00年代初期に生まれた2枚のアルバム。音楽から読み解く、スピッツが辿った葛藤について〈特集:スピッツ、バンド史の行間にあるもの 第2回〉
音楽ナタリーとWOWOW公式noteが特集コラボ、スピッツ30年の軌跡を振り返る。現在、バンドの歩みを年表で振り返る記事を音楽ナタリーで掲載中。こちらnoteでは、その年表の‟行間”を綴った連動コラムを3回にわたりお届けします。
第2回となる今回は、『ハヤブサ』と『三日月ロック』、この2枚のアルバムが生まれる過程を記します。
文=石井恵梨子(音楽ライター) @Ishiieriko
ロックアルバム『ハヤブサ』
「ロビンソン」「チェリー」などのヒットに恵まれながらも、世間のイメージと自分たちの考えるロックバンド像にズレを感じていたスピッツ。望まないベスト盤のリリースもあり、すっきりしない気持ちを抱える時期が続きました。一時期は引退すら考えたこともあるのだとか。ポップでエバーグリーンなイメージとは対極の、かなりシリアスな90年代末期でした。
ヒットの代償として精神を摩耗する。よくある話といえばその通りで、メンバー内に亀裂が入ったり、果ては活動休止に追い込まれるバンドは少なくありません。スピッツがそうならなかったのは、結局全員が学生時代の延長のように仲が良かったから。さらには、売れることが目標だったのではなく、ロックバンドをやることが目的だったと気づいていったから。結局はロックがやりたい。そんな気持ちを取り戻して作ったのが2000年の『ハヤブサ』でした。
©ユニバーサルミュージック
1曲目から草野マサムネのアコースティックギターがはじけ、間奏では三輪テツヤのギターソロが炸裂。スピッツ流のロックンロールがあり、サイケデリックもある。自分たちのやりたいことを徹底的に追求したこの作品により、スピッツはバンドとしてひとつトンネルを抜けたようです。
9・11テロ事件を経て生まれた『三日月ロック』
トンネルを抜けた直後に起こったのがアメリカ同時多発テロ事件。高層ビルに飛行機が突っ込んでいくショッキングな映像は世界中に衝撃を与えました。どんどんキナ臭くなっていく世界情勢と、それに対してなす術もない芸術や音楽の存在。本当に音楽をやる意味はあるのか。そんな疑問に直面した草野マサムネは、しばらく答えのない問いと向き合い続けたそうです。
南阿佐谷のデニーズで自分たちの進路を決めた日が青年期の始まりならば、この時期は大人として初めて責任を考え、未来に何を残すのかを考え始めた、そんなバンドの壮年期といえるでしょう。
ポップスであれロックであれ、人々の不安を少しでも和らげる音楽を作ろう。そんなふうに心を固めた彼らは、アルバム『三日月ロック』に着手。
©ユニバーサルミュージック
ファンタジックな喩えの多いスピッツの歌ですが、ストレートな言葉で未来に向かうことを歌い上げた曲も生まれました。謙虚さと力強さ、頼もしさと慎ましさ、普遍性と少しの毒が同居するスタイルは、以降、変わらないスピッツらしさとなりました。
なお、東日本大震災の後、2013年にリリースされた14thアルバムが『小さな生き物』でした。
©ユニバーサルミュージック
こちらも、微力ながら寄り添っていくと覚悟を決めたような名曲が多数。『小さな生き物』というタイトルにもマサムネらしい謙虚さとファンタジックな感性が漂います。つらい出来事、悲惨な災害などに直面した後に生まれるスピッツ作品は、特に色濃いものになる傾向があるようです。
イメージは常にポップ、時代を選ばないエバーグリーンな名曲ばかり。そんなスピッツを愛する人は多いですが、内面では人間らしい葛藤があり、表現者としての逡巡や成長がありました。楽曲の背景を追っていけば、何も変わらないようで少しずつ変わってきた彼らの歴史が感じられます。
■<特集:スピッツ、バンド史の行間にあるもの>
第1回の記事はこちら
https://note.wowow.co.jp/n/nef2e9833e5ee
第3回の記事はこちら
https://note.wowow.co.jp/n/na3b6c5bccec9
■番組情報
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