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私の心の中にずっといる“先生”を呼び起こしてくれた、大人の恋愛ドラマ【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】

 お笑い芸人・ぼる塾の酒寄希望さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」。 
 今回は、センセイの鞄」を見た体験を酒寄さんならではの視点で綴ります。
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 文=酒寄希望

 皆さん、こんにちは。ぼる塾の酒寄希望です。
 私には忘れられない“先生”がいます。東京よしもとの養成所時代にお世話になった構成作家の方です。養成所にはネタ見せという授業があり、今現在活躍されている構成作家の方に生徒が作ったネタを見てもらいます。プロの方にアドバイスをもらえるという大変貴重な授業です。

 私は養成所時代から現在の相方である田辺さんとコンビを組んでおり、「彼女は才能がある。絶対に売れる」と、確信していました。しかし、生まれ持っての自分に対する自信のなさと社会人時代に人間性をめった打ちにされた経験により、「私が田辺さんの足を引っ張るかもしれない」という不安に常におびえていました。

 先生は“怖い先生”として生徒の間では有名でした。私もその噂を聞いて、先生のネタ見せの授業はいつも緊張していました。私は臆病ですが真面目ではあり、さらに入学金を払った以上は全授業を出席して元を取りたいというケチな部分もあったので先生の授業は休みませんでした。休まず授業に出席し続けていると、

 私「先生は確かに怖いけど、先生が怒るときは必ず原因があるし、その怒りは理解できる…」

 原因の分からない怒りの矛先にされたことがある私は、「先生は怖い先生だけど、鬼ではなく、先生だ」と、考えるようになり、授業が少しだけ怖くなくなりました。

 ある日の先生のネタ見せの授業。私と田辺さんのコンビはネタを披露し、先生からのアドバイスを待ちました。私の先生に対する恐怖は薄れていましたが、それでもやはり、先生の前ではおびえていました。先生は「酒寄」と、そのとき初めて私の名前を呼んだと思います。

 先生「君は何をしてもいいんだよ」

 先生が何を思ってそのときそんなことを言ったのかは分かりませんが、言われた瞬間に私は救われました。本当に言われた瞬間に私の頭の中でヨハン・パッヘルベルの「カノン」が流れました。

 先生は怒るけど、真正面からちゃんと見たら、よく笑う先生でした。

 私が連載8回目の今回紹介する「センセイの鞄」は、芥川賞作家の川上弘美さんのベストセラー小説が原作です。

月子(小泉今日子)は37歳でひとり暮らし。ひとり美味しいツマミと日本酒を楽しむマイペースな女性。ある日、行きつけの居酒屋で声をかけてきた初老の男性(柄本明)、それは高校時代の国語の担任だった。歳の差30以上、でも酒の肴の好み、人との距離の取り方、頑固な性格、よく似た2人はしばしば共に時を過ごすようになる。そしていつしか月子の中には、「センセイ」へのおさえがたい愛情が芽生えていた…。

WOWOWオンデマンド(公式サイト)より

 偶然再会した先生と生徒の恋。月子さんが高校時代にセンセイのことを好きであったとか、センセイが月子さんに想いを寄せていたなどということではありません。お互いにそこまで印象に残らない存在でした。

 月子「名前が思い出せないからごまかしてセンセイと呼びかけた。以来、センセイになった」

 2人が先生と生徒だったという間柄を示すこの呼び方も、そんな感じで始まっています。

 月子「漢字の先生でもなく、ひらがなのせんせいでもなく、カタカナのセンセイだ」

 「センセイの鞄」を見ている時間は、月を眺めているときに似ています。月子さんとセンセイは私にとって、月で暮らすウサギのような存在です。私は遠い所から、そんな2人を眺めています。月子さんとセンセイはゆっくりと、そして淡々と2人の時間を過ごしていきます。

 センセイは最初、偏屈なおじいさん(センセイは70歳に近い年齢)にしか見えないのですが、過ごしていくうちに偏屈なおじいさんではなく、すべてが松本春綱(センセイの本名)の魅力であると月子さんに伝わり、そして2人を眺める私にも伝わってきます。真面目で、唐突に伊良子清白の詩を声に出して読む、食の趣味が合う、センセイ。

 私「ああ、確かにこの人はカタカナのセンセイだ。センセイに惚れてしまった月子さんは大変だ」

 とても大人の恋愛です。月子さんとセンセイの関係は、私にはまだたどり着けていない境地であると思います。

 私「2人の恋はしっとりしているけど、さらさらしている」

 物語はゆっくり進むので、高ぶる。高校時代の授業で習ったときは忘れてしまった詩人の伊良子清白の名前を、月子さんはセンセイの前で口にするようになります。

 月子さん「かっぱばし。冬の日差しに光った刃物を見ているうちにセンセイに会いたくなった。なぜかおろし金を買った」

 センセイへの思いを募らせる月子さんは、静かに変な行動を取ります。月子さんの行動はとんちんかんで、でも、恋とはそういうものなのかもしれないな、とも思わされます。

 センセイ「月子さんと2人して、一体どこに行けるというのでしょうか?」

 月子さん「どこにでも行けます。センセイとなら」

 私は月を眺めて、そこに浮かぶウサギの姿は幸せであってほしい、と遠くから願います。

 私と先生は、月子さんとセンセイの関係とはまったく違いました。私が目指したのは先生の恋人ではなく、先生のいちばん面白い芸人でした。

 たった一年の短い養成所期間が終わり、私は先生と最後に会える日に、「また先生にお会いできるように今よりもっともっと面白くなります。先生と絶対にお仕事で再会します」と言い、先生は「楽しみにしています」と言って、笑顔で別れました。

 それから10年以上がたち、私は残念ながら先生と再会する約束を果たせていませんでした。生徒から芸人になった私にとって、先生は遠い遠い存在でした。

 私「私があの手この手を使って会おうとすれば会えるかもしれない。でも、それは違う。先生とは『私の面白さ』で会いたい」

 しかし、最近になって小さなチャンスが巡ってきました。あんりちゃん、はるちゃん、田辺さんとの思い出を本で出すことができたのです。私は周りの人に協力してもらい、先生に本を送りました。迷惑かもしれないと思いましたが、自分の今の笑いを遠くにいる先生に伝える唯一の手段だったからです。

 私「迷惑だったかな。でも、先生がもしも読んでくれて、一カ所でも面白いと思ってくれたらうれしいな」

 本を送った後、先生から一通の手紙が届きました。手紙がもらえるとは思わず、とてもうれしくて、いい大人になのに飛び跳ねました。一文字一文字をかみしめるように読み、最後に添えられた「今でも僕のことを忘れないでいてくれてありがとう」の一言に心臓が握りつぶされそうになりました。

 私「先生を忘れるわけがないじゃないですか」

 臆病な私が迷子になったとき、いつだってあの日の先生が私の帰る場所を教えてくれるんです。

 “君は何をしてもいいんだよ”

 私の中にずっと先生はいるんです。けれども、いつか、会いたいです。

「センセイの鞄」を今すぐ視聴するならコチラ!

おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、酒寄さんが気になった作品を酒寄さんならではの視点でご紹介します。

「スタローン・ファミリー シーズン1」
 
あのシルヴェスター・スタローンが家族とともに出演する、リアリティ・ショーと知り、気になって視聴しました。家族と一緒に過ごせるからという理由でこの仕事を承諾したというだけあって、スタローン・ファミリーはとても仲良し! 勝手に想像していたセレブの家族の斜め上をいく面白さで見ているうちにどんどん家族が好きになっていきます。奥さんと3人の娘さんの美人だけど強い女子チームと、それに翻弄されつつも愛があふれて止まらないシルヴェスター・スタローンに私はもう夢中です。娘の彼氏に対してランボーになっちゃうシルヴェスター・スタローンを見られるのはこの番組だけです!

「スタローン・ファミリー シーズン1」を今すぐ視聴するならコチラ!

『ローマの休日』
 今回本文に登場した私の先生からオードリー・ヘプバーンの『昼下がりの情』という作品を勧められて以来、私はオードリーにハマり、大好きな女優さんのひとりです。『ローマの休日』は中でもオードリーの魅力があふれています。オードリー演じるアン王女とグレゴリー・ペック演じる新聞記者のジョーの2人がスクーターでローマ市内を回るシーンは、自分もアン王女になった気分でわくわくします。そしてなんといってもラストシーンがこんなに美しい作品はなかなかありません! きっと「ローマの休日」は一生色あせることなくときめきと感動をたくさんの人に与えていく作品だと思います。

『ローマの休日』を今すぐ視聴するならコチラ!

「SF超大作『三体』」
 世界的な大ヒットを記録した劉慈欣によるSF小説『三体』のドラマ化作品です。小説を読みたいと思いつつ、SF小説というジャンルに「難解なのでは?」と躊躇して未読でいたので「ドラマ化!これはありがたい!」と、視聴しました。「内容を理解できなかったらどうしよう」という思いは一瞬で吹き飛ぶ面白さでした! 1話目から鳥肌が立ちまくり、続きが気になりあれよあれよと見続けてしまいます。SFの面白さの本気に触れた気がしました。映像も迫力満点です! あまりにも面白過ぎて誰かと語りたくなり、目の前にいた夫に「頼むから見てください!」とお願いし、夫もハマり、今夫婦で続きを追いかけています。

「SF超大作『三体』」を今すぐ視聴するならコチラ!

合わせて読みたい! お笑い芸人の中山功太さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」のコラムはこちら

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