ザ・ストリート・スライダーズの日比谷野外大音楽堂公演がスペシャルGIGとして追加決定!ホーンセクションを加えた特別なメニューで、至極のリズム&ブルースが響き渡った夜
昨年、日本の音楽シーンを騒然とさせたビッグニュース。それは、ザ・ストリート・スライダーズ奇跡の再集結だった。彼らはデビュー40周年を迎えて、熱い要望に応える形で5月に日本武道館公演を開催。秋には全国ツアー「ROCK'N'ROLL」を展開し、各地で熱狂のステージを繰り広げた。
今年3月からは40周年ファイナルツアー「Thank You!」を敢行。感謝の気持ちを全国に届けたスライダーズだが、その真っ只中の4月6日に、日比谷野外大音楽堂でスペシャルなメニューでのGIGが追加決定した。
4月にしては肌寒く今にも雨が降り出しそうな曇り空の下、“野音”に詰めかけた満場の観衆はそれぞれのスタンスでショウの始まりを待っていた。昨年の武道館では、開演前から張り詰めた緊張感が爆発しそうだったが、この日は開放感があり海外のロックフェスティバルのような自由な空気が包んでいた。
定刻を少し過ぎ、メンバー4人が思い出深い場所に立つ。
村越‟HARRY”弘明(Vo., G.)
土屋‟蘭丸”公平(G., Vo.)
市川‟JAMES”洋二(Bass., Vo.)
鈴木‟ZUZU”将雄(Dr.)
客席のあちこちから地鳴りのような拍手が湧き上がる。野太い雄叫びからメンバーの名を連呼する声まで、熱量が様々なカタチで発せられる。
それらすべてを受け止めて、HARRYが「Hello!」と投げ掛ける。1曲目は名刺代わりとも言える「SLIDER」。野外ならではの音の広がりが実に心地好い。冒頭から彼らが大切にしてきた“抜け感”を存分に満喫出来る。
続く「おかかえ運転手にはなりたくない」では、HARRYと蘭丸のギターが共鳴し、心に突き刺さる。尖ったギターとルーズなリズムが織り成すのは、まさに“ブルース”だ。
イントロから聴き手の心を鷲掴みにしたのは「Angel Duster」だ。JAMESとZUZUが生み出す骨太なグルーヴの上で、印象的なギターリフが放たれる。“この街の風は乾いてる”というHARRYの枯れた叫びが胸を締め付ける。
閉塞感からの脱却を歌う「Let’s go down the street」では、HARRYと蘭丸が歌とギターで心を合わせる。ギリギリの刹那と爆発寸前のエモーション。シュールな心模様を繊細に描く演奏に釘付けだ。二人身体を向き合いギターを弾く姿が、いつにも増してスリリングだ。
圧巻は名バラード「のら犬にさえなれない」だった。HARRYのしゃがれたシャウトが誰もの心を鷲掴みにする。「空は晴れてるのに 雨が降ってるのさ」と寒空の下で歌う。現実という名の不条理を生きる者の心象風景が、よりヘヴィに伝わって来る名演だった。
その後、セカンドアルバム『がんじがらめ』収録の「Dancin' Doll」、ファーストアルバム『SLIDER JOINT』から「すれちがい」と、初期のスローなナンバーを続ける。作品の世界観が、この日の天気と同期していく。悪天候さえも演出に加えてしまうのは、“20世紀日本音楽史上最強にして最後のロックンロールバンド”の胆力だろうか。見上げると、灰色の空から数滴の雨粒が落ちて来た。
1988(昭和63)年9月に発表された14枚目のシングル「ありったけのコイン」からJOY-POPS(村越弘明と土屋公平のユニット)名義で2020年代に入り発表された新曲「曇った空に光放ち」と「ミッドナイト・アワー」への流れも素晴らしかった。
適度な距離感を保ちクールな視点で丁寧に紡がれたコトバを、芯の強いバンドアンサンブルが支える。表現と向き合う一貫した姿勢が、彼らの音楽の時代を超える普遍性を創り出している。改めてそう感じた。
セカンドシングルにして圧倒的な求心力を持つナンバー「カメレオン」で聴衆を酔わせた後は、JAMESが歌う「Rock On」、蘭丸の“Come on, HARRY!”の叫びに痺れた「ROCK‘N ROLL SISTER」へ。ZUZUが叩くドラムスの爆音が演奏に厚みを加えていく。オーディエンス狂喜乱舞のアップチューンを続けた頃には夜も更けて、ステージを灯す照明が彼らの演奏に妖しい彩りを加えていた。
場内が暗転し、3人のホーンセクションが登場する。スペシャルなサプライズとして、この日だけの特別なアンサンブルで「Oh!神様」を披露すると、日比谷の夜に着火したロックンロールは「BADな女」でさらに加速する。HARRYの叫びが伸びやかに艶を増していき、ステージ前方に駆け出した蘭丸のギターソロも目一杯弾けていった。
本編ラストはロックナンバー「Back To Back」。ホーンが加わった演奏で、野音はまさにダンス天国だ。会場の熱気は低気圧を吹き飛ばす強い渦となって、蒼天に舞い上がっていった。
熱いアンコールに応えて、再び4人がステージに戻って来る。1曲目は解散前夜の1997年に両A面シングルとして発表された「いつか見たかげろう」。バンドの足跡を振り返る歌が、40周年アニバーサリーを経て蘇る。ひとつひとつの歌詞を噛みしめながら音に身を委ねる観客の姿もとても印象的だった。
最後の最後は「風の街に生まれ」。4人が放つバンドサウンドがこの1年間の活動を経て、さらに芳醇になったことが体感出来る演奏で幕は閉じた。
WOWOWオンデマンドでは、5月5日までこのスペシャルメニューでの日比谷野外大音楽堂公演を見逃し配信中だ。また、6月にはリピート放送・配信も予定している。
老若男女問わず音楽を愛するすべての人に、彼らが日比谷野外大音楽堂で魅せた奥深いリズム&ブルースを体感して欲しい。不変不滅のロックンロールバンド、ザ・ストリート・スライダーズの真髄がそこにある。
撮影:三浦麻旅子
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