
今年10月にソロデビュー40周年を迎える岡村孝子が昨年12月21日に LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催した恒例のスペシャルライブをWOWOWで独占放送・配信!
幼少期からクラシックピアノを学び、デュオ“あみん”としての活動を経て、1985年10月にソロデビューした岡村孝子。中学校の音楽の教科書に採用された「夢をあきらめないで」をはじめとする名曲の数々は、幅広い世代に聴き継がれている。彼女がライフワークとしているのが、1988年にスタートした12月恒例の“Christmas Picnic” だ。昨年実に18回目を迎えたこのスペシャルライブの最終公演が行われたのは12月21日、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)。彼女にとってホームグラウンドとも言える会場は、開演前から静かで穏やかながらも熱い空気に包まれていた。

聖なる夜の始まりは、1987年発表のサードアルバム表題曲「リベルテ」から。当時最先端の電子楽器シンクラヴィアを導入し制作されたレコードのオープニングを飾ったナンバーだ。キーボードを弾きながら歌う彼女は華やかな赤いドレス姿。アップテンポな曲調に乗せて、不安や葛藤の中でも未来を信じたいという希望を綴る。ハンドマイクを手にステージ前方に出て歌った「クリスマスの夜」の後、彼女はゆっくり語り始める。2019年、急性骨髄性白血病であることを公表後に受けたさい帯血移植手術。あれから(寛解したとみなされる)5年を迎えたことを、感謝を込めて報告する。成し遂げた“奇跡”に、満場の観衆から大きな拍手が送られる。続いて歌われたのは、80年代末の師走を彩ったクリスマスソング「天使たちの時」。時代の喧騒に飲まれることなく、静かな時間(とき)を重ねることを標した楽曲が鳴り響く。

1989年から7年間、春になるとレコーディングのために3週間ほど滞在したロンドン郊外のチェッケンドン。スタジオでの懐かしい思い出を話してから演奏されたのは、9枚目のオリジナルアルバムタイトルチューン「満天の星」。日々に押し流されてしまいそうな不器用な真っ直ぐさを、優しく照らす星たち。その卓越した情景描写にも感嘆するばかりだ。コンサート第1部最後は、あみん時代の作品「あの日の風景」を『Andantino a tempo』ヴァージョンで。別れた恋人との思い出の地を独り歩く、やるせない心情が描かれる。郷愁というフレーバーも加わり、場内が切ない感傷で満たされていった。
休憩後、第2部で披露された「大切な人」のアコーステックヴァ―ジョンも素晴らしかった。誰もが誰かにとってかけがえのない存在であり、歓びも哀しみも共有し生きていく。彼女のシンガーソングライターとしての足跡は、人としての歩みと重なり合う。そんなことを改めて実感した。初めてテレビCMに出演したときの撮影でのエピソードを笑顔で語った「ミストラル~季節風~」は、1992年発表のアルバムタイトルナンバーでもあるメロディアスな佳曲。続くダンサブルな「adieu」では、リズムに合わせて軽快にステップを取る。この曲は1990年のアルバム『Kiss 〜à côté de la mer〜』ラストに収録された、懐かしい“アッカンベーソング”。彼女の茶目っ気のようなものも感じられる流れが微笑ましく嬉しかった。
ハイライトはこの後の2曲だった。自身の闘病中の孤独と不安の中、心の支えになってくれたすべての人へ捧げる「女神の微笑み」。そして、闘病に入る前に創り上げたアルバム『fierte』収録曲「金色の陽ざし」。大切な人の存在は光のように心を射し、人生を黄金の輝きで照らす。「限りある生」と向き合いながらも、すべてを慈しみ愛したい。白いドレスに身をまとった彼女が歌に託す真摯な想いは、どこまでも胸に沁みた。彼女を支えるミュージシャンたちが奏でる音色もまた、教会で鳴り響く旋律のように荘厳で美しかった。
本編最後は、毎日を懸命に生きる女性たちへエールを贈った「Baby, Baby」。1986年発表のセカンドアルバム『私の中の微風』に収録されたソロキャリア初期の代表曲のひとつだ。日常に疲れ切ってしまいそうなとき、そっと支えてくれる岡村孝子の歌。「ありがとうございました」客席に向かって一礼する際、もう一度小さく呟くさりげない仕草に、彼女の人柄がにじみ出ていた。

あふれ出る尊敬と共感が舞台に注がれるアンコール。拍手を全力で受け止めた彼女は3階席の一番後ろまで届けとばかりに背を伸ばし、懸命に手を振り「夢をあきらめないで」を歌う。「あなた」ひとりひとりに歌声を届ける彼女と、確かな手拍子で応えるオーディエンス。エールを分かち合い、心から通じ合う光景が尊かった。

今回のツアーに向けて書き下ろされた久しぶりの新曲「未来の扉」も感慨深かった。もう一度悩み迷いながらも、回り道して人生を楽しんで行こう。そう考えることで、人生のリスタートが切れる。四季の移ろいや潮の満ち引きのように、色や形を変えて繰り返されていく日常。どんな“渦中”にあっても、笑顔で歩いて行こう。そんな祈りにも似た願いが結晶となって、純度の高い煌めきを放っていた。最後は、彼女もバンドメンバーもそれぞれの装いでセレブレーションを演出した「世界中メリークリスマス」。多幸感あふれるリフレインが素敵な記憶となって刻み込まれていく。最高のエンディングだった。

至高のメロディー、丁寧に紡がれた言の葉たち、透明感と包容力に満ちたヴォーカル。そして、デジタルで構築したサウンドプロダクションとバンドの演奏が融合し、眩しい光彩と絹のような手触りを生み出していく極上のアンサンブル。この夜、全員で分かち合ったのは、永遠に輝き続ける岡村孝子の音楽のエッセンスだ。その贅沢な余韻に包まれて、聖夜は更けて行った。
【番組情報】

岡村孝子 Special Live“Christmas Picnic”
3/9(日)午後9:00 WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送終了後~21日間アーカイブ配信

岡村孝子コンサート 2015 “T's GARDEN ~渋谷公会堂 FINAL~”
2025年4月放送・配信予定
※放送終了後~21日間アーカイブ配信