吉川晃司と布袋寅泰のユニット、COMPLEX。能登半島地震の復興・復旧のために再び「日本一心」を掲げた彼らが、10万人の同志たちと共に音楽で心をひとつにした東京ドーム2DAYS
1988年12月に突如結成が発表されたユニット、COMPLEX。吉川晃司と布袋寅泰という類まれなふたつの個性は、眩い煌めきを放ちながら時に融合し時に激しくぶつかり合い、わずか2年弱で活動を停止した。21年の歳月を経た2011年7月30、31日。東日本大震災復興支援を目的として、彼らは東京ドームでチャリティ公演を開催。それは「自分たちに今出来ることは何か」を考え抜き、覚悟を決めた行動だった。
あれから13年。今年1月1日に起きた令和6年能登半島地震を受けて、彼らは再び「日本一心」を掲げ、5月15、16日に同地でチャリティライブを行った。2日間計10万人の大観衆で埋まった東京ドーム。場内が騒然とした空気に包まれる中、スクリーンに「20240515-16」「日本一心」「COMPLEX」という文字が浮かび上がる。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」と共に過去のライブ映像が紡がれ、遂にその瞬間が訪れた。
国民的アンセム「BE MY BABY」のイントロが流れると、冒頭からテンションは最高潮だ。吉川が上手から、布袋が下手から登場し、13年振りの固い握手を交わす。演奏を通じて、お互いの歌声とギターの音色で確かめる。語り合うよりも、音楽は雄弁で屈強だ。外傷性白内障と診断され両目を手術したばかりの吉川が、エンディングでシンバルキックに挑み見事成功させる。秘めた決意が体を突き動かすのだろう。
「今夜、共に被災地へエールを」吉川が思いの丈を伝えた後に、続けて放たれたのはファーストアルバムのオープニングナンバー「PRETTY DOLL」。ヘヴィなリズムが心を揺らす「CRASH COMPLEXION」、布袋のギターリフが印象的な「NO MORE LIES」と続け、客席を更なる高揚に誘 う。一瞬の静寂をギターが引き裂くような「路地裏のVENUS」では、吉川がフライングVを抱えて、ゼマティスを握る布袋と並び立つ。味わい深いふたりのハモリと共に、彼らの“音の融合”が熱を帯びていく。
「被災地のために、俺たちの未来のために」布袋もまた思いを言葉に託す。極上のポップチューン「LOVE CHARADE」では、布袋が両手を上げてハートマークを贈り、観衆も“LOVE”を返す。吉川も歌いながら胸の前でハートを形作り、会場中が一体となってアウトロのコーラスを歌う。誰もが笑顔が素敵なひとときだった。
「2人のAnother Twillight」「MODERN VISION」「そんな君はほしくない」の3曲では、ハイブリッドな音像が変幻自在にその表情を変えていく。ここでは布袋の“匠”とも呼ぶべきサウンドプロデュースの奥深さと、広大な海を自由に泳ぐかのような吉川のダイナミックなステージングを存分に味わう。光と影を描いた「BLUE」、ブルージーな「Can‘t Stop The Silence」、屈指の名バラード「CRY FOR LOVE」。この3曲での吉川の歌唱もまた実に見事だった。艶やかさを失わずに、年輪と共にどこかスモーキーな味わいすら感じさせるヴォーカル。寄り添うような布袋のギターとコーラスには、盟友を慈しむ眼差しが確かにあった。
ベルリンの壁崩壊をモチーフにした「DRAGON CRIME」からインストゥルメンタル楽曲「HALF MOON」へ。布袋のスケールの大きなギターフレーズがドーム空間に木魂する。いまやHOTEIの名は世界に轟いている。その凄みに改めて感じ入った。二人を支えるバンドメンバーの演奏による「ROMANTICA」。湊雅史(D)、スティーヴエトウ(Per)、井上富雄(B)、奥野真哉(Key)、岸利至(Programming)の5人が奏でる幻想的なナンバーがラストスパートの始まりを告げる。プログレッシヴな「PROPAGANDA」、ストレートなロックナンバー「IMAGINE HEROES」、ハードロックテイストにあふれた「GOOD SAVAGE」と続き、ステージはクライマックスへと向かう。ふたりが織り成すギターセッションでは、男同士が互いの人生観をぶつけ合うかのようなスリリングな激しさに痺れた。
いよいよ本編は最後の2曲。代表曲「恋をとめないで」が場内のハートを着火させる。オーディエンスのシンガロングに、布袋は渾身のギターソロで、吉川は「東京ドームの夜だ」と叫び応える。「MAJESTIC BABY」では拳を突き上げ、「お前と一緒なら」のコール&レスポンスが続く。エンディングでまたもやシンバルキックに挑むところが、吉川の男気だと唸った。アンコール1曲目は「1990」。映像で刻まれていた数字は「1990」で始まり、最後は「2024」で終わった。過去、現在、未来。時の流れの中で紡がれていく誰もの人生を、力強く肯定した瞬間だった。アンコール最後は“表明曲”とも言える「RAMBLING MAN」。立ち止まらない二人への賞賛の拍手がいつまでも鳴り止まなかった。
二度目のアンコール。ファーストツアー以来の演奏となる「CLOCKWORK RUNNERS」は、当時バブルの喧騒を生きる者たちへの警鐘のようでもあったが、現代のデジタル社会にも繋がる普遍性を感じた。最後の曲は平和への願いを綴った「AFTER THE RAIN」。スクリーンには昇る太陽が映し出され、客席もスマートフォンの光を点灯させて鼓動を同期させていく。再生への祈りが結晶となった、あまりに荘厳な風景だった。
吉川晃司と布袋寅泰。ミュージシャンとして、表現者として、ひとりの男として。彼らは常に真っ向勝負を挑み、体を張って“生”を刻んで来た。彼らがひとつの旗印のもとに集い、音楽で奇跡を起こした夜。10万人の同志たちと共に連帯された心のエールは、復興支援という形で被災地へと届けられる。奇跡は生まれるのを待つものではなく、自ら起こすものだ。ふたりの生き様が熱い手応えと深い感慨を残した“LIVE”だった。
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