あの頃、バーに行くとまずミルク飲んでたんだ――スピードワゴン・小沢さんが『レオン 完全版』を改めて観て、心を撃ち抜かれたセリフとは?

映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、孤独な殺し屋と12歳の少女との心の交流を描いたリュック・ベッソン監督の代表作『レオン 完全版』(’96)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回は『レオン 完全版』です。この『レオン』は、1995年に“オリジナル版”が日本で劇場公開され、翌年これより約22分長い“完全版”が公開されました。小沢さんは“オリジナル版”をご覧になっていましたか?

小沢一敬(以下、小沢)「うん。実は、“完全版”を観たのが今回初めてだったよ。’95年は俺はまだ名古屋にいたんだけど、公開されてすぐに劇場で観た。でもさ、あの当時って、『レオン』を“人生のNo.1映画”に挙げる人が異常に多かったじゃん(笑)」

──そうでした。みんな大好きだったし、『レオン』を好きじゃないと映画通じゃない、みたいな空気すらありました。

小沢「そうだよね。当時は名古屋のNSC(吉本総合芸能学院)にいたんだけど、芸人仲間と映画の話をしてて、『どんな映画が好き?』って聞くと、まあ、『レオン』と『レザボア・ドッグス』(’91)が好きって言うやつの多かったこと(笑)」

——そんな中で、小沢さんはどんなスタンスだったんですか?

小沢「もちろん、面白い映画だと思ってたからその風潮に文句もなかったし、それぐらいすばらしい映画なんだけど、それを1位って言うことへの照れ、みたいなものがあったよね」

──では、『レオン』はその公開当時に観たきりでしたか?

小沢「その後、ビデオを借りて観たとは思うけど、たぶん今回20年ぶりぐらいだったじゃないかな。久しぶりに観て、いい意味で、もうこの映画はクラシックなんだな、と思ったよね。あの当時は、最先端の“オシャレ”とか“カッコいい”が詰まってたけど、今観ると、もはやクラシック。それはさ、王道だからクラシックになれたんだと思うし。今となっては、すべての映画の見本みたいな存在になってる。だって、『レオン』に影響を受けてるものっていっぱいあるじゃん」

──それは、以前に紹介した『パルプ・フィクション』(’94)とも共通する点ですね。今観るとベタに見えるけど、実はこの映画から始まってることも多い。

小沢「そうそう。例えば、ゲイリー・オールドマンが演じた敵役の刑事スタンフィールドなんて、いろんなとこでまねされてきたでしょ。殺人の前にクラシック音楽を聴くっていう、あのサイコパスなキャラクターづくりとかさ。今ではああいうのがサイコパスなキャラクターの定番みたいになってるけど、あれを初めてやったのはゲイリー・オールドマンだからね」

──ゲイリー・オールドマンっぽい芝居をする悪役、よく見ますよね(笑)。

小沢「映画だけじゃなく、マンガとかにも出てくるもんね。ちなみに、あの『ベートーヴェンは? 演奏してやる』ってくだりは、ゲイリー・オールドマンのアドリブだったらしいよ」

──へぇ~、そうなんですか。

小沢「そういえば、実は俺もこの映画から影響を受けてたのを思い出したんだけど。20代の頃にこの映画を初めて観た後、一時期、バーに行くとまずミルク飲んでたんだ(笑)」

──また、変わった影響の受け方を(笑)。確かに、レオンの飲むミルクはおいしそうですが。

小沢「子どもの頃から牛乳は好きで、毎朝必ず飲んでたんだけど、そのことを大人になるにつれて忘れててさ。だけど『レオン』と出会って、それを思い出して、また毎日飲むようになった。またここ十数年忘れてたんだけど、今日からまたしばらく牛乳飲む日が続きそうだわ(笑)」

──では、そんな小沢さんの“牛乳熱”にも影響を与えたこの作品の中から、今回もシビれた名セリフをピックアップしていただきたいのですが。

小沢「とにかく、これだけの名作だから名セリフの宝庫でもあるんだけど、俺がまず選びたいのは、『大人になっても人生はつらい?』かな」

ニューヨーク。イタリア系移民で一流の腕を持つ孤独な殺し屋レオンと、彼のアパートの隣人である12歳の少女マチルダ。アパートの廊下で擦れ違ううちに少しずつ会話を交わすようになっていく中で、ある日マチルダが真剣な顔でレオンに訊ねるセリフ

小沢「この映画ってさ、マチルダが大人たちに囲まれながら、自分もだんだん大人になっていく物語だと思うんだけど、そんな中でレオンだけは、年齢的には大人なのに、実は一番大人じゃないんだよね。だから、マチルダに『大人になっても人生はつらい?』って聞かれたときに、『つらいさ』って言っちゃう」

──普通の大人なら、そうは答えないと。

小沢「大人がそう聞かれたら、子どもを安心させるために、『いや、大人になったら楽しいことがいっぱいあるよ』とかって嘘をつくと思うんだ。だけどレオンはそこに計算とかがないから、マチルダにも優しい嘘をつかずに、『つらいさ』って本当のことを言っちゃう」

──つまり、大人になりたい少女が、もっとも大人じゃない男に出会ってしまったわけですね。

小沢「うん。だから、大人になるとは何か? ってことを考えさせられる映画だよね。つらい少女期を早く終わらせたくて、一生懸命に背伸びするマチルダが、存在自体は大人だけど、心の中はズルい大人にはなっていない、ある意味で少年のままのようなレオンと出会って、どう変わっていくかっていう」

──ちなみに、小沢さんが「大人になっても人生はつらい?」って聞かれたら、どう答えますか?

小沢「『それはキミが大人になってみりゃ分かるよ』って言うね」

──カッコいい!(笑)

小沢「だって、つらいかつらくないかは、その人次第だからね。自分では全然つらいと思ってないのに、周りから『そんな生き方、つらくない?』って言われると、ものすごく悲しくなるじゃん。つらいかどうかなんて、本人にしか分からないのに。だから、大人になったからつらいんじゃないし、子どもだからつらくないわけでもない。結局は本人がどう感じるかだから、『大人になったら分かる』が答えだと思うよね」

──そんな答えは、レオンには言えなかったでしょうね。

小沢「うん。でも逆に、そんなレオンの良さが出てたのが、大事にしてる植木鉢の観葉植物について、『最高の友さ。無口だからいい。俺と同じで根がない』って語るところだよね。それを聞いたマチルダが『大地に植えれば根を張るわ。私もその鉢植えと同じね』ってつぶやくと、レオンが『そうさ』って言いながら、マチルダに水をかけてふざけ合うシーン。あそこはもう、一番ベタな名場面の一つだよね」

──キュンときちゃうところですね。

小沢「だから俺はさ、今日からバーに行ったらミルクを飲むし、明日からは現場に植木鉢を持っていくつもりよ(笑)」

──2021年に『レオン』の影響を受ける人(笑)。

小沢「とはいえ、久々に観て思ったのは、この映画、こんなに暗かったっけ? ってことなのよ。フランス人監督の映画だからっていうのもあるかもしれないけど、BGMの使い方も思ってたよりも暗かったよね」

──エンディングにかかるスティングの曲「シェイプ・オブ・マイ・ハート」も、また切なさを倍増させますよね。

小沢「それから、もう一つ。この映画を通して俺がずっと気になってたことがあってさ。それは、レオン役のジャン・レノが、ノーメイクのコウメ太夫にそっくりだっていう(笑)」

──ノーメイクの顔を見たことある人は少ないと思いますけど…(笑)。

小沢「いや、ものすごく似てるのよ。そしたらさ、俺は吹替版で観てたんだけど、物語の後半でマチルダが『チクショー!』って言うシーンがあって」

──英語だと「S**t!」っていうセリフのところですね。

小沢「その偶然にゾッとしたよね。あれ、もしかしたら、リュック・ベッソン監督から未来のコウメさんへの、何かメッセージだったのかもしれないな(笑)」

小沢さんプロフ

▼作品詳細はこちら


クレジット:©1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!