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【9月の激レア映画!】役所広司と周防正行監督がタッグを組んだ『Shall we ダンス?』や、ヴィム・ヴェンダース監督作3作品をはじめ、デジタルリマスター版・未DVD化など貴重な映画を“レア度”とともにご紹介!

 こんにちは。WOWOW加入者向けに配布しているプログラムガイドで「見逃し厳禁!録画のチャンス!今月の激レア映画」の作品選定を行なっている映画ライターの飯塚です。

 9月もプログラムガイドで掲載している通称「激レア映画」企画をコラムにしてnoteでも掲載いたします。プログラムガイドで選定された作品がどれほど貴重な映画なのか、その選定理由とともに作品の魅力について語っていきたいと思います。

文=飯塚克味


①[廃盤]『黒い瞳(1987)』

レア度…★★★☆☆

『黒い瞳(1987)』:ⓒ 1987 Excelsior Film-TV Ⓒ 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.

アテネからイタリアへ向かう客船に乗り込んだ初老のロシア人紳士パヴェルは、船内で同年輩の気さくなイタリア人男性と出会い、ロマーノという相手から恋物語を聞かされることに。貧しい家庭に生まれ育ったロマーノだったが、大学でローマ有数の大銀行家の娘エリザと出会って恋に落ち、その入り婿の座を手に入れる。以後、長年お気楽な生活を送ってきた彼は、湯治場で美しいロシア人の人妻アンナと出会って運命の恋に落ち……。

WOWOW公式サイトより

 まずはDVDが[廃盤]になっているタイトルからご紹介します。
 ロシアの文豪、チェーホフの短編「犬を連れた奥さん」の再映画化『黒い瞳(1987)』です。監督は巨匠ニキータ・ミハルコフ。主演はマルチェロ・マストロヤンニ。原作では保養地で銀行員が人妻に恋するドラマですが、映画ではロシア人の人妻に恋するイタリア人の男性という、国をまたいだ恋愛ドラマに改変されています。国の組み合わせから見ても、名作『ひまわり』(’70)を思い起こさせますが、ロマンチックな仕上がりに公開時は酔いしれるファンが多かったものです。オリジナル版となる1959年の『小犬をつれた貴婦人』も、機会があればぜひご覧いただきたいですね。

②[未ソフト化]『サントメール ある被告』

レア度…★★★☆☆

『サントメール ある被告』:ⓒ SRAB FILMS - ARTE FRANCE CINEMA - 2022

若き女性作家のラマは、フランス北部の町サントメールで開かれた、とある裁判を連日傍聴することに。被告は、生後15カ月の幼いわが娘を海辺に置き去りにして死なせ、殺害容疑で告訴されたロランス。裁判の開始早々、女性の裁判長から「なぜ自分の娘を殺したのですか?」と問われたロランスは、「分かりません。裁判でそれを教えてほしい」と答弁。質疑応答が続くうち、彼女がこれまで歩んできた不幸な境遇が次第に明らかとなる。

WOWOW公式サイトより

 続いては[未ソフト化]の作品です。フランス北部の町、サントメールで行なわれた裁判の記録をそのまま映画化した『サントメール ある被告』になります。15カ月の娘を海辺に置き去りにし、殺人罪に問われたセネガルからの留学生ロランス。その裁判を傍聴する若い女性作家ラマの視点で映画は進行します。監督のアリス・ディオップはドキュメンタリーで実力を認められてきた才人。多くのハリウッドスターや監督たちも本作を絶賛しているだけに、見逃さないでほしい一本です。

③[未ソフト化]『人間の境界』

レア度…★★★★☆

『人間の境界』:ⓒ2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

2021年12月、ヨーロッパ。子どもを含むシリア人の難民一家はヨーロッパに逃げるべく、航空機で向かったベラルーシを経由し、地上で国境を越えてポーランドへ。だが森の自然は過酷で道中は困難を極める。しかもポーランドの国境警備隊によってベラルーシに戻されるが、ベラルーシ軍にまたポーランドに行くよう追い立てられてしまう。一方、ポーランドの国境警備隊や人道支援をする活動家たちにもそれぞれの立場があって……。

WOWOW公式サイトより

 続いても[未ソフト化]の作品です。ポーランドの巨匠アニエスカ・ホランド監督作の『人間の境界』。レオナルド・ディカプリオが若い時に出演した『太陽と月に背いて』('95)や、アカデミー賞にノミネートされた『ソハの地下水道』('11)などが有名です。本作ではベラルーシを経由してポーランドに渡れば安全にヨーロッパに入ることができるとだまされたシリア人家族の姿を描いています。ベラルーシが意図的に開けた抜け道を通った先には、ポーランド側の国境警備隊が待ち構えているという難民にとっては行くも地獄、戻るも地獄の国境越え。ポーランド政権は本作の公開を阻止すべく、さまざまな工作を試みますが、いざ公開となるとポーランド国内で2週連続トップの大ヒットとなったそうです。

④[4Kリマスター版]『遠い声、静かな暮し』

レア度…★★★☆☆

英国リバプールの労働者階級の家庭に生まれ、年老いた祖母と母親、そして、かんしゃく持ちで突如怒りを爆発させ、理不尽なまでに頑固で横暴な父親とともに成長した、アイリーン、メイジー、そしてトニーの3人の子どもたち。長女のアイリーンがめでたい結婚式を迎えた日、子どもたちはそれぞれ、かつて父親と衝突し、やり合った過去のいざこざを思い出しながら、病気でこの世を去り、今はもういない父親に遠く想いをはせる。

WOWOW公式サイトより

 こちらはイギリスの鬼才テレンス・デイヴィス監督の長編デビュー作となった作品『遠い声、静かな暮し』です。1940~50年代のイギリス、リバプールで暮らす家族のドラマなのですが作品タイトルの前半が「遠い声」、後半が「静かな暮し」と付けられています。暴力的な父親が亡くなり、父親を嫌いつつも慕う気持ちも捨てきれない家族の姿が印象的な前半で、父親役を演じたピート・ポスルスウェイトの存在感が圧巻です。彼はハリウッド映画でも『父の祈りを』(’93)や『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(’97)などの作品に多数出演したので、顔を記憶している人も多いでしょう。今回は[4Kリマスター版]での放送となります。

⑤[4Kレストア版]『パリ、テキサス』

レア度…★★★☆☆

『パリ、テキサス』:ⓒ 1984 ROAD MOVIES FILMPRODUKTION GMBH - ARGOS FILMS S.A.S. Ⓒ 2012 WIM WENDERS STIFTUNG - ARGOS FILMS S.A.S.

ロサンゼルス。ウォルトは4年前から音信不通の兄トラヴィスが、テキサスの荒野で放浪中に倒れたと聞き、遠く現地に出向いてトラヴィスを引き取る。トラヴィスは心に何かショックを受けたらしく、世捨て人のようだった。やがてトラヴィスは別れた妻ジェーンとの間に生まれた7歳の息子で、4年間、ウォルトとその妻アンに育てられたハンターと再会。自分の本当の父親だと知らされてもハンターはトラヴィスに心を開こうとせず……。

WOWOW公式サイトより

 こちらの『パリ、テキサス』[4Kレストア版]での放送となります。『PERFECT DAYS』(’23)(※9月に放送あり)で注目を集めるヴィム・ヴェンダース監督作品ですが、何と言っても本作が一番というファンも少なくないでしょう。冒頭、砂漠をさまようひとりの男。バックにはライ・クーダ―の音楽が切なく響きます。このオープニングだけでもう映画の世界に引きずり込まれてしまいます。全てを失った彼の背景に何があったのか? その謎は少しずつ明かされていきますが、クライマックスでは鳥肌が立つほどの感動に包まれるはずです。主演のハリー・ディーン・スタントン、妻役のナスターシャ・キンスキーなど、俳優たちも適材適所で、約2時間半が全然長く感じないはず。発売中のBDは2Kレストア版なので、その違いもぜひチェックしてみたいですね。

⑥[4Kレストア版]『アメリカの友人』

レア度…★★★★☆

『アメリカの友人』:ⓒ Wim Wenders Stiftung 2014

ニューヨークの画家に描かせた贋作絵画をヨーロッパで売る詐欺師リプリーはハンブルクで、白血病で死が近い額縁職人ヨナタンのことを知る。その夜、リプリーはマフィアと関係があるミノから、あるマフィアを殺したいので殺し屋を紹介するよう頼まれる。リプリーはヨナタンをミノに紹介し、ヨナタンはパリで仕事を成功させる。だが、リプリーが恐れた通り、第2の仕事には失敗し、リプレーはヨナタンとともにマフィアと戦うことに。

WOWOW公式サイトより

 次も[4Kレストア版]でよみがえった作品です。ヴィム・ヴェンダース監督が1977年に作った『アメリカの友人』です。日本でも1977年に劇場公開されたようですが、私の記憶にあるのは『パリ、テキサス』(’84)のヒットを受けて、1987年にリバイバル上映された時のことです。『ノスフェラトゥ』(’78)や『白い町で』(’83)など、ミニシアター系で実力を示してきたブルーノ・ガンツが、『イージー★ライダー』(’69)のデニス・ホッパーと共演したというだけで、映画館へ行く価値は十分でした。話は不治の病に侵された額縁職人が殺人を依頼されるというちょっと奇妙なサスペンスものですが、ヴェンダースらしいムードに満ちた、魅力的な一本に仕上がっています。

⑦[4Kレストア版][廃盤]『ことの次第』

レア度…★★★★★

『ことの次第』:ⓒ 2015 WIM WENDERS STIFTUNG

スタッフやキャストとともにポルトガルの海辺のホテルに合宿し、自身初の映画監督作となるモノクロのSF映画のロケ撮影に励んでいたフリッツ。しかし、製作資金が底を突いて、撮影がストップするという予期せぬ事態に彼らは直面。一同に不安や混乱が広がる中、フリッツは、これまで撮影したフィルムを抱えて姿をくらました製作者のゴードンを捜しに、ハリウッドまで出向くことに。ようやく彼を捜し当てたフリッツだったが……。

WOWOW公式サイトより

 ヴィム・ヴェンダース監督が、『ハメット』(’82)でハリウッド進出した際、製作を担ったフランシス・フォード・コッポラとの確執から生まれた『ことの次第』[4Kレストア版]での放送になります。製作途中で、フィルムのストックが切れてしまったSF映画の撮影隊。宿泊先のホテルで時間をつぶすスタッフたち。撮影監督は家族に不幸があり戻ってしまう。監督はプロデューサーを捜してハリウッドへ向かうという物語。もう、体験したまま描かれているという感じですが、なんとヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞してしまうのだから、映画は面白いです。サミュエル・フラーやロジャー・コーマンといった映画人たちの出演も必見です。

⑧[4Kデジタルリマスター版]『甘い生活』

レア度…★★★★☆

『甘い生活』:ⓒRizzoli 1960

かつて作家志望の夢を抱いてローマにやって来たものの、今や特ダネを追い求めて社交界の人々の後をつけ回す、しがないゴシップ記者となったマルチェロ。婚約者がありながら、彼は豪華なナイトクラブで知り合った富豪の娘マダレーナと一夜を過ごしたり、ローマへやって来たハリウッドの人気グラマー女優シルヴィアを取材して、天真爛漫そのものの彼女にすっかりのぼせ上がったりと、享楽的でせわしない生活を送っていたが……。

WOWOW公式サイトより

 イタリア映画黄金期の巨匠フェデリコ・フェリーニの代表作の一本『甘い生活』という作品で、[4Kデジタルリマスター版]での放送です。マルチェロ・マストロヤンニ演じるゴシップ記者がローマの街をさまよいながら、喧騒の毎日を送っていきます。この時期フェリーニ監督は、同じイタリアの巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ監督と競うように大作を連発していたので、本作もかなり気合の入った作品になっていて、あぜんとするようなショットをあちこちに見ることができます。今回の放送に使われるリマスター版は2010年にオリジナルネガから作られたもので、当面これ以上のクオリティは望めないくらいの高画質になっています。冒頭のキリスト像をヘリで運ぶシーンを見ても、クリアで明るい映像になっているのが分かってもらえるはずです。

⑨[デジタルリマスター版]『Shall we ダンス?』

レア度…★★★★☆

『Shall we ダンス?』:ⓒ1995 KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 日販

会社で経理の仕事をする杉山。妻子が待つ自宅に帰る通勤電車の窓から見上げたダンス教室の窓辺に立つ、ある美女の寂しげな表情に惹かれる。後日、彼はためらいながらもダンス教室へ。そこには、講師である先日の美女・舞や、個性豊かな練習生たちがいた。最初は舞に近づきたい一心だった杉山だが、彼女のダンスに対する思いに気持ちも変わり、次第に社交ダンスに夢中になる。そして、コンテストに出場できるほど上達するが……。

WOWOW公式サイトより

 次に紹介するのは周防正行監督の代表作で、日本中で大ヒットし、ハリウッドリメイク版も作られた『Shall we ダンス?』です。日々の暮らしに疲れたサラリーマンが、社交ダンスに生きがいを見つけるハートフルコメディとなっています。周防監督はもちろん、この作品をきっかけに役所広司も大きく羽ばたいたと言っても過言ではないでしょう。こちら[デジタルリマスター版]での放送です。明るい中にも、柔らかい照明の感じが心地よく、ストレスなく作品世界に浸れるはずです。

⑩[未DVD・Blu-ray化]『みんな元気』

レア度…★★★★☆

イタリアのシチリア島。そこでずっと暮らしてきた70歳の老男性マッテオは、今年の自分の誕生日に5人の子どもが集まってくれないと知り、ならばこちらから子どもたちを訪ねようと、彼らが住むイタリア各地に向かう旅に出発する。だが大人になった子どもたちはそれぞれ自分たちの生活を送る上でさまざまな問題を抱え、中には行方不明になってしまった者もいた。やがてマッテオは、ある衝撃的な事実を知って大きく落胆するが……。

WOWOW公式サイトより

 最後にご紹介するのは、DVDにもBlu-rayにもなっていない作品です。『ニュー・シネマ・パラダイス』(’89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、マルチェロ・マストロヤンニを主演に迎えて作った『東京物語』(’53)へのオマージュ『みんな元気』です。映画館も『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じシネスイッチ銀座で公開されました。エンニオ・モリコーネの音楽も素晴らしく、最後は大いに泣かせてくれます。しかし公開以降、ビデオやLDといった当時のメディアを最後にずっとソフト化されてきませんでした。それだけに今回のオンエアは貴重と言えそうです。

 ※レストア版…マスター素材から、画面上の傷の除去や劣化を修復し本来のクオリティに近づけた作品

 ※4Kデジタルリマスター版…フィルムに記録された映像を、4Kクオリティでスキャンし最新のデジタル技術を用いて再度マスタリングをした作品

 次回、10月号激レア映画もレアな映画が盛りだくさんです。
 どうぞお楽しみに!

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トップ画像(クレジット):『Shall we ダンス?』:ⓒ1995 KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 日販