後悔のない人生なんて絶対にないから。あるとしたら、それは人生の醍醐味を知らない人だと思うよ。――山田洋次監督作品『キネマの神様』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回は、日本映画の『キネマの神様』というチョイスでしたが、いかがでしたでしょうか?
小沢一敬(以下、小沢)「うん、期待してた以上に良かったね。まあ、いろいろと話題になってた映画だったんだけど、俺はまだ観てなかったから。このタイミングで観られて良かったと思う。WOWOWを観てる映画好きの人たちは分かってくれると思うけど、この映画って、俺らの世代とかもっと上の世代の人が知ってる昭和の古い映画の匂いを再現してるじゃん。その匂いをこの令和の時代に再現したことに、すごい意味があると思うんだ」
──あの昭和の映画界の雰囲気が、それを知ってる世代には懐かしいだろうし、知らない世代には新鮮にも見えたと思いますね。
小沢「そうだよね。昭和の大女優の桂園子役を演じた北川景子さんとか、若き日の淑子を演じた永野芽郁ちゃんとかのセリフ回しが、もう、俺らが子供の頃に親たちが観てた昭和の映画の中のセリフ回しそのものでさ。『あら、やだわ、先生』とか。凜としていて品のある、昭和の女性の美しさがちゃんと出てたよね。北川景子さん、もともと好きな女優さんだけど、この映画を観て完全にファンになっちゃったもん(笑)」
──分かります。はまり役でしたよね。
小沢「ホントにきれいだった。永野芽郁ちゃんも、前から大好きなんだけど、あの子の素朴なかわいらしさもちゃんと出てて。昭和の時代を単なるノスタルジーとして描くんじゃなくて、あの頃の良さを、鮮度そのままに真空パックしたみたいな感じだったよね。あと、若き日のゴウを演じた菅田将暉君も、体中からエネルギーがあふれ出てるみたいな芝居で、やっぱりああいう若者役をやらせたら間違いないよね。ギラギラしてるんだけど、繊細でシャイな空気もまとっていて」
──そんな彼らの現代の姿を演じたのが、ゴウ役は沢田研二さん、淑子役は宮本信子さんでした。
小沢「宮本信子さんも、かわいらしい感じのお母さんになっててね。沢田研二さんも良かったし。とにかくこの映画は、キャスティングがすべて素晴らしかったと思うね。みんなピッタリだったよ。例えば昭和の大女優のあの雰囲気を出せる人なんて、もはや北川景子さん以外に思い付かないもん(笑)」
──ゴウの親友のテラシン役の小林稔侍さんと、若き日のテラシン役の野田洋次郎さんが、意外と似てたのも驚きでした。
小沢「また、主題歌がめちゃくちゃ良かったね」
──野田洋次郎さんのRADWIMPSと菅田将暉さんがコラボした主題歌「うたかた歌」ですね。
小沢「歌詞もこの映画にピッタリだったし。WOWOWだと、エンディングまでちゃんと流れるよね? これを観る人は、ちゃんと最後の歌の歌詞まで聴いてほしいな」
──では今回も、そんな作品の中から小沢さんが一番シビれた名セリフを選んでいただきたいのですが。
小沢「本当ならばこの連載では、『その言葉を選ぶんだ』って思われるぐらいささいなセリフを取り上げたいんだけど、この映画に関しては、やっぱり一番いいセリフは、予告編でも使われたあのセリフになっちゃうよね」
──そのセリフとは?
小沢「『あなたはゴウちゃんと結婚して、後悔するかもしれないのよ。でも、しなくたって後悔するの。どっちの後悔を選ぶか、よ。それが人生なんでしょ』」
──過去のシーンで園子が言うセリフですね。
小沢「だいたいさ、あんなことで人生の大チャンスを棒に振った男と結婚しても、いいことあるわけないじゃん。腹が立ってたもん、俺(笑)。あんなに簡単に自分の夢を捨てるような男に、淑子はついていっちゃうから」
──それ、絶対にダメなチョイス! って感じでしたもんね。
小沢「そう。だけどさ、年を取った淑子の様子を見てたら、ずっと好きだったんだから、後悔とかそういうことじゃないんだろうなって思えてきて。そりゃあさ、日々を生きてく中では、誰だって後悔するのよ。例えば俺は、この漫才師という仕事を選んだことは後悔してないけど、細かいことを言えば、『昨日のライブのネタ、あそこはああすれば良かったな』みたいな小さい後悔は、毎日たくさんあるの。後悔のない人生なんて絶対にないから」
──そうですね。「後悔したことない」なんて言う人は、信じられないです。
小沢「そんな人がいるとしたら、それはある意味、人生の醍醐味を知らない人だと思うよ。よく『後悔がないように生きなさい』とか『明日の試合は悔いのないように頑張って』とか言うけど、そんなの無理だよ。生きていく上で、より良くしようとか、もっと先に進もうという気持ちを持ってたら、たとえその時はうまくいったとしても、そこには何らかの後悔が絶対に残るはずだもん。だからこそ、この『どっちの後悔を選ぶか、それが人生でしょ』っていうセリフは、すごくいいセリフだと思ったんだ」
──若い子たちに伝えたいセリフですね。
小沢「ちなみに、その後のくだりも好きなんだけどね。園子が、『これ、お餞別。困ったら売りなさい』って言いながら、自分が着けてた腕時計を淑子に渡すんだけど、現代のシーンに戻ると、おばあちゃんになった淑子がちゃんとまだその腕時計をしてるっていう、あれも良かったね。とにかく俺はさ、永野芽郁ちゃんが大好きだから!(笑) 素朴さがあって、本当にいい。この映画を観た後に思わずプロフィルを調べたら、まだ22歳だって知ってショックを受けたもん。もう30歳ぐらいなのかと思ってたよ」
──確かに、22歳とは思えないほど達者ですね。
小沢「現代のシーンも、いいセリフが多かったよね。ネタバレになっちゃうから詳しくは言えないけど、ラストシーンで園子が『大丈夫よ。ゴウちゃんが幸せなら、たぶん、淑子ちゃんも幸せよ』って言うところ。あそこも泣けたなぁ。全体的な演出も、いわゆる王道の美しさがあって。誰が観ても感動できるように作られた映画だったと思うね」
──とてもいい映画でした。ところでこの形での連載ですが、今回が毎月連載としては最終回となります(※今後は不定期連載としてお届けいたします)。
小沢「そうみたいだね。その最後の回を『キネマの神様』で終わるなんて、すごく良くできた話だよね。というのも、この映画を観ながら、俺が上京した頃によく通ってた『三軒茶屋シネマ』っていう小さな映画館のことを思い出してたんだ。あそこはさ、『シャンプー台のむこうに』('00)とか、普通のところでやらないマニアックな映画ばっかり上映しててね。なんか、あそこに行くと大人になれるような気がしてたんだよね、いつも」
──三軒茶屋シネマは、残念ながら2014年に閉館してしまいましたけどね。
小沢「そもそも映画館ってさ、カップルだったり、外回りをサボって時間つぶしてる営業マンだったり、ギラギラした高校生だったり、いろんな人が集まってくる場所で。そういう人たちがみんな、真っ暗な映画館で2時間ぐらいの映画を観ると、そこに入る前とは景色が違って見えるわけじゃん。例えばヤンキー映画を観た後にはケンカが強くなった気になったり、ファンタジーを観た後には超能力が使える気になったり、ある意味で人生が変わったみたいな気分にさせてくれるわけよ。それって、きっとどこかに“映画の神様”がいて、その神様の力だと、俺は信じてるのね」
──小沢さんがこの連載で常々言ってきた、「映画には誰かの人生を変える力がある」っていうことですよね。
小沢「それは何も映画館で観る映画だけじゃなく、WOWOWでも一緒なのよ。約2時間、集中して何かに没頭したら、それが終わった後には、それまで悩んでたことだったり、モヤモヤしてた嫌な気分だったりが解消するんじゃないかと思ってるから」
──そうですね。毎月の連載はいったん終わりますが、そんな素敵な映画たちの話を、また不定期の形ではありますが今後もお届けできたらいいですね。
小沢「そうだね。まあ、ここで終わる後悔と続ける後悔、どっちを選ぶか、ってことだよね。どっちを選んでも必ず後悔するんだから、とりあえず今回は、終わる方の後悔を選ぶことにしよう(笑)」
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クレジット:(C)2021「キネマの神様」製作委員会