ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE Season2」の制作の裏側を、鷲尾賀代プロデューサーが語る!【ひろがる。私たちのオリジナルドラマ】
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取材・文=柳田留美
視聴者、批評家の高評価を得て決定したシーズン2の制作
―「TOKYO VICE」の企画がどのように始まったのか、あらためてその経緯を教えてください。
WOWOW入社後、営業部を経て映画部に移り、2011年には米・ロサンゼルスに赴任。その頃には、世界中で見てもらえる、世界中の人々に影響を与えられるコンテンツを作りたいと思うようになっていました。とはいえ、WOWOWだけで多額の製作費を賄うのは現実的ではなく、国際共同制作を目指して動き始めました。そして、マーティン・スコセッシ監督の「国際共同制作プロジェクト ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦」や、ロバート・レッドフォード監督とヴィム・ヴェンダース監督らによる6部構成のTVシリーズ「もしも建物が話せたら」といったドキュメンタリーを制作。プロデューサーとして共同制作のノウハウを学び、人脈を広げていきました。
その後、脚本をもとにしたドラマや映画の開発に着手。そんな中で、最初に形になったのが「TOKYO VICE」でした。
―シーズン1が終わった時点で、シーズン2の制作は決定していたのでしょうか?
実は、シーズン1の放送&配信が終わった直後は、シーズン2の制作は未定だったんです。ちょうどシーズン1の放送&配信から1カ月以上経ってからですかね、GOサインが出てシーズン2の制作が決まりました。シーズン1の結末はクリフハンガー方式で、周りからは「こんな終わり方のままで、どうしてくれるんだ!」と言われていたので、続編の制作が決まってホッとしましたし、同時に期待に応えなくては! という意気込みも(笑)。もちろん、制作サイドとしては続編を作るつもりであのような終わり方を選んだわけですが、なかなか勇気の要るチャレンジだったと思います。
―シーズン2の制作が決まったのは、シーズン1の世界での高評価が理由でしょうか?
そうですね。視聴率は好調で、批評家からの評価も上々だったからではないでしょうか? 私としては何より海外のクリエイターやHBOMaxとちゃんとした作品を作れたことで、共同制作をする上で、国内外でのWOWOWの存在感を高めることができたと思っています。ちなみに、アメリカでは日本に先駆けて2月からシーズン2が放送&配信されていますが、シーズン1以上に批評家から絶賛されています。
例えば、米国メディアVarietyは、「より拡大したシーズン2も、あなたが見ていない最高の番組であることに変わりはない」と好意的なレビューを寄せ、もしも見逃しているならもったいないと、シーズン1のでき映えについてもベタ褒めしてくれています。
本国アメリカをはじめ、海外ではダメなものはダメ、良いものは良い、という日本の褒めなくてはいけない風潮とは違う批評文化がありますので、辛辣なレビューも多い中、このような好意的な評価を頂けたのはとてもうれしかったです。この記事が出た時は、「こんな記事が出てるよ!」と海外の各所から私のところにも連絡が来たくらいです。
世界で最も撮影が難しい国と言われる日本でのロケをシーズン2でも敢行。ロケ誘致の取り組み加速にも一役
―シーズン1では、世界で最も撮影が難しいとされる日本でのオールロケが話題でしたね。
そうなんです、そこが今回シーズン1、2を制作する上で苦戦したところでして…。日本は、タックス・インセンティブ(租税優遇政策)の制度が先進国でおそらく唯一なく、 また、撮影許可も下りづらいため、世界で最も撮影が難しい国だと言われています。
一方で、他国では国ごとや州ごとにタックス・インセンティブシートというものが存在していて、何パーセント戻ってきて、こういう条件で…というのをとても明確に提示されているように、撮影誘致に精力的です。日本でいくら良い条件で撮影できることになったとしても、海外では数字として分かりやすく提示してくれる、タックスインセンティブ制度がないと見向きもされません。なので、日本での撮影は断念する制作クルーも多くて。
そんな中、シーズン1では政府への働きかけが功を奏し、大型映像作品ロケ誘致支援費用の交付を受けることができました! 絶対に通行止めはできないとされている渋谷の百軒店をはじめ、新宿、六本木などでのオール日本ロケを実現できたのは前回の記事でもお話しした通りです。
あれから2年、日本でもようやくタックス・インセンティブの取り組みがスタートしました。その形は各国と比べるとまだまだいびつではありますが、これは紛れもなく大きな一歩。2018年、「日本コンテンツの海外展開のためのロサンゼルス官民タスクフォース」の一員として内閣府に提言したのを皮切りに、これまで撮影誘致のインセンティブ導入や手続き円滑化に向けて動き続けてきたかいがありました。「TOKYO VICE」のシーズン1の成功も、この流れを加速させるのに一役買ったのではないかと考えています。
―シーズン2でも、オール日本ロケを敢行しているのでしょうか?
アンセル・エルゴート演じるジェイクが故郷に帰るシーンを除いて、シーズン2もオール日本ロケを敢行しています。シーズン1の撮影時はちょうどコロナ禍のど真ん中で、スタッフのビザの手配だけでも一苦労…。ですが、シーズン2の進行はそれに比べればスムーズでしたね。撮影許可交渉の扉もシーズン1のときよりは簡単に開いた印象です。それでももちろん苦労の連続で、特に東京都庁前を1日全面封鎖しての銃撃シーンの撮影は異例なことだったと思います。大雨が途中からやむという天候で、うまく画をつなげるのか心配でしたが、これもシーズン2の見どころの一つになっているので、ぜひご期待ください!
シーズン2はとにかく脚本が秀逸! 新キャストの存在感にも注目
―ずばり、シーズン2の最大の見どころはどこでしょうか?
私が言うのも何ですが、とにかく脚本がすばらしい。それに尽きますね。基本的にシーズン1と2はストーリーが地続きになっていて視聴者に違和感なく見ていただきたく。なんといっても、シーズン1で張り巡らせた伏線を、シーズン2できれいに回収している点が見事です。もちろん脚本もよく練られていて、初めて台本を読んだ時、「これは面白い!」と素直に思いました。シーズン2がアメリカでシーズン1以上の評価を得ているのも、ひとえに脚本の良さあってのことだと感じています。
また、先にも触れた通り、シーズン2ではジェイクが故郷に帰るシーンがあり、日本以外の舞台が登場するのも見どころですね。実は、ほかにも見どころはたくさんあるのですが、ネタバレになってしまうので詳しく語れなくて残念です。
―シーズン2から加わる新キャストも見どころですよね?
シーズン2からは千原会の若頭の葉山役で窪塚洋介さん、女性警視・長田役で真矢ミキさんらに新キャストとして加わっていただいています。窪塚さん扮する葉山はかなりクレイジーな役どころですが、こういう役をやらせたら窪塚さんの右に出る人はいないんじゃないかと思っていて、まさにイメージ通りで期待以上の存在感を発揮してくれています。
真矢さんが演じる長田は、渡辺謙さん演じる片桐の上司であり、相棒となる役なので、謙さんとの絶妙なコラボレーションが随所に見られました。謙さんはエグゼクティブ・プロデューサーという立場でもあるので、真矢さんがセリフについて謙さんに相談する場面もあって。当日、2人でセリフを変えることもしばしば。真矢さんはそんなチャレンジをむしろ楽しんでいる様子で、私としてはとても心強かったですね。
ハリウッドの“映像魂”は健在。リアリティーを重視する中で、“日本の不思議な描写”を指摘することも私の役割
―シーズン2でも、リアリティーにこだわっていると伺いました。
もちろんです! ハリウッドが誇る本気の“映像魂”はシーズン2でも健在で、リアリティーをとことん追求しています。それでももしかすると、「これって日本らしくないよね?」という細かいツッコミどころはあるかもしれません。例えば、メガバンクの銀行の取締役が、名刺を出すときにいきなりスーツのポケットから裸で出してきたらびっくりしませんか? その場であったら「名刺入れはどこかにないの!?」と言うことはできるのですが、この“声を上げる”というのが日本の制作現場とは違って、意外とハードルが高かったです。
こういった、ハリウッド方式の制作現場を経験してつくづく感じたのは、大量の予算が投下され作り込まれた撮影現場で、「ここがおかしいから変えてほしい」と声を上げて撮影を止めるのにはものすごく勇気が要るということ。私は性格的にも立場的にも「変えてほしい」と言いやすい状況でしたが、それでもプレッシャーはありました。ですが、シーズン1のときと比べて、制作の最前線にいるスタッフとの関係性もできてきたので、私たち日本人が見て違和感を覚える “日本の不思議な描写”は減ったかなと思います。
―「ココを見てほしい!」といったポイントはありますか?
視聴者の方々には、純粋に映像やストーリーそのものを楽しんでいただけたらうれしいですね。脚本やストーリー、役者の演技、映像ならではの表現の妙を、「TOKYO VICE」でも思い切り堪能し、好きなように見て、好きなように受け取っていただきたいというのが本音。見る人によって捉え方が違えば、影響の受け方も違うのが映像の面白さであり、多様な反応をもらえることが作り手にとっての喜びでもあります。
これからもターゲットは“世界”!
―シーズン1からシーズン2までの2年間で、世界のマーケット環境に変化があったと感じられていますか?
動画配信サービスの台頭により、視聴者の見方が少し変わってきたように思いますが、それでも日本と世界のマーケットの好みには、今もなおズレがあるように感じています。そんな中、『ゴジラ-1.0』(’23)はアメリカでも大ヒットし、第96回アカデミー賞で「視覚効果賞」を受賞しました。おそらく『ゴジラ-1.0』は、海外より日本のマーケットを大事にして作った作品なんじゃないかと思うんです。それでも、クオリティーが世界標準をクリアしていれば、意図せずとも世界的なヒットや賞の受賞につながることもあるわけで、このようなパターンも全然アリだと思います。
―それでもやはり、ターゲットは“世界”でしょうか?
はい。なぜなら、「ひとりでも多く、世界中の人々に影響を与えられるような作品を届けたいから」です。そもそも、私はもともと映画がとても好きだからという理由でWOWOWに入社したわけではありませんが、映画部で映画情報番組の制作に携わり、海外から来日する俳優や監督などの著名人にインタビューしたり、ハリウッド映画の裏側を取材したりする中で、映画というたった2時間程度の映像に何千何万という人が関わり、そこにどれほどの情熱が込められているかを知りました。そして、見る人の生き方さえ変える映画の魅力に取りつかれました。だからこそ、いつか自分もひとりでも多くの人に影響を与えられるような作品を作ってみたい、そう考えるようになったんです。
ですから、「TOKYO VICE」が放送&配信されて、業界を問わず世界中の友人から「見たよ!」「面白かったよ!」と言ってもらえたのは本当にうれしかったですね。異なる価値観を持つさまざまな国の人たちに影響を与える作品を届けられるって、ものすごく楽しいことだと思っています!
―今後、手掛けてみたいことはありますか?
国際共同制作への挑戦を続けていくのはもちろんのこと、ようやくタックス・インセンティブの制度が整備されつつある日本での撮影の需要に応え、その制作を請け負うハブとしての活動を強化していきたいですね。私の主観ではありますが、条件が同じでどこでロケをしたいかとなったら海外の制作クルーの9割は日本を選択すると思います。要は、食べ物がおいしく、神秘的な場所も多いなどという理由から、日本で撮影をしたいという制作陣が本当はとても多くて、そういった人たちの窓口になれればと思っています!
「TOKYO VICE」はWOWOWのブランド力を向上させただけでなく、日本のコンテンツ力を世界にアピールし、日本の知的財産戦略の推進にも貢献するなど、マネタイズだけでは計れない多くの成果を上げることができたと思っています。ぜひまた、「TOKYO VICE」のような大型プロジェクトに携わりたいですね。そしていつか、同じスキームで、実話ベースの物語の映像化にも挑戦できたら…と、ますます夢を膨らませています。
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