谷村新司さんの追悼特別公演として、東京と大阪で二夜限り開催される運びとなったアリスのコンサート。彼らにとっても思い出深い日本武道館で行われた東京公演の模様をレポート。
昨年10月、日本を代表するシンガーソングライター谷村新司さんの逝去が公表された。その悲報は国内外に衝撃を与え、世界は大きな喪失感に包まれた。一昨年、アリスとしてデビュー50周年を迎え、昨年6月からは待望の全国ツアーを展開する予定だった。しかし、彼の病気療養のため、念願の“旅路”は延期に。その後、誰もが回復を信じバンドの復活を祈り続けていたが、それは叶わぬ夢となった。2023年10月8日没。享年満75歳だった。
一周忌を挟む形となる今年9月18日と10月13日、日本武道館と大阪城ホールで追悼特別公演が開催される運びとなった。堀内孝雄(Vo.&G.)、矢沢透(Dr.&Per.)がステージに立ち、谷村さんの歌と映像をシンクロさせることで実現する二夜限りのコンサート。日本武道館は1978年に日本人アーティストとして初めて3日間公演を成功させた、彼らにとって思い出深い会場だ。7800人の大観衆の固唾を飲むような緊張感と静かな熱気があふれる中、定刻を迎え本編の幕が開けた。
オープニングナンバーは「冬の稲妻」。初めてトップ10入りした作品だ。2曲目は「今はもうだれも」。アリスがその名を轟かせた感慨深い楽曲を重ねる。しかし、そこに“彼”の姿は無い。定位置にはマイクと愛用のギター5本だけが並んでいる。堀内、矢沢、サポートメンバーの4人も、どこか寂しげだ。続く最初のMC、堀内がまず矢沢を紹介した後「僕らの永遠のリーダーです!谷村新司!」と叫ぶと、この日初めてスクリーンに赤いベストを着た谷村さんの姿が映し出される。そして、懐かしい「ボーカル&ギター、堀内孝雄!」というコール。堀内は感極まって涙をぬぐう。客席から万雷の拍手とエールが沸き起こった。
三人が揃い踏みしたアリスは、「BURAI」「LIBRA-右の心と左の心-」と続ける。ロックンロールの熱気が哀しみを振り払い、駆け抜けた日々がオーバーラップされる。一転して、フォーキーな「あの日のままで」、名バラード「やさしさに包まれて」と、ブレイク前夜の瑞々しい2曲を連ねる。楽曲ごとに様々な表情を魅せるセットリストに、聴衆は酔いしれていく。圧巻はデビューシングル「走っておいで恋人よ」だった。メンバー3人のみでの演奏。ライブでその地位を不動のものにした彼らの矜持が伝わる見事なパフォーマンスだった。続く「あなたのために」も素晴らしかった。初期の彼らが放った瑞々しくもグルーヴィーなサウンドを堪能出来た。
今回のコンサートでも、定番のソロコーナーが設けられた。堀内“ベーヤン”は「ユズリハ」を披露し、戦友への追悼を歌に込める。歌い終えると、「ありがとう」と叫び男泣きする。武道館が涙にぬれた瞬間だった。そんな感傷を振り切るためか、矢沢“キンちゃん”は独り懸命におどけてみせる。そして、ピアノを弾き、自身作詞作曲のバラード「あなたがいるだけで」に想いを託す。最後は谷村“チンペイさん”の番だ。歳月をかけて歌い紡がれてきた「それぞれの秋」が会場に木魂(こだま)する。3人がそれぞれ傑出した才能の持ち主であることを誇らしく思いながら、一方でグループとしてのゴールを迎える気配を感じてしまう。歓びと哀しみに引き裂かれてしまいそうな胸の痛みを覚えた。
コンサート中盤では、“別れ”がモチーフとなる楽曲が続く。「秋止符」「夢去りし街角」そして「涙の誓い」。聴き手の心の隙間に秋風が吹きすさび、優しいうたが泣き濡れた胸をそっとなぞる。天に召された谷村さんに捧げるレクイエムが、誰もの心の中で鳴り響いていた。
終盤に入ると一気にギアを上げ、「ジョニーの子守歌」「エスピオナージ」「狂った果実」と往年のアッパーな楽曲を畳みかける。一転して「帰らざる日々」では、切ない歌詞(ことば)を噛みしめる。本編最後は代表曲「遠くで汽笛を聞きながら」。耳馴染み深いフレーズが余韻となって、いつまでもリフレインしていた。一拍の間を置いて、様々な感情が波のように押し寄せる拍手と歓声のアンコールが起こる。幾多の思いを受けとめ、披露されたのは大ヒット曲「チャンピオン」。数限りない人々の心に火を点けたナンバーだ。最後に、2009年に28年振りに全国ツアーをまわり、全国40会場で10万人のコーラスが収録された“約束の曲”「GOING HOME」で、コンサートは大団円を迎えた。
フォーク全盛の時代に世に出た彼らだが、他と一線を画したのは多彩な音楽的エッセンスだ。アリスと言えば谷村さんと堀内のツインヴォーカルが代名詞だが、バンドアレンジを手掛けライブをけん引したのはジャズ・ドラマー出身で音楽に博識の高い矢沢透だ。そして、子供の頃に耳にした三橋美智也の「リンゴ村から」をルーツに持ち、幅広い洋楽ポピュラーの影響を受けて来た堀内孝雄と、音楽の枠にとどまらず哲学的で深遠な表現を探求し続けた谷村新司さん。三つの天賦の才が時に反発しながらも融合し、唯一無二のアリスサウンドとなって結実していった。
「ALICE FOREVER~アリガトウ~」と題された追悼特別公演の二日目にして最終公演となる大阪城ホール公演は、彼らの活動に一旦ピリオドを打つものとなる。同じ時代を共にした聴き手にとっては名曲の数々と自身の人生を同期させて分かち合う夜となり、新しい音楽リスナーにとっては彼らの足跡をたどり、その芳醇な音楽に触れる恰好の機会となるだろう。彼らがどんなフィナーレを飾るかはわからない。但し、アリスの活動の軌跡、素晴らしい作品の数々は、時代を超えて燦然と輝き続ける。今はただ、ひとりでも多くのかたに、アリスの音楽の魅力を体感していただきたいと願うばかりだ。
WOWOW番組情報
「追悼 谷村新司/ALICE 3カ月連続特集」
<番組ラインナップ>
■「生中継!アリス コンサート2024 ALICE FOREVER ~アリガトウ~」
10月13日(日)午後5:00
WOWOWプライムで放送/WOWOWオンデマンドで配信
放送・配信終了後~30日間アーカイブ配信あり
収録日:2024年10月13日
収録場所:大阪 大阪城ホール
■「谷村新司 TANIMURA CLASSIC 2018」
11月放送・配信予定
谷村新司の名曲の数々をオーケストラで!
指揮:千住明
管弦楽:東京ニューシティ管弦楽団
楽曲:チャンピオン、三都物語、夢人-ユメジン-、ココロツタエ、風林火山、風の暦、陽はまた昇る、モーニング・コール、レストランの片隅で、秋止符、忘れていいの、輪舞-ロンド-、NHKスペシャル平成史<テーマ>、忘れないで、いい日旅立ち、群青、流星、昴-すばる-、サライ
収録日:2018年11月12日
収録場所:東京 東京文化会館 大ホール
■「アリス『ALICE GREAT 50 BEGINNING 2022』」
12月放送・配信予定
ライブとともに50年を駆け抜けてきた“鉄壁のトライアングル”、アリス。新たな想いで開催された東京・有明アリーナでの公演を放送。
楽曲:冬の稲妻、ジョニーの子守唄、涙の誓い、今はもうだれも (1.5cho)、限りなき挑戦 ーOPEN GATEー、夢去りし街角、あの日のままで、青春時代、やさしさに包まれて、何処へ、雪の音、砂塵の彼方、BURAI、ライトハウス、秋止符、狂った果実、帰らざる日々、遠くで汽笛を聞きながら、チャンピオン、BEGINNING、さらば青春の時
収録日:2022年11月17日
収録場所:東京 有明アリーナ
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