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脚本は削り落とす仕事、監督は膨らませる仕事。「西村純二×押井守」対談インタビュー|火狩りの王

“火”をテーマに、人類最終戦争後の世界で生きる子供たちの姿を描いた日向理恵子による長編ファンタジー小説「火狩りの王」を、WOWOWオリジナルアニメとしてTVアニメ化。2023年1月14日(土)後10:30より放送を開始する。スタッフには、監督:西村純二、構成・脚本:押井守、音楽:川井憲次、音響監督:若林和弘といった、日本を代表する一流クリエイターが顔をそろえた。放送に先駆け、西村純二と押井守の2人に、作品に込めた思いを伺った。

取材・文=中村実香

2023年1月14日(土)後10:30スタート WOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」

日本が舞台のファンタジーだからこそ、リアルな世界観を大切に

――まずは、「火狩りの王」の仕事について、それぞれご感想をお聞かせください。

西村純二(以下、西村)「この『火狩りの王』は、日本が舞台のファンタジーだということが重要な点だと思っています。基本的にこの作品を見る方の多くが、日本をよく知っている日本人だと思うんですよね。例えば自分の場合、魔法が出てくるようなまったく架空の世界が舞台の作品だったら、歴史的な背景など細部が分からなくても、楽しく見ることができる。でも、“文明が滅びた後の日本”という、現在の日本から様変わりした世界を舞台にしている作品だとそうはいきません。視聴者の皆さんに、いかに作品の世界観がリアルに伝わるかを考えながら、キャラクターの心理描写や行動の規範など、原作の日向先生が作り上げた物語の世界を映像作品に落とし込んでいかないといけない」

押井守(以下、押井)「『火狩りの王』の原作を読んでみてほしいんだけど、と話が来たのが最初です。それで読んでみて、“あ、これはちゃんとした仕事をしなきゃいけないんだ”と思った。ちゃんとした仕事じゃなかったら断ろうと思っていたので(笑)。原作を読んだら、アニメ化するに当たっていくつか乗り越えるべき課題があることが分かりました。だからこそ、これは頑張ってみる値打ちのある仕事になるなと思ったんです。そういう仕事の方が、結果として後に残る作品になるかもしれないしね。僕がやってきた仕事は、全部残ってるわけではないし、そもそも全部残すべきだという傲慢な思いもない。ただ、“残る作品”を決めるのは誰だろうということは、いつも考えてはいるんですよ。『残すべき作品を誰が決めるんだ』って。それは評論家でもなければ、例えばフィルムセンターの理事でもなければ、もっといえば今のお客さんでもない。時代が決めるんだと思っています。

押井守(構成・脚本)

“無理なものは無理”を明快にするのが脚本の仕事

 “ちゃんとした仕事”とは何かというと、キャラクターを誠実に描くことだと思っています。“この子はこんなことを言うだろうか?”とか、“この子って絶対こういうことしないよね”とか、そういったことを一つ一つ考えて描いていくことが、ちゃんとしたお話、ちゃんとした仕事になると思う。要は、真面目にやろうぜってことなんです。この前、西村君と一緒にやった『ぶらどらぶ』みたいに、“大バカやることがテーマです”みたいな作品でも真面目にやってますけど。『火狩りの王』みたいな真面目な作品でも真面目にやろうねって。当たり前のことを当たり前にやる。その結果として、この『火狩りの王』という作品が“残る作品”になるかもしれませんしね。10年、20年たった時に、“ああ、こんな作品あったね”“もう一回見たいな”と、そうなればいい。

 僕たちは職業監督だから、作品を世に送り出すとしても、さまざまな人たちの要望も入れているんですよね。お客さんの願望も引き受けて、もちろん原作者の方の思いも託されている。とはいえ、何でもかんでも背負えないんですよ!(笑) 作っていく過程で、足したり引いたりしてなんとかやっていくのが、私たちの仕事。いろいろな思いを背負って仕事をするのが私たちの宿命とはいえ、全部は無理。無理なものは無理なんだよ(笑)。僕が『火狩りの王』で今回担当した仕事は、その“無理なものは無理”を明快にすることでした。脚本とはそういう仕事だから。結局削り落とす仕事なんですよ、脚本って。せつないですけどね。それを膨らませるのが監督の仕事。私は骨格を作ったんであって、肉を付けて魅力のあるものにするのは監督の仕事。だから、僕的には“やれることは全部やったぜ”という気持ちですね。“とりあえず枠の中に物語は収めたから、後は西村君、頑張ってね”としか言いようがない。今回、僕は義務を果たした!(笑)」

西村「(爆笑)」

アニメの業界にはよく分からない底力があって、何か捻り出してくるのがすごい

――昨今の日本のTVアニメについて、どのようなご感想をお持ちですか?

押井「“今のアニメファン”の特性の一つとして、“覇権アニメ”を語るファンがいたり、“その場その場で楽しみたい”ファン、“原作が好きだから原作から1ミリも変えるな”というファンがいたりする。そうすると、頑張ってアニメーションを作っている我々としては、“何のために作っているんだろう?”とふと思ってしまう時がある。仕事として割り切っている人たちもいるだろうけど、私らは古い人間だから、割り切れないんですよね。“その場その場”“原作から1ミリも変えない”とか、そういうことを目指して今まで仕事してこなかったから。自分が作ったもので世の中を変えたいといった、大げさなことは思っていませんが、見た人に何がしかの思いを届けたいと思って作っている。それは、『火狩りの王』の作者である日向理恵子先生が小説を書かれているのとまったく同じ理由だと思っています。僕は今も昔もそれしかないですね」

西村「僕は、今の状況は面白く見ていますね。『今日から㋮王!』(※編集部注:水洗トイレから流されて第27代魔王に就任した男子高校生が主人公のアニメ)を監督した身としては、最近、異世界転生物がアニメ界を席巻している状況を気に入ってまして。というのも、演出側からすると、異世界転生物の作品の数が多くなるとどんどん大変になっていくはずなんですよ。視聴者の皆さんは“同じものがまた出てきた!”と思うかもしれませんが、作り手はそうじゃない。毎回、何か違うもの、何か新しいものをやろうとしているはずなんです。ですが、ここが面白いところで、似たような設定や世界観の作品が増えて、“もうこれ以上、新しいものは出ない”となっても、不思議とポンっと新しい切り口の作品が登場するもんなんですよね。漫画やライトノベル、アニメの業界って、なんだかよく分からない底力があって、切羽詰まると何か捻り出してくるんです。それがすごく面白い。ですので、今、流行りの異世界転生物についても近い印象を持ってます。ドジョウが何匹もいて…みたいな状況の果てに、もしかすると何か面白いものが出てくるかも? と期待させる空気がある。僕は、今は今で、面白く見ていますね(笑)」

西村純二監督

WOWOWでなければ多分できなかった「火狩りの王」を大事に見てほしい

――WOWOWチャンネルに抱いている思いがありましたらお聞かせください。

西村「無料の地上波はでありませんし、“茨の道を歩んでいるところだな”と思っています(笑)。『ドラマW』シリーズも、立ち上がってから何年もたち、どんどん面白くなっている印象があります。独自路線を貫こうとしているチャンネルだと思っています」

押井「私自身、WOWOWの開局当初からの視聴者で、大変お世話になっております。特に昨今は、チャンピオンズリーグを放送してくれてありがとう(笑)。やっぱりWOWOWさんじゃないとできないことがあると思っています。今回の『火狩りの王』も、WOWOWさんじゃなければ多分できなかった。毎月お金を払って見るチャンネルだからこそ、視聴者の皆さんには『火狩りの王』を大事に見てほしいですね」

クレジット:(C)日向理恵子・ほるぷ出版/WOWOW

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