大好きな『スクール・オブ・ロック』を改めて観て、俺はM-1取れてなくてよかったな、と思った――スピードワゴン・小沢さんが心を撃ち抜かれたセリフを語る
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回はロック映画の名作『スクール・オブ・ロック』です。
小沢一敬(以下、小沢)「うん。前回の『リンダ リンダ リンダ』(’05)と同じく、この映画も、15年前ぐらいに公開されたときに真っ先に映画館で観て、その後でDVDも買った。それぐらい好きな映画だったんだけどさ、今回、改めて観直してみたら、昔とは感じ方がちょっと変わった気もしたね」
──例えば、どんなところが?
小沢「最初に観たときは、シンプルに面白い映画、笑って泣けて熱くなる最高にロックンロールな映画だなぁ、って感動して。もちろん今回も、その本質は変わらないんだけど、なんか細かい部分が気になっちゃった。例えば『今の時代にあんな先生がいたら問題になっちゃうよな…』とか。この2021年にあんな先生がいたら、ワイドショーが黙ってないでしょ(笑)」
──たしかに、コンプライアンスに引っ掛かりまくる(笑)。
小沢「そういう部分に気を回しちゃうのは、時代のせいなのか、俺が年を取ったからなのか。だから、今の若い子がこの映画を観て、どう感じるのかを聞いてみたいよね」
──ただ、この作品自体は、その後にテレビドラマ化されたりミュージカルになったり、割とスタンダードになりつつあります。
小沢「日本でもミュージカルをやるみたいだね(※)。ホントに王道の、気持ち良くなる瞬間がたくさんまぶされた物語だから。おいしいところだらけの、ある意味で“お子様ランチ”みたいな作品だよ」
──あ~、よく分かります。
小沢「お子様ランチって言葉は、なんか馬鹿にしてるみたいに聞こえるけど、お子様ランチって最高じゃん。ハンバーグもスパゲティもエビフライも、全部入っててさ、おまけに旗まで立ってるんだから(笑)」
──そういう意味で、お子様ランチ的映画だと。
小沢「うん。とにかく、俺が好きなところがいっぱいある映画だよ。まず、一発目にかかる曲、主人公のデューイ(ジャック・ブラック)が、自分のバンドを首になるシーンでかかる曲が、ザ・クラッシュの『ステイ・フリー』って曲なんだよ。これ、クラッシュの中でも俺が特に好きな曲なの。2枚目のアルバム(『動乱(獣を野に放て)』)の8曲目なんだけど」
──細かいことまでよく覚えてますね。
小沢「この曲から始まるっていうのが、まず熱くなったよね」
──メタル寄りの音楽ばかりかと思いきや、意外と幅広くいろんなロックがかかりますよね。
小沢「そうだよね。ラモーンズがかかったり、セリフの中にもセックス・ピストルズの話が出てきたり、割とパンクっぽい要素も多かったよね。生徒たちにロックの歴史を説明する場面では、パンクの説明の一番上にパティ・スミスの名前が書いてあったよ」
──これまた、細かいところまでよく見てますね(笑)。
小沢「とにかく、俺もロックが大好きでさ。ロックっていうのは音楽に限らず、すべてのジャンルにあると思ってて。例えばマンガの世界での手塚治虫とか藤子不二雄は、俺の中ではロックだし。だから、義務教育の中で手塚治虫とかTHE BLUE HEARTSを教えればいいのに、って思う反面、やっぱりああいうものは自分で見つけるからこそ意味があるし、自分で見つけるからこそロックになるとも思うのね」
──自分で見つけて、衝撃を受けるから、夢中になるわけですしね。
小沢「まあ、この作品はファンタジーだから、生徒たちはああいう形でロックに出合うわけだけど、きっと彼らには忘れられない出合いになったと思うよね。俺さ、小学生の頃、将来は学校の先生になりたいと思ってたの」
──それは意外です。
小沢「だから、ああいう先生になりたいなぁ、と思いながら観てた」
──なんで先生になりたいと思ってたんですか?
小沢「この連載もそうなんだけどさ、自分が面白い映画を見つけたりすると、それを人に教えたくなるんだよ。どんなところが面白かったのかって。好きなことの話だったら、一生できるから。学校の授業って、本来はそういうことだと思う。数学だったら『この数字がこうやって変化するから面白いんだよ』とか、そういうことを教えるのが本当の意味での授業でしょ。それって、要するに映画の面白さを伝えるのと一緒じゃん」
──小沢さんみたいに面白く話してくれる先生だったら、みんな勉強が好きになったでしょうね。
小沢「そういう意味でこのデューイは、教員免許は持ってないけど、実は誰よりも先生らしい先生だと思うよね。ロックが主要5科目の一つだったら、最高の先生だよ」
──ちなみに小沢先生だったら、どんな科目を教えてくれますか?
小沢「そうね、俺が教えるなら、“国・数・マン・ロー・ヤ”だね」
──国・数の後の3つが分かりません。
小沢「国語・数学・マンガ・ロック・野球(笑)。結局、俺が伝えたいことは何かって言うと、人の生き方なんだよ。マンガだって、ロックだって、野球だって、最終的に学べるのはそれだと思ってる。映画もそうだよね。人の生き方はたくさんあるし、それぞれに正解がある。学校のテストでは、正解は一つかもしれないけど、本当はそうじゃないものもあるから」
──子どもたちには、そういうことを教えたいと。
小沢「うん。それがこの映画のテーマでもあったと思うよ。やりたいことをやればいいし、やり方が分からなかったら、格好から入ったっていいんだ。俺らだって、漫才を始めようと思って最初にやったのは、ダウンタウンの完コピだったんだから(笑)」
──そんな時代もあったんですね。
小沢「やっぱり、松本(人志)さんのセリフを言うと気持ちいいんだよ。そうやって漫才の呼吸みたいなものを覚えていったね。ロックバンドをやりたいやつらが、好きな曲のコピーから入るのと同じで、まねしてみて、初めて分かる。だから、まずは格好から入るっていうのも大事なんだよ」
──では、そんな小沢さんも大好きなこの映画の中で、最も心を撃ち抜かれた名セリフは?
小沢「この映画に限っては、名セリフらしい名セリフを選ぶっていうのが難しいよね。だって、ちょっとした子どもたちのセリフが、全部良かったりするから」
──たしかに、子どもたちのセリフはどれもいいです。
小沢「そんな中でも、パンクが大好きな俺が選びたい名セリフは、『セックス・ピストルズも無冠だ』」
<ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください>
──ラストのシーン、惜しくもバンド・バトルでの優勝がかなわず落ち込むデューイを励まそうと、ドラムを担当したフレディ(ケヴィン・クラーク)が言うセリフですね。
小沢「最初はデューイも『目的は優勝じゃなく、最高のステージだ』って言ってたくせに、いざ終わってみると、賞が欲しくなって『嘘だろ!』って文句言って。そしたら、逆に生徒から『ロックは成績なんて関係ない。セックス・ピストルズも無冠だ』って言われちゃうっていう(笑)」
──あれはカッコいいセリフですねぇ。
小沢「実はこの前、同世代の芸人たち何人かで若手のネタを見る仕事があったんだけど、そのとき、その若手のひとりが『M−1(グランプリ)の取り方を教えてください』って質問したのね。そうしたら、中川家の剛さんが言ったんだ、『賞を取るために漫才やってんの?』って。俺はこれを聞いて、目からうろこだったよ」
──それもまさに名セリフ!
小沢「確かに言われてみれば、俺らの時代にはM−1もなかったから、別に賞を取りたくてやり始めたわけじゃなくて、ただ漫才をやりたかっただけなんだよ。もちろん、今の若手の中にはM−1を取りたくて漫才始めた子もいるんだろうから、難しいところなんだけどさ。でも俺は、剛さんの一言に感動したし、この映画の名セリフも、それと同じ意味の言葉だと思うよ。M−1に出るときだって、『目的は優勝じゃなく、最高のステージだ』っていうぐらいの気持ちでやれるのが、一番ロックだろうなって」
──やりたいからやってるんだ、という気持ちが大事だと。
小沢「好きなことが一つでもあるやつは、絶対に“無敵”だからね」
──小沢さんもスピードワゴンも“無敵”ってことですね。
小沢「まあ、俺の友達には賞レースの優勝経験者が多くて、それがコンプレックスだったのよ。結局、俺ら(スピードワゴン)は何も持たずに、手ぶらのままここまで来ちゃったなって(笑)。だけど今回の映画を観て、むしろ俺はM-1取れてなくてよかったな、って思ったよ。だって、ピストルズも無冠なんだから(笑)」
(※2020年に上演予定だったミュージカル『スクール・オブ・ロック』は公演中止に)
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