〈ぼる塾・酒寄希望〉人間の怖さは、時に切なくて美しい―。そう感じさせてくれた“人間の怖さ”に対する見方の変化【#エンタメ視聴体験記】
文=酒寄希望
皆さん、こんにちは。ぼる塾の酒寄希望です。
私が連載第4回目の今回、選んだ作品は「連続ドラマW-30 にんげんこわい」と「連続ドラマW-30 にんげんこわい2」です。
日本の伝統芸能の一つである落語。
皆さんは落語と言われてどんなことを思い浮かべますか? もしも、ぼる塾のメンバーだったら、
あんりちゃん「落語って言うと、“まんじゅうこわい”って話ありますよね?」
田辺さん「でもね、カロリーのこと考えるとケーキのほうが怖いよ。洋菓子はバターとか生クリームがたっぷりだからね」
はるちゃん「じゃあ、まんじゅう優しいじゃん!」
田辺さん「そう! まんじゅうは優しい! でもね、ケーキのあの甘さも間違いなく私に優しいのよ!」
そう言って、どんどん話は食べ物へと展開していくでしょう。
しかし、今回は「にんげんこわい」。
今回選んだ「にんげんこわい」は落語の演目の中でも“人間の怖さ”が際立つ演目をアレンジ&ドラマ化した新感覚オムニバス落語ドラマです。なんと、全話怖い話です。私は落語は以前、母親に連れられて見に行ったことがあり、そのときは滑稽話に大笑いしたり、人情話にじーんと感動したり、落語の世界を楽しみました。
ですから、「にんげんこわい」を知ったときは、「落語のドラマ化」に興味が湧きました。
私「落語家さんが一人ですべてを演じる落語をドラマにしたらどうなるのだろう。落語とドラマって見せ方の方向性が真逆な気がする」
これはぜひ見たい! ですが、見る前に一つだけ悩みが…。
私は人間が怖い話が苦手です。
ホラー映画は大好きで、モンスターやお化けの話は大好物です。人間が犯人でも、海外ホラーのようにスピード感があふれる作品や、最後は肉弾戦の話は大丈夫です。でも、この「にんげんこわい」はタイトルからして絶対違いますよね? 人間の嫌な部分が全面に出て、じわじわと精神攻撃してくるような怖さ確定ですよね? この“人間の闇”に対する苦手さは私の性格が良いからとかではなく、パクチーが苦手な人のパクチーへの感覚に近いと思います。とにかく無理!(ちなみに私、パクチーは好きです)
ですが、今回はあまり見たことがないジャンルにも挑戦してみようと思います。やっぱり落語のドラマ化が気になる!
ここからは「にんげんこわい」を見た感想ですが…とても怖かったです。ずっと怖かったです。笑い一切なし。このドラマは元から怖い落語の話もあれば、本来なら笑える落語の話もその話の人間の怖い部分を増幅させて、ドラマオリジナルの怖い話にしているそうです。
私「にんげん怖い!…でも、この怖さに不思議と嫌悪感はない」
人間が怖いという部分は変わらないのですが、このドラマを見て、人間の怖さに対する見方が変わりました。例えるなら、パクチーは駄目なんだけど、この食べ方ならパクチー食べられます! という感じでしょうか。私は人間の怖さは醜くて汚いものだと思っていたのですが、人間の怖さは、時に切なくて美しい。オムニバスドラマなので、今回は私が特に気になった作品を紹介したいと思います。
【にんげんこわい 第2話 辰巳の辻占】
元々は笑える落語の話らしいのですが、このドラマではとても怖い話になっています。山本美月さん演じる女郎・お玉があまりに美しく、けれども華美でなく奥ゆかしく、いじらしい。唐突に心中を持ち掛ける伊之助に対し、一瞬の戸惑いの後、
お玉「私も死ぬ。言ったでしょ。伊之助さんがいないと生きていたくないって」
愛していないとできない表情で伊之助を見つめるお玉に私は、「伊之助は絶対に騙されている」と思いました。
私「これは絶対に騙されている。だって、お玉が健気過ぎる。伊之助にとって都合の良い女過ぎる。お玉は女郎としてプロだ! きっとお玉はうまいことやって伊之助との心中から逃げる。それがこの物語の“にんげんこわい”だ!」
私の心を探偵にしつつ、物語は進みます。突然ですが、私はドラマや映画で人が歩きながら話すシーンが好きです。現実世界でも座って落ち着いて話すよりもどこかに向かう途中など、歩きながらの会話だからこそ、ふと、人の本音が出ることはありませんか? 私がそうです。
私の話になってしまいますが、私と田辺さんはぼる塾を結成する前のコンビ時代(ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と私と田辺さんのコンビ「猫塾」が合体してできたカルテットです)、芽が出ないまま何年も時が流れて心が折れ、一度芸人を辞めようと思ったことがありました。そのときも座って改まって話し合ったのではなく、二人で代々木公園を歩いているときでした。
私「・・・芸人辞める」
田辺さん「酒寄さんが辞めるなら私も辞めるよ」
私「良いの?」
田辺さん「良いよ。酒寄さんとだからここまでやって来られたんだもの」
私「ねぇ、芸人辞めてもコンビは辞めないで、どこか別の場所で一緒に何かやろうか」
田辺さん「良いね、それ! どこに行っても私たちは解散しない!」
私「これからもずっと一緒にいてくれる?」
田辺さん「ずっと一緒だよ! 二人一緒ならどこだって楽しいよ!」
結果、私たちは芸人を辞めずに今、ぼる塾になっているのですが、私の「ずっと一緒にいてくれる?」はふと漏れた一番の本音でした。ですから、歩きながら話すシーンがあると、「あえて歩きながらこの登場人物たちが話すってことは、この会話には大事なことが詰まっているかもしれない」と、大切に見ています。
辰巳の辻占にも、嘘心中のために川に向かって歩くシーンがあります。「本当に良いのか?」と聞く伊之助に、お玉が「私ね、5歳のときにあの店に売られたの」と、自分の過去を話し始めます。お玉は5歳からずっと、女郎でひどい扱いを受けてきました。このとき語られたお玉の悲惨な人生はきっと本当の話で、けれども、伊之助の気持ちをより自分に惹きつけるための道具でもあり、そして道具であったとしても、この会話はお玉の本音なのだと思いました。
お玉「死にたくなるほどつらい日もあった。私の人生なんていつ捨てても良いってずっと思ってた」
私「お玉は怖い。でもその怖さがきれいに見える」
この会話のシーンのお玉の笑顔が忘れられません。この後、二人がどうなったのかは私の心の探偵もびっくり! ドラマ版「辰巳の辻占」には私が予想したラストを超える恐怖が待っていました。そしてラストを見てからこの川のシーンのお玉の台詞をもう一度聞くと、また違った部分が見えてきます。
「にんげんこわい」は、ほかの作品ももちろん人間の怖さが浮き彫りになり、ゆがんだ愛情だったり嫉妬だったり、舞台は江戸時代ですが現代と人間はまったく変わらないのだなと思うものばかりです。
そして、「にんげんこわい」には「にんげんこわい2」という続編があります。正直「にんげんこわい」は「人間というか、女性が怖いのでは?」と、思うほど女性が怖い話ばかりだったのですが、「にんげんこわい2」は男性も怖い!
【にんげんこわい2「最終話 笠碁」】
女性絡みの話が多い中、この話はご隠居さん二人の話です。お互いがお互いのことを大嫌い。けれども気にしてしまう。
私の知り合いにもお互いの悪口ばかり言っているのになぜか離れない二人がいます。
私「そんなに憎いなら離れれば良いのに」
けれども離れない。そして、会う。会ってまた相手を嫌いになる。笠碁の話は、女性の怖さを表現するときとは、また違った怖さがあります。「にんげんこわい」の女性たちは、かれんな笑顔、嘘、大胆な行動で私を怖がらせてきました。しかし、笠碁のご隠居さんは、荒れた指先、正直な憎しみ、ささいな動作で私を怖がらせます。外は雨が降る中、憎しみ合う二人が碁を打つシーンは醜くて怖い。けれどもその醜さは汚いものではなく、二人だけの濃密な絆のようにも感じられるのです。江戸時代にしては長生きの二人は家族からも疎まれ、家では厄介者扱いされています。
私「この人たちはお互いを憎しみ合っているけど、老いた自分のことをこの世で一番考えてくれている相手は目の前の自分が憎くて仕方がない相手だ。例えそれが憎しみの感情であっても、二人ともずっと相手のことを思っている。ちょっと相思相愛に似ている? いや、この二人は真逆か」
“相思相愛”の反対はなんだろう、と思って調べたら、「片思い」と出てきました。人間の怖さは身も世もない。
本当は「にんげんこわい」シリーズを全話語りたいのですが、大長編になってしまうので特に気になった2作品を紹介しました。しかし、まだ終われません!
があるのです!「にんげんこわい2」でドラマ化された落語を、落語家の柳家喬太郎さんたちが「本家の落語はこうだよ!」と演じてくれているのです! 親切!(ドラマ本編でも全ての話の終わりに柳家喬太郎さんの解説があり、落語との違いを解説してくれています)ドラマではあんなに怖かった話がとても面白い笑い話だったり、ドラマとは違った怖い話だったりと、一緒に見るとさらに「にんげんこわい」の世界が楽しめました。
私「落語のドラマ化って面白い!ドラマ化って良いな~! もしもぼる塾がドラマ化されたらどうなるんだろう? 4人とも美人な俳優さんに演じてもらって、田辺さんだけハリウッドの俳優さんに演じてもらって、田辺さんの台詞だけ英語だから日本語字幕付くのとかも良いな~」
こんなことを延々と考えてしまう自分が怖いです。やっぱり人間って怖いですね。
▼「連続ドラマW-30 にんげんこわい」を今すぐ視聴するならコチラ!
▼「連続ドラマW-30 にんげんこわい2」を今すぐ視聴するならコチラ!
▼「柳家喬太郎 「にんげんこわい」の落語会」を今すぐ視聴するならコチラ!
▼合わせて読みたい! お笑い芸人の中山功太さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」のコラムはこちら
▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。