人は自分の為じゃなくても泣けると僕に教えてくれた、韓国の名作映画で過去イチ号泣【#エンタメ視聴体験記/中山功太】
文=中山功太
ご存知の方もいるかと思うが 「人は自分の為にしか泣けない」という仮説がある。
家族や友人など、大切な人が亡くなった時も「大切な人を失った自分が可哀想だから泣く」のだそうだ。
果たして本当なのだろうか?
「感情以外の涙は違うはずだ」という屁理屈で打ち破るべく検証してみたい。
あくびした時の涙。これは人体の構造上、勝手に流れる涙だ。自分の為に泣いてはいないのではないか?
しかし僕は、単独ライブのネタ作りなどであまりにも眠い時、あくび泣きの後に歯を食いしばり顔を歪ませて、涙で頬を濡らす時がある。
あれは「まだ寝れない自分が可哀想だから」泣いている。
自分の為に泣いている。
鼻を打った時の涙。これは鼻の近くの神経が刺激され、本来 鼻水だったはずの成分が涙にランクアップして流れているはずだ。自分の為に泣いてはいないのではないか?
しかし僕は、小学生の頃、ドッジボールが顔面に当たり「顔面セーフ!」と言いながらおどけている時、声と肩を震わせて、正式にしゃくり上げていた。
「顔面セーフ!」の発声も「がっめっせぃ...」が精一杯だった。
あれは「ちゃんと痛さと恥ずかしさで」泣いていた。
自分の為に泣いていた。
花粉症からくる涙。これは花粉の成分が眼球に付着し、それを洗い流す為に、便器の自動洗浄の様にセンサー的に流れているに違いない。
しかし僕は、小学4年生で初めて花粉症になり、授業中に涙と鼻水が止まらずにズヌズヌと音を鳴らしていたら、担任の先生に「お前もう帰れ」と言われた事がある。
あの時、序盤は花粉泣きだったが、中盤からは普通泣きだったし、終盤は泣きわめいていた。
あれは「意味がわからない症状が出てる上になぜか帰らされた自分が気の毒だから」泣いていた。
自分の為に泣いていた。
他にも、鼻毛抜き泣き、冬寒過ぎ泣き、コンタクトレンズ合わず泣きなど、感情以外の涙を沢山経験してきたが、どれも自分の為に流す涙なのかも知れない。
やはり人は自分の為にしか泣けないのだろうか?
昨日、このコラムで紹介する映画を観て僕が泣いたのも自分の為だったのだろうか?
今回視聴した作品は『私の頭の中の消しゴム』。
言わずと知れた大ヒット映画で、2005年から2020年まで日本で公開された韓国映画史上第1位の興行収入を誇る。
個人的には、永遠に1位であるべき作品だと今回視聴してみて改めて思った。
社長令嬢のスジン(ソン・イェジン)と工事現場で働くチョルス(チョン・ウソン)は、恋に落ち、夫婦となる。
幸せな日々を送る中で、妻のスジンが若年性アルツハイマーを患っている事が判明し...
といったあらすじだ。
公開当初、一人で映画館で観て、人生で一番泣いた映画だ。
僕はこの映画が好き過ぎて、今回を含めて都合4回観ている。
1回目は映画館で観てボロ泣きし、2回目はVHSで観てやや泣きし、3回目はDVDで観てちょい泣きした。
今回はWOWOWオンデマンドでコラムの為に観る訳だし、視聴回数を重ねるごとに涙の総量が下がって来ているので、さすがに泣かないだろうと高を括っていた。
視聴した。
号泣した。
鼻水を垂らしながら止めどなく涙を流し、嗚咽しすぎてえずいた。
今回が一番泣いた。
この映画が凄いのは、作中で人が死んでいないのに泣ける所だと思う。
昔、とある舞台の演出家の方から聞いた言葉がある。
「お芝居で人を泣かせるのなんて簡単だ。前半でお客さんに愛させた人物を、後半で殺せばいい」
横柄な感じではなく、当たり前の様にそうおっしゃっていた。
その方の持論から外れる本作がとめどなく悲しく、泣ける映画だというのが、本当に凄まじいと思う。
恋愛映画において、愛する人の死よりも悲しい事があるという事をこれでもかと言うほど叩きつけられる。
序盤から一貫してラテン音楽が使われているのも素晴らしい。互いに惹かれ合う二人の幸せなムードを増幅させている分、病が発覚してからは、水風船が割れる様に悲しみが降り注ぐ。
中盤に大きな泣きどころがあるのだが、それすらも超える後半の数10分は、もはや感動の暴力だ。
何の容赦もない。
もうやめて欲しいのにずっと脇腹をくすぐられる状態の悲しみバージョンだ。
ラストシーンは、個人的にはハッピーエンドだと思っている。
綺麗事ではないが、残酷ではない。
ゴールかも知れないが、スタートにも見える。
とにかくこの映画を観ていただきたい。
もしも泣かなかったという猛者がいればお話を伺いたい。
そして一つ答えが出た。
スジンの夫、チョルスは、自分の為だけに泣いていない。
愛するスジンの為だけに何度も涙を流す。
人は自分の為にしか泣けない訳じゃないと教えてくれた。
ところで、自問自答の答えは出ていなかった。
僕がこの映画を観て泣いたのは自分の為だったのだろうか?
「もし自分に妻がいて記憶を失ったら夫である自分が可哀想」だと妄想しての涙だったのか?
そこの答えはやはり出なかった。
が、そんな人間でありたくないとも思った。
一つだけ確かな事がある。
コラムの締め切りが迫っているが、作品への思い入れが強過ぎてスマホのタップが進まない。
いま僕は、まだ寝れない自分が可哀想だから、自分の為だけに、あくび泣きをしている。
おわりに・・・
「井上芳雄ミュージカルアワー『芳雄のミュー』」
WOWOWオンデマンドのステージランキングにおいて僕が見ていた限りずっと1位をキープしていたので、気になって視聴させていただいた。
ミュージカル界のトップスター井上芳雄さんが司会のトーク番組という事で「芸人以外の司会はどんなもんかいのぅ?」という気持ちもあったが、滅茶苦茶上手かった。
ゲストの堂本光一さんと自然にお喋りしており、滑らかな進行なのに何の嫌味もない。
嫌味しかない自分がチョイ恥ずに感じた。
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「リンジー・ローハン・ビーチクラブ~お騒がせ女優が営む海の家~」
この作品はめちゃくちゃ面白いし、斬新だった。
海の家での生き残りをかけた、いわゆるデスゲーム的なバラエティ番組。ではあるのだが、目まぐるしい編集と豪華な音楽のおかげで、完全に映画になっている。
漫画「カイジ」シリーズを読んでいると、真剣なシーンも笑ってしまう時があるが、あの感覚に近い「無駄なシリアスさ」がたまらない。
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『スワロウテイル』
たとえば『トレインスポッティング』(‘96)の様な、観ただけで自分がイケてると錯覚できる映画があるが、あの感覚が好きな僕の様な方には是非オススメしたい。
世界観・キャスト・音楽、全てがとにかくカッコいい。
Charaさんがボーカルを務めるYEN TOWN BANDによる主題歌「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」も大好きでたまにカラオケで入れるが、当然歌えず、アホの九官鳥みたいになって一番で消している。
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クレジット(トップ画像):『私の頭の中の消しゴム』:ⓒ2004 CJ Entertainment Inc.& Sidus Pictures Corporation. All rights reserved.