『罪の声』で静の演技に徹した小栗旬と星野源。“声なき人々”の声に耳を傾ける
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『罪の声』で静の演技に徹した小栗旬と星野源。“声なき人々”の声に耳を傾ける

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回は映画ライターのSYOさんが、塩田武士のミステリー小説を、小栗旬星野源のW主演で映画化した『罪の声』について紐解くコラムをお届けします。

文=SYO @SyoCinema

 ハリウッド映画『ゴジラvsコング』(’21)や菅田将暉主演作『キャラクター』(’21)まで、幅広く活躍し続ける小栗旬。ミュージシャンとして、俳優として、近年ますます影響力が拡大している星野源。両者が“バディ”として共演した2020年のヒット作『罪の声』が、早くもWOWOWで初放送を迎える。

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 大泉洋主演で映画化された「騙し絵の牙」でも知られる人気作家、塩田武士のベストセラー小説を映画化したヒューマン・ミステリー。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、「MIU404」ほか星野とのタッグも多い野木亜紀子が脚本を担当し、ヒット作『花束みたいな恋をした』(’21)や人気ドラマ「カルテット」の土井裕泰監督がメガホンを取った。

 本作は、約35年前に発生した未解決の企業脅迫事件の真相を巡り、新聞記者とテーラーという異色のバディが調査に乗り出す物語。時効を迎えた劇場型未解決事件の特集記事を作るため、取材を重ねる新聞記者、阿久津英士(小栗旬)は、父から受け継いだ仕立て屋を営む曽根俊也(星野源)と出会う。曽根は、実家の押し入れから事件で使われた脅迫声明のテープを見つけたのだった。そこに吹き込まれていたのは、子どもの頃の自分の声だった…。数奇な運命に導かれた2人は行動を共にし、事件の全容に迫っていく。

 「次第に謎が深まるミステリー」と「苦悩が紐解かれていくヒューマン・ドラマ」のコンビネーションは、ドラマ「アンナチュラル」などでも見せた野木の得意技。事件が真相に近づくにつれ、連動するようにその奥にあった人の心・想いがつまびらかにされ、観る者の感情を揺さぶっていく。また、日本の歴史とも複雑に絡み合った物語を映像化するにあたり、脱落する者がいないように「観やすさ」と「重厚感」のバランスを冷静に見極め、一つ一つのシーンを丁寧に積み上げていく土井監督の実直な演出も光る。

 そうしたスタッフワークと親和性を保ちつつ、物語を牽引するのが小栗と星野だ。前提として、2人が演じたキャラクターは「エリート刑事」でも「敏腕探偵」でもない。両者ともに主人公然とした部分を削いだ一般人だ。阿久津は文化部の記者であって、この事件を熱心に追ってきた人物ではない。曽根もテープを見つけるまでは事件と無関係だった。この物語全体がそうであるように、接点のなかった“普通の人々”が、事件によって運命が変化していくのだ。

 となると、小栗と星野の演技の塩梅というのは、非常に難しくなる。キャラ立ちが強い人物に自分を当てはめていくのではなく、現実社会で淡々と生きていそうな名も無き人々を演じながらも、観客を飽きさせない微量のオーラは常に漂わせなければならないからだ。

 小栗は、『キャラクター』などでもリアリスティックな人情派の刑事を飄々と演じているが、本作ではより柔和なキャラクターを好演。相手を警戒させず、するりと懐に入り込み、話を聞き出す術に長けていながら、あくまで取材対象が傷つかないように心掛けている。優しさで出来上がった人物という点が絶妙だ。「るろうに剣心」シリーズ(’12~’21)の大友啓史監督が手掛けた力作サスペンス『ミュージアム』(’16)で演じた鬼刑事との比較をしてみれば、彼の演技の幅に驚かされることだろう。

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 対する星野は、こと映画においては強烈なキャラクターを多く演じてきた。『地獄でなぜ悪い』(’13)では「ヤクザの騒動に巻き込まれた一般人」の変貌ぶりをハイテンションに見せきった。『箱入り息子の恋』(’13)では、他人と接するのが極端に苦手な市役所の職員を繊細に表現。彼女いない歴=年齢で、感情を表に出さない物静かな男性が、恋に落ちたことでどんどん変化を実感していく。坂を猛ダッシュするシーンや、夏帆扮する恋の相手の家に忍び込んだり、全裸でふらふら歩きまわったりと、体当たりの演技が目立つ。

 そんな彼が、本作ではグッと抑えた演技に終始し、知らず知らず犯罪に加担させられてしまった被害者の悲しみや静かな絶望を見事に画面に浮かび上がらせている。これまでの作品では「静かなキャラがスパークしていく」、いわばオフ→オンの演技が得意だったが、『罪の声』ではトーンはそのままに、グラデーションを付けて内面の変化を奏でていく。より技巧的な職人芸を披露しているのだ。静かに涙をこぼすシーンや、怒りを抑えて言葉を紡ぐ様子も、彼の“進化”を感じさせる。

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 そして、小栗と星野の演技のハーモニーも興味深い。往々にしてこういったバディものだと、衝突を繰り返す凸凹コンビとして描きたくなるものだが、本作においてはお互いがお互いを労り、傷を癒し合うような穏やかで美しい関係性が構築されていく。最初から最後まで、相手を尊重し合う精神がブレない。

 そんな2人だからこそ、出会う人々も心を開いていく。その最たるものは、宇野祥平が渾身の演技で“生きた”ある重要人物だろう。ここも、小栗と星野が創り上げた空気感があるからこそ必然性が生まれ、感動的なシーンとして成立している。余談だが、松重豊、市川実日子、橋本じゅんといった野木作品の常連組の活躍もファンにはうれしいところ。

 派手な演技もお手の物な小栗と星野が、あえて静の演技に徹した『罪の声』。彼らがコーティングし、内面に隠した登場人物たちの“声なき声”に、じっくりと耳を傾けていただきたい。

SYOさんプロフ201031~

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クレジット:©2020 映画「罪の声」製作委員会


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