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いつまでも少年漫画に心惹かれる中年芸人の僕が、傑作アニメを観て思い出す中二の初夏の出来事【#エンタメ視聴体験記/中山功太】

 お笑い芸人の中山功太さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」
 今回は、松本直也の世界的人気漫画をアニメ化した『怪獣8号』を見た体験を中山さんならではの視点で綴ります。

文=中山功太

 幼い頃からずっと、少年漫画が大好きだ。
 中年実写となった今でも、少年漫画を読んでいる時だけはあの頃の気持ちに戻れる。

 4つ歳上の兄の影響もあり、特に週刊少年ジャンプが好きだった。
 四半世紀以上も前のことだが僕が中学生の頃、月曜日に発売されるジャンプを土曜日に読める謎のルートを持った、S君という野球部の同級生がいた。

 中学二年の初夏。
 誰もが楽しみにしていた「DRAGON BALL」の最新話を読んだ彼は、街中を自転車で練り走りながら叫んだ。
 「天津飯がセルを倒した」と。

 彼は一躍ヒーローとなり、月曜日に発売されたジャンプを読んだ同級生達は彼を預言者の如く崇めたてまつった。

 だが、翌週の月曜日に悲劇は訪れた。
 先週号の最後のコマで「天津飯がセルを倒した」様に見えただけで、今週号で天津飯は普通に力尽きたのだ。
 S君は土曜日にそれを知ったのだろう。土日、家から一歩も出て来なかった。

 放課後の部活の時、S君は、ヤンキーで有名だった同じ野球部の三年ににじり寄られていた。
 きっと先輩はS君の言葉を信じて、天津飯セル撃破論を吹聴し、大恥をかいたのだろう。
 ラグビー部だった僕は、先輩に更に距離を詰められるS君をグラウンドの奥から見つめていた。

 先輩は、大振りのビンタをS君に見舞った。
 何度も、何度も、繰り返した。

 なぜか音は聴こえなかった。
 ただ、S君の身体が宙に浮いている事は分かった。

 大袈裟じゃなく、二人とも踊っている様に見えた。

 僕にはS君を助ける事が出来ず、目を逸らして、ラグビー部の先輩に「このボール空気抜けてきてます」と、滅茶苦茶な嘘をついた。

 S君が土曜日にジャンプを読めたせいで、天津飯がセルを倒してなかったせいで、先輩がヤンキーだったせいで、こんな事になってしまった。
 週刊少年ジャンプのキャッチコピー「友情」「努力」「勝利」の全てが欠けている。

 こんなクソみたいな思い出しかないからこそ僕は、少年漫画に心惹かれるのかも知れない。

ⓒ防衛隊第3部隊 ⓒ松本直也/集英社

 今回視聴した作品『怪獣8号』は「少年ジャンプ+」で松本直也先生が連載中の、すでに世界的な人気を誇る漫画の待望のアニメ化だ。
 原作が大好きで読んでいるが、このアニメ版も傑作だと断言したい。

 怪獣が人々の日常を破壊する世界線の架空の日本を舞台に、命懸けで国民を守る日本防衛隊の活躍を描いた怪獣作品であり、バトル作品である。
 第一話からいきなり重要なネタバレがあるので、予備知識無しですぐに観ていただきたい。
 「友情」「努力」「勝利」が詰め込まれた、良い意味での王道作品なのだが、第一話から普通ではない展開を見せる。

ⓒ防衛隊第3部隊 ⓒ松本直也/集英社

 主人公の日比野カフカが32歳という設定が本当に素晴らしいと思う。
 ただヒット作を作りたいだけなら、10代の熱血漢か弱気な少年でも良かったはずなのだが、本作は主人公の「年齢からくる諦め」から幕を開ける。
 幼馴染の亜白ミナとの距離がなかなか縮まらないところも、観ていてヤキモキするし、バトルシーンが多い本作において、もう一つの見どころとして確立されている。

 さらに、共に戦う日本防衛隊のメンバーが、本当に魅力的だ。
 様々な個性や戦法やバックボーンがあり、次々にスポットライトが当たっていく。本作の脇役は、脇役ではない。他の作品なら全員、主役を張れるレベルだ。

ⓒ防衛隊第3部隊 ⓒ松本直也/集英社

 「原作に忠実で、ファンも納得」というのはアニメ化において大切な事だが、アニメ『怪獣8号』は、いくつかの面で原作ファンの期待を上回っていると思う。

 漫画とアニメーションを比べるのはナンセンスかも知れないが、怪獣の迫力、光と影の描写、スタイリッシュな音楽、声優さんの演技、どれを取っても30分アニメの「限界」を遥かに超えている。毎回が劇場版アニメ作品のクオリティだ。
 どんな才能の持ち主が、何人集まって、何時間かけて作っているのか、想像も出来ない。

 素人が熱弁して申し訳ないが、自分がネタを作る時、熱量が時として創作の邪魔になる事がある。勝手に突っ走ってしまうからだ。
 「心は熱く、頭はクールに」
 よく聞く言葉だが、これは容易ではない。
 そんな無理難題を大幅にクリアしている、本作の創作に関わった全ての皆様には本当に頭が下がる。

ⓒ防衛隊第3部隊 ⓒ松本直也/集英社

 原作者の松本直也先生や、制作会社Production I.Gの皆様には「友情」「努力」「勝利」が初めから備わっていたのだろうか? それとも試行錯誤して手に入れたのだろうか? そんな事まで考えさせられてしまった。

 もし中学二年の初夏に戻れるなら、僕は踊る様に殴られているS君を助けられるだろうか?

 いや、無理だ。

 同じ様にラグビーボールの空気が抜けたフリをするだろう。
 過去は変えられない。
 だから今から出来る事をしよう。

 S君、大阪に帰った時、安い飯でも奢るよ。

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おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、中山さんが気になった作品を中山さんならではの視点でご紹介します。

「今どきの若いモンは」
原作漫画が好きだったので観させていただいた。
タイトルからの逆転の発想で、本当に好きな作品だ。
そして、反町隆史さんは幾つになっても本当に格好良い。
男が憧れる男。
僕が反町隆史さんと共通しているのは唇の色だけだ。

「今どきの若いモンは」を今すぐ視聴するならコチラ!

「聖地」
このコラムを書かせていただいてから、すっかり海外や自然の映像が好きになった。
この「聖地」は特に凄かった。
自分が無知なせいもあるだろうが、なんせシーズン1から全く知らない名前の古代都市の遺跡だった。
「ペトラ」に行った後、なんと「へグラ」にも行く。
ワクワクし過ぎて臓物がせり上がる感覚が味わえる。

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『ローマの休日』
 
かつて「好きな女優さんは?」と聞かれた時「オードリー・ヘプバーン」と答えていたが「カッコつけんな」と理不尽な指摘を何度も食らった。
 本当なのだから仕方がないし、ヘプバーンのポスターも飾っていたのに。
 久しぶりに観させていただいたが、ヘプバーンは可愛すぎるし、映画は名作すぎた。
 小学生の頃、夜中に本作をテレビで観ていたら母親に「まだ早い」と叱られたが、未だにあの意味が分からない。
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合わせて読みたい! お笑い芸人のぼる塾・酒寄希望さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」のコラムはこちら

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クレジット(トップ画像):『怪獣8号』:ⓒ防衛隊第3部隊 ⓒ松本直也/集英社

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