです。ぎゅっと内に向かった求心力ではなく、遠心力で回っている彼らのカルチャー。

それらは、映画に限らず、音楽やエンターテインメントなど、あらゆる分野で世界に対してどう届けるのかという熟慮があって成立しているのだと知りました。


4冊目:新装版 ヒミズ

古谷実(著)
講談社

ポン・ジュノ監督が影響を受けた人として、名前がよく挙がる古谷実さんの長編作品4作目。がつんと後頭部を殴られたような衝撃を受ける作品です。今回紹介する本は、映画が2011年に公開された時に出た愛蔵版。そんなに長い作品ではありませんが、世の不平等と不条理と残酷な優しさを描いた本当に素晴らしいマンガ作品です。

古谷実さんといえば、『行け!稲中卓球部』の不道徳なコメディのイメージが強いかもしれませんが、今作からはギャグ路線から逸脱し、シリアスに人間の暗部に向かっています。

主人公の中学生、住田祐一くんは、両親の離婚や父親の蒸発、そして母親の駆け落ちで、一人で生きていかないといけない状況に陥ります。状況的には明らかに普通の家庭とは言い難いのですが、だからこそ彼は「特別」を忌み嫌い、学校で特別な夢や才能、ロマンを語る輩をとことん蔑んでいます

とにかく、普通に生きたい。けれど、それを強く願い望むほどそこから離れていってしまう道のりが描かれる矛盾。決定的だったのは、自身にも虐待を加えていた父親が帰ってきた時に父に対して取った決断と行動によって、彼は普通であることを決定的に損なってしまうのです。

自分が普通ではいられないことを悟った彼は、自分の人生を残りあと1年だと限定し、その中で自身の生を肯定しようとします。その無茶で歪んだ人生の肯定は、周りの友人や彼に思いを馳せる女性をも巻き込み、思わぬ方向に流れ出していき…。

覆面をした半裸の男は『稲中』なら喜劇でしたが、『ヒミズ』では悲劇と狂気になってしまいます。ポン・ジュノ作品でも極限まで追い詰められた人間の感情はどこに転ぶかわからないような不安定さを持ちますが、そんな喜劇と悲劇の肉薄した高密度状態を精密に描く不朽の名作と言えるでしょう。


5冊目:浅田家

浅田政志(著)
赤々舎

嵐の二宮和也さん主演で映画にもなったので、『浅田家』というタイトルを知っている方もいるかもしれません。その映画の元となったのがこの写真集。写真集が映画になるなんて前代未聞ですよね?

では、どんな写真集なのかというと、一言で言うと「家族の記念写真」。例えば、表紙の写真は、消防署で働く人たち。それを家族みなでコスプレしながら演じているのです。

家族で大食い選手権を演じ、戦隊ものの着ぐるみを着ながら取るお昼休憩を演じ、ラーメン屋を演じ、新興宗教を演じ、水族館で働く人等などを演じています。

昨今、写真といえばイメージを増幅させるのがその役割となっており、現実以上に加工し、盛ったり、装飾したりすることに誰も疑問を感じません。そういう意味で言うと、『浅田家』は極端な嘘を、ものすごく真剣に家族みんなで作り上げている写真集と言えます。

一方で、虚構をつくる写真制作の中で、消防自動車を借りるための手続きとか、水族館のセイウチが動かないように懸命にする努力は、決して嘘ではありません。そこで皆で向かっている気持ちや時間も嘘ではありません。その写真に撮れるものと、(本来は)撮れないものの両方を写すからこの写真集は特別なのです。

浅田政志さんの家族写真は、一般的には「綺麗に見せようとする」写真の(真を写すという漢字の通り)奥にある核をちゃんと浮き立たせ、閉じ込める力があります。ポン・ジュノ監督は、映画作品を通じてそんな家族の多層性を炙り出しましたが、浅田政志さんは、こんな愉快な方法を用いて、同じ家族の物語をつくっているのです。

これまで紹介した本

先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。