スピードワゴン・小沢さんが「永遠の憧れ」と語る名優の最後の主演映画。心を撃ち抜かれたセリフとは?
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回は、小沢さんが大好きなロバート・レッドフォードの主演作です。
小沢一敬(以下、小沢)「俺は10代のときに映画を好きになって、その頃は時間があるからたくさんの映画を観たんだけど、そのきっかけの一つになったのが、ロバート・レッドフォードとポール・ニューマンの『明日に向って撃て! 』(’69)とか『スティング』(’73)だったんだよね。もちろん、リアルタイムではないんだけどさ。俺の中でレッドフォードは常に“かっこいい人”で、かっこいいまま年を取ってきたっていう感じだね」
──そんなロバート・レッドフォードが俳優引退作に選んだのは、いかにも彼らしい作品でした。
小沢「この映画は、ポスターとかタイトルを見ると、一見、クライム・ストーリーみたいに思えるけど、実はそうではなくて、ひとりの実在の男の人生を称賛する映画なんだよね。人生訓って言ったら重いんだけどさ、『そうだよな、こういう生き方だっていいんだよな』って思える。だから、真面目な人に観てほしいかな。人生を真面目に考え過ぎてるような人に。人生なんて、やりたいことをやって、楽しけりゃいいじゃん、っていう映画だから」
──今回の映画は、1980年代初頭のアメリカに実在した連続銀行強盗犯を描いた作品で、またも実話ベースのストーリーなんですが。
小沢「うん。でも、実話モノと思って観ると、嘘みたいな話がいっぱいあったけどね」
──だいぶ簡単にお金を盗めちゃってましたからね。
小沢「今は防犯システムとか監視カメラがあるから無理だろうけど、80年代とはいえ、あんなに簡単に成功するのかな? でも実際にやってるわけだから、アメリカもまだまだおおらかな時代だったんだろうね。脱獄も16回やったって話が出てくるけど、16回も脱獄して、終身刑にならないのもビックリだし。だから、実話だから許せるけど、フィクションだったら『嘘つけ〜!』って言いたくなるよね(笑)。でも、すごく面白かったな」
──とてもほっこりする、いい映画でした。
小沢「ちょっと前に、俺、誕生日だったのよ。日々生活してると自分の年齢なんて忘れちゃうんだけどさ、誕生日があって、年齢についていろいろ考えたりしてるタイミングでこの映画を観たから、年齢を重ねることも決して悪いことじゃないなって思えたよ」
──タッカー(ロバート・レッドフォード)と偶然知り合って恋に落ちた農場主の未亡人、ジュエル(シシー・スペイセク)との淡い恋愛模様もよかったですよね。
小沢「あのおばあちゃんがかわいくてさ。めちゃくちゃ好きだった」
──アカデミー賞主演女優賞も受賞してるシシー・スペイセクですね。
小沢「タッカーのほうは顔のシワがすごくてさ。最初は、木がしゃべってるのかと思ったの(笑)。そしたら、ロバート・レッドフォードだった」
──当時82歳の深いシワですね。
小沢「間違えてジャッキー・チェンの『少林寺木人拳』(’77)のDVDを入れちゃったのかと思ったよ(笑)」
──『少林寺木人拳』の木人のほうが、もっとツルッとしてますね(笑)。
小沢「ああやって木みたいになるから、人間が年を取ることを“枯れる”っていうんだね。でも、あんなにかっこいい枯れ方ができるロバート・レッドフォードって、やっぱりすごい。神様に選ばれた人っているんだよね。もう、俺にとっては永遠の憧れみたいな人だからさ、ずっとキラキラした目で映画を観てたよ」
──そんな今回の映画の中から名セリフを選ぶとしたら?
小沢「選びたいセリフがいっぱいあった。とにかく、出てきたセリフの一つ一つが全部好きなの。なんでかと言えば、俺はロバート・レッドフォードに憧れてるから。かつてのポール・ニューマンとのコンビがまさにそうだったけど、ロバート・レッドフォードっていつも深刻感がないんだよね。深刻な役をやっていても、どこかひょうひょうとしてるというか、いつも“なんとかなるでしょ感”がある。そこが好きだから何を言っていても憧れちゃうんだけど、まず普通に選ぶとしたら『楽に生きるなんてどうでもいい。楽しく生きたい』ってセリフだと思うよ」
──アメリカ各地で紳士強盗を続けるタッカーが、かつて自分を逮捕した刑事に向かって、取り調べ室で語ったセリフですね。
小沢「これさ、THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトさんも似たようなことを言ってたんだよね。『“楽(らく)”と“楽しい”は全然違うよ。漢字は一緒だけど、楽しいことをやりたかったら楽しちゃダメなんだ』って。…だけど今回は、もっと好きなセリフがあるんだよね」
──では改めて、小沢さんが一番シビれた名セリフは?
小沢「全部好きなんだけど、あえて一つを選ぶとしたら、『子どもの頃のあなたが持っていた夢も希望も、かなえるには時間や世界が必要だった』」
──タッカーとジュエルがお互いの人生を振り返りながら「子どもの頃の自分が今の自分を見て誇りに思うか?」について語り合うシーンで、ジュエルがタッカーに向かって言うセリフですね。
小沢「たとえば今日、俺が新しい漫才のネタを作ったとして、『そのネタを作るのにどれぐらいかかった?』って聞かれたら、俺は『2時間で書けた』とか答えるかもしれない。だけど本音を言うと、それは2時間で作ったネタじゃないんだよね。本当は、47年と十数日と2時間で作ったネタなのよ。これまでの47年間で、いろんなものを見たり、いろんな人としゃべってきたからこそ完成したネタなの。だから、この『かなえるには時間や世界が必要だった』ってセリフは、本当にその通りだなって思ったんだ」
──確かに、年齢を重ねれば重ねるほど、それを実感しますよね。まるで木みたいに見えたロバート・レッドフォードの渋さも、82年間の彼の人生の積み重ねによって醸し出されたものですもんね。
小沢「そうそう。すべてが積み重なっていくんだよね。いくつもいくつも積んできた結果なんだよ」
──今まで積んできたものに無駄なものはないと。
小沢「いや、無駄なものもあるんだけど、無駄なものが決して無駄じゃないんだよ。『そんなに遠回りしなくてもよかったのに』とか『あんな恋愛はしなくてもよかったのに』とか、周りの人はよく言うじゃん。でも、それがあったから今の自分の幸せがあるんだから。決して無駄ではなかった。で、そういう話につながってくるのが、ラストの方の16回の脱獄を振り返るシーンなんだ」
※編集部注
ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。
──仲間の裏切りによって逮捕されたタッカーに会うために刑務所へ面会に来たジュエルに、タッカーが自らの脱獄歴を告白するときに出てくる、16回分の脱獄のダイジェストっぽい映像ですね。
小沢「あそこがすごい好きなんだよね。16回の脱獄をパッパッパッと見せていく。たぶん実際に脱獄したときには、1回1回が自分にとっては大事件で、ものすごい物語だったはずなんだけど、今になって振り返るとすべてがダイジェストの1コマ漫画みたいになっちゃう。それって誰の人生でも同じでさ。そのときは自分が主人公のメイン・ストーリーだったはずなのに、後になって振り返ってみると、思い出は全部がダイジェストになってるんだ」
──あのシーンでは、ロバート・レッドフォードが若い頃に出演した別の映画の映像が使われていたりするので、実はレッドフォード自身の人生のダイジェスト映像みたいにもなってるんですよね。
小沢「そこがまた、いいよね。そういう意味でこの映画は、人生の積み重ねの重みとか、奥深さみたいなものを感じさせてくれる、とてもいい作品だった」
──これでロバート・レッドフォードが引退しちゃうなんて、寂しいですね。
小沢「でもさ、ラスト・シーンが、タッカーがまた強盗するために銀行の中へ消えていく姿で、そこに『タッカーはさらに4件の銀行強盗を重ねた』ってクレジットが入るでしょ。あれを見て俺が思ったのは、ロバート・レッドフォードは『この映画で俳優引退する』って言いながら、あと4本は出るつもりだなって(笑)」
──確かに、それはありそうですね。
小沢「あれはそういうメッセージだっていう都市伝説を、俺がいろんなとこで広めていくよ(笑)」
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