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子どもからの愛を一心に受け取る動物のママたち―。母性とともに生まれる、「覚悟」が伝わるドキュメンタリー【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】

 お笑い芸人・ぼる塾の酒寄希望さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」。 
 今回は、『マザー・ネイチャー/偉大なる母たちの物語』を見た体験を酒寄さんならではの視点で綴ります。

 ゆにばーすのはらさんは私が尊敬する女芸人の先輩です。
 ある日、仕事のバス移動でゆにばーすさんと一緒になりました。川瀬さんとはらさんはバスの中でみんなを巻き込みながらずっとコンビでおしゃべりをしていました。

 私は仲が良いなと思いながら2人の会話を聞いていました。話はいろんな方向に転がっていき、気が付くと昆虫のハチの話になっていました。

 はらさん「ミツバチの戦い方って切ないよね…」

 はらさんは圧倒的に自分たちよりも強いスズメバチに対するミツバチの捨て身の攻撃方法を話し出しました。私はそれを聞きながら、

 私「…なんではらさんはこんなにハチに詳しいの?」

 そう思いました。ハチに対する知識量が一般常識を超えているのです。しかし、聞いている相方の川瀬さんははらさんがハチに詳しいことが気にならないようで、うんうん、と、ただ聞いていました。

私「…ミツバチってなんて切ない生き物なんだろう」

 私にとってミツバチは、「蜜を集めるハチ」くらいの認識しかなかったのですが、目的地に到着する頃にはミツバチの生態に感動し、ミツバチの大ファンになっていました。私はバスを降りてすぐにはらさんに話しかけました。

 私「すみません! 盗み聞きしていたのですが、ハチの話とても感動しました」

 はらさん「ハチってすごいよね」

 私「なんでそんなにハチに詳しいんですか?」

 はらさん「今生き物の勉強してるんだ。生き物ってすごいよ。学ぶべきことがたくさんあるよ」

 私は尊敬するはらさんのこの言葉を聞き、自分も生き物からたくさんのことを学ぼうと思いました。

「マザー・ネイチャー/偉大なる母たちの物語」 

大小さまざまな動物のママたちが、あらゆる危険から大切な赤ちゃんを守るために直面する戦い。タフで賢く働き者のスーパーママたちを4K映像で臨場感たっぷりに描く。

WOWOWオンデマンド(公式サイト)より

 今回選んだ作品はいろんな動物のママが登場します。数ある動物ドキュメンタリー作品の中でこちらを選んだ理由は、私も5歳の息子がいる“ママ”だからです。

 【#2 伝えるべきこと】に登場するアフリカゾウは、どんな生き物よりも子育てに時間をつぎ込む動物といわれています。登場するのは15歳の若いアフリカゾウの母親で、小さな赤ちゃんゾウがずっとお母さんゾウの足元にぴたりとくっついています。

 私「赤ちゃんゾウが幸せそうにお母さんに自分の鼻を絡めている。お母さんもすごく愛情に満ちた目で赤ちゃんを見ている。良い親子だな」

 しかし、赤ちゃんゾウは干ばつの真っ最中という厳しい環境に生まれています。このお母さんゾウは前回の干ばつで初めて授かった子どもを失っていました。

 お母さんゾウは二度と同じことが起こらないように、群れの仲間とともに一番近い水場へと移動を開始します。しかし、一番近いといっても80kmも離れているのです。

 移動開始から数時間、赤ちゃんゾウの足取りは重く、それに合わせるお母さんゾウ、2頭は安全な群れから距離が徐々に離れていきます。そして、どんどん暗闇が迫ります。夜はライオンの狩りの時間です。

 私「大勢で固まる群れは攻撃されにくい分、離れてしまった2頭のゾウはライオンから狙われる…あ、ライオンが出てきた…つらい…早送りして無事かどうか結果を早く知りたい」

 早送りを我慢して視聴を続けると、ライオンに狙われながらも、2頭はなんとか水場で仲間と合流します。しかし、その水場にはライオンの群れが先に到着していたのです。

私「神様! いや、ライオンも干ばつで苦しんでいるのは分かるんだけど、それでも…」

 私は勝手な生き物で、自然の摂理を知っているつもりでいても、いざこうして改めて遭遇すると、そのときに「知る」のです。多分、一生その都度知っていくのだと思います。

 小さい体で長い時間歩き続けた赤ちゃんゾウは倒れる寸前です。ライオンが簡単に狩りを諦めないと知っている母親ゾウは群れの仲間に赤ちゃんゾウを託し、たったひとりでたくさんのライオンに立ち向かっていきます。

 ライオンの群れに突進していく1頭の若い母親ゾウは覚悟が違いました。赤ちゃんゾウと寄り添っているときの穏やかな表情とは一変、気迫がこもり、鬼の形相で、数では圧倒的に負けているライオンに向かって長い鼻をむちのように振り回しながら大声をあげるのです。

 “おまえらなんかに私の大切な赤ちゃんを渡すものか”

 私は、この若い母親ゾウの戦う姿が目に焼き付いて離れません。

 アフリカゾウ以外にも、動物によって、実にいろんなママがいます。カマキリは産卵する前にあらゆる苦労を済ませてしまう母親です。

 カマキリの母親は交尾を終えてオスカマキリを食べるショッキングなシーンから始まります。私はメスカマキリがオスカマキリを食べるという知識はあったので、なんとなくカマキリのメスは非道な生き物であると思っていました。

 メスカマキリは身ごもると多くの赤ちゃんを体に宿すため、約100匹分のカロリーが必要になります。そのため、一週間休みなく狩りを続けます。メスカマキリは妊婦の体で戦い続けるのです。

 私「私はメスカマキリを誤解していたのかもしれない」

 自分より大きなヤモリに襲われても、別のカマキリと餌場がかぶってしまったとき(カマキリは縄張り意識が強い)も、カマキリは妊婦の体で戦うのです。そこには自分だけではない、おなかの中の100匹のための覚悟があるからです。無事に餌場を確保できても、卵を産み付ける準備ができるまでひたすら狩りを続けます。

 メスカマキリは結果、200匹の赤ちゃんを産むことができました。このメスカマキリは残り数週間しか生きられないそうです。それでも、このメスカマキリは自分の赤ちゃんを見ることができました。

 ドロバチの母親は一生会うことができない子どものためにすべてをささげます。

Ⓒ Plimsoll Productions MMXXII

 ドロバチの母親は20個の卵を産卵予定です。たったひとりで20の子ども部屋を作り、生まれた子どもが冬を越せるように子どもひとりにつき40匹もの獲物を用意します。作業の途中に卵を狙う敵がいれば、たとえ相手が自分より大きくても、体を張って命懸けで守ります。ドロバチの子どもが出てくるのは10カ月後です。その頃には子どものために懸命に働くドロバチの母親は死んでいます。

 ドロバチの母親の覚悟は、次の世代が最高のスタートを切れるためにあるのです。

 すべての動物ママを紹介することはできなかったのですが、この作品に登場するすべての母親に通ずるところは「覚悟がある」ということです。この作品は母親の覚悟を伝えてくれます。そしてそれは、母性と大きく結び付いています。

Ⓒ Plimsoll Productions MMXXII

 母性というと、一般的にお母さんが幸せそうに赤ちゃんを抱っこしているような柔らかく穏やかなイメージを持つような気がしますが、(もちろん、そういった面もありますが、)その一面、母性とは、とても孤独なものであるとも思います。それでも多くの母親が良しとできるのは、

 “ママはあなたのことが大好き。”

 この気持ちをママは一生抱っこするのです。

この番組のナレーションを務めた田中敦子さんが2024年8月20日に逝去しました。謹んで追悼の意を表します。

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おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、酒寄さんが気になった作品を酒寄さんならではの視点でご紹介します。

『スラムドッグス』
 自分を捨てた飼い主に復讐をするボーダーテリアとその仲間の野良犬たちの冒険コメディ映画です。私はまた新たな最高のカルテットに出会ってしまいました。4匹のチームワークがすばらしいのです。私が過去に見てきた犬が主人公の作品は、どのお話でも犬は美しく賢く優しく描かれていました。この作品はそのすべてのイメージが破壊されるほど下品な内容です。4匹は汚く頭も悪く、そして優しいのです。そして、この作品はずっと下品であり続けるからこそ、物語の最後に登場する「ある言葉」がとても美しく尊いものに思われ、私は制作の裏側は知りませんが、すべての下品はそのワードを際立たせるためだったのではないかと深読みしました。とても下品な内容ですが、決して下品ではない作品です。

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「男コピーライター、育休をとる。」
 
ここ数年、男性で育休を取られる方が多くなったように思います。私自身、育休を取った身ですが男性の育休についてはよく知りませんでした。少しでも男性の育休について理解を深められたらと思い視聴したのですが、このドラマは想像以上に男性の育休についてリアルに描かれていました。育児の大変さはもちろん、育休中の収入問題、保育園の入園の苦労など、育休を取る前に知っておくべきことを丁寧にストーリーの中で教えてくれます。怖いと思ってしまうかもしれませんが、私自身も感じた子どもと過ごす時間のすばらしさを主人公が心から受け取っていて、これから育休を取ろうと考えている男性の背中を優しく押してくれる作品だと思います。

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「湘南乃風 二十周年記念公演『風祭り at 横浜スタジアム』」
 私は長いこと湘南乃風さんはイケイケな人たちが聴く曲だと思い、自分とは縁のない人たちだと思っていました。しかし、ぼる塾のメンバーの影響で曲を聴くようになり、湘南乃風さんの曲は元気で明るく、それでいてとても優しいことに気が付きました。こちらの公演でHAN-KUNが、「湘南乃風の20歳の誕生日会だと思われがちだけど、20年間支えてくれたみんなへの愛をおれたちが伝える日」と言ったとき、なんて素敵で優しい人なのだろうと思いました。ライブ映像で聞く「純恋歌」はとても優しい曲でした。歌詞も歌声も重みがあるのです。新参者ですが、湘南乃風さんを応援していきたいと思います。湘南乃風さんの魅力があふれ、すごく元気になるライブでした。

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▼新書籍「酒寄さんのぼる塾晴天!」も9月12日(木)に発売!

合わせて読みたい! お笑い芸人の中山功太さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」のコラムはこちら

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トップ画像(クレジット)/「マザー・ネイチャー/偉大なる母たちの物語」:ⓒ Plimsoll Productions MMXXII