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亀梨和也の指先にまで込めたこだわりの演技に注目! 鈴木浩介監督が語る「連続ドラマW 東野圭吾『ゲームの名は誘拐』」の魅力とは

「GAME OVER」

 6月9日(日)からWOWOWにて放送・配信がスタートする「連続ドラマW 東野圭吾 『ゲームの名は誘拐』」において待ち受ける、衝撃の展開に見事に騙されてしまいました、note編集部の岡井です。

 加速していく緊張感のあるストーリーに興奮させられ、一瞬も見逃すことができず、まるで自分も主人公と同様にゲームを行なっているかのようでした…。
 
 これほどまでに最高のスリルを味わわせてくれるドラマは、どのようなこだわりを持って作り出されたのか。今回のコラムでは、本作の鈴木浩介監督のインタビューから、その魅力について徹底的に追求します。

取材・文=柳田留美

「連続ドラマW 東野圭吾『ゲームの名は誘拐』」6月9日(日)後10:00スタート

多くの作品を手掛けているからこそ感じる、“WOWOWドラマ”の良さとは

―鈴木監督は、「連続ドラマW ギバーテイカー」「ヒル」「連続ドラマW シャイロックの子供たち」など数多くのWOWOWの作品を手掛けていらっしゃいますが、WOWOWドラマならではの魅力はどこにあると思いますか。
 WOWOWドラマにはCMが入らない、そこは大きいですね。CMのタイミングの制約なしに、緊張感を途切れさせることなく視聴者を作品の中へといざなえるのが魅力なのではないでしょうか。じっくり描きたいシーンを、無理に決められた尺の中に押し込む必要がないので。俳優さんと相談しながら丁寧に画を作れるので、映画に近い感じで、映画とTVドラマのいいとこ取りが成り立っているように思います。
 また、地上波では触れるのが難しいテーマを扱えるのもWOWOWドラマならでは。大手自動車メーカーのリコール隠しを題材にした2009年の「空飛ぶタイヤ」をはじめ、WOWOWだからこそ作れた作品は数知れずだと思います。

―鈴木監督が作り上げる「連続ドラマW」のスタイルはありますか。
 「空飛ぶタイヤ」以降、カメラマンの柳田裕男さん、照明の宮尾康史さんと何度も組ませてもらっています。映画で活躍している一流のクリエイターが作り出してくれる独特のトーンが、僕の「連続ドラマW」のある種のベースになっているのかもしれません。
 とはいえ、僕の役目はあくまでも「現場監督」。スタッフや俳優といったクリエイターたちをまとめるのが仕事です。プロデューサーが求めるもの、脚本家が描きたいものを、スタッフや俳優さんと一緒になって具現化していくわけですが、WOWOWドラマには高いクオリティーが求められます。当然ながら自分ひとりの力で太刀打ちできるものではなく、多くの皆さんの力が必要です。だからこそ、スタッフィングやキャスティングにも関わらせてくれるWOWOWには感謝しています。

―「ゲームの名は誘拐」を監督するに当たり、まずどんなことを感じましたか。
 亀梨さんの主演が決まっている段階で脚本と原作を読ませてもらいましたが、「なるほど!」と思いました。亀梨さんが演じる佐久間駿介という人物は、とにかくハイスペックな男性。仕事のスキルはもちろん、女性への振る舞いから何げない会話まですべてがスマートなんです。何となく演じることはできても、自然に演じることができる俳優は限られます。その点において、亀梨さんはまさに適任で、演技のすべてのバランスを調整できそうだと直感しました。演出する立場としては、亀梨さんのおかげでかなり助かった部分も多かったのが本音です。

―「ゲームの名は誘拐」はすでに映画化もされていますが、ドラマ版ならではの見どころはどんなところにあると思いますか。
 「ゲームの名は誘拐」を原作にした映画『g@me.』が公開されたのが2003年。もう丸20年以上が経過しています。このタイミングでのドラマ化なら、映画を見た方にも鮮度をもって見てもらえるのではないかと思いました。東野圭吾原作のドラマ化作品は総じて人気が高いので、WOWOWドラマのクオリティーでエンターテインメントに振り切った作品に仕上げることができれば、目の肥えた視聴者の方々にも喜んでもらえるものになるだろうと確信しました。
 原作がある作品を映像化するに当たり、映画よりもドラマに分がある点の一つが、原作の厚みにふさわしい尺を用意しやすいところ。例えば、僕が監督した「連続ドラマW 沈まぬ太陽」の原作は、山崎豊子氏の3編、単行本にして全5巻にわたる壮大な長編小説。2009年に映画化もされていますが、2016年のドラマ版では全20話で描きました。この「沈まぬ太陽」も今回の「ゲームの名は誘拐」もそうですが、WOWOWドラマは原作のボリュームに寄り添っていることが多く、その点は原作ファンにとっても魅力なのではないでしょうか。尺の長さや話数を自由に調整できるWOWOWの連続ドラマは、“ベターではなくベスト”を目指せるのが強みですね。
 今回は全4話。起承転結が4話の中にきれいに落とし込まれているので、集中力を欠くことなく没頭して見ていただけると思います。4話というコンパクトさなら一気見もしやすいので、放送でも配信でも、それぞれの好みに合わせた視聴方法で楽しんでもらいたいです。

鈴木浩介監督

演出ではとにかく“余韻”を大切に。本作ならではの新たな挑戦も

―演出に当たり心掛けたポイントがあれば教えてください。
 小峯裕之さんの脚本が非常にしっかりしているので、それを具現化することに集中しましたが、各エピソードのエンディングに残す“余韻”にはこだわりました。ラストカットのインパクト次第で、次のエピソードに対する期待度が大きく変わってくるので。「こうやって終わらせてくれ」と脚本には書かれていませんが、“この先、何が起こるんだろう?”と、視聴者の想像力を膨らませるにはどんな表現がベストなのか。そこは徹底的に模索しました。
 ドラマ版では、原作や映画よりもサスペンス要素が強めで、ラブロマンスの比率が少ないんです。それでも、ちゃんと2人の恋愛に説得力をもたせる必要があるので、カット尻(撮影したカットの後ろの部分)の見せ方にも気を配りました。まさに“余韻”につながる部分でもありますから。WOWOWドラマでは尺に10分程度の自由度があり、カット尻の見せ方もいろいろ工夫できるので、これまでもそこにこだわるあまり、「MA」(効果音やナレーションを加え、音質やバランスを調整して音を仕上げる作業のこと)の作業が終わった後に編集をやり直すというスタッフ泣かせなお願いをしたことが何度もあります(苦笑)。カット尻で言うと、音楽にもこだわっていて、特にエンディングは“あおり”を意識している部分なので、よりドラマの展開を盛り上げる絶妙な効果が発揮できていると思います。

―本作で新たに挑戦した試みなどがあれば教えてください。
 車の走行シーンにLEDパネルを取り入れました。俳優さんが乗った車の周囲にLEDパネルを設置し、そこに街並みなどの風景を映してカメラで一緒に撮影するというものです。正直言って手間もコストもかかる手法ですが、牽引撮影ができない場所を走行するシーンも作れますし、俳優さんにとっては演技に集中できるというメリットもあります。背景に合わせてライティングも細かく調整できるので、グリーンバック撮影を使った合成とは違い、リアリティーあふれる光や物体の反射を映像に収められるという利点もあるんです。かなりいい感じに仕上がっていると思うので、六本木のけやき坂通りや首都高の走行シーンが登場したらぜひご注目いただきたいな、と。
 もちろん、すべてLEDパネルを使った撮影では済ませられないので、実際に車を走らせて望遠で撮影しているシーンもあります。うまく撮影できる高さの建物を探して、撮影許可を取るのも大変でした。走行シーンに限らず、絶妙なアングルで撮影できる建物が見つかった時は、本当にうれしかったですね。物語に説得力を生むのに一役買ったと思います。

佐久間というキャラクターを体現する、俳優・亀梨和也の魅力がさく裂

―主人公の佐久間を演じる亀梨和也さんの印象はいかがでしたか。
 亀梨さんには、ある種のカリスマ性を感じましたね。立ち居振る舞いや洋服の着こなし、髪形、視線の送り方、手のしぐさ、すべてが完璧なんです。努力して身に付けたものなのか、自然に身に着いたものなのか分かりませんが、いずれにせよ付け焼き刃では得られないものであることは間違いないです。アイドルとしての経験が長い方なので、自分がどう見られているか、あるいはどう見てもらいたいかを熟知しているのだと思います。ここぞという場面で見せる瞬発力もみごとでしたね。
 演技へのこだわりもかなり強いと感じました。例えば、佐久間がスッと手を差し伸べるシーンでこちらは一発OKを出したんですが、亀梨さんは「もう1回やらせてください」と言うんです。1回目と2回目、こちらから見たら大きな違いは感じられなかったんですが、細かい動き一つ一つ、指先にまで神経を配る姿勢には感服しました。
 自分の演技だけでなく、周りとの調和を大事にするのも亀梨さんのすごいところです。誰かがアイデアを出したらいつでもそれを真摯しんしに受け止め、やってみようとしてくれる。そのおかげで化学反応が起きることも。その日、その瞬間を楽しみながら、まさに“ベターではなくベスト”を引き出すのが上手な人だなという印象でした。

佐久間駿介役の亀梨和也

―亀梨さんのイメージが、佐久間というキャラクター設定に影響を与えた部分もありますか。
 そうですね。佐久間が住む部屋を決めるときも、亀梨さんのイメージが一つの指針になりました。「亀梨さんがここにいたらどんな色のソファが似合うかな?」などと考えながら決めていきましたね。佐久間が運転する車の車種選びも同様で、こちらは実際に亀梨さんの意見を反映しています。
 ちなみに、佐久間が勤める広告代理店についても、かなり具体的な設定を練っています。いわゆる超大手出身者が独立して起業した会社で、設立から何年くらい経過していて、現在の業界内でのポジションはこのくらいで…とか。佐久間のオフィスも、その設定に合った場所を探しました。もちろん、亀梨さんが演じる佐久間のライフスタイルも、年収や自宅のインテリアなど原作に書かれていないことまで事細かい裏設定が存在しています。佐久間が触るパソコンのアプリやソフトの画面もすべて作り込むなど、徹底的にリアリティーを追求しました。

見上愛は“憑依ひょうい型俳優”。渡部篤郎が醸し出す緊張感は圧巻

―樹理役の見上愛さんの印象についてもお聞かせください。
 数多くのCMをはじめ、さまざまなドラマや映画で見上さんを見てきましたが、現場でご一緒するのは今回が初めて。撮影初日はかなり緊張しているように見えましたが、亀梨さんがうまくフォローしてくれたおかげで、撮影が始まると途端にスイッチが入りましたね。それ以降は、樹理役としてブレることはありませんでした。どちらかと言えば、憑依型の俳優さん。せりふ合わせでも、修正することはほとんどありませんでした。とあるシーンのセリフについて、どんな表現ができるか丁寧に議論した時間は実に有意義でした。見上さんはもともと演出に興味があった人なので、裏方の視点で理解し合えた部分も大きかったと思います。

葛城樹理役の見上愛

―見上さんと亀梨さんの相性はいかがでしたか。
 全4話のストーリーの中で描かれるのは数日間の出来事。こんなに短い期間で恋をするって、簡単じゃありませんよね。しかも、佐久間は30代のやり手の広告マンで、プライドが高くセクシーでミステリアスな人物。仕事も恋愛も“ゲーム”と捉え、クリアすることに快感を覚える自己愛の強いタイプであるにもかかわらず、20代前半のお嬢さまである樹理と恋に落ちる…。それを自然に見せるにはどうしたらいいか、亀梨さんも見上さんもかなり悩んでいたようですが、2人で相談しながらきちんとロマンスを成立させてくれました。

―佐久間の宿敵、葛城勝俊役の渡部篤郎さんはいかがでしたか。
 圧倒的な存在感を発揮してくれました。全編を通して感じられる独特の緊張感は、まさに渡部さんによるところが大きいと思いますね。渡部さんとは2011年のWOWOW「再生巨流」から1年に1度くらいのペースでご一緒させてもらっていますが、年齢とともに増した深みや品格が、葛城という人間を体現していましたね。まさにベストなキャスティング! 葛城の自宅は超豪邸なんですが、そんなロケーションにもまったく負けていませんでした。亀梨さん演じる佐久間と葛城が繰り広げる、どちらが優勢なのか読めないピリピリとした駆け引きは見ものです。

葛城勝俊役の渡部篤郎

“騙し、騙される快感”を味わいつつ、亀梨和也の「手」に注目!

―最後に、改めて本作の見どころをお願いします!
 見どころは、“騙し、騙される快感”じゃないでしょうか。東野圭吾作品にはどんでん返しがクセになる作品がたくさんありますが、「ゲームの名は誘拐」もその一つ。ドラマでは、原作とも映画版とも異なる結末を用意しています。“まさか!?”という衝撃的な展開が訪れるので、それを楽しみに見ていただけたらと思います。
 また、サスペンスの魅力を際立たせ、重みのある見応えも意図的に注入し、WOWOWの視聴者の方々に楽しんでいただけるようなドラマとしての面白さも大事にしています。組織の一員として生きる者の苦悩を描く、人間ドラマの部分にもご注目ください。
 そして、何より欠かせない見どころは、やはり亀梨さんの存在です。先にもお話ししましたが、彼の「手」の演技は必見。カバンを持ったり置いたり、ペンを手に取ったり、髪に触れたり、チェスのコマを動かしたり…。指先1本1本に感情を込めて佐久間という人物をみごとに演じ切っています。しかも、その「手」が非常にしっかりしていて美しい。亀梨さんがこだわり抜いて作り上げた佐久間というキャラクターの魅力を、騙し、騙されながら思い切り楽しんでいただけたらと思います。

【鈴木浩介監督プロフィール】
1961年、神奈川県出身。
主な監督作に「連続ドラマW 空飛ぶタイヤ」(2009年)、「連続ドラマW 沈まぬ太陽」(2016年)、「連続ドラマW アキラとあきら」(2017年)、映画『ケアニン~あなたでよかった~』(2017年)、『コスメティックウォーズ』(2017年)、「連続ドラマW シャイロックの子供たち」(2022年)、「ヒル」(2022年)、「連続ドラマW ギバーテイカー」(2023年)など。

第1話無料配信中!「連続ドラマW 東野圭吾『ゲームの名は誘拐』」をWOWOWオンデマンドで見るならこちら

【岡井プロフィール】
入社2年目。
ドラマは常に私の人生において新しい世界を広げてくれたものです。
生きづらい世の中で、夢を見ることも悪くないと思ってもらえるようなドラマを制作したくてWOWOWに入社しました。

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