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〈ぼる塾・酒寄希望〉"自分がつまずいていたところから歩き出せる。" そんな気持ちにさせてくれたドラマ【#エンタメ視聴体験記】

 お笑い芸人・ぼる塾の酒寄希望さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」。 
 今回は、「連続ドラマW パンとスープとネコ日和」を見た体験を酒寄さんならではの視点で綴ります。

文=酒寄希望
 
 皆さん、こんにちは。ぼる塾の酒寄希望です。
私が連載第3回目の今回、選んだ作品は「連続ドラマW パンとスープとネコ日和」です!
 
 皆さんは視聴する作品を選ぶとき、何を基準にしますか? 好きな俳優さんが出演している、原作が好き、好みのテーマ…ほかにもいろいろあると思います。今回私が選んだ作品は、以下の3つの好きな要素がすべて含まれています。
 
 “小林聡美さん主演” “群ようこさん原作” “ごはんがテーマ”
 
 もう完璧に私のドストライク作品なのです! 実は私はこの作品を以前見たことがあって、今回選んだ「パンとスープとネコ日和」は何度も見返したくなる作品なんです。
 
 私と小林聡美さんの出会い(私の一方的な)は、私の兄が伝説の超おもしろドラマ「やっぱり猫が好き」のDVD BOXを持っていて、それを見せてくれたことがきっかけでした。 
 
 「やっぱり猫が好き」は、3姉妹が暮らすマンションの一室を舞台にしたシチュエーションコメディで、私のお笑いはこの作品にものすごく影響を受けています。この作品で三女を演じていた小林聡美さんは元気で面白くてかわいくて、私の中で特別な存在になりました。

 それから月日は流れ、私が初めて憧れのムーミンカフェに行ったときまで話は飛びます。私はそこで1枚の映画のチラシを見つけます。これが映画『かもめ食堂』との出会いでした。
 
 私「この映画、小林聡美さん主演だ! もたいまさこさん(「やっぱり猫が好き」で3姉妹の長女役)も出ている!」
 
 フィンランドが舞台の映画だったので、同じフィンランドのキャラクターであるムーミンのお店にチラシが置いてあったのだと思います。私はこれをきっかけに『かもめ食堂』を映画館に観に行きました。
 
 私「小林聡美さん、凛としていてすごく格好良い! ごはんもおいしそう! お話も好きだし、この映画の全部が好き!」
 
 この映画の原作が、群ようこさんでした。私はこの後、群ようこさんの書く小説やエッセイを読みあさるようになりました。また、『かもめ食堂』をきっかけに、ごはんがテーマの作品を好んで見るようになりました。
 
 なので、こんなことを言っては何ですが、「パンとスープとネコ日和」に出会った時は、もう見る前から「私、大好きだろうな」と思っていました。そして見た結果、大好きになりました。
 今回視聴する作品を選んでいたとき、最近ぼる塾のみんなで「大人になったと思う出来事のひとつに、スープを欲するようになった」と言う話題で盛り上がったことを思い出し、
 
 私「スープと言えば、「パンとスープとネコ日和」だ! もう1回見よう!」
 
 こうして私は再び、この作品の世界に飛び込みました。
 
 このドラマは全4話で、物語は、小林聡美さん演じる編集者のアキコが突然母親の死を知らされるところから始まります。母親は自分で営んでいた食堂で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。母親と2人暮らしだったアキコはその後、仕事を辞めて母親の食堂を自分が継ぐことを決心します。
 
 アキコ「自分のやりたい店をやる。それが私の決心」
 
 アキコは母親がやっていたご飯もお酒も楽しめる食堂とはがらりとメニューを変えて、サンドイッチとスープだけのお店を始めます。サンドウィッチは2種類で、3種類のパンから選べます。そしてスープは日替わりで1種類。メニューはそれだけです。
 
 私「アキコの店はお母さんの時代と全然違う。お店を継ぐのは単純に母親のためにってことではないんだろうな」
 
 物語はずっと淡々と進んでいきます。アキコの母親が亡くなった後も、仕事を辞めてお店を始める決心をした後も、アキコの生活はとても静かです。そのせいか、アキコが台所に立って卵を焼くときの音などがとても大きく聞こえます。その台所の音の大きさが、日常は変わらず続いていくことをリアルに感じさせます。
 
 私「小林聡美さんが料理を作っている姿って見惚れてしまう…。アキコは今どんなことを思いながら、ごはんを作っているんだろう。作っているごはんがとてもおいしそうなのに、分からない。おいしそうだから分からないのかな」
 
 アキコの周りには編集者時代にお世話になった先生や母親の食堂の常連さん、近くの喫茶店のママ(演じるのは、もたいまさこさん)など、アキコを応援してくれるたくさんの人がいて、みんな個性的です。私は中でもアキコのお店にアルバイトで入った、しまちゃんという女の子が大好きです。

 ある日、アキコのお店に喫茶店のママがやって来ます。アキコのお店の前に咲いている花に毒があると言うのです。自分の喫茶店のお客さんに言われて図鑑で調べたと言い、
 
 ママ「私には関係ないけど、陰気な店には陰気な種が飛んでくるのね」
 
 ママは言いたいことだけ言って去っていきます。このママはとても口が悪く、アキコがお店を始める前は「早く人に貸すかどうにかして。閉まっているお店が近くにあるのは嫌だ」と言ったり、何かにつけて小言を言う存在です。毒の花の件を、アキコと一緒に叱られたしまちゃんは、ママが去った後でアキコに言います。
 
 しまちゃん「図鑑で調べたって、本当は良い人なんですね」

 アキコ「そうなのよ」
 
 私はこのシーンではっとしました。

 私「そうか、すべての優しい人が分かりやすく自分の気持ちを相手に伝えられるわけじゃないよな。アキコはママの優しさを知っていたから毎回小言を普通に聞いていたんだ。でも、その優しさに気付くことって難しいんだよな~」
 
 アキコはしまちゃんと2人でお店を頑張っていきます。しまちゃんは素直な女の子で、その素直さでアキコを救っていきます。

 お店がお休みの日にアキコとシマちゃんは、一緒にバッティングセンターに行き、しまちゃん持参のおやつを食べます。そこからしまちゃんはアキコに子供時代のおやつは何だったのか質問をします。アキコは「母親がお店をやっていたからそういうのはなかった。ご飯も店の残り物。それが嫌で小さいころから自分で作っていた」と答えます。それを聞いたしまちゃんは、
 
 しまちゃん「だからアキコさん、料理している姿が自然なんですね。自分の場所にいるって見える」
 
 「えらい」でも「すごい」でもない、しまちゃんの言葉。
 
 私「私だったらうっかり「えらい」とか「すごい」って言ってしまいそう」
 
 「えらい」と「すごい」は褒め言葉でも、状況によっては言われた相手を傷つけることがあります。アキコは恐らくそれらの言葉に傷ついてきたので、しまちゃんの予想外の言葉に驚き、そして笑顔になります。
 
 私「しまちゃんの言葉は聞く人を元気にする言葉だ。なんだか、ほっとするスープみたい」
 
 このドラマを見ていると、“言葉と食事は似ている”という思いを抱きます。話が進んでいくと、アキコと母親の関係が少しずつ明らかになっていきます。アキコは母親をあまりよく思っていなかった時期があり、それを引きずり距離のある親子のまま、突然母親が自分の前からいなくなってしまいました。アキコは、母親の昔の友人や常連さんから母親の話を聞き、母親のことを考えます。
 
 アキコ「母がお客さんと毎晩酔っぱらっているのが嫌だった。そういう母を許せなかった。母がいなくなってそういう母を許せない自分のことが本当は嫌だったのかな」
 
 アキコと母親の関係とは違いますが、私は30歳くらいになるまで母親とうまく距離をとることができませんでした。昔から母親のことは大好きでした。私の母親はとても良いお母さんで、手作りお菓子を作ってくれたり、ピアノを弾いてくれたり、いろんなことを教えてくれました。けれども私が、「私は果たして母親の理想の娘として育っているのだろうか?」と悩んでしまい、好きなのに変な距離がある親子になってしまいました。ずっとその状態が続きましたが、私も歳を重ねていろいろ学び、30歳を過ぎたころに
 
 私「私がなれなかったのはお母さんの理想の娘ではなく、私がなりたかったのはお母さんに似合う私だったんだ。そうなれない自分がふがいなかったんだ」
 
 そう気付き、自分から素直に「お母さんが好きだから、もっと仲良くしたい」と行動に移せるようになりました。

 アキコは「あのころは分からなかった」「今になって気付いた」と、母親のことをたまに立ち止まって考えます。そして自分なりの答えを見つけます。アキコや周りの人のやり取りを見ていると、私自身についてもふと、「あのころは分からなかった」、「今になって気付いた」と、思い出して考えるようになります。
 
 この作品にはほかにも、喫茶店のママとアルバイトの子の不器用な関係だったり、とても素敵な先生など、かけがえのない日常のやりとりがちりばめられています。そしてなんといっても“ネコ”です。 タイトルにも入っているネコのたろは、物語の重要な役割を果たしています。

 私「今回改めて見直して分かった。「パンとスープとネコ日和」を見ると、なんだか自分がつまずいていたところから、また歩き出せそうな気持ちになれる。そして、周りの人に優しい自分でありたい

 同じく小林聡美さんが主演のドラマ「山のトムさん」「ペンションメッツア」も見てみたくなりました。「山のトムさん」は原作が石井桃子さんで、(最近石井桃子さんの「ノンちゃん雲に乗る」を読んで心惹かれていました)、「ペンションメッツア」は監督が「パンとスープとネコ日和」と同じく松本佳奈さんなんです!

 好きな気持ちがつながっていき、小林聡美さんが「おーい! こっちにもおいでよー!」と手を振って呼んでくれているようです。何度も繰り返し見る作品も、新しく出会う作品もわくわくしますね。

「連続ドラマW パンとスープとネコ日和」を今すぐ視聴するならコチラ!

合わせて読みたい! お笑い芸人の中山功太さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」のコラムはこちら

▼そのほか、小林聡美主演のWOWOWオリジナルドラマを今すぐ視聴するならコチラ!
「WOWOWオリジナルドラマ ペンションメッツァ」

「ドラマW 山のトムさん」

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