清原果耶はなぜ「強い」のか 複数作品から考える #シネピック映画コラム
文=SYO @SyoCinema
さまざまな役柄で見せる確かな芯の強さ
「いま最も勢いのある若手女優」に間違いなく食い込んでくる逸材、清原果耶。人気だけでなく、演技力も傑出した本格派女優だ。
清原は、2002年生まれの現在18歳。中学生の時、芸能事務所主催の新人発掘オーディションで約3 万人の中から選出された彼女は、映画『3月のライオン』2部作('17)やドラマ『透明なゆりかご』('18)の迫真の演技で一気に注目を浴び、いまや新作映画が5本も待機、2021年の“朝ドラヒロイン”にも選ばれるほどの人気女優に急成長を遂げた。
清原の演技を一言で表すなら、清らかで芯の強い“ブレない御神木”。華奢な身体から繰り出される純度の高い感情表現は、ちょっとやそっとの衝撃では倒れないほどに分厚く、観る者の心の拠り所となり、想いを共振させる。9月公開の主演映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』で共演した大女優、桃井かおりをもってして、「孤独な女優」と言わしめた実力の持ち主だ。
前述の『3月のライオン』では、神木隆之介演じるプロ棋士の“生きる理由”となる真っ直ぐなヒロインを、力強く演じ切った清原。この映画では同級生をかばい、いじめの標的となるも、「後悔なんてしない!」と毅然とした態度を貫く(しかし涙を流しながら、というのがグッとくるポイントだ)女子中学生に扮している。『るろうに剣心』シリーズ('12~'21)や『影裏』('20)の名匠、大友啓史監督が認めたオーラは、本物だ。
同作で演じたヒロインが象徴するように、清原には逆境を乗り越えていくキャラクターがよく似合う。そのひとつが、広瀬すずや松岡茉優といった“先輩”たちとかるたクイーンの座を懸けて争う、若き天才かるた選手になりきった『ちはやふる -結び-』('18)だ。
本作は、実写版『ちはやふる』シリーズの第3弾であり、完結編。広瀬が扮する主人公・千早と松岡が演じるかるたクイーン・詩暢の対決が主軸であり、そこに割って入るキャラクターかつ、もう関係性が出来上がっている作品に入っていくのは、どれほどのプレッシャーだっただろう。
しかも輪をかけて困難なのは、彼女の役は映画オリジナルのキャラクター。他の面々と異なり、原作の中にモデルを探すことができないのだ。さらに、新田真剣佑演じる千早の幼なじみ 、新を愚直に想い続ける後輩という設定も足され、試合とは別に、ヒロインとの恋の三角関係にも参戦することになる。さらにさらに、福井弁で話すという試練も課されているが、福井県出身の筆者から見ても違和感がないレベルに仕上げており、清原のパフォーマンスの高さには心底驚かされる。
白眉といえるのは、千早との試合中に「“しの”を取るのは私や!」と激昂するシーン。この“しの”とは「しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで」の札であり、詩暢を象徴するもの。この札にこだわる姿には「自分こそがクイーンを倒す」という確固たる決意が滲んでおり 、その鬼気迫る形相は千早をたじろがせる。清原の“得意札”である「芯の強さ」が前面に押し出された、名場面といえるだろう。
原作ファン的には、映画オリジナル・キャラクターはときとして、受け入れがたいものだ。しかし清原は全身全霊の熱演でその“逆風”を消し去り、キャラクターに説得力と存在意義を与えている。これもまた、彼女の功績として語り継がれていくことだろう。
そして、『新聞記者』('19)で一世を風靡した藤井道人監督との初タッグとなった映画『デイアンドナイト』もまた、彼女の「強さ」を堪能できる一本だ。本作では、約500人の候補者からヒロインに選出されたという。
作品に調和をもたらす圧倒的な存在感
「善と悪は、どこからやってくるのか」がテーマとなった本作は、藤井監督ならではのハイセンスな映像美と、心をえぐるストーリーが融合した骨太な社会派ドラマ。山田孝之がプロデュースに挑戦し、『キングダム』('19)のバジオウ役などで知られる阿部進之介が企画・原案・主演を務めた。
勤務先の不正を内部告発した父が自殺に追い込まれ、世の中に絶望した主人公、明石(阿部)。彼は、偶然知り合った児童養護施設の代表、北村(安藤政信)のもとで働き始めるが、彼が孤児たちを養うために裏稼業に手を染めていることを知る。やがて北村に加担するようになった明石は、自分の中の善悪の境界線が不明瞭になっていき……。
『デイアンドナイト』で清原に与えられた役は、児童養護施設で暮らす少女・奈々。明石と心を通わせる存在で、彼の動向を気にかけつつ、北村の“裏の顔”にも感づいている。さらに、ある過酷な運命が彼女を待ち受けていて……。まぁ、とにかく超が付くほどの難役だ。
主要キャラクターが絞られ、映像の“圧”も強い本作では、軽い演技をすれば作品の調和を乱すことにもなりかねない。何より、個々の善悪の概念が瓦解していくえぐ味を描き出す作品の中で、純粋な“善”として立ち続けられる強度が求められるポジションであり、責任は超重大。しかし、彼女がスクリーンに刻み付けた存在感は、クリエイター陣の期待値を大幅に更新してきたのではないか?と勘繰りたくなるくらいに、無二の輝きを放っている。
なお、清原は本作の主題歌で歌手デビュー(役名の大野奈々名義)も飾っており、RADWIMPSの野田洋次郎が作詞・作曲・プロデュースを手掛けた「気まぐれ雲」を、透き通るような歌声で披露している。
演技派俳優への道を力強く歩み続ける
本作で圧倒的な存在感を見せつけた結果、藤井監督との再タッグ作『宇宙でいちばんあかるい屋根』では、主人公に“昇格”。こちらは中学生のひと夏の成長を見つめたハートフルドラマで、『デイアンドナイト』とは一味違った等身大のみずみずしさを披露している……のだが、相変わらず“泣き”の演技がすさまじい。
こちらでは、これまでを逆手に取った「弱さ」を見せており、精神的に未熟な主人公が、思いを抱えきれずに泣きはらしてしまう場面など、観る者に懐かしい“思春期の痛み”を呼び起こさせることだろう。ちなみに本作でも主題歌「今とあの頃の僕ら」を担当している(こちらはCoccoプロデュース。またまた名曲)。
他の出演作を見ても、横浜流星と共演した『愛唄 約束のナクヒト 』('19)は闘病中の天才詩人を熱演しており、ドラマ『俺の話は長い』('19)では生田斗真、安田顕、小池栄子、原田美枝子といったそうそうたるメンバーを前に、一歩も引かない安定した演技を披露。演技達者でありながらテクニックに溺れず、果敢に役に同調していく清原。複雑な役どころを演じても演技が濁らないのも、彼女の“強さ”だろう。
今後も、堤真一や石田ゆり子と家族を演じた骨太なサスペンスミステリー『望み』(10月公開予定)や、成田凌との共演作『まともじゃないのは君も一緒』(11月公開予定)、佐藤健、阿部寛、林遣都と共演する『護られなかった者たちへ』('20年公開予定)など、演技スキルが必須の話題作が続く。
驚異的な速度で、だが着実に、日本映画界に欠かせない演技派俳優へと歩を進める清原果耶。その足取りもまた、強く頼もしい。
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