【9月の激レア映画!】役所広司と周防正行監督がタッグを組んだ『Shall we ダンス?』や、ヴィム・ヴェンダース監督作3作品をはじめ、デジタルリマスター版・未DVD化など貴重な映画を“レア度”とともにご紹介!
文=飯塚克味
①[廃盤]『黒い瞳(1987)』
レア度…★★★☆☆
まずはDVDが[廃盤]になっているタイトルからご紹介します。
ロシアの文豪、チェーホフの短編「犬を連れた奥さん」の再映画化『黒い瞳(1987)』です。監督は巨匠ニキータ・ミハルコフ。主演はマルチェロ・マストロヤンニ。原作では保養地で銀行員が人妻に恋するドラマですが、映画ではロシア人の人妻に恋するイタリア人の男性という、国をまたいだ恋愛ドラマに改変されています。国の組み合わせから見ても、名作『ひまわり』(’70)を思い起こさせますが、ロマンチックな仕上がりに公開時は酔いしれるファンが多かったものです。オリジナル版となる1959年の『小犬をつれた貴婦人』も、機会があればぜひご覧いただきたいですね。
②[未ソフト化]『サントメール ある被告』
レア度…★★★☆☆
続いては[未ソフト化]の作品です。フランス北部の町、サントメールで行なわれた裁判の記録をそのまま映画化した『サントメール ある被告』になります。15カ月の娘を海辺に置き去りにし、殺人罪に問われたセネガルからの留学生ロランス。その裁判を傍聴する若い女性作家ラマの視点で映画は進行します。監督のアリス・ディオップはドキュメンタリーで実力を認められてきた才人。多くのハリウッドスターや監督たちも本作を絶賛しているだけに、見逃さないでほしい一本です。
③[未ソフト化]『人間の境界』
レア度…★★★★☆
続いても[未ソフト化]の作品です。ポーランドの巨匠アニエスカ・ホランド監督作の『人間の境界』。レオナルド・ディカプリオが若い時に出演した『太陽と月に背いて』('95)や、アカデミー賞にノミネートされた『ソハの地下水道』('11)などが有名です。本作ではベラルーシを経由してポーランドに渡れば安全にヨーロッパに入ることができるとだまされたシリア人家族の姿を描いています。ベラルーシが意図的に開けた抜け道を通った先には、ポーランド側の国境警備隊が待ち構えているという難民にとっては行くも地獄、戻るも地獄の国境越え。ポーランド政権は本作の公開を阻止すべく、さまざまな工作を試みますが、いざ公開となるとポーランド国内で2週連続トップの大ヒットとなったそうです。
④[4Kリマスター版]『遠い声、静かな暮し』
レア度…★★★☆☆
こちらはイギリスの鬼才テレンス・デイヴィス監督の長編デビュー作となった作品『遠い声、静かな暮し』です。1940~50年代のイギリス、リバプールで暮らす家族のドラマなのですが作品タイトルの前半が「遠い声」、後半が「静かな暮し」と付けられています。暴力的な父親が亡くなり、父親を嫌いつつも慕う気持ちも捨てきれない家族の姿が印象的な前半で、父親役を演じたピート・ポスルスウェイトの存在感が圧巻です。彼はハリウッド映画でも『父の祈りを』(’93)や『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(’97)などの作品に多数出演したので、顔を記憶している人も多いでしょう。今回は[4Kリマスター版]での放送となります。
⑤[4Kレストア版]『パリ、テキサス』
レア度…★★★☆☆
こちらの『パリ、テキサス』も[4Kレストア版]での放送となります。『PERFECT DAYS』(’23)(※9月に放送あり)で注目を集めるヴィム・ヴェンダース監督作品ですが、何と言っても本作が一番というファンも少なくないでしょう。冒頭、砂漠をさまようひとりの男。バックにはライ・クーダ―の音楽が切なく響きます。このオープニングだけでもう映画の世界に引きずり込まれてしまいます。全てを失った彼の背景に何があったのか? その謎は少しずつ明かされていきますが、クライマックスでは鳥肌が立つほどの感動に包まれるはずです。主演のハリー・ディーン・スタントン、妻役のナスターシャ・キンスキーなど、俳優たちも適材適所で、約2時間半が全然長く感じないはず。発売中のBDは2Kレストア版なので、その違いもぜひチェックしてみたいですね。
⑥[4Kレストア版]『アメリカの友人』
レア度…★★★★☆
次も[4Kレストア版]でよみがえった作品です。ヴィム・ヴェンダース監督が1977年に作った『アメリカの友人』です。日本でも1977年に劇場公開されたようですが、私の記憶にあるのは『パリ、テキサス』(’84)のヒットを受けて、1987年にリバイバル上映された時のことです。『ノスフェラトゥ』(’78)や『白い町で』(’83)など、ミニシアター系で実力を示してきたブルーノ・ガンツが、『イージー★ライダー』(’69)のデニス・ホッパーと共演したというだけで、映画館へ行く価値は十分でした。話は不治の病に侵された額縁職人が殺人を依頼されるというちょっと奇妙なサスペンスものですが、ヴェンダースらしいムードに満ちた、魅力的な一本に仕上がっています。
⑦[4Kレストア版][廃盤]『ことの次第』
レア度…★★★★★
ヴィム・ヴェンダース監督が、『ハメット』(’82)でハリウッド進出した際、製作を担ったフランシス・フォード・コッポラとの確執から生まれた『ことの次第』。[4Kレストア版]での放送になります。製作途中で、フィルムのストックが切れてしまったSF映画の撮影隊。宿泊先のホテルで時間をつぶすスタッフたち。撮影監督は家族に不幸があり戻ってしまう。監督はプロデューサーを捜してハリウッドへ向かうという物語。もう、体験したまま描かれているという感じですが、なんとヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞してしまうのだから、映画は面白いです。サミュエル・フラーやロジャー・コーマンといった映画人たちの出演も必見です。
⑧[4Kデジタルリマスター版]『甘い生活』
レア度…★★★★☆
イタリア映画黄金期の巨匠フェデリコ・フェリーニの代表作の一本『甘い生活』という作品で、[4Kデジタルリマスター版]での放送です。マルチェロ・マストロヤンニ演じるゴシップ記者がローマの街をさまよいながら、喧騒の毎日を送っていきます。この時期フェリーニ監督は、同じイタリアの巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ監督と競うように大作を連発していたので、本作もかなり気合の入った作品になっていて、あぜんとするようなショットをあちこちに見ることができます。今回の放送に使われるリマスター版は2010年にオリジナルネガから作られたもので、当面これ以上のクオリティは望めないくらいの高画質になっています。冒頭のキリスト像をヘリで運ぶシーンを見ても、クリアで明るい映像になっているのが分かってもらえるはずです。
⑨[デジタルリマスター版]『Shall we ダンス?』
レア度…★★★★☆
次に紹介するのは周防正行監督の代表作で、日本中で大ヒットし、ハリウッドリメイク版も作られた『Shall we ダンス?』です。日々の暮らしに疲れたサラリーマンが、社交ダンスに生きがいを見つけるハートフルコメディとなっています。周防監督はもちろん、この作品をきっかけに役所広司も大きく羽ばたいたと言っても過言ではないでしょう。こちら[デジタルリマスター版]での放送です。明るい中にも、柔らかい照明の感じが心地よく、ストレスなく作品世界に浸れるはずです。
⑩[未DVD・Blu-ray化]『みんな元気』
レア度…★★★★☆
最後にご紹介するのは、DVDにもBlu-rayにもなっていない作品です。『ニュー・シネマ・パラダイス』(’89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、マルチェロ・マストロヤンニを主演に迎えて作った『東京物語』(’53)へのオマージュ『みんな元気』です。映画館も『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じシネスイッチ銀座で公開されました。エンニオ・モリコーネの音楽も素晴らしく、最後は大いに泣かせてくれます。しかし公開以降、ビデオやLDといった当時のメディアを最後にずっとソフト化されてきませんでした。それだけに今回のオンエアは貴重と言えそうです。
※レストア版…マスター素材から、画面上の傷の除去や劣化を修復し本来のクオリティに近づけた作品
※4Kデジタルリマスター版…フィルムに記録された映像を、4Kクオリティでスキャンし最新のデジタル技術を用いて再度マスタリングをした作品
次回、10月号激レア映画もレアな映画が盛りだくさんです。
どうぞお楽しみに!
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トップ画像(クレジット):『Shall we ダンス?』:ⓒ1995 KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 日販