「お前は芸人としてまだ生きてるじゃないか!」って思わなきゃいけないなって――『キングダム2 遥かなる大地へ』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?

 映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
 毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、原泰久の人気漫画を実写映画化した2019年公開の大ヒット映画の続編『キングダム2 遥かなる大地へ』('22)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

(※初回放送 3/18(土)後8:00、以降リピート放送あり)

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回取り上げる作品は、人気漫画「キングダム」を原作にした映画版の2作目です。

小沢一敬(以下、小沢)「『キングダム』はね、原作漫画は大好きで全巻持ってるし、映画も1作目は映画館で観たんだよ。ただ、2作目は映画館に行けなかったんで、ようやく観れたんだ」

──いかがでしたか?

小沢「すごく見応えがあったよね。とにかく、スケールの大きな映画で。あれだけ大人数でのいくさのシーンとかもすごかった。俺らが子供の頃は、例えば『敦煌』('88)とかのスケールの大きさが話題になったけど、今ではああいうシーンも普通に映画で描かれるようになってるよね。あと、映画とはまったく関係ない話なんだけど、あの砂ぼこりが舞う戦場の映像を観てたら、俺が10代の頃に働いてた建築現場を思い出しちゃった。まったく何もない更地に中部電力の建物を作る現場とかで働いてたことがあるんだけどさ」

──建築の仕事をしていたとは聞きましたが、そんな大きな現場でも働いてたんですね。

小沢「そうそう。この映画では秦軍と魏軍が大勢集まって戦うけど、俺がいた現場でも、電気工事班とか建築班とかが、ああやって砂ぼこりの中に整列してたね。要するに、あの時は俺も歩兵の一人だったの(笑)。だから、この映画のエキストラの人たちの大変さもちょっと分かるような気がしたよ」

──エキストラもスタッフもすごい人数で、かなり製作費もかかっている作品ですよね。

小沢「それだけ大きな作品で主役を張ってる山﨑賢人くんは、ホントにすごいよね。原作のファンも多い作品だけど、その主役のしんを見事に演じてたし。清野菜名ちゃんも、羌瘣きょうかいっていうとても難しい役を、走り方とか戦い方も含めてちゃんと再現してた。ちょっと前の話になるんだけどさ、日本テレビ系で放送された『永遠のぼくら sea side blue』('15)っていう2時間ドラマを覚えてる?」

──いえ、ちょっと覚えてないんですけど。どんなドラマでした?

小沢「男女8人の青春を描いた物語だったんだけど、そのドラマに出てたのが、山﨑賢人くんと清野菜名ちゃんで。他の出演者が、有村架純ちゃん、窪田正孝くん、成海璃子ちゃん、東出昌大くん、あと……確か、清野菜名ちゃんの不倫相手の役で出演してたのが、小沢一敬だった気がするなぁ(笑)」

──ホントだ! 今、調べたら「一之瀬久志(小沢一敬)」ってなってます。

小沢「はいはいはい。『永遠のぼくら sea side blue』、忘れないでくださいね(笑)。賢人くんを筆頭に、出演者は今をときめくメンバーばっかりで」

──すごいメンバーですね、確かに。しかも、山﨑さんと清野さんはこの時にも共演してるんだ。当時のお二人はどんな感じでしたか?

小沢「賢人くんは、とにかく人格者。みんなの盛り上げ役もできるし、人の悪口は言わないし、聞かないし。一緒にメシを食ったりもしたけど、ホントに育ちの良さとか性格の良さがにじみ出てる人。それは菜名ちゃんもまったく同じで。『この子たち、性格いいなぁ』って思いながら現場で見てたのを覚えてるね。まさにこの『キングダム』の役柄みたいにいちずで真っすぐな人だよ、二人とも。菜名ちゃんは、その当時からアクションに興味があるって話もしてたし」

──じゃあ、今回はピッタリの役柄だったんですね、お二人とも。

小沢「ちなみに賢人くんは、漫画の実写ものに関しては、もう完全に“山﨑賢人王国”、いわゆるキングダムを作っちゃってるよね(笑)。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』('17)とか、最近なら『今際の国のアリス』('20~'22)とか、どれもいいもんね」

──実写版への出演が本当に多いですよね。その代表作のひとつが、間違いなくこの『キングダム』シリーズだと思います。

小沢「この『キングダム2』は、一番はアクションシーンを楽しむ作品だと思うのね。アクションの迫力がすごいから、2時間を超えてる映画なのに、あっという間に終わっちゃうもん。だから、それぞれの環境の違いがあって難しいとは思うんだけど、できる限りスマホやタブレットではなく、WOWOWの放送を大画面のTVで観てほしい作品だね」

──では今回も、そんな迫力の作品の中から、小沢さんがシビれた名セリフを選んでいただきたいのですが。

小沢「まあ、戦いのシーンが多い作品だけど、その中にもいいセリフがいくつかあって。なかでも俺が好きだったのが、『無理じゃない! だってお前はまだ生きてるじゃないか!』だね」

時は紀元前。春秋戦国時代、中華・西方の国「秦」。戦災孤児として育った信(山﨑賢人)は、若き王・嬴政えいせい吉沢亮)に出会う。死別した幼なじみの漂とうり二つの国王に力を貸し、河了貂かりょうてん橋本環奈)や山の王・楊端和ようたんわ長澤まさみ)と共に内乱を鎮圧してから半年後、隣国「魏」が国境を越え侵攻を開始。秦国は魏討伐のため決戦の地・蛇甘平原だかんへいげんに軍を起こす。歩兵として戦に向かうことになった信は、同郷の尾平びへい岡山天音)と尾到びとう三浦貴大)、頼りない伍長・澤圭たくけい濱津隆之)、子どものような風貌に悲しい目をした羌瘣(清野菜名)と名乗る人物と、最弱の伍(五人組)を組む。信たちが戦場に着く頃には、既に半数以上の歩兵が戦死している隊もあるなど戦況は最悪。完全に後れを取った秦軍だが、信が配属された隊を指揮する縛虎申ばくこしん渋川清彦)は、無謀ともいえる突撃命令を下す。

──混乱する戦場の中で負傷して、生き残ることを諦めかけていた尾平に、羌瘣が言うセリフですね。

小沢「あのセリフを言うときの、清野菜名ちゃんの声が、すごく幼い声なのよ。いわゆる怒声なんだけど、まったくドスが効いてなくて、それがすごくいいのよ。野太い声じゃなくて、女の子の細い声で叫んでるんだよ」

──そこが、いかにも羌瘣っぽかったですよね。

小沢「うん。もちろん、セリフそのものもいいよね。俺もさ、たまに思うのよ。もうこの歳だし、『こういう仕事は無理かな』とか、『こんな対決の場に出て行く必要ないじゃないか』とか。でも、そういう時には、『お前は芸人としてまだ生きてるじゃないか!』って思わなきゃいけないなって(笑)」

──羌瘣の言葉を胸に秘めて頑張らなきゃいけないと。

小沢「他にも、隊長の縛虎申が言う『勇猛と無謀は違う。そこをはき違えると、何も残さず早く死ぬ』っていうセリフも好きなんだけどさ、ふと思い出したのが、この前、クロマニヨンズの甲本ヒロトさんが話してた、『ヒロトさんの歌詞は名言ばかりですねって言われるんだけど、名言って、要は言い訳だからね』っていう話で。つまり、世の中の名言と呼ばれるものは、自分を安心させるための言い訳に過ぎないんだと。例えばこの『勇猛と無謀は違う』って言葉も、これを言い訳にして、やらない理由にもできるわけじゃん」

──確かに、「それは無謀だから、やめよう」って言うこともできますね。

小沢「逆に、やる理由にもできるじゃん。『こんな名言があるんだから、この言葉に背中を押されてこれをやってるんだ』って言い訳にできる。結局みんな、自分の生き方への言い訳というか、自分に言い聞かせるために名言を求めてたりするんだよ。そう考えると、俺がこの連載で毎回、名セリフを探してる作業も、しょせんは言い訳を探してるだけなんだなぁと思ったら、胸が苦しくなってきたよね。俺は、なんて浅ましい仕事をしてるんだろうって(笑)。でもまあ、世の中にはその言い訳に救われてる人もたくさんいるからなぁ、とも思ったりもするし…。なんだか、いい歳して青い悩みばっか抱えて申し訳ない!」

──この連載を4年もやってきてるのに、今さらそんなことで悩まないでください(笑)。

小沢「そういう意味では、俺もまだ少年時代の信と一緒なんだよね。いまだに『永遠のぼくら』なの。あのドラマで共演してた子たちはみんなスターになって成長していったのに、俺だけが永遠にあそこに取り残されてるんだよ(笑)」

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クレジット:(C)原泰久/集英社 (C)2022 映画「キングダム」製作委員会