『ドロップ』の監督が『リスタート』で描く道徳性。――品川ヒロシ監督の『リスタート』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?
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『ドロップ』の監督が『リスタート』で描く道徳性。――品川ヒロシ監督の『リスタート』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?

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映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。北海道・下川町を舞台に、失敗のドン底から立ち直ろうとする女性の姿を描いた品川ヒロシ監督作品『リスタート』('21)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

(※初回放送 5/8(日)後11:15、以降リピート放送あり)

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回は、品川庄司品川祐さんの監督作品『リスタート』ですが、品川ヒロシ監督の映画はこれまでの作品もご覧になってましたか?

小沢一敬(以下、小沢)「うん、ほぼ観てるし、どれも好きな作品ばっかり。この『リスタート』も映画館で観たし。俺はさ、監督を目当てで映画を観ることはあまりないんだよ。北野武さんとか松本人志さんの作品は別としてね。そういう中で、品川君の映画だけは、『品川監督が何かを撮るなら観よう』って、いつも思ってるの」

──それだけ好きな映画監督のひとりだと。

小沢「そうだね。今までの品川監督の映画は、わりと『(クエンティン・)タランティーノ的な手法』とかって言われることが多かったんだよ。小ネタの使い方とか、伏線回収のやり方とかが。だけど俺は、品川監督は“タランティーノ型”ではなく“ガイ・リッチー型”の監督だと思っていて。これは本人にも一度言ったことがあるんだ。そうしたら実際、本人もガイ・リッチーが好きみたいでさ。俺はガイ・リッチーの映画もすごい好きだから、品川監督の映画が好きなのもだからかって思った。さっき『監督を目当てで映画は観ない』って言ったばっかりだけど(笑)」

──ただ、今回の『リスタート』は、その“ガイ・リッチー型”からは少し外れた作品ですよね。

小沢「そうだね。今までの『ドロップ』('09)とか『漫才ギャング』('11)は、ある意味、週刊ヤングマガジンみたいな高校生が読むような漫画雑誌的な映画だったと思うんだ。『サンブンノイチ』('14)とか『Zアイランド』('15)は、ヤングマガジンよりも少し上の、大学生向けぐらいかな。だけど、今回の『リスタート』は、今の時代の小学生の道徳の教科書に載っててもいいような作品だったよね。これは、子供向けとかっていう意味じゃなくて。小学生のうちからでも知っておいた方がいいことを、とてもうまく描いてる映画だな、って感じた」

──そうですね。決して道徳的な映画というわけではないけど、結果的に、そういうことをきちんと伝えてくれるというか。

小沢「そう。今の時代を生きる上でみんなが知っておかなきゃいけないこと、例えばSNSとの上手な付き合い方とか、リアルな人間関係での他人との付き合い方、後は自分の夢との付き合い方とか、そういう世の中の根元というか、みんなが知ってて当然なのに、忘れがちなことを。SNSで他人のことを誹謗ひぼう中傷したりとかさ、『そんなことして、なんの意味あんの?』って思ってるのに、それでもやっちゃう人が多い今の世の中だからこそ、特に知っておくべきことというか。『リスタート』っていうタイトルの意味もそういうことだと思うし。失敗なんか何回してもいいし、何度でもやり直せばいいんだけど、そういう当たり前のことを受け入れられない土壌が、今の時代には増えてきてるからね」

──それって、この連載の中で小沢さんがいつも語ってきたことでもありますよね。

小沢「うん。ただ、この映画は、そういうことをひたすら真面目に描いてるお堅い映画ってわけじゃなくて、普通に面白いし、ちゃんと感動できる作品だからね。俺が好きなセリフもたくさんあったし。例えば、車の中で『今日も私のTwitterは燃えてま~す』って言う場面があったじゃん」

北海道下川町で育った未央(EMILY)は、シンガー・ソングライターを夢見て上京。しかし、不本意ながら売れない地下アイドルとして活動していた。ある日、意図せず起きた有名アーティストとのスキャンダルによって、世間からのバッシングを受けることに。思い描いていた夢に破れ、傷つき、故郷に帰ってきた未央だったが、家族や友人にもうまく接することができずにいた。そんな中、元同級生の大輝(SWAY)は、未央を思い出の場所へと連れ出す。自然豊かな景色とその優しさに癒やされ、未央はゆっくりと前を向き始める。

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──大輝が未央を車で連れ出すシーンで、未央がスマホを見ながら自虐的に言うセリフですね。

小沢「あのとき、大輝が『見なきゃいいじゃん』って言うんだよ。未央は『ここには、私がかなえられなかった夢の残骸があるような気がしてさ』って言うんだけど、大輝は『顔も知らねえやつに何言われたって関係ねえだろ。目の前にいる人間がすべてだろ』って。俺もこれ、ホントにいつも思っててさ。よく『Twitterが炎上してる』とか『エゴサーチして傷ついた』って言うやつがいるんだけど、炎上してるとか悪口書かれてるとかって、ネットを見てるやつらだけが知ってる話だから。世の中にはネットを見てない人だってたくさんいるのに、それを自分から見に行くなんて、そんなの、わざわざ熱湯風呂を探してやけどしに行ってるようなもんじゃん(笑)。普通に、気持ちのいい温度のお風呂に入ればいいのに、わざと熱湯風呂に入って『わー、熱い熱い!』って言ってるのと同じだろって」

──本当にそう思いますね。毎日Twitterを見てたって気づかないような炎上騒動も多いのに。

小沢「そうだよね。今はさ、『あの人、実は○○なんです!』とかってあおるユーチューバーとかもはやりだけどさ、そういう人の言うことは信じるくせに、言われた方の人が否定しても、それは信じないんだよね。例えば、俺を批判するようなネット記事が出たとして、その記事を見た人に俺が『いやいや、あんなのウソだから』って言ったとしても、『でも、記事に書いてあったから』って言われちゃう。なんで目の前にいる人間の言葉を信じないで、誰が書いたか分かんない記事の方を信じるの? って、いつも思うんだよ。だから、この『目の前にいる人間がすべてだろ』ってセリフには、すごく共感したんだ」

──人間って、誰にでも裏の顔があって、その裏の顔の方が本当の顔だって信じたくなる心理みたいなのがあるんでしょうね。

小沢「そうなのかもしれないね。焼き肉屋の場面で、主人公たちのグループに小杉(竜一)が演じた中年おやじが絡んできたとき、未央が『おまえらの毎日がつまらねえからって、きたねえ感情ぶつけてくんじゃねえよ、クソが!』って叫ぶんだけど、これも俺は同じようなことをいつも思ってて。人の噂話とか炎上とかを楽しむ人って、毎日が暇なんだろうなって。例えば、自分にやりたい夢があったり、頑張ってる仕事があったりして、それに夢中になってる人は、人のことをとやかく言ってる暇なんてないと思うんだよね」

──悪口のためだけに、わざわざ捨てアカウントを作って書き込む人もいるみたいですからね。

小沢「ああいうのは、何なんだろうね。ああいうことをやってる瞬間だけ、暇でつまらない日常から解放されて、正義のムーブメントに参加してる意識みたいなものを得られるのかね。俺にはちょっと理解できないことだけど」

──でも、その辺りのことも、きっと品川監督が今回の映画で伝えたかったテーマの一つだったかもしれませんね。

小沢「あとさ、俺が好きだったのは、未央のお父さん(中野英雄)が何度も口癖のように言うセリフ。『俺が昔、五反田でサラリーマンやってたときは、空なんか見上げなかったけど、下川に帰ってきたら、空見上げるもんね、星がきれいだから』ってやつ。最近、ちょっと考えてたことがあってさ。世の中ではテレビや映画に出てる人たちのことをスターって呼ぶでしょ。スター、つまり星だよね。あれはもちろん、手が届かないからスターだし、輝いてるからスターなんだけどさ、そのスターたちの活躍って、テレビでも映画でも収録されるじゃん。で、それが視聴者の目に届くときには、収録からはだいぶ時間がたってる。それって実際の星の輝きと一緒なんだよね。今、われわれの目に見えてる星の輝きは、実は何千年、何万年前のもの。テレビや映画で見るスターたちの姿も、実は何週間とか何カ月前のもの。そういうところも、あのスターっていう言葉にはかかってるんだなって思ったの」

──すごいロマンチックな理論ですね、それ。だから本当のスターと呼ばれる人たちの姿は、何十年たっても色あせないんですね。輝きが強いから。

小沢「うん。このお父さんのセリフも、そこにちょうどリンクしてる気がしてさ。東京だと、本当のスターだけしか見つけてもらえなくて、未央のような小さなスターは街の明かりに負けて見えなくなっちゃう。だけど、田舎の夜空は暗くて星がよく見えるから、そんな小さなスターでも簡単に目立っちゃうという。なんか、そのへんがこの映画のストーリーにもうまく当てはまってる…というか、まあ、俺が勝手にそう思っただけなんだけど(笑)」

──では、そんな中から、今回も小沢さんが一番シビれた名セリフを一つ選んでいただきたいのですが。

小沢「今まで話した他にも、好きなセリフはたくさんあったのよ。いいセリフの多い映画だったと思うから。いいことを言ってる、いろんな場面で。ただ、俺が今回選びたいセリフは、そういういいセリフじゃないの。というか、そもそもセリフじゃない」

──セリフじゃない?

小沢「うん。俺が今回選びたいのは、この映画の主題歌の歌詞」

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──なるほど。主演のEMILYさんが所属するフォーク・デュオ、HONEBONEが作詞・作曲した主題歌「リスタート」の歌詞ですね。

小沢「あれは歌なんだけど、主人公の未央のセリフでもあったと思うんだ。セリフというのが登場人物の心の声だとするなら、あの歌こそがこの映画の一番の名セリフだったんじゃないかな」

──すごくいい歌でしたもんね。ものすごく歌もうまいし。

小沢「いい歌だったよね。歌詞のどこの部分っていうよりも、歌詞のすべてが名セリフだったと思うな。リスタートっていう言葉自体が、今の時代にはピッタリだし。だから、セリフとしては超長セリフになっちゃうから、ここにはすべて載せられないだろうけど。どんないい長セリフなのかは、映画の中で彼女が歌うのを聴きながら、それぞれ確かめてほしいね」

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クレジット:(C)吉本興業

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