見出し画像

本場ウィーンのエリザベート、ピサロ、東京03…充実の秋 “ステージ派”なら押さえたい! 11月の必見舞台5作品

 こんにちは。9月からWOWOW公式noteの“中の人”デビューした「WOWOW社内で(たぶん)TOP10には入る“ステージ好き”」Fです(お恥ずかしいですがプロフィールを後述します)。
おかげさまで第3号です。来たる11月に放送される、WOWOWでしか見られない舞台5作品(※)を取り上げます。舞台は、エンタメの中でもキャパが限られているので、生で見るのが叶わないことがありますよね。WOWOWは、特定地域だけでの上演であったり、チケットをゲットした人しか観ることのできないエンタメも、映像で日本全国の方にお届けする存在でありたいです…(というちょっといい話を先日上司といたしました)。少しずつ寒くなってきましたが、非常に情熱的なパフォーマンスばかりなので心を温めていただく一助になれば幸いです。(見どころに触れている箇所もあります!)
 さて、このコラムではコメント欄をご利用いただけます! ぜひ皆さんからもWOWOWステージのご感想など共有いただければ幸いです。
(※執筆時点でDVD等は確認できない、放送時期に字幕ありで見られるのはWOWOWだけである作品、など)
★10月の必見舞台5作品はこちら!

【Don't miss out! 11月のWOWOW舞台5選】

①ボクの穴、彼の穴。The Enemy 11月3日(木・祝)前11:00放送

 2020年に上演された宮沢氷魚と大鶴佐助の2人芝居です。
戦場に掘られた“2つの穴”、それぞれに取り残された2人の兵士。銃声のみでお互いの存在を確認し合い、見えない敵への恐怖と疑心暗鬼にさいなまれていく様子が描かれます。
 2018年の「豊饒の海」、2020年の「ピサロ」(後ほど紹介!)と共演経験が多く年齢も近い2人ですが、その後もさまざまな作品で存在感を放っていますね。だからこそ、この時の2人の体当たりの約1時間半をぜひ見ていただきたいです。
 原作のデビッド・カリは、スイス生まれのイタリアで活動する作家で、これまでに100冊以上の本を出しています。多くが子ども・若者向けの作品です。原作の絵本を松尾スズキが翻訳し、舞台化(翻案・脚本・演出)を担当したのがノゾエ征爾! 3人のクリエイターが紡ぐ「戦時中にひとりで生きる兵士の言葉」。感情的になるだけでなく、歌ったりユーモラスなことも言ったりします。それでも、すべての言葉の根底に、孤独感と見えない敵に対する疑心の募りを感じました。
 また、“穴”は照明と舞台美術の力で巧妙に表現されています。客席にいる自分は穴の上から見ているのか、断面を見ているのか、はたまた穴の中にいるのか分からなくなりました。
 見えない敵…見えないものには計り知れない怖さがあります。ただ「見に行けないから」もしくは「見に行くのはやめておく」と内にこもってしまうことで、恐れがもっと深くなってしまうこともあるのかも…? 新型ウイルスに翻弄されている中、そんなことを考える自分がいました。
 争い、コロナ禍、多様化するコミュニケーション…今の社会を映す本作をぜひご覧ください。


②「ピサロ」渡辺謙×宮沢氷魚 PARCO劇場オープニング・シリーズ第一弾 11月3日(木・祝)後0:45放送

 舞台は16世紀。ヨーロッパからアメリカ大陸に渡り、インカ帝国を滅ぼした将軍ピサロと、インカ帝国の王アタウアルパの運命を描きます。
 見ていて完全に劇世界に取り込まれた作品です。
 まずは演技の説得力。ピサロ役を演じる渡辺謙は、佇まいや表情で将軍の力強さを見せつけ、重厚なせりふ回しでピサロの心の底にある孤独感・死への意識を伝えています。アタウアルパ役を演じる宮沢氷魚は真っすぐな背筋と視線で強烈な印象を残します。ピサロの小姓である若きマルティン役を大鶴佐助が演じています(宮沢とともに前述した「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」にも出演)。ピサロとアタウアルパの交流を傍らで見ている存在であり、キャラクターとしても実直な思い・葛藤・成長が描かれるため感情移入しやすかったです。
 次に舞台。舞台後方に広がるフルスクリーンには赤く燃える太陽やダイナミックに揺れ動く色彩が広がり、独特の空気感を醸成しています。スクリーンの変化も何か意味を持っているのか、と考察を巡らせていました。演出を担当するウィル・タケットは英国のロイヤル・バレエやロイヤル・オペラを中心に活躍する演出家・振付家。この舞台でもインカ帝国シーンを中心にダンスやアクロバティックな動きを取り入れて共同体を表現しています。
 ピサロとアタウアルパは文化や宗教の違いから対立しますが、次第に互いの内面が変化していきます。そして迎える衝撃的なラスト…魂の交流を見た、と思いました。
 「アマデウス」のピーター・シェーファーの戯曲が、現代人に問うものとは? 今後しばらく放送予定はありません。ぜひお見逃しなく!


③ミュージカル「エリザベート」コンサート in シェーンブルン宮殿  11月5日(土)後7:30放送


 初演から30周年を迎えたウィーン生まれの世界的ヒット・ミュージカル「エリザベート」(作:ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイ)。今年の6月、7月にシェーンブルン宮殿にてコンサート形式で行なわれた公演です。先日の放送決定ニュースでは、たくさんの反応をいただきありがとうございました! 私も本作が放送・配信されると知った時には鼻息が荒くなりました…。
 代表曲である「最後のダンス」は、まさにシェーンブルン宮殿での舞踏会のシーンでトート(死)がシシィに「最後に踊る相手は自分である」と告げる楽曲ですね。自由を追い求め死に惹かれていくエリザベートを象徴していて、唯一無二の世界観を持つ曲だと思っています。それを、実際のシェーンブルン宮殿の前庭で歌う…! 場のつくる演劇性に震え、トート(死)とシシィから出ている空気に心拍数が上がることでしょう…!
 宝塚版(1996年初演)では、小池修一郎がトートを主役に潤色・演出をしました。ウィーン版、宝塚版、東宝版ほかそれぞれに演出の違いがあるのも「エリザベート」の特徴ですね。
 今回、シシィ役を務めるのはマヤ・ハクフォート(オーストリア皇妃)とアブラ・アラウィ(エリザベートの少女時代)。マヤ・ハクフォートは1,000回以上シシィ役を演じていて来日もしていますね。歴代同役の2人がバトンをつなぎ演じるということで年齢とともに表情が変わっていくエリザベートの生涯へ想像が膨らみます。
 トート(死)を演じるマーク・ザイベルトは声色が多様で、トレーラー映像を見ただけでも言葉が胸に刺さるようでした。「エリザベート」でいつも楽しみなのがルイジ・ルキーニ。狂言回しの役回りも担うルキーニのナンバーでは会場の熱がぶわっと高まったり、次の言葉を緊張して待ったり…。今回演じるダフィット・ヤーコプスのパフォーマンスにも目が離せませんね(「キッチュ」は自分が舞台に立つのならば歌いたい曲No.1と”夢に見ている”曲です)。
 エリザベートのキャラクターには、概念や歴史などが込められていて見るたびに考察が変わり楽しいです。本場ウィーンでの演奏を心ゆくまでお楽しみください。


④メトロポリタン・オペラ《ファイアー・シャット・アップ・イン・マイ・ボーンズ》MET初演 11月12日(土)後0:00放送

(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
(c)Ken Howard/Metropolitan Opera

 スパイク・リー監督作品などの映画音楽でも知られるテレンス・ブランチャードによるオペラ。原作は、著名な黒人コラムニスト、チャールズ・M・ブローの回顧録です。
 主人公は「復讐」の決意を胸に実家に車を走らせる青年。彼のトラウマである母親の愛への飢え、7歳の時に親族から受けた性暴力などの記憶が次々に再現されます。それらの記憶のそこかしこに、ヒリヒリするような少年・青年の内面表現が張り巡らされています。特に性暴力の経験は、ただの記憶ではなく彼のアイデンティティーを揺さぶり続ける存在であると受け取れます。
 例えば言葉。詩的で主人公の豊かな知性・感性が見えるとともに、ひとつの言葉の意味が場面によって微妙に変わるようで、解釈するほど彼の人生に対する想像が広がっていきました。しかも、それを表現するのは少年だけではない…彼の周りのあんな存在、こんな存在も言葉を…ここはご覧いただいてのお楽しみ。
 ジェイムズ・ロビンソンとカミール・A・ブラウンの演出ではダンスも非常に味わい深いです。舞台を目いっぱい使ったコンテンポラリーダンスのような場面では、これは風景なのか? 感情なのか? と考察が深まります。
 音楽はブランチャードならではのジャズ要素を取り入れたものからディスコ風、ラテン風のものまでさまざま。特にジャズとゴスペルを学んだことがあるビリー役のラトニア・ムーアの歌声は、深さとパッションが共存していて本作の音楽を一層多面的にしていると思いました。全編通してグルーヴを味わえるため、普段オペラをご覧にならない方にも心からお薦めいたします。


⑤東京03 第24回 単独公演「ヤな覚悟」 11月13日(日)後6:15放送

 チケットは常に完売の超プレミアムステージとなっている東京03の単独公演を今年もお届けします。
 東京03のライブに行くと、何本もの演劇作品を見た後のような多幸感を覚えます。実際”コント”の定義を調べると、舞台セットや衣装を用いた寸劇のことを指すのが一般的みたいです。ネタの尺も漫才より長めのものが多いような…(ショートコントもありますが)。
 「”ライブ”で実力と人気を高めてきたよね」と言われているコントグループはたくさんいますが、東京03はその代表格だと思います。
 彼らの“すごさ”をいくつか挙げてみます。
その1、ほぼ毎年ツアーを行い、常にチケットは完売
その2、洗練された掛け合いと演出
シチュエーションの再現性が高く、そこで生まれる会話の作り方もリアルです。会社、飲食店、同窓会…と設定はさまざまであるものの「こういう人いるな~」「こういう会話、この前会社で聞いたな~」などと思わされてばかりです。どうやって絶妙な”あるあるバナシ”と笑いを研究しているのか気になります(会社などに潜入してリサーチしているのでは! と本気で思ったこともあるほどです)。衣装やセットも細部まで凝っています。1本のライブの中であれほどの衣装替えや転換をこなす舞台裏はどうなっているのか…。
その3、ネタの間に入れている映像や歌(角田晃広中心に自らも歌唱!)もクオリティが高く面白い
映像のストーリーや歌詞がネタの伏線を回収していることもあります。今回はこれまでに増して映像によってもたらされる“感動”が大きく舌を巻きました…!
 1本、1本のネタを見るのではなく、1つの作品として楽しめるよう工夫されています。チケット入手困難な東京03ライブ、お見逃しなく。

 終わりに…
 
最近プライベートで見た作品のなかで印象に残ったのは、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の「ガラスの動物園」、イキウメ「天の敵」、「ハリー・ポッターと呪いの子」などです。WOWOWでも劇場でも“芸術の秋”を堪能しています。兵庫県の豊岡演劇祭2022にも行きました。明治時代からある出石永楽館や豊岡の商店街…とあらゆるエリアで、約70団体によるパフォーマンスが繰り広げられていました。皆さんは“芸術の秋に行きたい”、“いつか行ってみたい”劇場はありますか?
 今月も、もう一度見たい作品がある皆さまも、劇場に見に行けなかった作品がある皆さまも、WOWOWステージをお楽しみいただければ幸いです。

WOWOWステージの放送全番組リストはこちら

<参考文献>
・Debbie Bibo Agency, 2022, “Davide Calì”, Debbie Bibo Agency, (2022年10月4日取得, https://www.debbiebiboagency.com/davide-cali
・Vereinigte Bühnen Wien, 2022, “ELISABETH 2022”, Musical Vienna, (2022年10月4日取得, https://www.musicalvienna.at/en/schedule-and-tickets/schedule/production/919/ELISABETH-Konzertante-Auffuehrung-2022
・松竹, 2022, “テレンス・ブランチャード《Fire Shut Up in My Bones》”, METライブビューイング, (2022年10月4日取得, https://www.shochiku.co.jp/met/program/3760/

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください


この記事が参加している募集