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話題のタイBLドラマ「2gether&Still 2gether」とセットで読みたい本5選!

WOWOWブッククラブでは、毎月のテーマに沿ったおすすめ番組と関連する本を記事としてまとめ、noteをご覧になるみなさんにお届けしてゆきます。

12月の番組テーマは「2gether&Still 2gether」

Twitter世界トレンド1位を記録し、話題性、人気ともに、タイのBLドラマ史上、ナンバーワンと評されるドラマが、12月から好評放送中です。今回、番組をより楽しんでいただくために5冊の本をセレクトしました。

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今月の選書のポイント

少年愛に正面から向き合った作品であったり、そもそもBLってなんだ?ということを考えさせてくれる一冊であったり。またドラマの舞台となる「タイ」人の作家が描いたユニークな漫画から、名作と呼ばれる小説まで幅広くラインナップしています。

それでは番組とセットで読んでほしい5冊をご紹介します。

選書・コメント=幅允孝(WOWOWブッククラブ部長)

1冊目:風と木の詩

竹宮惠子(著)
白泉社文庫

1976年に連載がはじまり、84年まで続いていた少年愛を真正面から描き切った大名作マンガがこちら。ヘルマン・ヘッセの『デミアン』や稲垣足穂の『少年愛の美学』など、様々な文学作品の影響を受けながらも見事に別次元へと昇華させました。

19世紀末、フランスのアルルにあったラコンブラード学院の寄宿舎で繰り広げられる思春期の多感な少年たちの物語。ジルベールとセルジュという二人の少年を中心にしながら、友情、愛欲、嫉妬など様々な感情を抱えた純粋な彼らが、無垢なまま生きることの難しさを丁寧に描きます。

なかでも魅力的な少年ジルベールは、難しい生い立ちを抱えながらも圧倒的な美しさを持っています。孤独で誇り高く淋しいジルベール。そんな彼の悪魔的な側面と、天使のような純真さが、セルジュの中に少しずつ染み込んでいくのです。

少女マンガだけでなく、物語における人間の内面の描き方がその後ガラリと変わるきっかけにもなったこのエポックメイキングな作品は40年以上前の作品ですが、40年後も確実に読み継がれていると思います。

2冊目:ボクたちのBL論

サンキュータツオ、春日太一 (著)
河出文庫

突然で恐縮ですが、僕はヘテロセクシュアルで異性愛しかしてこなかった人間なので、「2gether」という「男の子2人が心も体も近くなっていくBL作品」がテーマと言われた時、そもそもどう楽しめばいいのかわからなかったのです。

ところが、同じヘテロのサンキュータツオさんが書いたこの本を読んで、開眼とまではいきませんが、とても前向きになりました。BLとは脳内で想像と妄想を駆使しながら、人と人の関係性を探る知的遊戯なんですね。

目の前にある鉛筆と消しゴムの関係性を見立てるところから始まり、物語の行間読みや、共感覚、カップリングの妙、果ては母性の目覚めなど、様々なBL作品に様々な方向から光を当てて新しい読者を誘う道標的な1冊だと思います。

「妄想世界において性差とか性別っていうのは一つの属性にすぎない」という名言がこの本には紹介されているのですが、人間という生き物は驚くほど多様な可能性を秘めた器なのだと思える健やかな視点をいただきました。サンキュー、タツオさん!

3冊目:仮面の告白

三島由紀夫 (著)
新潮文庫

「2gether」は、偽の恋人契約から物語が始まるのですが、他人には言えない内面の吐露といえば、この傑作を外す分けにはいかないでしょう。

三島由紀夫の初期の代表作『仮面の告白』は、彼が24歳の時に書いた半自伝的作品。主人公の「私」は人と違う性的傾向に悩み、自分が普通の異性愛にどうしても没入できないことに悩むのですが、そんな自分に対して冷静なメスを入れ解剖していくような視点がこの小説の特殊さです。

鉄棒で懸垂をする友人の脇の毛を見て驚き、刮目し、嫉妬するのだけれど、その嫉妬がどこからきているのかまで主人公は考えます。自身の内側から湧き出す生命としての衝動を客観的に分析し、筋肉との同化まで志向する自分を見つめるのですが、作者自身のその後の来歴を考えると、なんとも正直で真面目な書き手とも言えるでしょう。

実際、この青臭くロマンティックな三島の初期衝動には、そのあと彼の物語に頻繁に登場する海や落日や死といったモチーフが盛り込まれ、ここから大作家の一歩が始発したのだと知ることができます。

自分は自分でありたくないという激しい自己否定の欲求までも冷静に書いてしまう、内面を凝視する狂気。そんな地平にキャリア初期で到達してしまった三島由紀夫の他の作品も含めて、今だからこそ読み直したい1冊です。

4冊目:これからの男の子たちへ :「男らしさ」から自由になるためのレッスン

太田啓子(著)
大月書店

「男らしさ」というものに対し、我々はどれだけ意識的なのかということを考える時に多くのヒントをもらえる1冊。

著者の太田啓子さんは性差別や性暴力の問題を社会からなくすために活動する弁護士で、他方2人の男の子を女手一つで育てる母でもあります。

そんな彼女が、男の子であることの特権と、逆に社会から縛られている点を整理し諭してくれることで、今まで当たり前に通り過ぎていた事実に立ち止まり、考えることができます。

「男の子だからしょうがない」と放置されてきた、「スカートめくり」などの悪戯も、受けた相手の不快感と嫌悪感は体と心に溜まってしまう可能性があります。異性に対する考え方や、接する際の基本的な約束事なんて、誰もが「そんなこと知ってるよ」というかもしれませんが、実は決して学校では教えてくれないこと。

そんなひとつひとつのことを理知的に、でも熱を帯びて伝えようとする太田さんの声は、多くの公平な目を持つ男の子を育てるはずです。

5冊目:ブランコ

ウィスット・ポンニミット(著)
小学館

タムくんの愛称で知られる、タイ出身のマンガ家、イラストレーター、アーティストの描いた初の長編マンガ作品がこちら。随所にタイ文化を感じさせてくれる「2gether」ですが、日本で活躍するタイ人の才能も知ってください。

『ブランコ』とは、南の国の海辺に住んでいる主人公の少女のこと。幼い頃、ママをUFOに拐われ、それを追って行ったパパも戻らないのですが、そんな両親を取り戻すために彼女は長い旅に出るのです。

良い意味で気の抜けた、柔らかく優しい線で人間の細やかな心の機微や移ろいを丁寧にすくい上げるのがタムくんの作品の魅力ですが、この作品はブランコの家族探しがやがて人類の危機と対峙するという壮大なものになっていきます。

また、主人公のブランコは過去や未来をのぞく能力を物語内で身につけるのですが、幾重にも時間を重ねる不思議で複雑な作品構造が、とぼけた筆致とミスマッチで何故か作品の魅力を増幅させています。

ブランコのように人の心は常に揺らぎ、ひょっとしたらこうなるかもしれない未来や変えられない過去を想うことは誰もがあること。そんなものを抱えながら、それでも人は前に進むのだという願いが凝縮した名作です。

これまで紹介した本

先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。

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