俺のいる芸人の世界も、ちょっと似てるのかなって。真の芸能人なんて――『あのこは貴族』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?

映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、生まれも育ちも異なる2人の女性が恋愛や結婚だけではない人生を切り拓く姿を描いた『あのこは貴族』('21)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回は昨年公開されたばかりの『あのこは貴族』ですが、この作品を選んだ理由は何かありましたか?

小沢一敬(以下、小沢)「この前、映画の『浅草キッド』('21)を観たばっかりだったから、門脇麦さんの出てる作品を観たかったの(笑)」

──門脇麦さん、良い作品ばかり出てますね。この作品はいかがでしたか?

小沢「すごく面白かったから、映画を観た後で、原作小説まで読んじゃったよ」

──ホントですか。小説版も気になりますよね、映画を観ると。

小沢「うん。小説には、映画にはないエピソードもあったりして、そっちも楽しめたよ」

──それぐらい、お気に入りの作品になったと。

小沢「そうだね。今、ABEMAで『スピードワゴンの月曜The NIGHT』っていう番組をレギュラーでやってるんだけど、その番組の企画で、ちょうど3カ月前ぐらいに“中卒VS慶応SP”っていう企画をやったのね。そこで慶應大学出身の芸人たちから、『慶應の中にも、大学から受験で入った組と幼稚舎からいる組には格差がある』って話を聞いてたから。この映画に出てくる、慶應大学内でのヒエラルキーの話とかが、より理解できたの」

──そのヒエラルキーは、リアルにあるみたいですからね。

小沢「この映画はさ、東京で育ったお嬢様と地方から出てきた女の子という、2人の女性が主人公の物語じゃん」

東京生まれで何不自由ない生活をしてきた華子(門脇麦)は、30歳を目前に恋人にフラれ、初めて岐路に立たされる。結婚に焦った華子は婚活をスタートさせ、同じく裕福な家庭で育ったハンサムな弁護士、幸一郎(高良健吾)とお見合いをする。一方、東京で働く美紀(水原希子)は富山生まれ。猛勉強のすえに慶應義塾大学に進学するも経済的理由で中退し、自力で生きてきた。美紀は大学時代に学費が払えずに夜の世界で働いていた頃、同じ大学に通っていた幸一郎と出会う。違う立場で幸一郎と関わる華子と美紀、2人の女性の人生が交錯したとき、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく。

──2人の対比が、とても面白いですよね。

小沢「俺自身、愛知県の海沿いの半島出身で、地元は本当にド田舎なのね。そんな所から上京してきたけど、東京での生活も長いから、東京生まれ、東京育ちの友達もいるわけよ。その中には、世間的には『成功してる』と思われるような友達もいるし、実家が大金持ちすぎて普段はホテルで暮らしてるようなやつまでいて。実際、東京にはそういう想像もつかないような大金持ちもいるんだよね」

──ずっと東京で暮らしてたって、いわゆる階層が違うような人たちに出会う機会はなかなかないですけどね。

小沢「だけどさ、この映画では、そんな違いなんて実は関係ないんだよっていうことを描いていくわけでしょ。幸せになるのには生まれも育ちも関係ないんだよって。俺なんかも田舎育ちの中卒ってことを、若い頃は少しは気にしてたけど、この歳になると、そんなの全然関係ねえよなって分かってきたし。自分が自分の人生をちゃんと生きてさえいれば関係ねえ、人生の本当の価値はそんなところにはないんだから、って」

──若いときは、どうしてもそういう部分を気にしちゃいますよね。

小沢「そうだよね。子供の頃にはみんな『大金持ちになりたい』って思ってたし、あとは今だと、すごく嫌な言葉だけど『親ガチャ』みたいな言葉もある。もちろん、そういう要素がゼロだとは言えない社会ではあるんだけど、本当のところでは関係ないと俺も思うんだ。俺の好きな麻雀はよく人生に例えられるんだけど、麻雀も最初に配られる牌の格差がすごく大きいのよ。組み合わせがバラバラのときもあれば、簡単に上がれそうだったり点数が高くなりそうな手牌のときもある。それがまさに生まれ育ちの違いみたいなもので。だけど、たとえバラバラでも最終的に役満になることもあるし、工夫次第では手の良い人たちを追い越して勝つこともできる。そういうところが人の一生によく似てる。この映画を観てたら、そんなことも思い出しちゃったよね」

──配牌ではなく、最終的にどんな手で上がるのかが大事ですからね、麻雀も。

小沢「あと、映画の中に『外から来た人がイメージする東京』みたいな言葉が出てくるんだけど。たしかに、俺が上京してきたときに思い描いてた東京と、実際に住んでる東京は、全然違うんだよね。昔は、東京には刺激とスリルと興奮が毎日あふれてると思ってたんだけど、実際には東京にも愛知県のド田舎にも、何もない一日っていうものが必ずあるし。その一方で、『田舎から出てきて、搾取されまくって。私たちって東京の養分だよね』っていうセリフもあって」

──美紀が同郷の親友、里英(山下リオ)と語り合う場面で出てくるセリフですね。

小沢「あのセリフを聞いて思ったのは、俺のいる芸能界というか芸人の世界も、それとちょっと似てるのかなって。みんな、この世界に入ったらきっと楽しい毎日が続くと思ってるんだけど、そうなれなくて終わってしまう人もやっぱり少なくないわけよ。言い方は良くないけど、芸能界の一瞬の輝きの養分になってしまう。この映画の論理で言うと、田舎者から見れば『東京で生まれ育って東京で確固たる家柄を築いている人だけが本当の東京の住人』みたいな話になるんだけど、それを芸能界に置き換えて考えると、芸能界の中にいる真の芸能人なんて、石原良純さんぐらいしかいないんじゃないかな(笑)」

──では、そんな今回の作品の中で、小沢さんが一番シビれた名セリフは?

小沢「俺が一番好きだったのは、『どこで生まれたって、最高って日もあれば泣きたくなる日もあるよ』かな」

──とあるシーンで、美紀が華子に言うセリフですね。

小沢「そのあと、『でも、その日、何があったか話せる人がいるだけで、とりあえずは十分じゃない? 旦那さんでも友達でも。そういう人って、案外、出会えないから』って続くんだけど。これは、たしかにそうだよなって思った。ちょうど何かで読んだんだけどさ、コミュニケーションが上手な人っていうのは、相手に『この人の話を聞きたい』と思わせられる人のことなんだって。どんなに喋りが上手くても『この人の話は、もう聞きたくない』って思われたり、どんなにすごい人でも『この人の行動には興味ない』って思われたら、それはコミュニケーションが下手なんだと」

──なるほど。

小沢「そんな話と、このセリフが、ちょうど自分の中でつながったんだよね。どこで生まれ育ったとか、どんな環境で生きてるとか、そんなの関係なくて、『この人の話を聞きたい』と思うような人がそばにいること、そして、その人にも自分が同じように思われることは、すごく幸せなことなんだと思うよね」

──そういう相手を見つけるのが、なかなか難しいんですけどね。

小沢「それから、美紀が里英に言われた言葉に対して、『ずっとそう言ってほしかった気がするから』っていうセリフが出てくるじゃん」

──里英がある提案をするシーンで、まだ説明の途中なのに美紀が『いいよ!』って先に返事をしちゃうところのセリフですね。

小沢「あのセリフも俺は好きなんだけどさ。人ってさ、言ってもらいたい言葉が必ずみんなあるんだよね。たとえば恋愛でも、仕事でも、この人にこれを言ってもらえたら力になる、この人がこれを言ってくれたら私の人生はハッピーになる、っていう言葉が。俺自身も、それに気付ける人になりたいなって思ってるのよ。言ってもらいたい言葉を言ってあげたいし、言ってほしくない言葉は言わないようにしたいな、と思ってるのに、この前も若手の芸人たちを前にして偉そうなことばっかり語ってたな、って反省(笑)」

──でも、小沢さんは、僕らが照れちゃうような褒め言葉もちゃんと伝えられる人じゃないですか。

小沢「違う違う。俺はそうやって言わなくていいことまで言い過ぎてるだけだから。ホント、良くないよねぇ…」

──急にシュンとしないでください。

小沢「そういえば、さっきの場面の最後に、美紀と里英が老後のためにアソコの脱毛をするって話が出てくるんだけど、あれ、俺の先輩たちも同じこと言っててさ。『モテるモテないの話じゃなくて、介護をしてもらうときに迷惑にならないように脱毛しておくんだよ』って。だから、この映画のおかげで、『あ、俺もそろそろアソコの脱毛しなきゃ』ってことを思い出したよ(笑)」

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