岡田准一の突出した身体能力と滲み出るカリスマ性。『燃えよ剣(2021)』で土方歳三に成り切った“凄み”を紐解く。

映画ライターSYOさんによる連載「 #やさしい映画論 」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。『関ヶ原』('17)に続いて原田眞人監督とタッグを組んだ『燃えよ剣(2021)』で「鬼」と呼ばれた土方歳三の半生を体現した岡田准一の“すごみ”を紐解きます。

文=SYO @SyoCinema

 俳優・岡田准一について考えるとき、「達人」「師範」という言葉が思い浮かぶ。その大きな要因は、彼の突出した身体能力によるものだ。彼が魅せるアクションは他の追随を許さない。

 いわゆる「動ける俳優」は数多いが、岡田の場合は第一に「すべて自分でこなせる」。“最強”と呼ばれた殺し屋に扮した「ザ・ファブル」シリーズ(’19、’21)の撮影で、スタント・チームが苦労したアクションを、本人がさらりと成し遂げてしまったのはよく知られた話。それもそのはず、同シリーズではファイト・コレオグラファー(殺陣の振付師)も兼任しており、崩れ落ちる団地の足場を疾走するシーンをはじめ、見る者の度肝を抜く超絶アクションの数々を具現化してきた。また、『ヘルドッグス』(’22)では格闘デザインを兼任するなど、作品における「アクションをつかさどる」存在――まさに「師範」と呼ぶにふさわしい活躍を見せる。

 そして第二に、岡田のアクションは「型にはまらない」。より正確に言うなら「型が多すぎて絞れない=できないアクションがない」。「SP 警視庁警備部警護課第四係」シリーズ(’07~’11)では護身術「カリ」や「ジークンドー」を使いこなし(岡田は実際にジークンドー、USA修斗、カリのインストラクターの資格を取得している)、『ザ・ファブル』では『96時間/リベンジ』(’12)などで知られるファイト・コレオグラファー、アラン・フィグラルツと協働。「魅せる」アクションから「実戦形式」まで、手数が多過ぎるのだ。

 だが、「達人」や「師範」の名を冠するには身体能力だけでは不十分。「心・技・体」ではないが、内面から滲み出るオーラ――いわばカリスマ性が必要となる。その点、つまり“心”においても、俳優・岡田准一は“体”に引けを取らない。

 動と静によらず『東京タワー』(’04)、『おと・な・り』(’09)、『永遠の0』(’13)のように繊細な内面の演技が求められる人間ドラマやラブ・ストーリーで主演を務めて物語を牽引し、『海賊とよばれた男』(’16)では青年期から老年期まで主人公の生涯をひとりで演じるという離れ業を披露。「木更津キャッツアイ」シリーズ(’02~’06)は彼の代表作の一つといえるし、異色ホラー『来る』(’18)では新たな魅力を披露した。

そ して是枝裕和監督と組んだ『花よりもなほ』(’06)では切った張ったが“ない”時代劇に挑戦し、やがて『蜩ノ記』(’13)、『散り椿』(’18)といった作品群でいぶし銀の存在感すら放つように。その先に生まれたのが、多くの作品をともに作り出してきた原田眞人監督と組み、『関ヶ原』(’17)に続いて司馬遼太郎の世界に挑んだ『燃えよ剣(2021)』だ。

 本作で岡田が演じたのは「鬼の副長」と恐れられる新選組副長・土方歳三。土方自体も時代を問わず人気を誇る偉人であり、原作は「るろうに剣心」の原作者・和月伸宏をはじめ多くのクリエイターに影響を与えたベストセラー。さぞかし重圧があったのではないかと察するが、岡田の堂々たる存在感が画面に映し出されるや、ある種の杞憂きゆうは安心へと変わる。「師範」としての分厚さが、びりびりと伝わってくるのだ。

 その“分厚さ”は、体幹の強さにも似ている。ブレない軸があるからこそ硬軟を問わない“揺れ”を見せられるわけだが、岡田の場合は性格という横移動だけでなく“年齢”という上下動もものにしてみせる。岡田の特長として「ひとりの人間の老いも若きも演じられる」があるが、本作はそうした“武器”が存分に活かされているのだ。

 百姓の出身で手が付けられない悪童“バラガキ”だった土方が、近藤勇(鈴木亮平)や沖田総司(山田涼介)といった仲間とともに国の命運を左右する立場へとのし上がっていく――。そのプロセスを違和感なく見せていくためには、まだまだ未熟な青年期がハマる人材でなければならない。その点、岡田が持つ若々しさは最適だ。本作は土方が過去を回想するシーンから始まるのだが、「要人になった今」と「何者でもなかった過去」が交互に展開してもスッと受け入れられるどころか、むしろその“差”に驚かされる。

 また、原田作品の特徴でもあるセリフの文量の多さ&スピード感にも注目したい。いわゆる「言い立て」的なまとまったセリフをハイスピードで述べる方法論は、丁々発止のテンポ感や情報を圧縮するタイムパフォーマンスがある一方で、観客においてはすべてのセリフを逐一インプットするのは困難になる。特に時代劇であれば当時の言い回しや固有名詞も飛び交い、ともすれば初見では置いていかれてしまう観客もいるだろう(もちろん、それでも問題ないようにしっかりと構成されている)。

 そういった中で観客がよりどころとするのが、役者たちの表情や立ち振る舞い。彼らの顔を見ていれば切迫具合が見て取れるし、逆に「言わない/言えない」ことで胸に秘めた想いが引き立てられる。そうした意味でも、岡田のセリフにとどまらない「身体的な雄弁さ」が効いている。はやりものが嫌いで孤高の存在だった土方は時に寡黙だが、彼が何を思っているかは一目瞭然なのだ。

 冒頭に述べたアクション部分の“圧”も言わずもがなで、武術「天然理心流」の使い手である土方をみごとに体現している。流麗な剣術というより喧嘩けんか殺法的な「斬る・蹴る・殴る」が一体化しており、隙を見せればどこからでも攻撃が飛んでくるというまさにバラガキのレガシーを感じる内容だ。劇場公開時の岡田のインタビューを参照すると、天然理心流を学んだ上で土方のスタイルに合うようにアレンジを加えたそうで、求道者としての一面にも惚れぼれさせられる。

 現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」では織田信長を演じており、5月19日(金)には綾野剛と壮絶なバトルを演じる『最後まで行く』(’23)が劇場公開される岡田准一。“技”の数と練度が年々増していく彼の“すごみ”は、今年もさらに増していくことだろう。

※2月21日追記:
お客さまからのご指摘を受けまして「師範代」を「師範」に修正いたしました。
ここに訂正してお詫び申し上げます。

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クレジット:©2021「燃えよ剣」製作委員会

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