綾瀬はるか、女優デビュー20年! “ナチュラルボーン愛されキャラ”な彼女
文=浅見祥子
女優、綾瀬はるかを意識したのはいつだったろう?
2000年にホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞、翌年にドラマ「金田一少年の事件簿」('01)で女優デビューを果たす。それで「誰だろう…カワイイ!」と思ったのはそう、映画『Jam Films』('02)だった。7人の監督が自由に撮ったオムニバス映画の一編、行定勲監督による「JUSTICE」で、半袖の白い体操着にブルマ姿で体育の授業を受けている女子高生を演じていた。いかにも運動が苦手そうにハードルを飛ぶ姿が、妙に気を引いた。ただナチュラルにいて人目を引く女の子。それが16~17歳の綾瀬はるかだった。
この映画を観た知り合いが「あの女優さん、絶対に人気が出ますよ」と盛り上がっていたのを思い出すが、彼女はその後、本当にあっという間にその世代を代表するスターになる。一気に知名度が上がったのはドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」('04)だったか。間近に迫る死を運命づけられた女の子の、切ない純愛物語。原作は片山恭一のベストセラー小説で、相手役は今や超個性派にして誰をもうならせる実力を持つ山田孝之と、すべてのパーツが粒ぞろい。一足飛びに人気女優の階段を駆け上がった。
そこから一転、ドラマ「ホタルノヒカリ」('07)では惚れたはれたとは無縁の“干物女”に。「いやその役に綾瀬はるかはないだろう!」。初めは誰もがそう思うはずだが、一見あまりに遠い綾瀬はるかがキッチリと役柄を構築して演じるからそれは共感を呼ぶ愛らしいキャラクターとして成立していたし、そこで彼女のコミカル演技の的確さも際立ったのだ。その組み合わせが幸福なものであったのは、ドラマ「ホタルノヒカリ2」('10)、『映画 ホタルノヒカリ』('12)と続編が展開されたことからも明らかだろう。
観る人の共感を呼ぶ――、それは作品を担うヒロインとしてとても大事な要素。“ナチュラルボーン愛されキャラ”な綾瀬にとって、それは最強の武器かもしれない。そんな彼女だからこそ、あり得ない! と思える世界観をサラッと自然に成立させてしまう。『映画 ひみつのアッコちゃん』('12)で手のひらに乗せたコンパクトに向かって「テクマクマヤコン…」と唱えて変身しちゃうアッコちゃんを演じて実写として成立させてしまうその、女優としての腕っぷしの強さよ。迷いなし。
『本能寺ホテル』('17)もしかり。京都の路地裏にあるレトロなホテルのエレベーターが1582年の本能寺につながっていた! という、つまりはタイムスリップもので、フツーのOL風なロングスカートで戦国時代に迷い込むヒロイン。歴史上の超有名人、堤真一演じる織田信長を前に「え、信長さん!?」と目をまん丸くして驚く綾瀬がめちゃんこカワイイからこそ、楽しくこのフィクションに乗っていけるのだ。
そして『今夜、ロマンス劇場で』('18)では、映画館のスクリーンから飛び出してくるモノクロ映画のお姫様・美雪を演じる。この映画の彼女は、綾瀬はるか史上最高に美しく感じた。モノクロの映像の中でドレスを着てほほ笑む時の気品、カラフルな世界に触れて笑ったり泣いたりワガママを言ったりする素顔。んなアホな! という衝撃をもたらすラストを納得させてしまうのも、美雪を演じる綾瀬の美しさがちょっと息をのむレベルだからという気がする。
ナチュラルに人目を引き、観る人の共感をすんなり得てしまう女優だが、「JUSTICE」以来、その役柄のイメージからなんとなく運動神経はあまりよくないのかな?と、勝手に思い込んでいたので、『ICHI』('08)を観て驚いた。こともあろうに「座頭市は女」という設定で撮った時代劇。つまり勝新太郎や北野武が演じた役を、綾瀬はるかが演じるのだ。そのとびきりにぶっ飛んだ設定をまたもサラッと自分のものにし、その上で、例の仕込みづえを振り回す殺陣に挑戦する。「あれ? めっちゃ格好いいけど!?」みたいな。そもそも座頭市で、殺陣がキマらなかったらお話にならない。そんな、本来高~いはずのハードルを楽々クリアしてしまうのも、綾瀬はるかという女優なのだ。
そして、ドラマ「奥様は、取り扱い注意」('17)の頃にはアクションにも堂々たる風格のようなものさえ漂った。彼女が演じたのは国に雇われた特殊工作員という過去を封印し、憧れだった平凡な主婦としてハンサムな夫と暮らしているという、またも! 現実離れしたヒロイン。夫役の西島秀俊を相手にした1対1の壮絶な殺陣、複数の悪漢をばったばったと始末していく手数の多い殺陣。それを元工作員という説得力を持ちながら、「気持ちいい~!」とか言いながら成立させていく。すげ~な、マジで。
そしてそのドラマが、12月にWOWOWで初放送される『劇場版 奥様は、取り扱い注意』('21)へと展開する。多くの人が、綾瀬のあの役を観たい! と思ったからこそだろう。
例えば、“かわいらしくて貞淑な若奥さん”をひたすらキュートに演じられる女優はいくらでもいるだろう。または「元・特殊工作員」というものすごく特殊な役柄、あるレベルを超えた身体能力を備え、それを一つの役柄として説得力を持ちながら体現できるだけの能力をもつ女優も少なからずいるかもしれない。でもこの両者をごくナチュラルに融合させてサラリと体現し、しかるべきバランスを保ちながら揺るぎなくキープした上、「魅力的!」と思わせる。そんな女優としての“ウルトラC”をラクラクと成し遂げられる人がどれだけいるだろうか? 綾瀬はるかは無駄な威圧感なくただ軽やかに誰より魅力的に、ヒロインとして揺るぎなく物語を引っ張っていく。12月にWOWOW初放送となる本作。その目で魅力を確かめてほしい。
肝心のところ、いわゆる演技力というものを実感したのはドラマ「義母と娘のブルース」('18)だった。彼女が演じたのは、紺のタイトスカートのスーツに白いブラウス、眼鏡をかけてきっちり髪の毛をまとめた姿も典型的な、超絶バリバリなキャリアウーマン。どんな時も四角四面、動きもなんかぎくしゃくしていて崩れない。そんなキャラクターを、何があっても本当に揺るぎなく構築し、それでいて観る人に感情移入させるというウルトラCをやってのける。揺るぎなくキャラクターを維持しつつ、目の前のことに柔軟に対応していくすご腕ぶりなのだ。
綾瀬はるかが男性に人気があるのはどう考えても「そりゃそ~だ」と思える。でも彼女に負の感情を持つ女性に出会ったことがない。普通、女性というのは“天然”と呼ばれる同性を嫌う傾向にあるものだが、そもそも綾瀬って天然なのだろうか? 彼女と共演したある俳優が「これほど冷静な人だとは思わなかった」と言っていたが、そちらが正解に思える。
そして綾瀬はるかは2021年、女優デビュー20年を迎えた。ひとつの道を淡々と極め、その世界で第一線を歩み続けているのに、いつまでもみずみずしいのはなぜなのだろう? とても希少な人であることは間違いない。
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