待望の「ジョン王」から中村倫也×黒木華「ケンジトシ」、高畑充希「宝飾時計」など話題作続々登場。“ステージ派”なら押さえたい! 5月の必見舞台4本!
【Don't miss out!5月のWOWOW舞台・番組4選】
①小栗旬主演 彩の国シェイクスピア・シリーズ「ジョン王」作:ウィリアム・シェイクスピア 演出:吉田鋼太郎
5月6日(土)後7:00(2023年1月/Bunkamuraシアターコクーン)
5月24日(水)後7:00(2023年2月/埼玉会館 大ホール※埼玉大千秋楽Ver)
彩の国シェイクスピア・シリーズのファイナルとなった「ジョン王」。正統な王位継承者であるアーサーに代わってイングランド王になったジョンのところに、先王リチャード1世の私生児だと名乗る男、フィリップがやってくるところから物語が始まります。フランスと争うか和睦か、アーサーを生かすか殺すか…ジョン王の悩みと決断は人々の混乱を招き狂気が連鎖します。そんな世の状況はフィリップの運命にも大きな影響を及ぼしていき…胸が詰まるようなラストを迎えます。主演のフィリップ役を小栗旬が熱演したことでも話題となりましたね。私はシェイクスピアの戯曲をとても時間をかけて読みます。やや頭がいっぱいの状態となるのは、相関図や前に出てきた情報を確認しつつ読み進めるからです。ですが、上演を見るとボキャブラリーの豊富さとそれをクラフトするセンスに引き込まれて、一つ一つのせりふを味わい次のせりふが楽しみになります。今回はまさにそうなる演技の連続でした。何か一つポイントを挙げるならば、「声」の芝居だったなぁと思っています。単に”オールメール”だったからではないと思いますが、役者の声の響きに共通性があるように感じました。そのため芝居全編が一つのせりふのようでもあり。自らも舞台に立った吉田鋼太郎の演出のもと、せりふを丁寧に読み解き各キャラクターの受け止め方を考えていった創作過程が目に浮かぶような、役者たちの息がぴったりの演技でした。一部配役が異なる東京公演と埼玉公演の2バージョンを放送・配信します。
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②吉田羊×大原櫻子「ザ・ウェルキン」 作:ルーシー・カークウッド 演出:加藤拓也 5月6日(土)後10:00
18世紀半ばの英国の田舎町、サリーという少女が殺人罪で死刑を宣告されます。しかし、彼女は妊娠を主張。“妊婦は死刑を免れる”という法のもと、真偽判定のために妊娠経験のある12人の女性が陪審員として集められます。
英国の注目の若手劇作家、ルーシー・カークウッドの新作です。14年『チャイメリカ(原題:CHIMERICA)』がローレンス・オリヴィエ賞 最優秀作品賞を受賞。続く16年に発表した『チルドレン(原題:THE CHILDREN)』は、トニー賞の演劇作品賞にノミネートされました。いずれも日本でも上演され、大きな注目を集めてきました。
妊娠しているか否かを巡り言葉を交わす女性たち。最初は議論から少し距離を置こうとするような者もありますが、次第に表情が変化していきます。女性の体、性、妊娠に伴う痛みへの考えそしてサリーに対しての疑いが滲み出て、掛け合いはどんどん加速していきます。吉田羊が演じるのは、なんとかサリーに公正な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベスです。ほか、梅沢昌代、那須佐代子、峯村リエら実力派の俳優陣が女性たちを演じます。こちらも心の中では議論に加わっているようなつもりで見入ってしまう舞台でした。法廷の外で処刑を求める暴徒の存在も描きます。「社会がサリーに向ける目」と「女性たちがサリーに向ける目」の違いを考えさせられて、社会の状況にも思いをはせることができます(この頃の英国の市井の人々の暮らしや政治についてもっと知りたくなりました)。「天空」(ザ・ウェルキン)に込められる意味が分かって苦しくもなる圧巻のラストシーン。お見逃しなく。
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③高畑充希主演「宝飾時計」作・演出 根本宗子 5月14日(日)後6:00
高畑充希が根本宗子に「私に芝居を書いてほしい」と数年前に申し出たことがきっかけとなり、出演者に当て書きした脚本。
成田凌、小池栄子、伊藤万理華ら豪華な顔触れが、魅力的に役を作り上げています。子役から女優として活躍しているゆりか(高畑充希)。21年前に主演したミュージカルの記念公演への出演をきっかけに、かつてトリプルキャストとして現場をともにした仲間たちと再会します。ゆりかの過去と現在を行き来するようにして人生との向き合いを描きます。
重要なテーマである「時間」が幾つかの軸で描かれていると感じました。①刻々と前に進む時間、②見た目の変化から感じる時間(主人公のゆりかは10歳から29歳まで舞台「宝飾時計」に子どもの役で出演し続けます)そして③止まってしまった時間。時間は一緒に過ごす人や出来事の前後でまったく違うものになることを、ファンタジー要素と現実的な視点とを交えて描いています。
舞台は敷居が高い…と思っている方にもお薦めしたい1本です。舞台美術と、神田恵介(Keisuke Kanda)が担当した衣装には、かわいらしさと懐かしさがあります。また、注目の劇作家・根本宗子にフォーカスしたクロスジャンル特集「ステージと映画で楽しむ!根本宗子の世界」もお届けいたします。お楽しみに!
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④「ケンジトシ」中村倫也×黒木華 5月27日(土)後2:30
「銀河鉄道の夜」や「やまなし」で知られる宮沢賢治と、その良き理解者であり、精神的な支えでもあった妹トシを描きます。北村想による書き下ろしの脚本を栗山民也が演出しました。東京・シアタートラムの小さな空間が賢治が描いた大自然で満たされていました。トシは、聡明で、物事に対する意見や気持ちをしっかり持った女性です。最先端の女子教育を受けていて、賢治の創作インスピレーションでもあります。2人の心の交流は簡潔に説明できるものではありません。ただ、この脚本はそれを非常に丁寧に描いていると思います。2人の間で共有したものは、賢治の作品で描かれた星、大地、水中の生き物たちの描写や言葉と密接に関わっているのではないかと考えさせられる演出でした。そのため、中村倫也と黒木華演じる賢治とトシのシーンはスピリチュアルな感じもあれば、家族だからこその真っすぐな言葉のぶつけ合いもあります。2人に関心を寄せて、私たちの思考を導く存在、イシワラを演じる山崎一とその助手ホサカを演じる田中俊介のせりふにも耳を傾けてください。コロナ禍で延期となり、チケット入手が困難だった舞台、ご注目ください!
終わりに…
最近プライベートで見た作品の中で印象に残ったのは滋企画『K2』、ミュージカル『太平洋序曲』、ミュージカル『マチルダ』、『OKINAWA 2部作 1945↔1972』、『ブレイキング・ザ・コード』、NTLive『るつぼ』などです。6月、シェイクスピア作品は『ジョン王』だけでなく、メトロポリタン・オペラ ブレット・ディーン《ハムレット》MET初演(5月3日(水・祝)後1:00) や、メトロポリタン・オペラ 《ロメオとジュリエット》(5月2日(火)後6:30)など、METのラインナップにも登場します。
特に《ハムレット》は、オーストラリア出身の作曲家ブレッド・ディーンが、サンプラーなど電子技術を用いてアイデアに富んだ最先端の音楽を提供しています。アラン・クレイトン、ブレンダ・レイら実力派の出演者がそろい、21世紀のオペラ界に衝撃を与えたスリリングな舞台。こちらも必見です。
今月も、もう一度見たい作品がある皆さまも、劇場に見に行けなかった作品がある皆さまも、WOWOWステージをお楽しみいただければ幸いです。
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