出産、復帰、賞レース出場―。心がピンチの時に何度も助けてくれた、原田マハさんの世界【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】
文=酒寄希望
皆さん、こんにちは。ぼる塾の酒寄希望です。
私が連載第6回目の今回、選んだ作品は「CONTACT ART~原田マハと名画を訪ねて~」です。
実はこの連載、元々は全6回と決まっていて、本来ならば今回が最終回となっていました。しかし、好評につき連載延長となりました! 読んでくださっている皆さんのおかげです! ありがとうございます!
私はこの連載が始まった時、最終回は絶対に「CONTACT ART~原田マハと名画を訪ねて~」で書こうと心に決めていました。それは、原田マハさんが私にとって特別な存在だったからです。
私には今4歳になる息子がいます。今は元気過ぎるくらいに元気で毎日大暴れしているのですが、私が出産した時は低出生体重児として生まれてしまい、生まれてすぐにケアのできる別の病院に運ばれました。産んだばかりで私たち親子は離れ離れになりました。
同じ部屋のお母さんたちが自分の赤ちゃんと一緒にいる中で、私だけひとり。これには大変参りました。隣にいない息子にごめんねごめんねと何度も謝りました。ほかのお母さんが、母乳の与え方や沐浴の仕方などを赤ちゃんと学んでいる姿を見て、私はここで学ぶこともできず、大丈夫なのだろうか、息子を守っていけるのだろうか、母親としてやっていけるのだろうかと不安でいっぱいになりました。息子がこの世に誕生した喜びとともに、言いようのない心もとなさに襲われました。
そんな時に私の母親が「ひとりでいるといろいろ考えちゃうでしょう。良かったらこの本を読んで。とても良い本よ」と言って、原田マハさんの「楽園のカンヴァス」という本を貸してくれました。
最初はあまり気乗りしなかったのですが、読み始めて一気に本の世界に引き込まれました。そして、原田マハさんの書く絵画の世界の美しさに救われました。私は絵画には詳しくないのですが、彼女の文章で見るアンリ・ルソーの描いた作品は私を救ってくれました。
ですから、「CONTACT ART~原田マハと名画を訪ねて~」を発見した時は、「あの時はありがとうございました!」という気持ちを込めて大切な最終回を原田マハさんの番組で終わらせてもらおうと思っていたのです。しかし、今回は当初の予定とは全く変わり、お礼どころか再び原田マハさんの力を借りて助けてもらうことになってしまいました。再び、私の心はピンチに陥っていたのです。
皆さんは毎年年末に女芸人のNo.1を決める「女芸人No.1決定戦 THE W」という番組が放送されていることを知っていますか? 私は昨年の11月に約4年ぶりに劇場復帰したのですが、この1年、このコンテストのことをずっと意識してネタと向き合ってきました。
私の劇場復帰一発目の舞台は実に散々な結果でした。誰が見ても「4人よりも3人の時の方が面白かった」と思うような漫才をしてしまいました。とても落ち込みましたが、その時、あんりちゃん、はるちゃん、田辺さんが「ぼる塾は今スタート地点に立ったのだ」と励ましてくれ、私は「落ち込んでいる暇はない。落ち込んでいる暇があったら、その分、頑張れる」と、反省以外の過度な落ち込みは捨てました。
そして4人で年末の「女芸人No.1決定戦 THE W2023」を目標に頑張ってきました。ぼる塾は、あんりちゃん、はるちゃん、田辺さんの3人体制で「女芸人No.1決定戦THE W 2020」の決勝まで進んでいました。ですから、私はなんとしても4人で決勝の舞台に立ちたいと思っていました。周りは「先は長いんだから、焦らなくて大丈夫だよ」と言ってくれましたが、私はどうしても、目に見える形で3人のぼる塾に追い付きたいと思っていました。これは譲れない私のわがままでした。
そして、ぼる塾は4人で準決勝まで進むことができました。次はいよいよ決勝。その決勝に行くために重要な準決勝が11月13日、14日の2日間でした。私はどうしても決勝に行きたいという気持ちと、これでもし行けなかったらと思う気持ちで準決勝の日が近づけば近づくほどに心が苦しくなってきました。その時に思ったのです。
あの時、真っ暗な私を救ってくれた原田マハさんの世界に再び訪れよう
#7 クリムト/愛知県美術館
私は以前、グスタフ・クリムトの『接吻』という作品を見て、
「とてもきれいな絵。なんか、心にぐっとくる」
そう思ったことがありました。しかし、その作品は好きでしたが、ほかの作品は見たことがありませんでした。(もしかしたらほかの作品も見たことがあったのかもしれませんが、クリムトの作品だと意識して見たことがなく、結び付けられなかっただけかもしれません)
この回で原田マハさんがコンタクトするクリムトの作品は
【人生は戦いなり(黄金の騎士)】
まさに今の私。普段視聴する時は順序良く初めから見るタイプなのですが、私は真っ先に第7回のクリムト/愛知県美術館から見ることにしました。
私は原田マハさんのお姿を初めて拝見したのですが、まさに描かれている作品の世界のように素敵な方でした。彼女が作品にコンタクトする前に、「行きましょうか」と、穏やかにカメラに向かって話しかけてくれた時、本当に私に向かって「あなたも一緒に行こう」と、話しかけてくれているような気持ちになりました。
原田マハさん「元気だった? 私も元気でした。相変わらずすばらしいです」
そう言って、彼女は作品とのコンタクトを始めました。
クリムトの【人生は戦いなり(黄金の騎士)】は、黄金の甲冑を着た馬上の騎士と左下には蛇の頭部が描かれています。
原田マハさん「強い絵、エネルギーがあふれている。強いけど、優美。強くて美しい」
クリムトは19世紀のウィーンを代表するオーストリアの画家。彼の的確な表現、華やかな色彩、強い装飾性は世紀末の時代の特性にとても良く合い、クライアントがとても多かったそうです。
原田マハさん「ある時、クリムトにウィーン大学の大講堂のための壁画が注文され、大きなスキャンダルになる。完成した作品は大学が求めていたものと大分違うものだったのです」
ここでクリムトがウィーン大学のために描いた【医学】という作品が画面に映し出されるのですが、それを見た私は「なんだかゾッとする作品だな」と、ちょっとひるんでしまうようなものでした。
原田マハさん「生々しい生命が混流するようなある種のエロティシズム、死へのおびえのようなもの、人生の中で避けて通れない命の側面を描いたもの。これを大学側が拒否、“不道徳で邪悪な芸術”と批判されてしまうんです。クリムトは芸術が理解されない孤独感を味わう」
クリムトはそういったさなかで【人生は戦いなり(黄金の騎士)】を描き上げました。
原田マハさん「ある意味、アカデミズムとか権威に対する挑戦状。新しい時代のために自分だけの作品を生み出していくというある種のマニフェストになっていると思う」
クリムト自身が甲冑を着けた騎士。蛇が反対勢力という解釈がされているそうです。クリムト自身が黄金の騎士となり、戦っている。
原田マハさん「クリムトにとって一番困難な時代であり、覚悟しなければいけないことが山のようにあった。新しいことに挑戦していくために。それが勝ち戦になるかどうかは誰も知らない。それを彼は悠々と、そしてまたりんりんと乗り切っていこうという美しく強い決意の1枚。ただひたすらに美しい、ひたすらに優美である。それなのに強いというのはすごいことだ」
原田マハさんは、優しく穏やかにクリムトの作品とコンタクトし、まるで私自身が作品と対話をしているような感覚になりました。これ以上はぜひ、皆さんに原田マハさん自身の声で聞いてほしいのでここでは書けません。
私「この作品は絶対に本物を生で見たい。黄金の騎士に、クリムトに会いたい」
私は【人生は戦いなり(黄金の騎士)】という作品を必ず美術館に自分の目で見に行くことを誓い、ひるみそうな心にこの絵画を持って準決勝に挑みました。
田辺さん「見て、今日の靴下ゴールドなの。今日のためにおニューよ」
ネタ合わせ中、田辺さんがきれいな靴下を見せてくれました。本当に偶然なのですが、田辺さんはゴールドの物を身に着けていたのです。
私「そうか、私にはあんりちゃん、はるちゃん、田辺さんという黄金の騎士が3人も隣にいるじゃないか。なんて強いんだ! 私たちは強い!」
悠々と、そしてりんりんと乗り切っていこう
私たちは無事に準決勝を突破し、決勝への切符を手に入れました。
過去を超え、目指せ、4人で優勝。
こちらのシリーズの続編、「CONTACT ART~原田マハと名画を訪ねて~ シーズン2」では、原田マハさん自身が「一番の親友」と言う、「アンリ・ルソー/東京国立美術館」の回があります。この回もとてもすばらしいです!
「原田マハさんの『楽園のカンヴァス』という名著はこの愛情から生まれたのか!」と納得できるルソー愛が伝わってきて、視聴後は全員がルソーのことを好きになっていると思います。私もルソーが大好きになりました。
このシリーズで、原田マハさんは多くの画家の作品との出会いを私たちに与えてくれます。もしかしたらあなたの力になってくれる、親友になってくれる作品との出会いがあるかもしれません。
最後に。
この文章を書いている時点ではまだ「女芸人No.1決定戦 THE W 2023」の決勝の結果は分かりません。結果が分かった後、皆さんがどのような気持ちでこれを読んでくださるのかも、私は分かりません。
ですが、私は黄金の騎士のクリムトの精神で仲間たちと戦って来ようと思います。悠々と、そしてまたりんりんと乗り切っていこう。
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