漫才にだって、リアリティより大切なデタラメさってものがあるのよ――『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回の作品は、約30年前に公開された『ビルとテッドの大冒険』('89)、『ビルとテッドの地獄旅行』('91)に続くシリーズ第3作なんですが、昔の作品はご覧になったことはありましたか?
小沢一敬(以下、小沢)「いや、続編だってことも知らないで観たんだ。映画の途中で、たぶん続編なんだろうなって気付いたけど」
──ただ、前の作品を観てなくても楽しめる作りになってましたよね。
小沢「そうそう。観てればなんとなく話の流れは分かったし、むしろ続編だからこそ、最初からギアが3速とか4速に入ってて、いきなりスピード感があったから、気付いたらラストシーンに着いちゃってる感じだった。これ、前に2本の作品があったのかな?」
──そうですね。第2作の『ビルとテッドの地獄旅行』から数えると29年ぶりの新作ということになります。
小沢「今回のやつを観たらさ、前の2本も観たくなったよね」
──前2作では、主演のテッド役のキアヌ・リーヴスとビル役のアレックス・ウィンターがまだ若手俳優で、おバカな高校生を演じていました。
小沢「とにかく、めちゃくちゃ面白かったよ。これを嫌いだって言う人もいるかもしれないけど、俺は大好き。俺は音楽が好きだし、映画も好きなんだけどさ、俺が音楽と映画が好きな理由がすべて入っている作品だったね。子供の頃にさ、『エルマーのぼうけん』とか『ニルスのふしぎな旅』が大好きで、よく市の図書館で借りて読んでたのね。ああいう絵本って、大人から見れば文章も難しくないし、都合の良過ぎる展開が続くって感じるかもしれないけど、この映画はそれに近いものがあると思うんだ。リアリティよりも大切なデタラメさみたいなものがあるっていうのかな。少年漫画的だから、もしかすると万人にはウケないかもしれないし、その意見を否定する気はないけど。俺はこの映画を好きだって言える人がいいな、って思ったよ」
──確かに、少年漫画的な映画って感じですね。
小沢「うん。もう、バカバカしいし、少年漫画っぽい展開の連続で、すごく楽しかったし、気持ちよかった。『ONE PIECE』でも『ドラゴンボール』でも『キン肉マン』でもそうだけど、仲間がどんどん増えていく場面って、めちゃくちゃ面白いじゃん。この映画もそこがいいよね。言ってみれば、音楽版の『アベンジャーズ』('12)みたいな映画だから。最後の方なんて、なんか分かんないけど、泣けたもん。マジで泣けた(笑)。で、『なんでこんなに楽しいんだろう?』って考えてみたら、この映画には頭が固い人が出てこないんだよ」
──言われてみれば、そうですね。
小沢「今は情報も多いから、みんないろいろな知識を得て、『これが正しい』ばっかりになってしまっていて。でも、世の中には、その“正しい”よりも正しいものがある気がするんだよ。『正しい人生を送らなければ』と思い過ぎて、つまらなくなっちゃってないか? って。この映画も、冷めた目で見ればいろんなこと言えるんだけどさ、映画や音楽の本当の魅力って、冷めた目では見えないところにあるような気がするからね」
──冷静なツッコミが必ずしも正義なわけではないですからね。
小沢「そういう意味では、この連載のおかげで、またもや映画とのすばらしい出合いをさせてもらったなぁって思って。もちろん、好き嫌いが分かれそうな映画だし、人によってはこの映画を“B級映画”って呼ぶと思う。だけど俺はさ、たとえば昔のシングル・レコードでも、みんなから愛されるA面の曲よりもB面の曲のほうが好きなことが多くて。だから映画も、もしかしたらB級が好きなのかもしれないな。『バカバカしいな』とか『ふざけてんな、これ。ノリでやったな』とか、そういうものを愛してしまうのよ。たぶん、俺の友達もこの映画を好きになるんじゃないかなって思ってる。まあ、この映画を嫌いな人たちとも友達になりたいけどね(笑)」
──では、そんなに大好きになったこの映画の中で、小沢さんが一番シビれた名セリフは?
小沢「とにかく、随所に漫画っぽいセリフが出てくるんだけど、たとえば俺が好きだったのが、未来の世界の偉大なリーダー(ホランド・テイラー)が、『ここは危険です、避難しませんと』って部下に言われて、『安全な所がある?』って返すやつ」
──ラストシーンの間際、世界の消滅するタイムリミットが迫る中で出てくるセリフですね。
小沢「あれ、ものすごく漫画っぽいわ~、って思って(笑)。ああいう言い方、漫画によく出てくるじゃん。それ以外にも、同じく最後のところでビルとテッドが、自分たちではなく彼らの娘たち2人に曲を作らせようとして、『俺たちが後押しする』『おまえたちが主役だ』って言うんだけど、彼女たちはすぐに『ワオ!』って言って、のみ込みが早いのよ(笑)。あののみ込みの早さが、まさに昔の『週刊少年ジャンプ』だよね。説明ページをはしょっちゃってる感じ」
──昔のジャンプは、毎週サクサクと話が進みましたもんね。
小沢「そう考えると、最近の映画とか漫画は、やたらと説明が多くなったよね。もちろん、ちゃんと説明しないと納得できない人もいるんだろうけど、日々の生活の中ですべてを納得して生きてるの? とも思うのよ。みんないろんなことに納得いかないまま生きてるでしょ、って」
──少し不親切なぐらいでちょうどいいんじゃないかと。
小沢「あと、もう一つ、この映画で好きなポイントがあって。俺さ、バディものが好きなんだ。古いところだと『ビー・バップ・ハイスクール』('85)とか『あぶない刑事』('86~'87)とか、男2人が主人公の物語が好きなの。それはなんでだろうって考えると、たぶん、俺が漫才師だからなんだよね。この映画の最初の方のビルとテッドの会話に、『曲作りをもっと頑張ろう』『それが問題じゃないか?』『ああ、だけど解決策でもある』っていうのがあったけど、まさにあれは俺たちと同じなの。俺たちも何かに行き詰まると、『とりあえずネタを作らないとね』ってなるから。彼らはバンドマンだから曲を作らなきゃいけない、俺らは漫才師だからネタを作らなきゃいけない。それが一番大変なんだけど、ある意味、それしか解決策はない。だから、みんなにとっての名セリフじゃないかもしれないけど、実は俺には、あのセリフが一番グッときたね」
──それは意外なところですね。まったく聞き流してるセリフでした。
小沢「序盤も序盤で出てくるセリフだもんね。たぶん、映画評論家の人たちもまったく気にしないセリフだろうけど。俺はコンビとして生きてるから、ああいうところをいちいち自分たちに照らし合わせて観てたよね」
──じゃあ、むしろ彼らと同じように、タイムマシンで未来へ行って、未来のネタを盗んできたいって気持ちにもなりました?
小沢「それもちょっと考えたよ。その場合、5年後に自分たちがやってるネタを現代に持ってきてやるのはパクりなのか? でも、俺が作ったネタだからなぁ、とか(笑)」
──それは何かを作ってる人ならではの視点ですね。
小沢「最初の話に戻るけど、漫才にだって、リアリティより大切なデタラメさってものがあるのよ。リアリティがないと伝わらないって意見も分かるけど、それにこだわり過ぎると自分で自分の首を絞めることになるから。それよりも、気持ち良さとか面白さを優先する方が大事だと思っていて。漫才のネタでも、映画でも、人生でもね。地に足が着いてない方がかっこいいことも多いんだから。俺も普段の生活の中では、いろんな情報を耳にしたり、いろんな人のアドバイスを聞いて、『このままじゃダメなのかな?』って思うこともあるんだけど、この映画を観たら、『あ、このままで大丈夫だよな』って思えたよ」
──そんなことに気付かせてくれた作品だったと。
小沢「うん。なんていうか、音楽や映画のある星に生まれてよかったぁ、と改めて思えた。それぐらい、俺にとってこの映画は、少年の気持ちを思い出させてくれる作品だったよね。まあ、老眼鏡を掛けてたばこを吸いながら少年の気持ちを語るんじゃない! って話だけどさ(笑)」
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