「連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~」をプロデュースするまで【ひろがる。私たちのオリジナルドラマ】
小津安二郎作品との出会い
はじめまして。WOWOWオリジナルドラマの宣伝を担当している徳田と申します。
さて、早速ですが、皆さまは、“小津安二郎”という人物をご存じでしょうか?
小津安二郎は『東京物語』('53)『晩春』('49)などを手掛けた、日本を代表する映画監督です。1903年12月12日生まれ、1963年同日還暦の誕生日に逝去されました。今年は生誕120年であり、没後60年。亡くなられて60年もの月日が経った今もなお世界から敬愛されています。2022年、英国映画協会(BFI)が10年ごとに発表している「映画監督が選ぶ史上最高の映画」では『東京物語』が第4位、『晩春』が第21位に選ばれました。『2001年宇宙の旅』('68)『市民ケーン』('41)『ゴッドファーザー』('72)に次ぐ順位で、いかに世界的に評価されているのかが分かります。ほかにも、日本からはベスト100に黒澤明、溝口健二、宮崎駿がランクインしています。
・・・と、知ったような口を利きましたが、私はつい2年前まで、小津監督のことを詳しく知りませんでした。学生時代に後期の代表作『東京物語』や『晩春』を観ただけ。
そんなある日、私がまだドラマ制作部に所属していた時のこと。松竹のプロデューサー・勝木孝さんと話し、小津監督の初期サイレント映画群の存在を知ることになります。サラリーマンの悲哀を描いた傑作『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』('32)、異色のギャング映画『非常線の女』('33)、もっさりとしたひげをそったら美男子になり急にモテ始める『淑女と髯』('31)など、バラエティに富んだ名作がズラリ。私はすぐに現存するすべてのサイレント作品を鑑賞し、カルチャーショックを受けました。戦前の昭和初期に作られた物語は市井《しせい》を自由な空気感で描いていて、古さを感じさせません。どの作品にも現代に通じる普遍性があり、とても魅力的。
90年前の名作に感動する一方で、小津作品に内在する普遍性を現代にリメイクできないかと、小津安二郎について一から勉強しました。勉強すればするほど知る小津のすごみ。小津の描いた物語をリメイクしたいという気持ちはますます強まりました。しかし、それだけではドラマ企画は実現しません。クリアーしなければならない課題があります。当社で特に大切されていることは、WOWOW会員の皆さまに対して、どのような価値を提供できるか。WOWOWはTVドラマだけでなく、さまざまなすばらしい映画を365日放送・配信しています。その強みを生かして、エンターテインメントに対して造詣が深い会員の皆さまに、単にリメイクドラマをお見せするだけでなく、小津作品を映画とドラマの両方で楽しんでいただく。映画を長年大切にしてきたWOWOWだからこそできる企画だと自信を持って、企画を開発しました。世界に誇る小津監督への敬意を込めて、「OZU」というタイトル名で企画提案し、「WOWOWオリジナルドラマ」、「連続ドラマW」として放送することに至りました。(結果的に、本ドラマ企画とともに、小津監督オリジナル映画の放送が実現しました。)
小津作品をリメイクすることの難しさ
「連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~」は、6つの小津監督作品を6人の監督がそれぞれ1作品ずつリメイクするオムニバス形式のドラマです。通常の連続ドラマWでは、1、2人の監督が担当することが多いですが、今回はジャンルの異なる6話の構成だったため、各話の特性に適した監督にオファーするところから始まりました。小津監督自身が若かりし20代の頃に制作された映画が対象だったので、リメイクするに当たり20~40代の若い映画監督にこだわって依頼しました。特に、『Winny』('23)の松本優作監督(31歳)、『食べられる男』('16)の近藤啓介監督(30歳)、『裸足で鳴らしてみせろ』('22)の工藤梨穂監督(28歳)はかなり若手です。このようなチャレンジングな制作体制を組めることもWOWOWオリジナルドラマだからこそできることの一つです。他社と比較しても、担当プロデューサーが監督などのスタッフフィングや俳優などのキャスティングに対して、裁量権を持っていると思います。
オムニバスドラマを制作する工程は実に過酷。それぞれ異なる監督が6つの物語を作るというのは、1つの物語を6話でドラマ化するよりも、効率が悪いのです。極端な言い方をすれば、6倍の手間がかかる上、スタッフィングやキャスティング、スケジュール、費用面で課題が多く、頭を悩ませました。このような体制で制作しているドラマが世の中にほとんどないのもそういった理由からです。しかも、“世界の小津”のリメイクというのも、スタッフやキャストに大きなプレッシャーがかかります。そんな中でも、この企画にご賛同いただいた監督、脚本家、スタッフの方々にはとても前向きに取り組んでいただき、“小津作品のリメイク”ということを、むしろモチベーションにして制作することができました。どのスタッフも、あらためて小津作品を鑑賞し勉強することで、そのすごみやすばらしさに気付いていたからだと思います。現代にリメイクする意義、小津作品とは何か、どこまで小津特有の演出、映像を踏襲するかなど、多くの議論を重ねたことは、作品にとって大きな力になりました。
東京国際映画祭TIFFシリーズに「OZU」が出品
宣伝の核は企画当初から考えていた、東京国際映画祭(TIFF)です。私が企画開発を始めた2021年に開設された新部門のTIFFシリーズ。放送、配信などを目的に製作されたシリーズの秀作を日本国内での公開に先駆け、スクリーンで上映する部門です。2022年のTIFFシリーズでは、「ガンニバル」と「仮面ライダー BLACK SUN」が出品されており、観客として観に行きました。キャストがレッドカーペットを歩き、上映イベントも満員。メディアがたくさん集まる日本最大の映画祭での上映は作品の露出につながり、効果的なプロモーション、ブランディングになっていました。華やかな映画祭の会場で来年のTIFFシリーズで「OZU」を出品しようと、静かに目標を立てました。
小津安二郎生誕120年に当たる今年の第36回東京国際映画祭で、何らかの小津特集が組まれることは想定していました。生誕100年、110年の時も映画界が世界に誇る小津監督をさまざまな場でフィーチャーしていたからです。今夏のリリースで知りましたが、実際に今年のTIFFでは小津安二郎生誕120年記念企画 “SHOULDERS OF GIANTS”として、特集上映、シンポジウムなどが開催されました。
また、今年のTIFF審査委員長には、小津を敬愛する世界的な巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が就任しました。彼は就任コメントで、「今年の東京国際映画祭は私が敬愛する巨匠・小津安二郎監督の死後60年、生誕120年の記念すべき年に開催されるもので、そんな機会に参加できることは私にとっては特別なことです」と述べています。追い風が吹く中、先行して完成していた「連続ドラマW OZU」の前半3話分の映像をTIFFに提出・エントリーした後に承認され、TIFFシリーズの出品が決まりました。
そして10月23日、ついに第36回東京国際映画祭が開催。TIFFシリーズ部門「連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~」は、第1話「出来ごころ」、第2話「生れてはみたけれど」、第3話「非常線の女」の舞台あいさつ付き上映、レッドカーペットイベント、日本外国特派員協会での記者会見、国立映画アーカイブでの登壇トークなど、華やかにプロモーションをすることができました。また、プラスWを通して、WOWOW会員20名様をイベントにご招待しまして、東京国際映画祭を体感していただきました。東京国際映画祭でのレッドカーペットや舞台挨拶の模様は、WOWOWオンデマンドでもご覧いただけます。
上映イベントで本作をご覧になったWOWOW会員様の声をご紹介します。
最後に・・・
いよいよ、11月12日(日)から「連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~」の放送・配信が始まります。
現在、第1話「出来ごころ」(脚本・監督:城定秀夫、出演:田中圭、渡邊圭祐、白石聖)がWOWOWオンデマンドで無料配信中です。WOWOWに入られていない方は、まずはこちらをご覧ください。2話以降も面白いので、続きが気になるようでしたらご加入ください。
また、12月にはリメイク元となるオリジナル版のサイレント映画6作品をWOWOWで放送します。
▼映画とドラマで観る小津安二郎の世界
今回ドラマ化したのは、小津監督作全54作品のうち、6作品に過ぎません。あくまで、多様な小津作品の一面でして、特に後期の作品は研ぎ澄まされていて圧巻です。「連続ドラマW OZU」は小津作品の入り口です。彩り豊かな、小津安二郎が描いた物語をご覧いただくきっかけになれば幸いです。
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