気になる本はありますか?日本のロックの一大ジャンル!「ヴィジュアル系主義」とセットで読みたい本4選!
4月の番組テーマは「ヴィジュアル系主義」
人気ヴィジュアル系バンドを毎月1組フィーチャーするレギュラー番組『ヴィジュアル系主義』。
ヴィジュアル系。1990年代に躍進を遂げ、海外でも絶大な人気を誇る日本のロックの一大ジャンルへと成長しました。
ブッククラブ部長の幅さんは今回、ご自身で勉強しながら番組をより楽しんでいただくための4冊の本をセレクトしました。
1冊目:バンギャルちゃんの日常
蟹めんま(著)
エンターブレイン
バンギャル歴20年という蟹めんまさんのコミックエッセイ。V系素人でも近しく感じるのはその来歴で、奈良県というV系不毛の地に生まれ育ち、バンギャル仲間もいない中、どう活動していたかを赤裸々に紹介しています。
中学生という多感な時期にヴィジュアル系に目覚め、彼らへの愛を深めながらも、お金がないことや門限もあり、中々行動に移せないストレスを日々抱える蟹めんまさん。
一人孤独にバンギャルになってしまったことへの嘆きも織り交ぜつつ、たくましくバンギャル道を歩む姿が描かれます。
チケ発(チケットの発売日)に合わせて土曜の朝は早起きしたり、Mステで異彩を放つバンドメンバーや、彼らの人柄が見えるトークや立ち振る舞いに心を打たれたりなど、彼女たちのひたむきさを客観的に、かつ愛いっぱいに紹介しています。
バンギャルの生態を愉快に描いているのはもちろんですが、付属のバンギャル用語辞典も分かりやすく必見です。
というのも、バンギャルの生き様やその熱の正体について、用語を一般化することで、誰にでも伝わるようにしたのが最大の功績。愛と笑いの傑作マンガです。
2冊目:すべての道はV系へ通ず。
シンコーミュージック
市川哲史, 藤谷千明(著)
長年音楽評論家として活躍し、V系の最盛期に彼らへ最も肉薄した市川さんと、当時はいちファンとしてV系に触れ続けてきたライター 藤谷さんの、世代を超えた対談を収録したのがこちらの一冊です。
市川さんは2008年に『さよなら『ヴィジュアル系』』という本を発刊するほど、当時のV系事情に精通していたものの、今もV系を追いかける藤谷さんに現在進行形の情報量は及びません。
第一世代と呼ばれる市川さんが、藤谷さんを半ば問い詰めるような形式で話は進み、膨大なデータをもとに対談を上手く転がしていきます。藤谷さんが現在の視点で見つめ、市川さんが俯瞰して噛み砕いていく展開は見ものです。
V系は音楽ジャンルの中でも特殊で、レーベル主導ではなく、何も持っていない若者が積み上げてきた歴史を抱えています。ヤンキー文化と密接だったV系が、オタク文化の象徴へとシフトしていくダイナミズムも見どころの一つです。
闇や絶望を語るネガティブの具現がヤンキー的ではありつつも、いい意味での頑張らなさが、日本独自のユニークなコンセプトに昇華されているという分析など、膝を打つ文言が並びます。
V系の痛快でアナーキーなエンタメ性をゴールデンボンバーに見出すなど、多種多様な形態のバンドが林立する中、まだまだ現状をひっくり返す可能性がV系にはあるのではと思わされる対談でした。
3冊目:化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか?
水曜社
平松隆円(著)
世界でも類を見ない、化粧の研究で博士号を取得した平松さんの一冊です。V系といえば化粧、というわけでセレクトしたこちらの本では、男性の化粧はV系だけではなく、実は男の化粧の歴史は長いことに気づかされました。
寝癖をなおして顔を洗って、という朝のルーティンなど、見え方に気を遣う行動は男女問わず一般化しています。この本では、これらは全て化粧の一部ではないか、という問いからスタートし、化粧はどこからどこまでを指して、どんな心理的変化を生むのかをアカデミックに解説します。
文中ではミュージシャンの化粧についても触れられており、タイガースや安全地帯といったV系より前の世代の文化に焦点を当てています。彼らは派手な化粧をして表舞台に立ち、曲に合わせて化粧の様子を変え、大きな反響を集めていました。
芸能という、派手な世界の住人の嗜みだった化粧の文化をV系におとしこむとするならば、連綿と続く、自分を理想の通りの姿に見せたいという思いの極点じゃないか、と考えずにはいられません。
化粧の歴史や語源を通じて、社会を多面的に捉える力を身につけさせてくれます。化粧の研究資料は決して多くないため、その歴史を俯瞰する一冊としても優れた本ではないでしょうか。
4冊目:NANA
集英社
矢沢あい(著)
もはや知らない人はいない、名作中の名作マンガです。V系の話と少しズレてしまいますが、ファンと演者の関係性を克明に描く作品として卓越していることもあり、今回のラインナップに組み込みました。
作品中では異なる目的を胸に上京した二人の「ナナ」の出会いから、二つのバンドを巡る恋の物語が描かれます。バンドを外から眺める小松奈々は、女性として母として、そしてミュージシャンを支える妻として奮闘し、徐々にたくましくなる姿が印象的です。
かたやミュージシャンの大崎ナナは、天才的な才能を持ちながら、小松奈々とは打って変わって、他者を頼ることができない脆さを徐々に露わにしてゆきます。物語の要所で刺さる、そんな二人の「ナナ」の対照性が、この作品に読み応えをもたらしてくれます。
さて、今回のV系のテーマに照らし合わせて考えると、鍵となるのが「ファン心理」の機微でしょう。蟹めんまさんの『バンギャルちゃんの日常』から強く感じられたのが、バンギャルたちによるバンドを「支えなきゃ」という熱情です。
一方の『NANA』で描かれる小松奈々の心理というのは、バンドを「支えなきゃ」どころか、支えなければ全てが終わってしまうという、もはやメンバーの一員として同化するものでした。憧れのバンドへの同化というのは、ファンにとっては理想的な夢物語かもしれません。
しかしその内側に入れば入るほど、バンドと同じ苦しみを抱え、エンタメとして楽しめなくなるジレンマを抱えます。
バンドと同化し中に入り込んでしまうか、それとも儚い憧れを抱きつつ、外から好きを伝え続けるのか。ファンにとってはどちらが幸せなのか、つい考えさせられます。現在、『NANA』は長らくの休載となっていますが、僕が素直に続きを読んでみたいと願ってやまない作品です。
これまで紹介した本
先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。