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「白暮のクロニクル」こぼれ話特別版! 制作陣が、作品の世界観を作りあげるための「こだわり」を語る。【ひろがる。私たちのオリジナルドラマ】

 皆さまこんにちは。note編集部の島本です。

 3月にWOWOWにて放送・配信がスタートしたドラマ「白暮のクロニクル」
  
 神山智洋さん演じる、不老不死の「吸血鬼探偵」が主人公となっており、その独特の世界観を作り上げる美術・装飾が毎回とても印象的ですよね。

 今回は、美術・装飾に込められたこだわりポイントを、中川和博監督、美術デザイナー・遠藤真樹子さん、装飾・谷中太楼さんに特別にお聞きしてきました!

 ドラマ好きとしては、こんなに細かいところまで練られているのか・・・!  と、リスペクトが止まりませんでした。

 すでにドラマをご覧になっている方にも、ぜひこの記事で登場したシーンを中心に、もう一度本作を見て、作品の世界観をじっくり味わっていただきたいです♪

★中川和博(監督)・・・1986年生まれ、奈良県出身。
過去監督助手として参加した作品に、『十三人の刺客』(2010年)、『悪の教典(2012年)、『のぼうの城』(2012年)、『進撃の巨人』(2015年)、『シン・ゴジラ』(2016年)。自身が監督を務めた作品に「WOWOWオリジナルドラマ『ダブル』」(2022年)、『ウルトラマンブレーザー』(2023年)、特技監督として「キン肉マン THE LOST LEGEND」(2021年)など。
 
★遠藤真樹子(美術デザイナー)1982年生まれ、東京都出身。
美術デザイナーとして参加した作品に、『真夜中乙女戦争』(2022年)、「WOWOWオリジナルドラマ『ダブル』」(2022年)、『交換ウソ日記』(2023年)、ドラマNHK「神の子はつぶやく」(2023年)など。
      
★谷中太楼(装飾)1993年生まれ、東京都出身。
過去装飾助手として参加した作品に、映画『シンウルトラマン』(2022年)、 展示「バンクシーって誰?展」(2022年)、映画『怪物の木こり』(2023年)、ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」(2023年)、ドラマ「極悪女王」(2024年)、持道具・小道具として、映画『影裏』(2020年)、『くれなずめ』(2021年)など。

「白暮のクロニクル」

美術スタッフの提案する「ビジュアル」がドラマの世界観の土台になる

―まず初めに、ドラマ制作の現場で、美術や装飾とはどういった役割を担うのか教えてください。
 
遠藤「撮影で使う物件の下見に行くロケハン(ロケーション・ハンティング)をするところから美術部の仕事はスタートします。そして、監督やプロデューサーをはじめ、照明部や装飾部、また今回はアクション部など、撮影に関わる各チームと話し合いながら、どのような飾りを使用するかなど、美術セットのプランを立てて、ビジュアルを提案します。必要に応じてビジュアルをどんどんブラッシュアップしていくんです。この『ビジュアル』というのは、こういう部屋を使用してここには何を置いて…などをイメージした絵を描いたものです」

魁の部屋のビジュアルイメージ

中川「『ビジュアル』の絵を見せてもらうことで、僕たちスタッフは、実際に撮影していくイメージをさらに高めることができます。『ここに棚があるとぶつかってアクションができないから棚の位置をずらさなきゃ』とか、絵でイメージを見せてもらうまでは気付かなかった部分に気付くことができる。だから一番最初に作品の世界観を作ってくださるのが遠藤さんをはじめとした美術部さんなんです」
 
谷中「遠藤さんと中川監督がおっしゃったように、美術部がまず土台のビジュアルを提案してくれたところで、僕ら装飾部が具体的にどんなものを設置するかアイデア出しをします。例えば、本棚を置くと決まったら、その本棚はどこからどんな大きさや形、デザインのものを持ってくるかとか、本は何冊ぐらい入れようか、その本はどんなものがいいか…とか。そういった細かい小道具をどのように手配したりどんなふうに使用するかの導線を考えます。飾るものを探しに行くこともありますし、一から作ることもありますね」

撮影に使用する小道具の一例

中川「『白暮のクロニクル』のメイン舞台となる私設図書館・按察使あぜち文庫は、屋内と外観を別の建物で撮影しています。屋内に使用したのは入間市にある築100年を超える洋館です。外観は木々の中にひっそりとたたずむイメージが欲しくて、山中湖にある建物で撮影しました。山中湖の建物にはもともと大きな屋根がなかったんですが、屋根を象徴的にしたくて。そこで、遠藤さんに屋根を“追加”したデザイン画を描いてもらい、それをもとにCGで屋根を合成し、按察使文庫を完成させました。ドラマの世界観の土台となる『ビジュアル』が何を作るにしても大事になってきます。また、今回スタッフの人数が総勢60人ほどと、30分ドラマにしてはかなり手厚い人数で制作を進めていきました。『白暮のクロニクル』の世界観を細部まで作りこんでいくには、それだけの人数が必要でした」

CGで屋根を追加する前(左)と、屋根を追加した後の屋敷外観(右)

※↓ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。↓

原作を忠実に再現することと、映像ならではのリアリティの“バランス”

―「白暮のクロニクル」はコミック原作の実写化となりましたが、原作や脚本から、どのように世界観を作り込んでいったのでしょうか?
 
谷中「原作を読んで世界観をイメージしたときに、正直実現させるのは大変だなと思いました(笑)。だけどやるからにはどこに力を入れようかと考えたときに、最も多く登場する按察使文庫のセットと、各話ごとに話のメインとなる場所の装飾に一番力を入れたいなと思いました。キャラクターを描く上で視覚として一番印象に残るところなので」
 
遠藤「原作を大事にするということでいうと、神山智洋さん演じるかいや伊藤歩さん演じる薫子さんの初登場シーンはなるべく原作に忠実に作るように意識しました。原作でも、『このコマ覚えている』というような印象的なシーンなので、そこは世界観を壊したくないな、と。ただ、今回ドラマでのシチュエーションが原作と違う部分ももちろんあって。例えば、4話に登場するムラカミのオフィスでアクションシーンが繰り広げられたり、魁とバディであるあかり(松井愛莉)が本音で向き合う場面も2人の心情をイメージして空間も立体的に広く見えるようなセッティングにしたり。原作に忠実な部分もあれば、実写ならではの肉付けで、より『白暮のクロニクル』の世界観が具体的になるように作りました」

魁の登場シーン
薫子さんの登場シーン
4話に登場するムラカミのオフィス

中川「薫子さんが屋敷の階段の上から登場するシーンや、按察使文庫の本棚の中から魁が登場するシーンはとても印象的なので、私も映像で忠実に再現したいと思いました。ただ、漫画の表現をそのまま実写化すると、フィクションだということが顕著に分かってしまう場合があります。なので、現実の世界と按察使文庫というフィクションの世界を繋げることに尽力しました。例えば、1話であかりと上司の久保園がタクシーから降りて、等々力渓谷で会話しながら按察使文庫に向かうというシーンは、原作では渓谷の風景1コマしかないのですが、現実からフィクションまでの過程を丁寧に描く方がよりリアルに見えると思い、追加しています。ほかにも、厚生労働省など実際に存在している組織が出てくるので、そのIDカードや貼ってあるポスターとか、原作には描かれていない部分を補うことで、原作の世界観はしっかり守りつつ、映像だからこそのリアリティを見せたい、『嘘の世界じゃない』と思ってもらいたい…。それを意識して作りました」
          
遠藤「そういったリアルなところもありつつ、シーンによっては遊び心も随所にあります。例えばムラカミのオフィスは按察使文庫や魁の部屋とは違って、遊び心が多い飾りがあったり。そういった緩急のバランスを大事にしました。説得力と遊び心のバランスっていう感じです(笑)」
 
谷中「遠藤さんに、ビジュアル的な説得力があったり、漫画のイメージを崩さないデザインをしていただいたうえで、僕の仕事としては『架空の世界が現実にあったらどういうふうに見えるか』というところに重きを置いていました。実際に存在しない按察使文庫や、何十年も生きている“オキナガ”の生活感を想像して、不老不死だったらどういう生活をしているのか、こういうものが好みなのかな…とか。見てくださる方になるべく世界観に違和感を持たれないように飾りつけました」
 
遠藤「普通の人間の“生と死”とは違う時間軸で生きている“オキナガ”の家には、骨董品こっとうひんや止まった時計など、“時間の流れが止まっている”のを象徴するような、装飾を取り入れたりもしましたね。不老不死の“オキナガ”の感覚だと、花や金魚などの生き物などはとても短いスパンで命が終わってしまうので、彼らにとってそういうものを置くのは避けたいんですよね。なので、花といっても生きている花ではなくてドライフラワーだったり、止まった時計や骨董品こっとうひんなど、“一生変わらないモノ”や、剥製などの“命の宿っていないモノ”を置いていました」

止まった時計が置いてある魁の部屋

―では、メインとなる按察使文庫のセットの中で特にこだわったポイントは?
 
谷中「本棚ですね。実は、サイズがかなり大きかったので、屋敷に入るかギリギリで、搬入作業が大変だったのですが、いかにセットじゃなく、最初から設置してあったかのように見せられるかが大事なのでこだわりました。屋敷自体も西洋館なので、上流階級っぽい雰囲気も出したくて、あえて大きな本棚にしたということもあります。また、本棚に並んでいる本も1冊1冊が大きい書物にした方が見栄えがいいだろうと思い、遠藤さんに相談しながら大量の本を入れました。魁が集めた本や、按察使家が代々集めてきた古い資料を忠実に表現するために、手書きの背表紙や年数が経って日焼けした本を用意したのは按察使文庫を作るうえで特にこだわった部分です」

按察使文庫の本棚
手書きの背表紙が置いてある本棚

遠藤「重すぎて床が抜けるんじゃないかって冷や冷やしましたよ(笑)! でも谷中さんが設置してくれたあの本棚のおかげで、按察使文庫の世界観に説得力が増したと思います!」

実際にセットされた本棚(左)はビジュアルイメージ(右)よりサイズが大きいものを設置

セットの随所に散りばめてある計算された細かい作りこみが、作品の世界観をさらに深めていく

―5話では、魁の過去が描かれていますが、太平洋戦争開戦前の時代を表現するにあたってこだわったポイントはありますか。
 
遠藤「5話で描いている時代は、魁にとって幸せな時期。なので、 “オキナガ”になる前、恋人のなつめとの出会いのシーンは、ラブストーリーっぽい質感を表現するためにも、明るい色味を差し色で入れました。その後、魁が“オキナガ”になってからのギャップが色味で出るといいなと思っていたので、映像に暗い色味を足してもらったりもしました」
 
谷中「商店街のシーンはロケではなく、オープンセット(野外での映画やドラマ撮影のために使用する常設してある建物)に装飾をして撮影していたのですが、この時代を再現することに関しては、視聴者に違和感を感じさせないことを一番に意識しました。その時代にそぐわない現代的なものはないようにしたり。視聴者が物語に入っていきやすいセットを作らなきゃいけないなと思っていたので、その時代に本当にあったものを装飾として集めるというところにもこだわりました」

魁と棗が出会った商店街

―今回、それぞれ美術・装飾を作り込んでいく中で特に大変だったことはありますか。
 
谷中「全部だなあ(笑)。特に、4話で出てくる梶田のコレクションするフィギュアがズラリと置かれた部屋は正直一番難しかったです。梶田のキャラクターのイメージを固めるのが難しく、彼の性格や特性を想像して、フィギュアがいいんじゃないかとか、昆虫の標本を置いたらいいんじゃないかとか。原作を読みながら遠藤さんといろいろな要素を絞って何を配置していくか決めていきました」

4話に登場する梶田の部屋

遠藤「谷中さんが、昆虫の標本は“止まっている時間が美しい”と意味付けでき、それが失踪した妹を想い続ける梶田の思考と重なる。だから、標本が彼の部屋にあってもいいんじゃないか…というふうに、なぜこの飾りをするのかという理由付けをしっかりしたうえで選んでくださっていて。大変な作業だと思いますが、こうした試行錯誤によって説得力が増し、また遊び心も感じる装飾になるんだと思います」
 
―最後に、視聴者に特に注目して見てほしいシーンやセットがあれば、教えてください。
 
谷中「先ほども言いましたが、特に見てほしいのは、各話ごとに登場するシーンのセットです。 特に梶田がコレクションするフィギュアが置いてある部屋や、5話に登場する病院など。按察使文庫ももちろん見てほしいセットであることに変わりはないのですが、各話ごとに登場する場所の細かいディテールにも注目してほしいです」

5話に登場する病院

遠藤「“オキナガ”に血を分け与えられた人間が“オキナガ”になるという設定で、“血”というのは本作でかなり象徴的なものですよね。なので、“オキナガ”の住んでいる家にはその象徴的な血の色をイメージした“赤い要素”を多く取り入れているので、気にして見ていただけると新しい発見にもなって面白いと思います!」

“オキナガ”である魁の部屋に散りばめられた赤色

中川「30分のドラマ枠の場合は、ワンシチュエーションですべて撮影することも多々あるんですが、この『白暮のクロニクル』はシーン数がとても多いんです。シーン数が多ければ登場する場所も必然と多くなります。これだけいろいろな場所が毎回出てきてどこを切り取っても丁寧に、そして贅沢ぜいたくに作り込まれてるというのは、見ていて楽しいはず! 各話で出てくる新しい場所を楽しみに見ていただきたいですね」

連続ドラマW-30「白暮のクロニクル」の詳細はこちら

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【島本プロフィール】
入社6年目。
幼い頃から大のドラマ好きで、好きなセリフはノートに書き溜めています。
いろんなテイストのドラマを見ますが、ちょっと生きづらい人の背中を押してくれるような温かいドラマが特に好きです。

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