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「WOWOWミュージカルラウンジ」のプロデューサー2人が語る、“ミュージカルの魅力を伝える使命”とは

 9月26日にスタートしたWOWOWミュージカルラウンジ。国内外のミュージカルの魅力を堪能できる新しいコミュニティサイトだ。これまでも国内外のミュージカル作品をはじめ珠玉のステージを放送してきたWOWOWで、新たにミュージカルのコミュニティを立ち上げたプロデューサー、金山麻衣子さんと、大原康明さんにその想いをたっぷり聞いた。

取材・文=三浦真紀 @mimacki

「第74回トニー賞授賞式」は“2日間のお祭り”にしようと決めていました

――まずはお2人のお仕事、役割を教えてください。

金山「制作部で番組作りを担当しています。オリジナル番組やステージ中継を開発する部署のプロデューサーとして、『トニー賞授賞式』の中継や『福田雄一×井上芳雄「グリーン&ブラックス」』の制作を手掛けています」

大原「私は2020年の夏にできたコミュニティサービス部に所属しています。『WOWOWミュージカルラウンジ』のようなコミュニティを構築する部署です。主要なジャンルを決めてコミュニティ化、サービスの内容を考える仕事で、金山はこちらと兼務しています」

金山「いろいろな部署と連携しながら、番組を企画制作する形ですね」

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――9月27日放送の「トニー賞授賞式」では前夜祭から生中継、復習まで充実したプログラムで楽しませていただきました。反響はいかがでしたか。

金山「SNSでは追い切れないくらいの反応を頂いて、大きな手応えを感じています」

大原「今までのトニー賞授賞式では、朝の8時から13時までの中継5時間が唯一のお客さんとの接点でした。今年は2年ぶりにお届けできること、またコミュニティサイト『WOWOWミュージカルラウンジ』のオープンもあり、2日間、48時間“ミュージカル尽くしのお祭り”として、ニューヨークのブロードウェイ復活への期待、当日の興奮、その余韻までしっかりお届けしました。コアなファンはもちろん、ミュージカルに接点のない方まで幅広く面白いと喜んでくださったのがうれしかったです」

――特別なトニー賞授賞式でしたが、印象深かったことは?

金山「通底していたテーマ『Broadway’s Back!』、この一言に尽きます。私たちもこのテーマの下に、半年ほどブロードウェイの演劇人たちに密着してブロードウェイ復活を番組で伝えました。トニー賞はもともと賞レースというより、演劇人たちの1年間の活動をたたえる賞だと思っていましたが、今年はそれがより色濃く出ていましたね。また演劇人の追悼コーナーで、多数のお名前が幕一面に掲出された時、1年半のブロードウェイの軌跡、喜びも悲しみも詰め込んで、それでも一旦ここを区切りとして演劇人たちの功績をたたえようという心意気を感じました。劇場であれほど多くのお客様を招いて授賞式ができたことが感慨深くて…。パフォーマンスがすばらしいのはもちろん、全体を包むムードが格別。2021年はブロードウェイの歴史に残る年として後々語られるのではないでしょうか」

大原「パフォーマンスはすべて圧倒的で、『ムーラン・ルージュ』のパフォーマンスも『ティナ/ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』エイドリアン・ウォーレンもすごかったです! あと個人的には『ジャグド・リトル・ピル』の振付家シディ・ラルビ・シェルカウイ。実はかつて彼のドキュメンタリーを制作したことがあり、この授賞式に姿があるのはうれしいことでした。今回のトニー賞はテーマが明確で、演劇界全体に希望を与えよう、みんなこっちを向こうよ! というメッセージが痛快でした。トニー賞が単に演劇における優れたものを決める場ではなく、演劇業界全体の旗振り役になっている懐の広さ、存在意義は改めて大きいと思いました」

ここ数年で日本における「ミュージカル」の認知度が急上昇

――WOWOWで2014年から始まったトニー賞授賞式の中継。当時はまだ「トニー賞って何?」という頃だったのではないかと想像しますが、日本のミュージカルに対する認知度は変わってきましたか?

金山「2014年は井上芳雄さん、山崎育三郎さん、浦井健治さんがユニットStarSを結成した直後で、WOWOWで『(福田雄一×StarS)トライベッカ』の企画が動き始めた頃。今ほど、地上波などのいわゆるお茶の間で、皆さんのお名前が一目で分かる! という時期ではなかったと思います。その後、フジテレビ系の「FNS歌謡祭」にミュージカルコーナーができて、NHKの朝ドラでミュージカル俳優が多く出演するなど、注目を集めるようになりました。
近年では、映像の世界で活躍される人気俳優の方々がミュージカルに出演することも増え、ミュージカルの認知度も格段に上がりました。『ミュージカルは急に歌い踊って違和感がある』なんて言われていた頃とは打って変わって、今は皆さんミュージカルに興味津々。とても面白い流れです!」

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――ミュージカル映画のメガヒットも、ミュージカル人気を後押ししていますね。

金山「そうなんです。それも日本だけでなく、世界中で同時多発的に起きている。人の心が、“歌って踊る物語”を必要としているのかもしれませんね。『レ・ミゼラブル』(’12)の映画化に始まり、『ラ・ラ・ランド』(’16)『グレイテスト・ショーマン』(’17)、今年も『イン・ザ・ハイツ』『ディア・エヴァン・ハンセン』『ウエスト・サイド・ストーリー』(すべて’21)とめじろ押しです」

大原「私と同世代の20代、30代は世の中に刺激的なエンターテインメントがあふれていて、演劇文化に触れる機会が決して多くない世代です。一方で、小さな頃からディズニー映画を通してミュージカル文化に触れるなど、自然とミュージカルの免疫がある人たちが育っている。そのため、彼らが大人になってミュージカルを見ると、なぜか心が躍る、惹かれるというところにつながっているような気がします」

金山「確かにディズニーアニメーションの影響は大きいです。ディズニーランドやディズニーシーの経験も」

大原「ディズニーは音楽、エンターテインメントを一番吸収しやすい幼少期に大きな役割を果たしていると思います。海宝直人さんもディズニーが大好きでずっと見ていたとおっしゃっていましたね。そんな彼が今や希代のミュージカルスターですからね!」

「WOWOWミュージカルラウンジ」をミュージカル文化発展のきっかけに

――9月26日に「WOWOWミュージカルラウンジ」がオープンしました。立ち上げた理由を教えてください。

大原「WOWOWはこれまで放送局としてやってきましたが、メディアの多様化やデジタル化、他の配信媒体の登場により、視聴者との接点の必要性を感じるようになってきました。また映画やドラマで顕著なように、大きな動画配信プラットフォームが隆盛を極める今、普通に作品をお届けするだけでは制作費勝負になってしまいます。年間数千億円規模のコンテンツ制作費を投下している海外プラットフォームと勝負をするのはかなり厳しい話。それなら、作品に至る過程や体験、見終わった後の裏話、さまざまな視点から楽しめる副音声など、WOWOWならではの体験をお届けすべきだと考えて、これまで複数のコミュニティを立ち上げてきました。
中でもミュージカルは大切なジャンルとして、金山をはじめとするプロデューサー陣が何年もかけて育ててきました。私も今まで知らなかったんですが、かつてWOWOWもトニー賞作品賞を受賞した作品に出資していて、トニー賞のトロフィーが社長室に飾られているという、90年代からバトンが渡されてきた歴史があります。視聴者にもミュージカル愛にあふれた方が多く、そんな皆さんに、WOWOWでのミュージカル体験を通じて、さらに深く楽しんでいただきたいなと思っています。最初のきっかけは役者さんが好き、『レ・ミゼラブル』を観たかったとか、何でもいいんです。
WOWOWでミュージカルを体験することで、より深く知りたくなった、ブロードウェイに行きたくなったなど、さらなる興味を持っていただけたらうれしいですね。WOWOWがミュージカルに貢献することで日本のミュージカルの裾野を広げて、文化としての成熟を目指したい。そんな想いの下に、『WOWOWミュージカルラウンジ』が始まりました」

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――ジャンルを「ミュージカル」に絞った理由はありますか?

大原「トニー賞にはストレートプレイも含まれますが、基本はミュージカルの華々しい祭典。またミュージカルのオリジナル番組をやってるのも大きいです。ミュージカルとストレートプレイはファン層が違うので、一緒にするよりは、まずはミュージカルを旗振り役にして、演劇界全体を盛り上げていきたいと思っています」

――ミュージカル文化への貢献、一緒につくっていこうという志はどこから生まれたものでしょうか。

金山「『トニー賞授賞式』の放送が始まった2014年から、ミュージカルに向き合っていきたいという気持ちがありました。初年度の放送でお客様に楽しんでいただけた実感があり、そこから『トライベッカ』『グリーン&ブラックス』などのWOWOWオリジナル番組を作るなど、実践しながら取り組んできました。ミュージカル俳優のすごさを伝えたい、というのもありますね。井上芳雄さんが『ミュージカル俳優には歌、ダンス、芝居に加えて、笑いの要素が重要』とよく話されているように、エンターテイナーとしてのすばらしい才能や高い能力を持つ人たちが本当に多いんです。
また、日本でどれだけ多くのミュージカル作品が上演されているかなど、他では知ることができない番組を作って伝えていく。トニー賞の放送が始まって、この7年は私たち自身が“ミュージカルの魅力を伝える使命”を意識するプロセスでもあったと思います」

――「WOWOWミュージカルラウンジ」のコンテンツについてお聞かせください。まず「WOWOWミュージカルラウンジ」アンバサダーの海宝直人さんがミュージカルについて語る特別番組「海宝直人のMr.Musical」について。

大原「ミュージカルって、作品の裏にある文化的背景や歴史にも面白さがあるんですね。例えば、ディズニープリンセスの歴史を見ても、かつては受け身だったプリンセスたちがどう変遷してきたか。『アナと雪の女王』(’13)に至っては、“キラキラの王子様像”をディズニー自ら否定するような価値観の移り変わり。海宝さんはそういった文化や歴史背景を含めて興味をお持ちで、オタクのように(笑)自らリサーチなさっています。またミュージカルはブロードウェイだけでなく、ロンドン、ソウル、ウィーン、パリなど世界中にある文化。その点、研究心が旺盛な海宝さんは、文化の橋渡しにぴったりだと思いました。
私が去年担当した大原櫻子さんの生配信番組の初回ゲストが海宝さんで。ちょうど『ミス・サイゴン』が中止になった時期で、その時の海宝さんのひたむきな姿勢やミュージカル愛がとても印象に残っていました。『いつかこの方と巡り合う気がするなぁ』と思っていたら、私がミュージカル担当へと異動になって。ディズニー作品とのつながりも含め、ミュージカルラウンジは海宝さんしかいない! とオファーさせていただきました」

金山「子どもの頃からミュージカルに出演し、この道一筋。年輪が太い方です」

大原「骨の髄までミュージカル人ですね!(笑)」

――そして毎月ブロードウェイを愛する演劇人が現地でのおすすめの過ごし方を紹介する「My Broadway」は?

大原「海外に観劇に行った際、何を着て、観劇前にどこで何を食べるか、空いた時間はどう過ごすかなど、海外ならではの“観劇前後の楽しみ方”をミュージカルスターがご提案するコンテンツです。第1回は柚希礼音さん、第2回は大野拓朗さんにご登場いただきます。今はコロナ禍により渡航しづらい状態ですが、ゆくゆくは海外の観劇ツアーをWOWOWがプロデュースして、ミュージカルスターおすすめスポットなどを巡りながら『トニー賞授賞式』を本場で観る…というのも素敵かな! などと考えています」

――他にも「グリーン&ブラックス」の「Musical Song List」や「ミュージカル用語辞典」もありますね。

大原「『Musical Song List』は番組で放送された楽曲、歌われた曲のセットリスト。Spotifyユーザーの方はすぐに原曲を聴くことができます。またミュージカルは専門用語が多用されているので、例えば『プリンシパルって何? マチソワって?』というミュージカル初心者の方のために、専門用語をイラスト付きで解説。ライトな方もコアなファンの方も皆さんが楽しめるようになっています」

――この先、「WOWOWミュージカルラウンジ」でやりたいことは?

大原「子どもたちがミュージカル俳優やミュージカル音楽の作曲家を目指す、その道をつくるためには何ができるかを考えています。海外ミュージカルとつながっているWOWOWの強みを生かして、トップクリエイターやトニー賞受賞作で活躍する方々と日本の子どもたちをつないでワークショップを開き、コンテンツ化するなど、どんどん広がりを持たせていきたいです」

WOWOWがミュージカル文化を支えて応援すると宣言

――ミュージカル文化を後押しする社会的意義はどんなところだと思われますか。

金山「ブロードウェイがこの1年半閉鎖したことで、ニューヨークにおけるブロードウェイ(劇場街)の強さを実感しました。演劇が街を支え、行政もそれを政策として後押しして、共に文化・経済を発展させ、守る。その仕組みが整っているんですね。
一方、日本では、ニューヨークほどの街と文化との密接な関係はないように思います。野球やサッカーなどの人気スポーツジャンルと比較して、支える人口も少ないでしょう。そこでWOWOWが無鉄砲に(笑)、ミュージカルを支え、応援すると宣言することで、その先にある新しいミュージカルの未来を見たいなと」

――その未来に向けて、何か施策はあるのでしょうか。WOWOWでオリジナルミュージカルを作るなど…?

金山「はい。先日解禁したばかりなんですが、2022年夏には、WOWOWが初めてブロードウェイミュージカル『ジャニス・ジョプリン(原題A Night with Janis Joplin)』日本版をプロデュースします。亀田誠治さんが総合演出を務め、日本人キャストにより上演。WOWOWがさらに立体的にミュージカルと向き合っていく形になります。
またトニー賞を日本で放送しているご縁も含めて、『日本版トニー賞』の創設も視野に入れているんです。中立的立場のWOWOWが旗を振ることで、演劇・ミュージカル業界の“横のつながり”が深まって実現できれば、日本におけるミュージカル文化のステージが一段階上がっていくのではと本気で思い始めています」

大原「これまで日本を代表するそうそうたるカンパニーが血のにじむような想いと汗、時には涙を流しながらミュージカルを作ってこられました。われわれがどんな恩返しができるのかと考えると、金山が言った『トニー賞日本版』みたいなものを作り、微力ながら貢献できたらいいですね」

金山「そして、ミュージカル界で活躍する方々の才能のすごさ、すばらしさをしっかり伝えていきたいと思います。『トニー賞授賞式』の中継を通して、あの舞台に立ってみたい! すごく惹かれる! という、夢や希望に触れる機会を提供することが大事だと改めて思ったので」

大原「『トニー賞授賞式』の前にYouTubeで配信した『ミュージカル作戦会議』でも、われわれが思っている方向性が間違っていなかったと気付かされる瞬間がありました。劇作家の藤沢文翁さんのお話で、ロンドンのタクシー運転手の方にトレンドのミュージカルを聞くと、8割ぐらいの人が実際に観た感想を語ってくれるとか。つまり、向こうではそのくらいミュージカルが文化として根付いているわけです。日本でミュージカルの可能性をより開くための力になりたいし、ゆくゆくは子どもたちの将来の夢として、野球選手やYouTuberと並んでミュージカル俳優、ミュージカル作曲家が入るようになってほしい。
普段から学校や職場で、例えば『「ナイツ・テイル」いつ観に行く?』となるように…。そうなれば当然、才能も芽生え、ミュージカルに興味を持つ人が、野球やサッカーと同じようにそこを目指して輝いていける。そんな環境をつくる力になりたいです」

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三浦真紀さんプロフ

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