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ゴルフファンの声を聞きながら――「LPGA女子ゴルフツアー」担当プロデューサーに番組への想いとこれからの展望を聞いた

長年、多くのゴルフファンから支持されているWOWOWの「LPGA女子ゴルフツアー」。2023年シーズンは、メジャー4大会を含む30大会を放送・配信している。2012年の本格放送開始当初から番組制作に携わり、新しいゴルフ中継の試みとしてWOWOWオンデマンドで始まった、配信限定の「日本人選手専用カメラ」立ち上げにも尽力した、戸田祐子プロデューサーに話を聞いた。

スポーツ部・戸田祐子プロデューサー

変化と拡大を続けているLPGA女子ゴルフツアー

――まずは戸田さんの簡単な経歴を教えてください。

 WOWOWに入社後、最初に配属されたのは管理部門の部署でした。その後、音楽部、編成部などを経て、2009年にスポーツ部の所属になりました。
 最初はテニスに携わっていましたが、2010年と2011年に1大会のみ、「エビアンマスターズ」(現在の「アムンディ・エビアン・チャンピオンシップ」)の放送があり、そこからゴルフに携わるようになりました。翌2012年から本格的に「LPGA女子ゴルフツアー」の放送がスタートしたんですが、その交渉では現地まで飛んで、「日本でLPGA女子ゴルフツアーの魅力を多くの方に伝えます!」って熱意をもって放送権交渉をしましたね。それ以来ずっとゴルフを担当しています。

 大学時代にゴルフ部に所属していたので、もともとゴルフは好きだったんですが、私が入社した当時のWOWOWはゴルフをほとんど放送していなかったですし、自分がゴルフの担当になるとは思ってもみなかったですね。

――WOWOWと「LPGA女子ゴルフツアー」の歴史について教えてください。

 WOWOWゴルフの初期は、1997年の「全米プロゴルフ選手権」や1999年の「ライダーカップ」など男子の大会を放送し、女子の大会も数大会をダイジェストのような形で放送していました。その後、先ほどお話しした通り2010年と2011年に女子の「エビアンマスターズ」をお届けして、2012年から本格スタート。最初の頃はCSチャンネルの「ゴルフネットワーク」と半々くらいの割合で大会を放送していましたね。今季2023年シーズンでLPGAの放送は12年目となります。

――戸田さんを含むWOWOWゴルフ班のお仕事の内容を教えてください。

 実際の放送に当たっては、各大会が開催される会場に現地在住のカメラマンを派遣して日本人選手のプレーを撮影してもらい、その映像をLPGAの主催者側から提供される国際映像に織り込んでいく、という作業を行なっています。国際映像は日本人選手がたくさん映るということは少ないのでWOWOW独自のカメラを手配しているんです。これによって視聴者の皆さんに、より多くの日本人選手のプレーを観ていただけるように調整しています。「日本人選手専用カメラ」の映像の多くは、このWOWOW独自のカメラからの映像となります。

2023年 配信用サブ・コントロールルームの様子

 現在、WOWOWゴルフ班には私を含めて8人いるんですが、メジャー大会は必ずプロデューサーが1人、現地に出張しています。LPGAは年々大会が増えていて、シーズン中は毎週のように大会があり、さらに海外からの中継なので、東京のスタッフは昼夜逆転の勤務になることも多いです。タイトなスケジュールに加えて身体的な大変さもありますが、視聴者の皆さんに満足いただける番組をお届けするべく、スタッフみんなで力を合わせて日夜頑張っています。

――「LPGA」に携わってからの年月で感じる変化はありますか。

 大会数も増加していますし、各大会を個々に見てもツアー全体を見ても賞金総額が増えていて、それに伴って選手層も厚くなってきていると感じます。日本人選手もWOWOWが放送を始めた当初から宮里藍選手をはじめ、上田桃子選手、宮里美香選手らが参戦していましたが、今季は畑岡奈紗選手、古江彩佳選手、笹生優花選手、渋野日向子選手にルーキーの勝みなみ選手、西村優菜選手を加え、実に6人もの選手がレギュラー参戦していて、日本人選手の層の厚さを感じていますね。

 2000年代初頭にLPGAを席巻したパク・セリ選手や、彼女に影響を受けた“パク・セリキッズ”と呼ばれるユ・ソヨン選手ら韓国勢が躍進した時期を経て、最近はタイやヨーロッパなどの選手も増えていて、より国際色が豊かになってきている印象です。また、長く活躍するスター選手も多いLPGAですが、若い世代の選手の台頭も目立ちますね。

生涯忘れない宮里藍選手のラストプレー

――印象に残っている大会や選手をお聞かせください。

 宮里藍選手の引退試合となった2017年の「エビアン・チャンピオンシップ」は生涯忘れることはないと思います。
「エビアン」は宮里選手が2009年にLPGA初優勝を飾り、WOWOWが放送した2011年大会でも優勝するなどゆかりの深い大会。2017年大会は現地で宮里選手の最後のプレーを見ることができて、本当に素晴らしい経験ができました。宮里選手の活躍を改めて思い出しながら、気持ちを込めて中継作りをしました。

2017年9月14日「エビアン・チャンピオンシップ」の現地WOWOWスタジオの様子

 さらにこの時は、現地のスタジオゲストとしてレジェンド、LPGA72勝のアニカ・ソレンスタムさんに来ていただいたことも忘れられない思い出の一つです。

 また、近年では笹生優花選手が優勝した2021年の「全米女子オープン」ですね。アメリカのレクシー・トンプソン選手らと首位を争い、畑岡奈紗選手と笹生選手がプレーオフに進出。メジャー大会で日本人選手同士の優勝争いを届けられるなんて、夢みたいでした。最終的に笹生選手が勝利しました。 2019年の「全英AIG女子オープン」の渋野日向子選手もそうですが、自分が担当している間に複数の日本人選手がメジャー大会を制覇する時代が来るなんて! と感慨深いものがありました。

2021年「全米女子オープン」を制した笹生優花/Getty Images

選手をより身近に感じられる「日本人選手専用カメラ」

――WOWOWオンデマンドでは、日本人選手の映像をライブ配信する「日本人選手専用カメラ」を導入されています。導入のきっかけをお聞かせください。

 LPGAの放送に当たってWOWOWは、自前のカメラを用意して日本人選手を追っているのですが、これまで日本人選手の映像だけを放送・配信する、ということはありませんでした。
 「日本人選手専用カメラ」を始めたきっかけは、2016年、2017年の畑岡奈紗選手の「最終予選会」です。翌シーズンのLPGA出場資格を巡る、畑岡選手にとっても人生が懸かった大会の模様をリアルタイムで配信しました。ひた向きにプレーする畑岡選手の表情を捉えた映像を通して、視聴者の皆さんに大会の特別な緊張感をお伝えすることができたこの配信が視聴者の皆さんからの反応も良く、企画を継続していくきっかけになりました。

2016年12月4日 畑岡奈紗選手&現地スタッフのみんなと

 その後は2017年に「イ・ボミ専用カメラ」という企画も実施しています。これは韓国のイ・ボミ選手が2015年、2016年に日本女子ツアーで2年連続賞金女王になって話題を集めていた時の企画で、LPGAの「ANAインスピレーション」(現在の「シェブロン・チャンピオンシップ」)に参戦するイ・ボミ選手のプレーを、ライブで1番から18番まで全ホール見せるという趣向でした。

 これらの試みは視聴者の皆さんからも好評で、ご要望に応える形で2019年には全英覇者の渋野日向子選手のスポット参戦となった「スインギング・スカーツLPGA台湾選手権」を、2020年、2021年は注目大会やメジャー大会限定で「日本人選手専用カメラ」を実施 。渋野選手と古江彩佳選手が出場した2021年の「最終予選会」の模様もライブ配信しました。
 そしてレギュラー企画となったのは2022年シーズンからで、前半の数試合を除き、日本人選手が出場する試合で毎回実施するようになって現在に至ります。

――「日本人選手専用カメラ」の見どころを教えてください。

 提供される国際映像は放送時間が限られており、選手の様子はショットの少し前くらいからしか見られないんですが、「日本人選手専用カメラ」では、選手がショットやパットを打つ前のルーティンや、コースを歩いているときの様子、表情の変化などもしっかりと捉えていますので、選手についての新たな発見があったり、コースで観戦しているかのように選手を身近に感じられたりして、ゴルフファンにはたまらないと思います。

 2022年10月の「BMW女子選手権」での渋野選手のホールインワンや、今年3月の「ドライブオン選手権」で笹生選手がアルバトロスを達成した瞬間など、スーパープレーをリアルタイムで見られる可能性があるのも「日本人選手専用カメラ」ならではですね。私たちが捉えたこういった特別なプレーの映像は、逆に国際映像側に提供することもあるんですよ。試合後のインタビューもフル尺の完全版でお届けしていますので、選手たちの言葉もじっくりと聞いていただけると私たちもうれしいです。
 選手たちもWOWOW独自のカメラが入っていることは分かっていますし、「自分のプレーを見てほしい! 日本に届けたい!」と思っているはずなので、ぜひ選手たちの頑張りを「日本人選手専用カメラ」で見届けていただきたいなと思います。

 ちなみに、「日本人選手専用カメラ」に出演している解説者同士のトークも面白いですよ。それぞれに異なる個性がある解説者たちが、ゆったりとゴルフに関するトークを展開しているので、ラジオを聴くような感覚で楽しんでいただけると思います。

これからも視聴者の声に耳を傾けて、番組を作っていく

――「日本人選手専用カメラ」を運用する際の難しいところは?

 一番の悩みは、カメラの台数や稼働時間に制限があるため、残念ながら全選手のすべてのプレーをお見せすることができないという点です。そんな中でも可能な限り多くのプレーを見ていただきたいので、毎回、頭をフル回転させて撮影カメラマンの動きを考えています。
 また、カメラマンの移動などによりプレーを見せられない時間がどうしても生まれてしまいます。そんなときにはホールのレイアウト図などに映像を切り替えて、解説者に攻め方を解説してもらうなどの工夫をしています。

 そういった「スキマ」を埋めつつ、観ている方とのつながりをつくるための工夫として生まれたのが、視聴者の皆さんからの質問に解説者やラウンドリポーターがその場で答えるコーナー。ゴルフ上達の方法やLPGAツアーでの生活のこと、試合のルールや選手の特徴についてなど、ゴルフにまつわるさまざまな質問が毎回届いています。質問はWOWOWゴルフの公式Instagram(@wowowgolf)の“ストーリー”から書き込んでいただけますので、放送や配信を見ていて少しでも気になったことや、ご自身のゴルフについてのアドバイスが欲しいときなど、ご自由に質問していただければと思います。

 また、公式Instagramと公式Twitter(@wowowgolf)、そしてWOWOWオンデマンドのゴルフトップページでは日本人選手専用カメラの配信スケジュールなど、最新情報を随時アップしていますので、ぜひフォローをお願いします!

――「日本人選手専用カメラ」に対する視聴者の皆さんからの反響についてはいかがでしょうか。

 最近は、「たぶん明日は、あの選手を中心にした配信になるよね」など、視聴者の皆さん同士がSNS上で配信される選手が誰かという“考察”をしている様子を目にすることが多くなって、スタッフ一同喜びとやりがいを感じる半面、番組を作って届ける側の責任も強く感じています。やはり、カメラをどの選手に密着させるのか、というのは本当に一番頭を悩ませるところですので。

 「日本人選手専用カメラ」に対するご希望は、視聴者の皆さんそれぞれで異なります。特定の選手だけを見たいという方もいれば、日本人選手のプレーをまんべんなく見たいという方もいます。また、密着している日本人選手のプレーとともに打順を待つ表情を見たいという方もいれば、 一緒にラウンドしている他国の選手のプレーも見たいという方もいます。皆さんの声に耳を傾けて、それぞれのご希望にできる限り応えたいですが、私たちとしてはまず「バランス 」を取ることが大事だと考えて、日々番組を制作しています。流れに乗っている選手がいれば、カメラを急きょその選手につけることもあります。生のプレーを届けていますので、常に柔軟に考えています。
 特定の選手のファンが、「日本人選手専用カメラ」でほかの選手のプレーを観て、その選手のことも好きになって、WOWOWのゴルフ中継も好きになって、さらにLPGAファンになってくれるような機会をつくることが大切。そのために視聴者の皆さんが何を見たいのか、という部分を常に中心に据えながら、偏りなく多くの方に満足していただきつつ、「発見」もあるような、そんな「バランス」を毎試合探っています。

――「日本人選手専用カメラ」をやって良かったと思う瞬間を教えてください。

 最近ですと、今年5月の「コグニザント・ファウンダーズ・カップ」に出場した勝みなみ選手と西村優菜選手のプレーをお届けできたことですね。この大会後に実施される第1回リシャッフル(シード権を持たない選手を対象に、獲得ポイントに応じて残り試合の出場優先順位を見直す制度)に向けて、2人とも一つでも順位を高くしておきたいという試合でした。
 特に西村選手は序盤に出遅れてしまったのですが、そこから奮起してなんとか持ち直すことができ、結果的に2選手ともにリシャッフルを突破することができました。この試合での西村選手の頑張りに私自身もすごく感動しましたし、そのプレーを視聴者の皆さんにお届けすることができて本当に良かったと思います。

 勝選手、西村選手のように日本人選手は小柄な選手が多いですが、180㎝以上あるような大柄な外国人選手に囲まれ、言語の違いや長い移動距離、時差など厳しい環境の中で奮闘しています。そんな選手たちの姿には勇気づけられますし、それを皆さんにお見せすることが私たちの使命だと思っています。

放送と配信の両方で選手のプレーを楽しんでほしい

――近々の大会について、見どころを教えてください。

 6月23日(金)に開幕する「メジャーKPMG全米女子プロゴルフ選手権」には、レギュラー参戦している日本人選手6人に加えて、西郷真央選手、野村敏京選手も出場予定です。コースは男子のメジャー大会も開催される難しいコースなので、どのように攻略するのかが見ものです。
 2018年の同大会では畑岡選手がプレーオフに進出し2位タイの成績を残しています。個人的には渋野選手、笹生選手に続いて畑岡選手のメジャー優勝が見たいですね! 畑岡選手もメジャーに対する想いが強いので、相当気合が入っていると思います。

 そして7月27日(木)に開幕する「メジャーアムンディ・エビアン・チャンピオンシップ」は、先にお話しした通り宮里藍選手にゆかりが深く、私としても思い入れのある大会です。フランスのレマン湖とフレンチアルプスを臨む、景色がとてもきれいなコースが舞台。ずっと同じ会場なので、打ち下ろしの2番ホールなどゴルフファンの皆さんにはおなじみかと思います。美しい景観をバックに繰り広げられる、選手たちの熱いプレーに注目してください。

 WOWOWは大会の初日から最終日まで、ほぼ生中継でお送りするところが長所ですので、ぜひ放送と配信の両方で大会の模様を楽しんでいただきたいです。

(左から)スポーツ部・梶野紀恵プロデューサー、戸田祐子プロデューサー

すべてのゴルフファンとゴルフ界の未来のために

――最後に、戸田さんの今後の目標や夢をお聞かせください。

 日本人選手のドキュメンタリー番組を作りたいですね。現在LPGAにレギュラー参戦している6人の選手はそれぞれ個性が違います。その人物像に深く迫って、視聴者の皆さんに知っていただければ、きっと大会の中継や「日本人選手専用カメラ」の配信もさらに楽しんでいただけると思います。

 近年、「LPGA女子ゴルフツアー」は日本人選手の活躍で盛り上がり、見てくれる人も増えて注目度が上がっています。少し前までは、宮里藍選手や畑岡選手がひとりで奮闘していたような時期もあって、その頃からずっと見てくれている長年のファンの方々もいらっしゃいます。そして、トッププロに憧れるジュニアの選手たちもWOWOWの放送や配信を見てくれていることと思います。そんな、多くのゴルフファンやゴルフ界の未来を担う子どもたちの声も私たちは大切にしていきます。

 これからも選手へのリスペクトの気持ちを大切に、すべてのゴルフファンの皆さんが楽しめて、若い選手が自分も世界で羽ばたきたいと思える、そんな番組を作っていきたいです。

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クレジット(トップ画像):Getty Images