『ひょっとしたら自分も誰かの始まりになってるかもしれない』と思うと、生きなきゃ、って――『君が世界のはじまり』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれた映画のセリフを語る
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『ひょっとしたら自分も誰かの始まりになってるかもしれない』と思うと、生きなきゃ、って――『君が世界のはじまり』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれた映画のセリフを語る

映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、退屈な街で一方通行な想いを抱えながら生きる高校生たちを描いた『君が世界のはじまり』('20)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回は『君が世界のはじまり』ですが、この作品を選ばれた理由は?

小沢一敬(以下、小沢)「俺ね、主演の松本穂香さんがすごい好きなのよ。なんて説明したらいいか難しいんだけど、この女優さん、他の誰ともかぶってない気がしてて。特に彼女の目が、めちゃくちゃ好きなんだよね。スケールがデカい目っていうのかな。すべてが目に映っていながら、すべてを俯瞰(ふかん)に見てるような、すごく奥行きのある目。いま見ているものの、その向こうを見ているような目をするんだよね。その目がすごくいいのよ」

──その目の魅力は、今回の作品でも活かされてた気がします。

小沢「そうだね。とにかく、すごくいい映画だった。観てよかったよ。THE BLUE HEARTSの『人にやさしく』が劇中で何度も流れてくるじゃん。あれは俺らが中学生の頃に出た曲なんだけどさ、俺はあまのじゃくだから、この曲の歌詞に出てくる『ガンバレ!』って言葉が好きじゃなかったのね。たとえば、『ガンバレって、漢字では“頑(かたく)なに張る”って書くでしょ。つまり、何があっても自分でいることが頑張るってことだから、汗かくことが頑張ることじゃねえし』みたいなことを言ってたのよ。だけどこの前まで、ちょっと家で寝てなきゃいけない時間があってさ」

──新型コロナウイルスで自宅療養をされていた期間ですね。

小沢「うん。そのときにさ、もう、お正月なのか? 誕生日なのか? っていうぐらい、知り合いからメールがたくさん来てさ。そこでみんなが必ず書いてきてくれるのが、『ガンバレ!』って言葉で。そうしたら、だんだん『ガンバレ!』っていい言葉だなぁ、って思えてきて(笑)。そんなときにこの映画を観たから、タイミングもちょうどよかったんだよね」

──『ガンバレ!』が心に染みてしまった感じですか。

小沢「そうだね。そういえば、松本穂香さんが演じてた主人公の名前は、縁って書いて“ゆかり”って読むんだけど、親友の琴子ちゃん(中田青渚)は“えん”って呼ぶじゃん。俺の名前も“かずひろ”って読むんだけど、たまに読み方の分からないスタッフさんに、『はい、本日のMCはスピードワゴンの小沢“いっけい”さんです!』って言われることがあって。そんなことも思い出しながら観てたよね(笑)。『いっけいって呼んでいいのはあの人だけだからねっ!』って」

──劇中のえんちゃんみたいな気分で(笑)。

小沢「それにしても、前々回に観た『アルプススタンドのはしの方』('20)もそうだったけど、最近の日本の若い女優さんは、すごい人が多いよね。なんか、おじさんっぽい言い方に聞こえちゃうかもしれないけど(笑)。えんちゃんも琴子ちゃんもよかったし、もう一人の、ショートカットの同級生の役の女優さんも素晴らしかったでしょ」

──純役の片山友希さんですね。

小沢「女優さんたちがとにかく素晴らしいから、なんだか、『10代の頃はよかったなぁ』って思わせてくれる映画だった。もちろん、みんな10代がうまくいってたわけじゃないし、苦しい環境で過ごした人たちも少なくないと思うよ。俺も10代の頃はいろいろあったし。でも、この映画を観たら、『10代って、しんどいけど、やっぱり美しいな』って。なんていうか、ものすごくイノセントなんだよね。無垢(むく)で真っ白だから、そこにいろんなものを書き込めるんだよ。もう、俺らぐらいの年になると、書く隙間がないぐらい落書きだらけになっちゃってるじゃん。もう余白がない(笑)。だけど、こういう10代の子たちは無垢だから、ほんの小さな出来事でも、すべてが白い部分に書き込まれていくんだよね。だから、すぐに影響を受けるし、それが苦しい。でも、みんなそういうのを経て大人になっていくわけだし、その苦しんでる姿も、俺からすれば、全部が美しかったよ」

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──では、そんな美しい映画の中で、小沢さんの心に刺さった名セリフは?

小沢「今回はね、『それでも分かろうとしたり、想像するべきやと思う』。このセリフなんじゃないかなって思った」

大阪の端っこの退屈に満ちた町で、高校生たちがまだ何者でもない自分を持て余していた。授業をさぼって幼なじみの琴子と過ごすえん、彼氏をころころ変える琴子は講堂の片隅で泣いていた業平(小室ぺい)にひと目惚れし、琴子に憧れる岡田(甲斐翔真)は気にもされず、母親に出て行かれた純は東京からの転校生、伊尾(金子大地)との刹那的な関係で痛みを忘れようとする。全員が孤独に押しつぶされていたその夜、高校生による父親の殺害事件が起きた。

──事件が起きた後、深夜の閉店したショッピングモールに忍び込んだえんたちが、事件の犯人について語り合ってる中で、業平が言うセリフですね。

小沢「最近、世の中でいろんなことがあるじゃん。誰かの発言が批判されたり、誰かの行動で他の誰かを傷つけたことが問題になったり。そういう事件が起きたとき、みんな好き勝手に言うんだよ、当事者じゃないから。だけど、そこで『分かろうとしたり、想像するべき』って考え方はすごく大事だと思って。見えてる部分や聞こえてる部分だけでしゃべらずに、一度は想像して、分かろうとしてからしゃべった方がいいと思うんだよ。もちろん、想像したって分からないことも多いんだけど、それでも一度は想像して、分かろうとすることで、もしかしたら見えてくるものもあると思うからね」

──条件反射的に発言しないで、いったん想像してみよう、と。

小沢「そうだね。あと、全然関係ないんだけど、そのセリフの前に、みんながひとりずつ、『好きな人のこと考えてたら一日が終わってたり』『告白したいけど勇気がなかったり』『ほんまは好きやのに、嫌いって言うてみたり』『嫌いなのに、なんかずっと一緒におったり』『たり、たり、たり……』って言うシーンがあったじゃん。あのセリフがさ、THE YELLOW MONKEYの吉井和哉がYOSHII LOVINSON名義で出した『TALI』って曲の歌詞みたいなんだよね。この曲も『寝そべったり からかったり 嘘言ったり またがったり』って歌詞なんだけどさ」

──単なる偶然なのか、もしかしたら『TALI』の歌詞を意識して書かれたセリフだったのかもしれない。

小沢「それは分かんないけど、すごく好きなシーンだよ、あそこも。あとは同じショッピングモールのシーンの後半で、業平君がえんちゃんに言う、『他人事みたいに思ってるやろうけど、始まりはえんさんやで。突然、俺の世界に入ってきてくれたから。やから、えんさんは俺のヒーロー』ってセリフも好きだね。何度も言ってきてるけど、俺にとっての始まりは、THE BLUE HEARTSのマーシー(真島昌利)なのよ。中学のときにブルーハーツがデビューして、ブルーハーツを聴いたから、友達とバンドを始めて、毎日がホントに楽しくなって。だけど、マーシーは別に俺の人生のスイッチを押そうとしてブルーハーツを始めたわけじゃないじゃん。それと同じように、この映画のえんちゃんだって、業平君の始まりになろうとしてたわけじゃなくて、自分は自分なりに生きてたら、たまたま業平君のスイッチを押していた。そう考えると、ひょっとしたら俺も誰かの始まりになってるのかも? って思ったんだ」

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──小沢さんなら、それは間違いなくあると思いますよ。

小沢「それは別に俺だけじゃなく、みんなに言えることだと思うのよ。俺もあなたも、これを読んでくれてる人たちも、みんな誰かの始まりになってるかもしれない。例えば琴子ちゃんなんて、そんなことを絶対に意識してないけど、えんちゃんにとっては琴子ちゃんの存在が何かのスイッチを押してくれたんだろうし。それが、琴子ちゃんに対するえんちゃんの恋愛感情なのか、もっと大きな意味での“好き”なのかは分からないけどね。俺なんかも、『生きてる価値ないな』って思うことがたまにあるけど、『ひょっとしたら、自分も誰かの始まりになってるかもしれない』って思えたら、なんか頑張って生きなきゃって気持ちにもなれると思うんだよね」

──いつどこで誰にどんな影響を与えてるかなんて、分からないですもんね。

小沢「そういうことだよね。俺も、この間まで寝てばかりの暮らしをしてたからいろいろ思うことも多かったけど、この映画にちょっと元気をもらえた。これから、ご飯食べたり、お風呂入ったり、本を読んだり、もう少し映画を観たり、たり、たり、たり……(笑)」

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クレジット:©2020『君が世界のはじまり』製作委員会

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