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監督との最良の出会いで、佐藤健は変わり続ける  #シネピック映画コラム

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回は映画ライターのSYOさんが「佐藤健×実力派監督」をテーマに、その“進化”を紐解くコラムです。

文=SYO @SyoCinema

 近年ますます覚醒した感がある、人気実力派俳優・佐藤健。映画・ドラマ・CMはもちろん、YouTubeや公式LINEなどなど、多方面に活躍の幅を広げている。自身の代表シリーズである「るろうに剣心」最終章の公開は、新型コロナウイルスの影響で2021年に持ち越しになってしまったが、そんな逆境をものともせず、映画界への影響力が増す一方なのは、頼もしい限りだ。

 現在31歳(1989年生まれ)の佐藤の“武器”は、演技力に身体能力、もちろん切れ長の瞳が美しいルックスや色気の漂う声など、多岐にわたるのだが、やはりその根底にある、徹底したプロフェッショナル精神にあるだろう。

 かつて佐藤にインタビューした際、「自分の中で“型”を決めず、役に合わせてアプローチを変える」という趣旨の発言をしていたが、その言葉通り「役への献身性」がずぬけている。クールなキャラクターからひょうきんな役まで、姿勢・動作・癖といった身体的特徴を自在に混ぜ込み、演じ分けることができるのだ。

 そんな佐藤は、映画監督たちにも愛される。これまでに組んできた監督の顔触れを見ると、実力派がずらり。「るろうに剣心」シリーズや『億男』('18)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」('10)の大友啓史、『リアル~完全なる首長竜の日~』('13)の黒沢清、『ひとよ』('19)の白石和彌、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』('17)や公開待機作『護られなかった者たちへ』の瀬々敬久ら、多くの有名監督とのタッグで知られる。いま挙げたのは一例で、堤幸彦、本広克行、大根仁、佐藤信介、小泉徳宏、三浦大輔など…まだまだビッグネームが続く。

 今回は、11月21日(土)、26日(木)ほかに『ひとよ』がWOWOWで放送される白石和彌監督とのタッグを中心に、「佐藤健×実力派監督」の歴史を振り返っていこう。

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 白石監督といえば、さまざまな魅力はあれど、中核を成すのは「ハードな世界観」と「役者の強烈な演技」の2つだろう。各界に衝撃を与えた『凶悪』('13)では、苛烈な暴力描写や凄惨な物語、山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴ら役者陣の鬼気迫る演技が絶賛された。

 『日本で一番悪い奴ら』('16)では綾野剛が暴走警官の半生を見事に演じ切り、『彼女がその名を知らない鳥たち』('17)では蒼井優阿部サダヲが最低な男と女に扮し、『孤狼の血』('18)では役所広司、松坂桃李、江口洋介、竹野内豊、中村倫也らとともに新時代の“やくざ映画”を創出。『凪待ち』('19)は、香取慎吾が従来のイメージをかなぐり捨てた意欲作となった。

 その他の監督作品でも、役者のこれまでにない表情を引き出す手腕を見せつけてきた白石監督。彼が、著名舞台の映画化に当たり、主演に熱望したのが佐藤だ。『ひとよ』は、暴力的な夫を殺害した母親が、刑期を終えて15年ぶりに子どもたちのもとに戻ってきたことで巻き起こる、親子間の衝突を描いた愛憎劇。母親役には当初から重鎮・田中裕子が決定しており、その相手役に選ばれた形だ。

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 時代を担ってきた田中に、がっぷり四つで組み合う場を与えられただけでも大変な名誉だが、監督直々のオファーであり、しかも主人公という大役。さらに、兄役は鈴木亮平、妹役は松岡茉優と、演技巧者がそろった。加えて、佐藤がこれまで演じてきた役どころの中でも、かなり複雑な性格のキャラクターとなっており、それだけでも期待が高まる。

 佐藤に与えられた役は、次男の雄二。誰よりも母親を愛していたが故に、自分たちのもとを去ってしまった悲しさや、自分が母を救えなかった悔しさが積もり積もって憎悪へと姿を変えており、さらに小説家になりたい夢を叶えられず、風俗リポなどを書くフリーライターから抜け出せない才能と努力の欠如を、母親のせいにして自尊心を保とうとする。一言でいうなら、過去にとらわれて人生を肯定できない屈折した青年なのだ。

 佐藤は「るろうに剣心」シリーズでの人斬り・緋村抜刀斎モードや『カノジョは嘘を愛しすぎてる』('13)でのナイーブな作曲家、『何者』('16)での就活生、悲劇の悪役に扮した『いぬやしき』('18)、山田孝之扮する兄に振り回される弟を攻撃的に演じた『ハード・コア』('18)など、クールないしシリアスなキャラクターを得意としている。大ヒットしたドラマ「恋はつづくよどこまでも」('20)も、“魔王”キャラクターを好演していた。

 しかし『ひとよ』の雄二は、クールキャラに見えて実はそうではない。本来は人一倍優しい人物で、甘えん坊。母親の事件が影響し、擦れた物言いをするようになっているが、中身は未完成で不器用なのだ。このバランスが非常に難しいところだが、佐藤はどこか精神的もろさや弱さをちらつかせる雄二を、顔がこわばったような絶妙なさじ加減で演じ切っている。

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 冒頭、風俗嬢に取材するシーンでは目から生気が失われ、やっつけ仕事をこなす疲弊具合と嫌悪感が如実に漂い「俺はこんなことがしたいんじゃない」という叫びが聞こえるよう。母を言葉で殴るように敬語で接する会話シーンには、わずかな罪の意識や、赤子がいやいやをするような甘えがにじむ。

 きょうだいと酒場でもめるシーンでは拒絶感を前面に押し出し、一種の八つ当たり的に振る舞い、終盤、感情を爆発させて「どっからやり直したらいいのか教えろよ…」と絞り出すシーンは、これまでの鬱屈した感情が限界値を超えてしまったかのような“痛み”を感じさせる。 

 また、全編を通して“笑い”が乾いた表層的なものから、感情を正しく映した柔和なものへと変化していくグラデーションも、大きな見どころ。『ひとよ』は全編を通して見せ場の連続であり、精神的にも追い込まれる役どころだったと推察されるが、佐藤は一つ一つを細やかに、かつ劇的に演じている。

 マスコミ用のプレス資料を参照すると、佐藤は撮影中ずっと役として過ごし、無精ひげ姿で、周囲と距離を取るように緊迫感をまとっていたという。打ち上げの席では「役作りでやさぐれてましたけど(笑)、本当の僕を知ってもらってよかったです」と語っていたそう。

 前述した彼のプロフェッショナル精神が垣間見えるエピソードだが、佐藤は白石監督の演出に対して「ドキュメンタリー的なアプローチ」と語っており、本作や監督のスタイルにアジャストした格好といえるかもしれない。

 もともと、黒沢清のようなアート寄りの監督から大根仁のようなエンタメの申し子まで、組む相手によって演技のトーンもジャンルもその都度その都度の最適解を提示してきた佐藤のことだ。「演技の瞬発力(適応力)がすごい」というのも各監督から言われる部分であり、本作でも撮影時間以外も役に入り込むことで、瞬時に“生の表情”を提示できるよう、常に準備していたのだろう。

 『ひとよ』は、佐藤のスキルの高さを証明しきった作品であり、本作でもって、一段階上の高みへと到達した印象だ。なお、新作『護られなかった者たちへ』では、殺人事件の容疑者役にチャレンジする模様。さらに進化・深化した姿を見せつけてくれるに違いない。

SYOさんプロフ201031~

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クレジット:©2019「ひとよ」製作委員会

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