岡田将生だからこそ魅せられる“人の怖さ”『さんかく窓の外側は夜』を起点に読み解く

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回は映画ライターのSYOさんが、ホラーミステリー『さんかく窓の外側は夜』を起点に、俳優・岡田将生が映画作品で体現してきた「狂気」の演技の魅力を、読み解いていきます。

文=SYO @SyoCinema

 漫画やアニメのキャラクターに必殺技があるように、名だたる俳優たちにも「このゾーンを演じさせたら右に出る者はいない」という武器がある。近年、怒涛の勢いで出演を重ねる人気実力派、岡田将生に当てはめて語るなら、それはやはり「狂気」と言わざるを得ない。

 彼が魅せる“人の怖さ”というものは、凍りつくほど冷徹で、それでいて夢に見るほど生々しい。ほれぼれするほどに端整な顔立ち、取材時などに見せてくれる温厚かつ柔和な姿や困ったような笑顔を目にしていても、いや知っていればこそ、画面の中にいる彼が放つ、鋭い眼光や刺すような声色とのギャップに打ちのめされてしまう。今回は2021年の岡田の快進撃、その口火を切った映画『さんかく窓の外側は夜』(’21)を中心に、彼の新旧・狂気映画を振り返っていこう。

 TVアニメ化もされた人気漫画を『人と仕事』(’21)の森ガキ侑大監督が実写化した本作。岡田が演じたのは、ある壮絶な過去を背負った除霊師、冷川。人間らしい感情が欠落(というか未成熟)しており、気に入った幽霊が見える特異体質の青年、三角(志尊淳)を占有しようとするなど、正義漢なのかそうでないのかが極めて曖昧なポジションだ。いつダークサイドに堕ちるか分からないのだが、その一方で最初からダークサイドで生まれ育ったような雰囲気も醸し出す。禁忌に触れる行動を起こしても、彼には善悪が「分からない」ため、三角に「どうして?」と曇りなき眼で訊いてしまう。

 直情的、またはアッパーで分かりやすいタイプの狂気じみたキャラクターではないのだが、「予備動作なく合理性だけで悪に手を染められてしまう」という点で、“狂気度”が振り切れてしまった冷川。人の怨念が生み出す“呪い”というエネルギーを日常的に扱うところしかり、考えれば考えるほど非常に“怖い”キャラクターだ。また、物語が後半に差し掛かってくると見えてくる冷川の“真実”。その展開に説得力を持たせるためには、人間味をできるだけ薄めつつ、その奥に封印された冷川の“真実”をちらつかせる微細な演技を構築せねばならない。“狂気のエキスパート”である岡田でなければ、表面的なキャラクターになってしまったことだろう。

 衣装や小道具においても美的センスが非常に高い本作で、見事な着こなしも見せている岡田。シルエットが美しい分、動きに制限があったのではないかと推察されるが、そうした“鎧”を着てなお細やかな演技を見せられるのは、流石というほかない。そしてやはりそこには、本作に至るまでの歩みが大きく起因しているのではないか。

 個人的に岡田の持つ“危うさ”に惹かれたのは、『重力ピエロ』('09)が最初だったように思う。本作では、物静かな兄(加瀬亮)とは真逆な切れ者の弟という役どころだったが、後半にいくにしたがってどんどん壊れていくガラス細工のような狂気を披露していた。また『告白』('10)では、「みんなの兄貴に僕はなりたいんだ!」と宣言する教育熱心な教師を怪演。至って真面目だが視野が狭く、観る者が生理的に拒否感を抱いてしまうほどの絶妙なおぞましさをまき散らしていた。

 同年公開された『悪人』('10)では、一言で表現すると「クズ」な大学生役に挑戦。ハードな現場で知られる李相日監督の作品で、どうしようもないほどに嫌な奴を見事に演じ切った。人を見下したような目つきや薄ら笑いなど、この時点で完成された“狂気”を披露しており、以降のフィルモグラフィの中でも、岡田を語る上で外せないものとなっていく。

 生田斗真、松坂桃李と“熱”をぶつけ合った大友啓史監督作『秘密 THE TOP SECRET』('16)を経て、佐藤健菅田将暉と共演したオールスター映画『何者』('16)では、痛々しさに満ちた意識高い系大学生を好演。彼が最後に放つセリフには、現実を受け入れた先に有してしまった、狂気じみた敗北感と悲壮感がにじんでいた。芥川賞作家、今村夏子の小説を映画化した『星の子』('20)では、芦田愛菜扮する女子中学生が憧れる教師に扮した。みんなの前では人気者、だがその実悲しいまでに軽薄で、キャパ超えして激高してしまうなど“子どもの幻想を破壊する大人”を完璧なまでに魅せた。

 『さんかく窓の外側は夜』を経た『Arc アーク』('21)で演じたのは、人類の不老不死を研究する超然としたキャラクター。しかし劇中で一瞬だけ感情を爆発させるシーンが含まれており、岡田の職人芸が際立っていた。第74回カンヌ国際映画祭で4冠に輝いた『ドライブ・マイ・カー』(’21)で魅せた“狂気”は、圧巻。言語を介したコミュニケーションというテーマを扱う本作において、理から逸脱するほどの“魂”を突き付けた岡田の演技は、作品と共に後世まで語り継がれていくことだろう。

 劇場公開中の『CUBE 一度入ったら、最後』('21)で任されたポジションは、まさに岡田の真骨頂。ネタバレを避けるため多くは語らないが、既に作品をご覧になった方は「これだから岡田将生は最高だ」と思ったのではないだろうか。

 今回紹介したのは映画のみだったが、ドラマや舞台においても、岡田の“狂気”に触れられる作品は多数存在する(特に舞台上で彼が放つ狂気は、“あてられる”感覚に近い)。今後の出演作で岡田がどのようなタイプの“狂気”を見せてくれるのか――到達点への道のりを一観客として見守っていきたい。

SYOさんプロフ20211017~

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