「THE SECOND」出場は俺らまだ大丈夫って確認したかったから――二宮和也主演だからこそストレートに大事なことを教えてくれる映画『TANG タング』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?

 映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
 毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、記憶をなくしたロボットのタングとポンコツな主人公の冒険を描く『TANG タング』('22)。二宮和也SixTONES京本大我の共演も話題になった感動ファンタジーだ。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

(※初回放送 4/14(金)後9:00、以降リピート放送あり)

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回取り上げる作品は、二宮和也さん主演の『TANG タング』です。

小沢一敬(以下、小沢)「子どもから大人まで、どんな年齢層でも楽しめる映画だよね。俺が小学生だったら、お父さんとかお母さんに『あの映画に連れてって~』って言っちゃうタイプの映画というか。ストーリーも、駄目な男が子どもみたいなロボットに出会うことで成長していく、いわゆる直球の物語、王道の物語だから。それを最新のVFXの技術で見せてくれる。俺もなんとなく初心に返った気持ちになったよ。映画『ドラえもん』とか、スタジオジブリのアニメとか、そういう作品を初めて観た時と同じような、ピュアな子ども時代の気持ちに戻れた感じだったね」

──期待を裏切らない展開ですしね。

小沢「だからこそ、最初から最後まで気を張らずに観れちゃう映画。すごく王道で、すごくシンプルで、すごく大切なことを言ってるから、子どもたちにとっては学ぶものが多い映画でもあると思うよ。いつか俺に子どもができたとしたら、一番最初に観る映画としてこの作品を選んでもいいな、って思ったくらい」

──ちなみに、小沢さんが初めて映画館で観た映画はなんだったんですか?

小沢『南極物語』('83)だった。母が連れて行ってくれて。あの映画も、信じることと愛を描いた物語だよね。そういう意味では、内容は全く違うけど、この映画とも通じるものがあるんじゃないかな。王道で、ストレートで、ちゃんと大事なことも教えてくれるという」

──確かに観る人を選ばない作品ですね。

小沢「そうね。また、その王道の物語をとても上手なお2人、二宮和也君と満島ひかりさんが演じてるからこそ成立してるんだよ。これだけ直球だからこそキャスティングが難しかったと思う。ストレートなことをやるのって、ものすごく照れくさいじゃん。『じゃあ、誰がやるのか?』ってなった時に、これまでに王道から何からすべてこなしてきた二宮君という存在がいたわけで。二宮君だからこそ王道の映画になり得たんだと思う。彼が持ってるかわいらしさと男らしさ、男の子の部分と大人の男の部分、両方ともちゃんと出てたからね」

──小沢さん自身は、作り手として王道というのは意識しますか?

小沢「難しいんだよね、そこが。王道って、お笑いでいうベタってことじゃん。俺らはなるべくベタを避けて常にふざけていたいって思うけど、ベタの強さっていうのがあって。ベタをフリにして、実は横道にそれていくっていうやり方はよくやるけど、それも王道がちゃんとあるから成立するわけで。実際に舞台の上で戦ったら、王道ってめちゃくちゃ強いからね。だから、『ベタなのはイヤだ』って言うのは、ベタをちゃんとできないコンプレックスかもしれないし、ベタをやってスベったらどうしようっていう逃げなのかもしれないな、って思ったりもするよね」

──永遠に正解が見つからない課題かもしれませんね、そこは。

小沢「うん。ベタって言葉の通り、油っぽくてベタベタしているものだとか思われがちだけど、ベタって言葉の意味はさ、もしかしたら英語のBetter(ベター)のことかもしれないよね。Good(グッド)よりさらに良いっていう意味であり、その一方で、BetterではあるけどBest(ベスト)ではないものって意味なのかもしれないし」

──それは面白い発想ですね。

小沢「とにかく、俺らも『ベタとは何か?』ってものを常に意識してることは間違いないよ。やっぱり、まっすぐな王道があるからこそ、寄り道しても最後はちゃんと家に帰り着けるわけだから」

──それで言うなら今回の作品は、スタートからゴールまでまっすぐ突き進んでいくような物語でした。

小沢「主人公たちを捕まえようとする謎の組織の一員としてかまいたち(山内健司、濱家隆一)の2人が出てきた時は、ちょっと笑っちゃったけどね。海外の映画とかアニメでも、こういうストーリーの作品には必ず悪者の子分みたいな2人組が出てくるけど、だいたい凸凹コンビで、かまいたちの2人みたいな見た目のやつだもんね(笑)」

──はまり役でしたね。さて、今回も小沢さんがシビれた名セリフを選んでいただきたいのですが。

小沢「今回、セリフを選ぶのはすごく難しいよね。というのも、どのセリフも演出も、とにかくストレートだったから。ストレートだからこそ、ピュアな気持ちで観ると泣ける場面もたくさんあって…。とあるマーケットに(二宮和也が演じる)健とタングが行くシーンで、タングが大事にしてた100円玉で健のためにコーヒーを買ってくるんだけど、運び方が下手だから途中でほとんどこぼれちゃって、そのわずかに残ったコーヒーを健が『うん、うまい!』って飲むシーンとか。ホントに王道なんだけど、ああいうのって、分かっていても思わず泣けちゃうんだよね」

──そこが王道の強さっていうやつですね。

小沢「そうだと思うね。だから、そんなストレートなセリフが続く中で、あえて一つを選ぶとするなら、やっぱり『きっと大丈夫』だろうね」

近未来の日本。とある理由から無職となり、家でゲームざんまいの生活を送り、妻の絵美(満島ひかり)に捨てられそうになっている健(二宮和也)。ある日、そんな彼の家の庭に記憶を失くした迷子のロボットが突然姿を現わす。タングと名乗るロボットは旧式で壊れかけており、健は捨てようとする。だが、次第に愛着が湧いた健は、タングを直すために冒険に出ることを決める。ロボットやAIに詳しい林原(京本大我)らとの出会いを通じて健とタングは絆を深めていくが、タングには、世界を変える秘密が隠されていた。

──初めて出会った日に、絵美が健から言われた言葉ですね。

小沢「この映画、他にも『大丈夫』ってセリフがあちこちに出てくるじゃん。健と絵美が出会った時のほかにも、旅の最後で健がタングに『何年かかるか分からないけど、いつか絵美に言うんだ、もう大丈夫だよって』って語るシーンもあるし。あと、健のお姉さん(市川実日子)が絵美に言う『あなたがいてくれるから、大丈夫。父もきっとそう思ってる』っていうセリフもあるし」

──言われてみれば、どれも「大丈夫」でしたね。

小沢「やっぱりさ、生きてるとしんどいことも多いけど、誰かに『大丈夫だよ』って言われたくてやってるところもあるよなって思うこともあるのよ。俺らは今、『THE SECOND ~漫才トーナメント~』っていう賞レースに出てるんだけどね。スピードワゴンが賞レースに出るのなんて、もう10数年ぶりのことで。周りのみんなが言うんだよ、『何のメリットがあるの? 今は仕事も安定してるのに、今さら賞レースに出るなんて、デメリットはあってもメリットがないでしょ?』とか。その通りかもしれないんだけどさ。じゃあ、それでも出る理由は何かって考えたら、賞レースの舞台でネタをやることで、それを観た人たちから、『大丈夫だったよ。まだやれるじゃん』って言ってほしいのかもしれないなって」

──何かを得たいわけじゃなく、何かを確認したいだけというか。

小沢「そうそう。自分で自分を確認したいというかね。いつだって『自分はまだ大丈夫なんだ』って思っていたいんだけど、自分で自分にそう言い聞かせてるだけじゃ限界もあるわけで。そういう時、周りから『大丈夫だよ』って言われるだけで、結構救われたりするじゃん。だから、この映画でもいろんなポイントで誰かが誰かに『大丈夫』って言ってあげてるんだと思うよ」

──すごく大事なキーワードになっていたわけですね、「大丈夫」が。

小沢「世の中には無責任でいい加減な『大丈夫』もたくさんあるんだけどね。でも、誰かの肩をポンポンとたたきながら『大丈夫だよ』って言ってあげることって、すごく救いになることも多いと思うから、俺もなるべくいろんな人に『大丈夫だよ』って言ってあげたいな……っていう話で今回はまとめにしたいんだけど、大丈夫?(笑)」

──もちろん、大丈夫です!

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クレジット:(c)DI 2015 (c)2022映画「TANG」製作委員会