俳優、北村匠海の無限の“成長曲線”

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回は映画ライターのSYOさんが、人気ギャグコミックを実写映画化した『とんかつDJアゲ太郎』で、DJを目指すとんかつ店の三代目・揚太郎を演じた北村匠海について、本作と近年の出演作品から紐解くコラムをお届けします。

文=SYO @SyoCinema

 初出演映画『ダイブ!!』('08)で池松壮亮の幼少期を演じてから、13年。俳優として、ミュージシャンとして、北村匠海の“成長曲線”はここ数年、伸び率がすさまじい。2020~2021年にはこれまでに計14本もの実写映画&TVドラマが公開、放送され、最新主演映画『明け方の若者たち』('21)の公開が12月に控えている。今回は、改めて北村の近年の出演映画を振り返り、彼の魅力を掘り下げていきたい。

 青春音楽映画『サヨナラまでの30分』(' 20)では新田真剣佑とW主演を務め、30分間だけ亡くなったバンドマン(新田)が乗り移るという難役に挑戦。「内気⇔快活」の“二重人格”的な演技はもちろん、歌唱シーンではバンド、DISH//のボーカリストとして培ってきた力量を遺憾なく発揮。俳優、ミュージシャンの両方で魅せた。

 『思い、思われ、ふり、ふられ(実写版)』(' 20)では、『君の膵臓をたべたい』('17)で共演した浜辺美波と再び顔を合わせ、成長した姿を見せつけた。『さくら(2020)』('20)では、兄=吉沢亮、妹=小松菜奈という布陣で、控えめな性格の次男坊を好演。北村の特長のひとつに哀愁を帯びた声があるが、本作では主人公としてナレーションも務めており、“声”の演技も光る。

 多くの役柄に挑戦してきた北村だが、本心をなかなか周囲に明かさないようなナイーブな人物を得意としてきた。『君の膵臓をたべたい』や『十二人の死にたい子どもたち』('19)、『君は月夜に光り輝く』('19)などはその系譜であり、『勝手にふるえてろ』('17)のミステリアスなクール・キャラはその発展形といえるだろう。

 ただ、そうしたイメージを払拭(ふっしょく)するキャラクターにも積極的に挑戦しており、例えば柳楽優弥菅田将暉の“狂演”が強い印象を残す『ディストラクション・ベイビーズ』('16)では、倫理観が抜け落ちた不良を怪演。TVドラマ「ゆとりですがなにか」('16)では、キレキャラの大学生をハイテンションで演じており、その幅の広さには驚かされる。

 近作では、さらに“新しさ”を感じさせる。9月11日(土)にWOWOWシネマで初放送となる、『とんかつDJアゲ太郎』('20)もその一つ。「少年ジャンプ+」で連載されていた漫画を“まさかの”実写映画化。北村は、ちょっと冴えないとんかつ屋の三代目の青年がDJに目覚める姿を、コミカルな演技を存分に混ぜて演じ切った。

 音楽映画という点では『サヨナラまでの30分』とも通じるが、あちらがエモーショナルなテイストだったのに対し、本作はカラッと明るく、ギャグ満載。「とんかつもフロアもアゲられる男になる!」と一念発起し、空回りしながらも突き進んでいく主人公をキラキラと演じた北村の新鮮さ&全力のふざけっぷり(そして、クールなDJ姿とのギャップ)は、これまでの作品とは大きく異なっている。

 原作を踏襲したファニーなヘアスタイル、絶妙にハズしたランナー姿、抱腹絶倒のとんかつコスプレ、さらには「えぇ!?」「…うん」といった、いちいち笑いを誘うリアクションの演技など、北村にフォーカスして観てみると、多彩な技を披露していることが分かる。

 また、『アンダードッグ』('20/劇場版・配信版)では、闘争心を前面に押し出した天才ボクサーを熱演。ある種、これまで以上にダーティーな役どころであり、狂気の表情を見せたり、濃密なラブシーンがあったりと、北村の新境地を感じさせる。さらに、現在公開中の『東京リベンジャーズ』では、現代の少年漫画の主人公らしい「泣き虫のヒーロー」を、北村は見事に体現。こちらも新たなる代表作としてますます輝きを増している。 

 幼少期より芸能界で活躍する若きベテランは、11月3日に24歳となる。年齢的にも、まだまだこれから爆発的に高みへと駆け上がっていくことだろう。その時を楽しみに追い掛けていきたい。

SYOさんプロフ20210816~

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