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【斎藤工:インタビュー】自身の番組での“役割”と、「ゴリ押し」映画について語ってもらった。

WOWOWオリジナルの映画情報番組「映画工房」(無料放送のため加入していない人も気軽に見られます)。毎回、俳優の斎藤工と板谷由夏、そして映画解説者の中井圭が、WOWOWで放送される映画の見どころについて熱く語り合っている。今年で放送11年目を迎える番組での自身の役割について、改めて斎藤が語る。
※本コラムは、WOWOWプログラムガイド10月号掲載のインタビュー「あなたにつなぐ、シネマ」の完全版となります。

取材・文=小田慶子

「『映画工房』が誰かにとって映画を好きになるための軽やかな入り口になれたら」 

 2022年も話題作『シン・ウルトラマン』に主演するなど、日本映画界に欠かせない俳優として活躍。自ら映画監督としてもメガホンを取り、ミニシアターの支援活動も行なう映画愛にあふれた斎藤工。視聴者に“映画の見方”を伝える番組「映画工房」に懸ける情熱も、衰えを知らない。

斎藤「映画って単体の“点”で見るより、『この監督と俳優は映画祭の会場で出会ったんだ』などの知識を得て、つながりの“線”で見ていく方が面白いんです。例えば、メキシコのアルフォンソ・キュアロン監督とギレルモ・デル・トロ監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は3人で会社を立ち上げ、故国の不自由な製作環境でも、お互いの脚本を直すなどして切磋琢磨せっさたくましていました。そんな苦労の末に、2010年代に入り3人ともみごとアカデミー賞監督賞を獲得したわけです。そうした裏話を知ると、映画の楽しみが広がると思いませんか」

 映画の背景を説明するとき、意識しているのが映画評論家の故・淀川長治だという。淀川は地上波TVの映画番組に長年出演し「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」の名調子を交えて映画を解説していた。

斎藤「僕は10代の頃、淀川さんの解説を介して映画と触れ合うことで、人生を変えるような1本にも出会い、自分の時間がより豊かになるという“映画の恵み”を感じたんです。淀川さんの言葉はキラキラしていて、映画を見た後に浸れる時間をもたらしてくれる、魔法のような力があった。映画の解説者として、淀川さんを超える人はいないのではないでしょうか。僕も、少しでも実体のある言葉で映画を語ることで、『映画工房』が誰かにとって映画を好きになるための軽やかな入り口になれたらと思っています」

 動画配信サービスの台頭により、映画の受け手が好きなときに好きな作品を選んで視聴できる時代だからこそ、WOWOWシネマのように誰かの視点や思いを通してセレクトした作品を放送するシステムは、かえって貴重だと語る。

斎藤「コスパというか、何をするにも効率が求められる今、1本の映画を2時間かけて見る意味が問われるようになりました。すると、どうしても一度見た作品は後回しにして、旧作ではなく新作を追いかけることになりがちですよね。しかし、WOWOWシネマは放送だからこその不自由さや強制力が、意外にも未知の映画との出会いをもたらしてくれて、それが自分の教養につながっていく。僕が自分の映画を作るときにも『(WOWOWシネマで偶然出会った)あの映画を見たから、こうしようかな』とフィードバックされることがあります」

 キュレーションされた番組編成が、発見の場になり、映画を見る喜びをもたらすことも。

斎藤「観客は、ただ良い作品に出会いたいだけ。そんなシンプルな気持ちでザッピングをしているけれど、WOWOWシネマは、放送作品を選ぶスタッフが純然たる“エンターテインメントへの想い”を持っているので、そのラインナップには見る人をチャンネルにとどまらせる力がある。日本では劇場公開されなかった作品を紹介する「ジャパンプレミア」はその代表的なものだと思います。僕としてはそのセレクトの長所を生の声として伝えるのが自分の使命だと感じています」

「今では絶対に撮れないリアルな昭和の熱気を感じてみてください」

斎藤「そもそも、映画に賞味期限なんてないんですよね。だから、旧作を見ても新しい発見がある。『映画工房』の中でもたびたび取り上げていますが、昔の日本映画を見れば、いかにすごかったかが実感できます」

 10月の放送作品で、「ゴリ押ししたい」と語るのは、50年前の日本映画『実録 私設銀座警察』(‘73)<10月11日(火)後11:15よりWOWOWシネマで放送>。『新幹線大爆破』の佐藤純彌監督による東映の実録ものシリーズの1作だ。

斎藤「今、見たら異様にも見える昭和の男たちの生きざまがそのまま描き出されている貴重な映画です。終戦間もない銀座を舞台に、復員兵や博徒が暴力グループを結成し裏社会でのし上がっていく。なんといっても主演の安藤昇さんはヤクザだった経歴を持つ“本物”だからすごい。渡瀬恒彦さんや梅宮辰夫さんがその安藤さんと共演し、本物の出すリアリティに負けないぞとギラギラしながら演じているんですよ。当時、抗争シーンでは実際に役者が殴り合っていたそうで、しかもフィルム撮影で一発勝負。それをカメラマンがスポーツ中継のように臨場感たっぷりに切り取っているという…。今では絶対に撮れないリアルな昭和の熱気を感じてみてください」

 自ら監督としてカメラの後ろに立つこともあるからこそ、映画スタッフのこだわりや苦労が理解できる。それは番組で作品について語るときにも影響されるという。

斎藤「自分自身の心に響く作品もあれば、あまり響かない作品もありますが、自分にあまり響かなかった作品に対して『つまらない』という表現をしてしまえばそれまで。どんな映画でも汗水流して作った最前線の映画職人たちがいて、より良いものにしようっていう気持ちはあったわけで、映画の現場に携わる人間としては、それを一刀両断してしまうことは避けたい。長所がない映画はないので、常にリスペクトする気持ちは持っていたいと思っています」

 昔の作品やマイナーな作品を発掘して紹介し、または逆にメジャー過ぎる作品でも面白がってトークする。「映画工房」の3人のバランス感覚は絶妙だ。

斎藤「裏方のスタッフさんを含め、『この作品のこういうところはいいよね』という感覚の共有はできている感じがします。この11年やってきて改めて実感するのは、映画体験とは、言葉にできないような感覚も含め、見た“後味”を共有して初めて完成するということ。美味なものはもちろん、珍味というのは食べた人同士にしか分からないじゃないですか。だから、映画を見た後に誰かと語り合えることが大事だし、今はコロナ禍でなかなかリアルではそういう場が持てないけれど、『映画工房』がその代わりになれたらいいなと……。映画の出来の良しあしは別として、番組では“これはいいよね”と感じたことを伝えたいし、放送で映画を見終えた人にも同様に振り返ってもらえたら、うれしいですね。まだしばらくはこの番組で映画の案内人という役割を担っていきたいですね」

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