気になる本はありますか?「ノマドランド」とセットで読みたい本4選!
10月の番組テーマは「ノマドランド」
第93回アカデミー賞で作品賞、監督賞、フランシス・マクドーマンドに対する主演女優賞という3部門を制覇し、第77回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、要注目の秀作「ノマドランド」。
今回、ブッククラブ部長の幅さんが番組をより楽しんでいただくための4冊の本をセレクトしました。
1冊目:ノマド 漂流する高齢労働者たち
ジェシカ・ブルーダー (著)
鈴木素子(訳)
春秋社
ニューヨークタイムズ紙を中心に、ジャーナリストとして活躍してきたジェシカ・ブルーダーさんが、自ら3年に及ぶキャンピングカー生活を敢行し、リアリティ溢れるワーキャンパーの実態へと肉薄したノンフィクション作品です。
近年増加傾向にある年配キャンパーの存在は、一見するとリタイア組が余暇を楽しんでいるようにも映ります。
しかしその実情は異なり、リーマンショックの影響によって、老後の蓄えを失ってしまったアメリカの老人たちが、定年を超えても夏はキャンプ場で、冬は倉庫従業員として働かざるを得ず、定住することもままならない環境へと追いやられているのでした。
空腹とガソリンタンクを満たすためだけに苦しい仕事を強いられる中で、それでもワーキャンパーたちは生き延びること以上の何かを求め続けます。
絶え間なく移動することから得られる経験の尊さを強く訴え、緩やかに人とつながり続ける様子は、都市に生きる人間が時に羨ましく思う豊かさが感じられるところです。
高度に複雑化したアメリカの経済システムの枠から外れ、彼らが車を停めている場所にこそ、アメリカ人が求めてきた自由があるのではないか。そんな明るい展望を、ワーキャンパーたちの逞しいライフスタイルから見出せるのではないでしょうか。
アメリカ社会の暗く、切迫した窮状をテーマとして扱っている一方、予想外に爽やかな読後感があるというギャップは、映画「ノマドランド」にも新しい視点を与えてくれそうです。
2冊目:VAN LIFE ユア ホーム オン・ザ・ロード
フォスター・ハンティントン (著)
樋田まほ(訳)
トゥーヴァージンズ
写真家であるフォスター・ハンティントンさんが、アメリカ国内外のバン生活をまとめた写真集です。
オフィスで過ごす窮屈な毎日に耐えかね、ずっと憧れていた、バンに乗っての路上生活を始めたことをきっかけに、写真を通じて日々の生活や、バン仲間との交流の様子を伝えた一冊となっています。
「ノマドランド」では高齢のワーキャンパーに焦点を当てていましたが、こちらではもう少し年齢層が若く、自発的にバン生活を楽しむ人たちが登場する点で対照的です。
バンに乗っての生活の、前向きな部分をもっと掘り下げて欲しかった、という人にはぜひお勧めしたい一冊と言えます。
彼らのライフスタイルもさることながら、本書では生活の要となる「ギアとしてのバン」にも多くのスポットライトが当たります。
ハンティントンさんも含め、バン生活を送る人たちのバンに対する想いは並々ならぬもので、我が子のように愛情ほとばしる様子が写真やテキストからうかがえます。
わざわざバンの中に薪ストーブを搭載してしまったキャンパーなど、愛車のカスタマイズについて多くのページを割き、彼らが日々の暮らしに、どのような快適性を求めているのかも垣間見えるのが面白いところです。
先入観に囚われない、自分にとっての未知の世界を追い求め、それでいて楽しく過ごし続けるバン生活者たちの開拓者精神が、本書からはひしひしと感じられます。
3冊目:リーマン ショック コンフィデンシャル
アンドリュー・ロス・ソーキン(著)
加賀山卓朗(訳)
早川書房
世界経済に多大な影響を与えたリーマンショックの背景に迫った、上下巻構成のノンフィクション作品です。
歴史に残る金融危機の当事者達、いわゆる経営者や政府職員、会計士などおよそ200人にインタビューを実施し、とても実名では話せないような事件の裏話について触れられるなど、直接関わりの少ない日本人にとっても読み応えのあるストーリーが揃います。
世界最強の金融システムを豪語し、その権威を振りかざしていたウォール街の巨人達は、わずか数ヶ月にしてその力を瞬く間に失っていきました。
当事者達は未曾有の危機を乗り越えるため、互いに突き放し合うばかりか、あまつさえ徹底した保身を貫いたわけですが、最後まで互いに手を取り合うことはせず、競争社会の中で果てていった姿には、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のような物語性を感じずにはいられません。
現代の金融システムに対して、過剰な自信を抱いていたアメリカ経済の過去を振り返る本書は、史上最悪の金融危機を予見できなかったことへの反省を促します。
「ノマドランド」に登場するワーキャンパーたちを生み出した根源的な背景に、どんな競争社会と経済状況が潜んでいたのかを明らかにしてくれる一冊です。
4冊目:静寂とは
アーリング・カッゲ(著)
田村義進(訳)
辰巳出版
「ノマドランド」のワーキャンパーのように、生活を必要に合わせてシンプルで潔く洗練させていくと、内面と向き合う時間をしっかりと確保できるゆとりも生まれてくるものです。
ノルウェーの著名な冒険家である、アーリング・カッゲさんが記したこちらの本は、自身が日々忙しく過ごしている都市での生活と、自然の中で過ごしている時に感じる静寂の落差を紐解くべく書かれたエッセイ作品です。
静かな時間を求めて喧騒を離れたいと考えている人にとっては、実り豊かな一冊となるのではないでしょうか。
本書は、日々私たちが感じている「静けさ」の多様性へ注目することから始まります。
静寂には複数の種類があるのではという点に着目し、静けさとは何か、それはどこにあるのか、そしてなぜそれが必要なのかを、著者本人の経験と紐付けながら紹介してくれます。
日常的に情報を浴び続けることで、わずかな時間の静けさや沈黙に耐えられない一方、大自然の中で静寂を味わうことも求める現代人のわがままな側面とどう向き合えば良いのかについて、多くのヒントを与えてくれる作品です。
静寂という、誰もが持ち合わせているはずの余白に対する気づきを与え、世の中の複雑さを乗り越えるきっかけを得られます。
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先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。