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【小山薫堂:インタビュー】映画を“言葉”として綴る面白さと、飾らないトークが共感を呼ぶ番組について語ってもらった。

毎週日曜 後9:00から、“今、もっとも観てほしい映画との出会い”をお届けしている「W座からの招待状」。毎回、小山薫堂が文章を書き、イラストレーターの信濃八太郎が絵を添えて映画を紹介し、作品放送の前後には2人でトークを繰り広げる。番組の放送開始から12年間出演し続けてきた、小山薫堂のスペシャル・インタビューをお届けする。
※本コラムは、WOWOWプログラムガイド2月号掲載のインタビュー「あなたにつなぐ、シネマ」の完全版となります。

取材・文=小田慶子

「友達と映画を観に行った帰りのような、自由な雰囲気を意識しています」

 エンターテインメントのみならず、さまざまな分野で企画やプロデュースを行なうなど、多才ぶりを発揮している小山薫堂が映画について言葉を綴る「W座からの招待状」。小山の文章に絵を添えるイラストレーターが安西水丸、長友啓典、そして現在の信濃八太郎と代替わりしつつ、12年続いてきた番組だ。

小山「もう12年経ったなんて信じられない。始めた頃は、こんなに長くやると思いませんでしたから、不思議です。長く続いてきた理由は…分かりません(笑)。逆に僕がWOWOWさんに聞いてみたいくらいですね」

 穏やかな口調でそう語る小山。番組でさまざまな作品を紹介していく中で気付いたこと・芽生えたものがあるのだとか。

小山「毎月、4本の映画を観て文章にするのは大変なときもあります。特に自分が作品づくりを行なっているときは、ほかの作品を観て考える余裕があまりないことも。でもそれでも12年間ずっと続けてこられて、さまざまな作品を通して、『こういう手法があるんだ』『こんな後味っていいな』と気付きがありました。この番組を通して、自分の中に芽生えたものは確実にありますね」

 第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作『おくりびと』('08)の脚本を手掛け、2023年2月には最新作『湯道』(脚本担当)も控えている。「W座からの招待状」で年間50本近くの映画を文章で表現してきたことは、執筆活動に影響を与えたのだろうか。

小山「放送される作品を通して、映画を客観的に観られますね。作り手として、展開に起伏を付けなきゃと思うこともあるんですが、強引に面白くするような、いわゆるケミカルな物語は良くないと前より強く感じるようになりました。つまり“ナチュラルさ”を求めることと、見る人を楽しませたいという、せめぎ合いですね。退屈なものにしちゃいけないけど、やり過ぎてもいけない。その中間ぐらいのものづくりを意識するようになりました」

 過去の番組内で小山は、女子高校生が幼い頃に別れた父親とひと夏を過ごす『子供はわかってあげない』('21/WOWOWオンデマンドで2月19日(日)まで配信中)を観て「青春は(春と書くけれど)夏の匂いがする」と“招待状”に書いて表現した。

小山「映画をどう翻訳するかということよりも、鑑賞して自分の中にひらめいた言葉、降りてきた言葉を探します。インスピレーションを言語化するという感じですね。以前、視聴者の皆さんにも“招待状”を書いてもらう企画をやったことがあります。他人の文章と自分の文章は全然違うので、比較してみると『なるほど、こういうふうに感じる人がいるんだ』と思えて面白いですね。ある意味、率直な感想や批評を書くよりもいい趣味になるんじゃないかな」

 映画から受け取ったものを“招待状”という形で文章にし、信濃とのトークでは飾らない言葉で視聴者と感覚を共有する。番組の収録には自然体だが、確固たるスタイルを持って臨んでいるという。

小山「僕自身も作り手として、映画を制作した人の気持ちを考えながら言葉を選んでいますね。生みの苦しみや物語を着地させるまでの難しさは分かっているつもりなので。一方で、信濃さんとのトークでは、普段映画を観に行った帰りに友達同士で話すときのような雰囲気に見えたらいいなと思っています。映画から話が広がることってあるじゃないですか。先日の収録でも、10代の頃、松山千春さんのお父さんにファンレターを送ったこととか、ミッション・スクールに通っていた彼女がいたとか、そういう話をしました(笑)。僕たちは評論家ではないので、あえて映画から離れたことを話すのは自然だと思います」

「“W座”は、自分の好きが見つかる“シェフのお任せコース”みたいなもの」

 2月の「W座からの招待状」のラインナップ作品は『太陽とボレロ』('22)、『リコリス・ピザ』('21)『エルヴィス』('22)『メタモルフォーゼの緑側』('22)の4本。その中で特に注目している作品とは?

小山「ポール・トーマス・アンダーソン監督の『リコリス・ピザ』は楽しみですね。監督の過去作品『マグノリア』('99)、『ザ・マスター』('12)を観ていて、気になる監督のひとりなので。実は過去に『W座からの招待状』で紹介した『ザ・マスター』は、亡くなった安西水丸さんと最後に番組収録をした時の作品でした。懐かしいけれど、まるで昨日のことのようでもあります」

 最近の印象的だった作品としては、番組内で1月に紹介したドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』('22)を挙げる。映像作家の信友直子監督が老々介護をしている両親の姿を映し出した作品の続編で、認知症になった母を98歳の父が献身的に支える姿が印象的だ。

小山「信友監督が老夫婦の姿を、娘じゃないと撮れない部分まで撮っています。娘だからこそ、ご両親も素の姿を見せることができるのでしょうし、自分の親だからといって美化して撮ろうとしていない、監督の気概を感じられますね。両親にしっかり向き合い愛情をもって接しているまなざしが温かく、すごくいい作品です。見た人が、自分の親への思いと重ねるきっかけとなるようなメッセージ性があり、親孝行したくなると思います。僕も自分の親のことを重ねながら観ました」

 毎週日曜の夜、週末が終わりを迎えようとするタイミングに、映画とじっくり触れ合う時間。「W座からの招待状」を、視聴者の方々にはどんなふうに楽しんでほしいと考えているのだろうか。

小山「映画を観て文章にするのは難しいときもあると言いましたが、この番組内で取り上げる作品には、自分の血となり骨となるような映画が多いんです。例えば動画配信サービスでは、つい自分の好きなジャンルの作品を観ることが多くなり、選ぶ映画の傾向が似通ってくるじゃないですか。『W座からの招待状』という番組は、例えると“シェフのお任せコース”みたいなもので、料理が出てきたとき、ちょっと苦手かなと思っても、食べてみたらおいしかったと発見できる。そんなふうに厳選された作品に触れることで、世界が広がるきっかけになると思います。それが、WOWOWの映画の良さですよね。だからもしかすると、たまには好みから外れる“シェフのお任せ”もあるかもしれませんが、それも含めて映画との出会いを楽しんでほしいです」

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